■「ひとりぼっちじゃない」は誰に対しての言葉だったのだろうか
Contents
■オススメ度
雰囲気系の映画が好きな人(★★★)
井口理さんのファンの人(★★★)
馬場ふみかさんのファンの人(★★★)
河合優実さんのファンの人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.3.14(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
情報:2023年、日本、135分、PG12
ジャンル:コミュ障の歯科医を巡る二人の女性を描いた不思議系ロマンス映画
監督&脚本:伊藤ちひろ
原作:伊藤ちひろ『ひとりぼっちじゃない』
キャスト:(わかった分だけ)
井口理(ススメ:コミュ障の歯科医)
馬場ふみか(松坂宮子:つかみどころのないアロマ店経営者)
河合優実(蓉子:宮子の友人、スーパーの店員)
千葉雅子(ススメの母)
峯村リエ(トキコ:ススメの母の友人)
相島一之(街でススメを見たという歯科医の患者)
高良健吾(歯科用メガネレンズ屋の店員)
浅香航大(キリン男)
長塚健斗(物置男)
じろう(TVで語る男)
タカハシシンノスケ(舞台の主宰?)
渡辺紘文(ラーメン屋のよく喋る店員)
辻千恵(星川:歯科の受付)
葉丸あすか(歯科の受付?)
里々佳(歯科助手?)
盛隆二(院長?)
森下創(?)
山本真莉(女警官?)
オセロ(宮子のうさぎ)
■映画の舞台
おそらく都内
ロケ地:
東京都:新宿区
雑遊(舞台)
https://maps.app.goo.gl/sAoiqppsGke8Y4KS9?g_st=ic
東京都:渋谷区
THE ANOTHER MUSEUM ARTIDA OUD(アンクレット購入)
https://maps.app.goo.gl/NNX2pJ52oFYwPuA46?g_st=ic
東京都:八王子市
中華 豊春(行きつけの中華飯店)
https://maps.app.goo.gl/KveG9E8mWzKQD7f69?g_st=ic
■簡単なあらすじ
都内の歯科医で働いているススメは、人付き合いが苦手で、歯科助手とのコンタクトもうまく取れずにいた
時折、心配性の母から電話がかかってくるものの、その応答はありきたりなものだった
彼にはアロマ店を経営している宮子という女性がいて、彼女の住むアパートに足繁く通っている
「感覚」にまつわるエピソードを疲労しあったり、と不思議な関係を続けていたが、ススメは「自分の知らない僕を知ってくれている」と彼女を特別視していた
ある日、宮子の友人が主宰する演劇を観に行ったススメは、そこで彼女の友人である蓉子と出会う
彼女はススメが良く行くスーパーの店員だったが、彼の記憶には彼女はいない
だが、その日をきっかけに、ススメは蓉子とも関係を深めていくのである
テーマ:孤独を癒す理解
裏テーマ:流されながら癒される
■ひとこと感想
雰囲気系の映画だと覚悟していたのでさほど驚きませんでしたが、原作を読んでいる前提で話が進んでいくような行かないようなという物語になっていました
基本的には女優二人を愛でる映画で、ススメの実体のなさというのはうまく表現されていたと思います
物語はあるようなないようなというもので、ススメ自身はあまり劇的な変化をしたという感じには見えません
彼は二人の女性に癒されていくのですが、その対比のように歯科医院の女性たちには棘があるように描かれています
ススメはコミュ障という設定だと思いますが、単純に流れている時間の速さが普通の人よりもゆっくりなだけで、状況に身を委ねることで心地の良さを得ているように思います
でも、その癒しが消えてしまうと、彼は誰よりも速く動きてしまうのですね
このあたりが少しコミカルに感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ススメのセックスを見ていると感じるのが、常に受け身という感じになっていて、あまり能動的ではないように見えてきます
これは、彼の時間感覚がセックスの時も同じようにゆっくりと進むという一貫性があるのですね
いわゆるスローセックスというものなのですが、それに呼応できるのは宮子の方だったのかなと思いました
映画はガッツリ雰囲気系の映画で、美術の作り込みと音響にこだわりを感じました
特に「ぷくぷく」と水中の中にいるような感覚の音響になっていて、それは宮子との関わりの中で多く使われていました
おそらくは、宮子といるときのススメは「胎内にいる時の感覚」になっていて、母親の揺らぎの中でいることが安心感をもたらしていたのだと思います
それに対する蓉子はどちらかといえば肉食系で、宮子のモノであるはずのススメをパックリと平らげてしまいます
そのセックスも女性上位の激しいものになっていて、蓉子流の快楽はススメのリズムからは外れている印象がありました
ススメの体感時間に近い人は楽しめて、そうでない人には苦痛という感じになっていますが、テーマを考えると仕方ないのかなと思います
■癒しの速度
本作の特徴的なところは「速度」で、実にゆったりした空間が描かれています
主人公のススメがセラピストの宮子とどのように出会ったとか、なぜ恋人のような関係になっているのかとか、そもそも宮子はセラピストなのかということは、映画だけを観ても分かりません
私自身も映画感想を書くために調べていたり、パンフレットを読んで「ようやく宮子がアロマセラピストだとわかった」のですが、映画でこの説明を省いているということは、監督自身が「セラピスト設定を重んじていない」ということになると思います
映画で描かれるススメと宮子の関係は、いわゆる癒しの場の提供で、その関係は足繁く通う中毒患者みたいになっていますね
歯科医院での居心地の悪さ、自宅の無機質な感じとは違って、宮子の部屋(店?)は観葉植物で覆い尽くされている不思議な環境になっていました
個人的には「アロマテラピー」や「観葉植物」と接したことがなく、そもそも「癒し」を求めてどこかにいくということをしません
なので、ススメの逃避にも見える行為の果てに、彼が望んでいるものというのはあまり共感できませんでした
とは言うものの、セラピーを欲しがる人の心情はなんとなく察していて、おそらくは「自分のリズムを修正したい」のだと考えています
家に帰るとホッとするのは、そこが「自分のリズムに則した空間」になっていて、人によって居心地の良さの正体は違います
ペットや植物という人もいれば、無機質な空間という人もいる
整理されたモノが多い空間、雑多に見える秩序ある空間などもあります
個人的には「自宅で過ごすの場所」というものが決まっていて、たとえば作業スペースの周りにあるもの、休憩スペースにあるモノなどは固定されて置く場所が決まっている、という感じになっています
宮子の部屋が観葉植物で溢れているのは、彼女が植物のリズムに呼応しているからでしょう
風のない部屋の中では、植物は大きな動きをすることはなく、ゆったりとしています
その中で横たわると、植物を揺らすものがないので、本当に静かな空間になるのですね
これが宮子の心地よいリズムであり、ススメが求めるものがそこにあったのだと感じています
■修復の速度
人は生きていく上で外の世界で戦いを強いられ、それを癒す空間を欲しています
傷つき、戦いながら修復できる人もいますが、そのタイプの人は「対人における活力」が燃料になる人だと言えます
私はこのタイプに近くて、癒しとか修復は「動くことで成る」という考え方をしています
でも、心体的に疲労のピークが来れば、活動を完全に停止して眠りによっての回復を促すことになります
これらの修復の速度は人によって様々ですが、ススメはとりわけ時間のかかるタイプだったように思えます
日常はリズム感の違う人と接することでバイオグラフィーが乱れ続け、それを修復するために「宮子の部屋でスローダウン」して、自宅にて自分のリズムに戻る
これがススメ流の回復の仕方で、ある意味ルーティンワークのようなものでした
このルーティンが乱れるきっかけを作ったのが、劇鑑賞の際の蓉子の登場になっています
このシーンは「ある意味においてススメが持っていた宮子のイメージ」を壊すものであり、それと同時に未来が不確定なものになっていきます
実際には、ススメの行動の延長線上にある「宮子の反応」というものが「蓉子の反応」をつくっているのですが、ススメはそのことを知りません
後半になって、宮子が自分のリズムをかき乱す存在になってしまい、そして同時にススメの隠された欲望というものが噴出します
それが蓉子との関係に繋がっていて、ススメ自身が「リズムを乱されることの快感」というものを得ていくように思えました
自分自身のリズムの変遷によって、癒しも修復も過去のものとは異質な何かに支配されていき、そうすることによって、ススメはさらなる変化の道へと放り込まれていくではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では関わりを避けていた母と向き合い、そこで母の友人と出会うススメが描かれています
母は「言いたいことがある」と言っていましたが、友人と引き合わせることで、それが不要なものになっていました
この友人との関係は深いもので、ススメもそれを察していましたね
母の懸念は、母の本質によってススメが傷つかないかというものだったので、2人の関係をススメが認めたことによって、母も自然な姿に戻っていくことになりました
この2人の関係をススメが受容できるのは、おそらくは「自分のリズムを乱さないから」だと思います
母が友人と過ごす時間が増えることで、ススメへの干渉というものが減ります
そうなることがススメにとっては心地よいことなので、その方向に向かうことは理想的な変化であると言えます
本作は、ラストにひとりぼっちじゃないと紡がれるのですが(タイトルコール)、彼のリズムを一番乱していたのが、実は母親だったということになるのかなと思いました
その背景には、おそらくは「父(夫)の不在」というものがあって、「ひとりになっている母」を危惧していたかもしれません
夫がいないことで、母は息子への干渉が増えるのですが、これは世の常のようなものでしょう
そうした関係性を断ち切るほどの勇気はなくて、でも自分を守りたい
これがススメの本質なのかもしれません
エンドロール後にタイトルが出ている理由を考えた時、ススメという人物は「自分の大切な人がひとりになることを恐れる」というタイプの人間なのかな思いました
ススメ自身はひとりでいることは苦ではないけど、自分の愛する人が孤独であることは耐えられない
そう言った意味において、宮子に蓉子がいたこと、母に友人がいたこと、というものが、ススメにとって大事なことだったのかなと思いました
なので、「ひとりぼっちじゃない」という言葉は、自分にかける言葉であるように見えて、母や宮子に対して彼が思っている本心だったのかなと思いました
原作未読なので斜め上の解釈をしていますが、映画を通じて私が感じたことは、このようなものになりました
ススメという人間は自分本位な人間であるものの、彼が好意を持つ人物に対してはこだわりの強さを持っています
その気質を社会(特に職場)で発揮できないのが「コミュ障」たる所以であると思いますが、そのリズム感を感じられる人がそばに来れば、また違った人生が送れるのかな、と思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384711/review/634a216e-395b-404d-8954-d7b104eb7db2/
公式HP:
https://hitoribocchijanai.com/