■「Winny」を止めた功罪について、もっとわかりやすく揶揄ってもよかったけど、警察の闇があったから控えたのかもしれません
Contents
■オススメ度
Winny事件について知りたい人(★★★)
リアルな法廷劇を楽しみたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.3.16(T・JOY京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、127分、G
ジャンル:PSPを駆使したプログラム「Winny」開発を巡る「著作権侵害幇助」の罪について描かれる法廷劇
監督:松本優作
脚本:松本優作&岸建太朗
キャスト:
東出昌大(金子勇:逮捕されるプログラマー、「Winny」を開発)
(幼少期:川口和空)
【金子勇の弁護団】
吹越満(秋田真志:主任弁護士)
三浦貴大(檀俊光:金子の弁護士)
皆川猿時(桂充弘:弁護士)
和田正人(浜崎太一:弁護士)
木竜麻生(桜井恵子:事務員)
池田大(林良太:弁護士)
【警察・検察関連】
渋川清彦(伊坂誠司:金子を起訴した検察官)
大塚ヒロタ(宮田良太:検事)
関幸治(裁判に参加する検事)
渡辺いっけい(北村文也:京都府警五条署、金子を逮捕した刑事)
成松修(田坂直樹:五条署の刑事)
板倉武志(奥田哲也:刑事)
森優作(刑事)
高木勝也(畑中健一:刑事)
田村泰二郎(比嘉誠:裁判官、京都地裁、モデルは氷室眞)
【愛媛県警事件関連】
吉岡秀隆(仙波敏郎:署内で孤立する巡査部長)
金子大地(山本幸助:仙波の後輩警察官)
阿部進之介(松山:記者)
【その他】
吉田羊(金子の姉)
(幼少期:北林茉子、写真)
小西貴大(南恭平:違法アップロード犯)
カトウシンスケ(井田正弘:違法アップロード犯)
阿曽山大噴火(裁判の傍聴人)
■映画の舞台
2002年〜2009年
東京&大阪&京都
ロケ地:
栃木県:佐野市
かたやま庵
https://maps.app.goo.gl/dauggDndfkFQer8m8?g_st=ic
東京都:台東区
純喫茶 丘
https://maps.app.goo.gl/LHw2MqsZBo6qhp6dA?g_st=ic
栃木県:栃木市
千葉県:習志野市
■簡単なあらすじ
2002年の冬、パソコンに向かってプログラム「Winny」の開発&アップデートを行なっていた金子勇の元に、京都府警五条警察署がやってきた
世間では、「Winny」を介した著作物の違法アップロードが問題視され、京都府警の機密漏洩が起きた直後だった
金子は警察に協力するものの、取り調べの最中に「誓約書」なるものを書かされてしまう
中身は「申述書」で、「Winny」の開発は行わないというものだった
一旦は身柄を解放されるものの、再度京都府警が彼の元を訪れ、「著作権法違反幇助」の罪によって、逮捕、勾留されてしまう
その知らせを聞いたサイバー犯罪に詳しい檀弁護士は、彼の弁護を引き受けることに決めた
テーマ:国家権力の闇
裏テーマ:威信に泥を塗る愚策
■ひとこと感想
「Winny」を使用したことはありませんが、現在進行形でそういうものがあることは知っていた世代でした
なので、迷うことなく参戦を決めました
映画は「Winny」事件のどこまで深掘りするのかなと思っていたら、意外と浅いところで終わっていましたね
掘り過ぎると「映画自体が権力化して暴走しているように見える」ので、ギリギリのラインで留めていたように思います
「Winny」によって数々の著作権違反や情報漏洩などがあり、バレたら困る人たちが矢面に立たされていた記憶があります
警察が逮捕して、「Winny」の開発を止めたことで、実質的に「Winny」の違法使用を増長したことになるのですが、それが罪に問われないのか不思議でなりません
映画は「弁護側の視点」で警察権力の横暴というところを掘っていきますが、愛媛県警の事件を引用するより、逮捕のきっかけになったと噂される京都府警の流出事件を追った方が良かったのではないかと思いましたねえ
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は「素人でもわかるようにかなり砕いて」いましたので、何の裁判をしているかわからない人はいないと思います
でも、P2Pの説明とかになってくると怪しさ満点で、わかる人だけついていける内容になっていました
とはいうものの、「P2P」が何か理解できなくても映画の内容は超単純なので、わかりやすい法廷劇になっていたと思います
映画では「サラッとだけ京都府警の流出問題」を冒頭に描いて、「それによって五条署が動いた」という感じのテイストを匂わせていましたね
演出効果で「他の違法アップロード犯」とシャッフルして、同時逮捕になっていた経緯を描いていました
そもそも「2ちゃんねるのダウンロードソフト板にカキコ」という時点で「幇助」が成立しそうな感じはしないでもないですが、このあたりは一切ふれていませんでしたね
わざわざ「アップロードできない改造Winny」を使っているというシーンまで入れ込んでいて、警察がそこを突っ込まないという無能さの表現として扱われていたのは笑いました
このあたりは、当時を知る人ならば、逮捕やむなしだけど有罪は無理かなと感じていたことを思い出したのではないでしょうか
■「Winny」事件について
「Winny」とは、2002年開発された「Peer to Peer=P2P」技術を応用した「ファイル共有ソフト」「電子掲示板構築ソフト」のことを言います
「P2P」をざっくり説明すると、「クライアントサーバーを共有しないネットワークシステム」のことで、ネットに繋がった個人のパソコン同士で通信ができるという方式のことになります
この技術が悪用され、著作権を無視したコピーファイルなどがネットワーク上に「蔓延」し、同時に暴露ウイルス(いわゆるトロイの木馬的なウイルスに感染したコンピューターの記録情報をインターネットに公開するもの)というものがばら撒かれることになりました
これによって、個人の性的趣向のデータや、機密情報の流出などがたくさん起きています
「Winny」は、当時東京大学大学院情報理工学系研究科の助手・金子勇によって2002に開発が始まり、当時はすでに「Napster」「WinMX」などのP2P型ファイル共有ソフトというものは作られていました
金子が行ったのは、「Freenet=情報共有時の相手のとの通信を暗号化するネットワークシステム」を手本にしていて、「Freenet」では「情報の保管場所、発信者情報」などがわからないようになっていました
いわば「Winny」は「Freenet」の後継祖ソフトとも言え、情報発信者と通信の秘匿性、「Winny利用の検知困難性」が企図されたものとなっています
ユーザ数はマックス時(2006年頃)で50万人前後
これまでのP2Pファイル共有ソフト「Win MX」の後継として、「 MX」をひとつずつ進めた「WinNY」という名前になったとされています
「Winny」によって情報が流出したものとして、
2005年、経済産業省原子力安全・保安院の文書、羽田空港の空港制限区域内に入れる暗証番号
2006年、海上自衛隊の内部文書、ボーダフォンの基地局地権者のリスト
2007年、東大病院のカルテ情報、山梨県警の犯罪被害者のリスト
など多岐にわたります
情報漏洩を止める方策を取るこどができず、当時の安部内閣官房長官は「Winnyを使用しないこと」がメディアを通じて通達される事態になっていました
「Winny」は大量のデータの送受信を行うため、送受信の際の帯域制限を引き起こして、一般のインターネットユーザーの迷惑にもなっていました
そのため、プロバイダ側は「Winny単体を分離することができなかった」ため、通信量の制限に踏み切ることになりました
また、各種のネットワークサービスでも、同様の対策が取られることになりました
ちなみに彼が「Winny」を投下した先はネット掲示板「2ちゃんねる」の「ダウソ板(ダウンロードソフトの略)」というものでした
そこでの書き込み番号が「47」だったために、「47氏」と呼ばれています
その板は「専門用語が飛び交うもの」で、「47氏」は「神」と崇められていました
その過去スレッドなどを読んでみると、「偽物が現れた」とか色々ありましたが、「Winny」ユーザーの多くは、当時のアダルト業界にかなりの影響を与えています
また、彼自身はアップロードはしませんでしたが、ダウンロードは行っていたようですね
劇中でふれられる『お尻ぷりんセス』は「かなりフェチ度の高いエロゲー」でした
今でもアマゾンで売っていたりしますが、性的趣向を揶揄する意味はありませんのでリンクは貼りません
■国家権力がつくる未来
映画は「Winny」関連として、「仙波敏郎」を描いていて、これは2005年に実際にあった「愛媛県警の内部告発」を引用しています
この内部告発事件は、愛媛県警の巡査部長だった仙波敏郎氏が「現職警察官として初めて、警察の裏金問題を実名で内部告発した事件」でした
この告発により、愛媛県警は会見終了1時間後に同氏から拳銃を没収、地域課通信司令室企画主任に左遷させられています
同年2月には「配置転換」に対して国家損害賠償訴訟を起こします
翌年に配置転換は不当と裁決が下り、鉄道警察隊に復帰を果たします
10月14日には指名手配中の詐欺犯の逮捕により、表彰を受けていたりもします
その後、阿久根市の副市長に任命され、市長の職務代理者に就任などがありました(この辺の色んなもので一本の映画が作れます)
映画はこの事件に「Winny」が寄与したというふうに描かれ、それを実行したのが仙波氏の部下であるような印象を持たせます
実際にどうだったのかをググっても、見事なまでに情報が出てこないところに闇を感じます
この事件を扱うこと、金子の不当逮捕の一連の描き方をみると、国家権力が行う横暴について言及しているのは明白でしょう
実際に、裁判になったことで「Winny」の開発は中断され、脆弱性を持ったまま数年間放置されることになりました
この構図として映画的だと思うのは、京都府警による逮捕、検察の起訴によって中止せざるを得なかった「Winny」によって、警察の内部文書が暴露されたと結んでいるところでしょう
これには二つの見方があって、「Winny」の匿名性による功罪を問うことと、「開発の中止に伴う危険性」というものがあります
警察は金子のHPさえ閉じれば「Winny」は使えないと勘違いしていたようですが、実際には「Winny」をダウンロードできる他のサイトが作られているので、一度世に放たれたソフトというものを回収するのは不可能に近いのですね
なので、公式HPでのアップデートを繰り返して、利用者に更新させる必要が出てきます
開発中止になっても、「Winny」の解凍前のファイルなどがあれば、それが他の人によってどこかにアップロードされる可能性はあります
このあたりのカラクリを知らない警察によって、「Winny」自体の拡散・悪用が蔓延ったというのは無知を通り越した愚策のように思えます
このソフトが違法かどうかを置いておいて、脆弱性があるソフトを放置させておくことにメリットはなく、それが二次被害を生んでいた背景があると思います
パソコンで怪しいソフトをダウンロードした経験がある人などは、「そのファイルの配布元が信用できるものか」について考えたことがある(今のパソコンなら警告が出ます)と思いますが、そう言った知識のなさというものが「被害を拡大させていった」という側面は否定できないのですね
国家権力というものは「何かを止める力」を持っていても、それを止めて良いのかどうかを判断できる人材がいません
単純に逮捕して開発をやめさせればOKと考えていたのでしょうが、ネットの危険性に無知だと、予測される未来も見えてこないのですね
なので、本来ならば、裁判の進行と同時に「Winny」を健全な方向に持っていくアップデートをさせる必要があったのですが、その意味を理解していないという現状があったのではないかと推測されています
金子が亡くなった今でも「Winny2」がダウンロード可能なように、ネットの世界の拡散能力というのは想像を超えるものがあります
警察のみならず、仕組みのよくわからないものに対して、自分の価値観で向かうとしっぺ返しをくらうという典型的な例として描かれていたのは印象的でしたね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は「歪んだ警察と無知な司法」というわかりやすい敵を作り、その理不尽に晒された金子という人物を描いています
この見方は一方的な部分もあり、実際に「Winny」を使った著作権違反の事例は社会に多大な影響を与えています
機密文書の流出は世間的に大変ですが、それよりも「著作物」を匿名でやり取りできる無法地帯によって、「著作者に本来入るべきお金」というものが無くなってしまったという経緯もあります
実際には「違法ダウンロードをする人が金を払ってまでコンテンツに課金したか」というのはわかりませんが、拡散力の力とネット黎明期の無秩序状態によって、「著作開発者に金が回らずに創作が途絶えた」という状況は看過できません
映画でサラリとふれる「お尻ぷりんセス」はいわゆるエロゲーですが、「ダウソ板」では「エロゲを違法ダウンロードする」とための情報収集の場であったという過去は拭えないものがあります
実際に彼も違法ダウンロードをしていたので、「Winny」を世に放つことで得られる利益というものは理解していたと思われます
開発が進めば、「Winny」の脆弱性にプロテクトを課す方法とか、サーバー経由での特定(実際にはユーザーが利用するプロバイダは情報送受信について認知している)とその開示、認証などが進んだことでしょう
これによって、日本発のP2P由来のサービスというものが確立されていた可能性は否定できません
「Winny」によって、著作権法違反者が続出したとしても、警察としては「Winny」をダウンロードした相手を特定するための協力者として彼を確保していれば、おそらくは「警察の目的」というものが達成された可能性はあります
でも、実際には「警察が原告となる不可思議な裁判でメンツを守ろうとしたこと」によって、多くの二次被害を生み出す結果になっていました
「Winny事件」は「警察の捜査の不透明さ」を訴える内容ではあるものの、警察の無知を鬱憤を晴らすために登場させても意味はなかったと思います
それよりは、金子と檀弁護士の間で交わされたマニアックな会話というものをもっと世間にアプローチした方が良かったでしょう
個人的には「そこそこ知っていた」という感じなので、細かなセリフのやり取りに「ふふふ」とにやけていましたが、同時に「この一連の会話を噛み砕く方が良かったのでは」とも思いました
また、愛媛県警の流出事件を描いておきながらも、その関連性をぼやけたままにしているのも微妙だと思います
映画はフィクションとして、はっきりと「京都府警が告発して、Winnyの開発を中断させたから愛媛県警の裏金事件の機密文書が流出した」と言ってもよかったように思います
これ以上、警察のメンツを潰すのはアレでしょうが、この映画の流れで愛媛県警の事件を組み込むのなら、「愛媛県警のニュースを見た京都府警の方々の間抜け面を抜いても良かったかな」と思いました
ここでも「自分たちが起こしたことを理解していない」というテイストで描くことで、さらなる批判というものができたと思います
もっとも、この映画制作の裏側であまり京都府警絡みのことが描かれていないのは、「警察の闇が本当に存在するから」かも知れません
まあ、憶測の域を出ないので匂わせて終わらせたいと思います
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385194/review/9ca45bfb-5b46-4c44-9601-0e5f03183ddd/
公式HP:
https://winny-movie.com/