■ブレイキン映画の新たな金字塔になれる、とても素敵な作品だったと思います
Contents
■オススメ度
ブレイキンに興味がある人(★★★)
ダンスバトルが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.12(MOVIX京都)
■映画情報
原題:热烈、英題:One and Only
情報:2023年、中国、124分、G
ジャンル:憧れのダンスチームに入ろうと奮闘する青年を描いたダンスバトル映画
監督:ダー・ポン
脚本:スー・ビョウ&ダー・ポン
キャスト:
ワン・イーボー/王一博(チェン・シェオ/陳爍:ダンス好きの青年)
ホアン・ボー/黄渤(ディン・レイ/丁雷:チーム「感嘆符!」の団長、ヒップホップダンサー)
キャスパー/卡斯柏(ケビン/凯文:「感嘆符!」のエースダンサー)
リウ・ミンタオ/劉敏涛(テレサ/杜丽莎:チェン・シュオの母、塩漬け肉店経営、元歌手)
ユエ・ユンバン/岳雲鵬(チェン・シュオの叔父、蝋人形クリエイター)
シャオ・シェンヤン/小沈陽(シェ兄貴/谢哥:チェン・シェオの親戚、パフォーマンスディレクター、一座の長)
ラレイナ・ソン/宋祖児(リー・ミンジュ/李明珠:新米記者、チェン・シェオの友人)
ジャン・ロン/蒋龍(ドン・アンライ/董二浪:大喜電気の販売マネージャー)
【感嘆符!のメンバー】
ワン・フェイフェイ/王霏霏(チリ/辣椒:ダンサー、シーズン3の優勝者)
チャン・ハイユー/张海宇(チャン・クイビャオ/张翠彪:ダンサー、ディン・レイの一番弟子)
ワン・ハイ/王海(パンダ/熊猫:ダンサー、JAPAN BLACK JAMのチャンピオン)
ジョージ/乔治(ドラゴン/大龙:ダンサー、ストリートチャンピオン)
ヤン・シャオジャン/杨小建 (スネーク/蛇男:ダンサー、KDDワールドカップ優勝者)
シウ・センリン/周森林(フォレスト/森林:ダンサー、「Explosive Dance Front」のチームチャンピオン)
イェイン/叶音(悟空:ダンサー)
シャオチン/么绍卿(ノッポ/大个儿:ダンサー)
チャン・ユンチェン/张运臣(スナイパー/小夕:ダンサー)
リャオ・ボー/廖搏(ルフィ/阿辉:ダンサー)
ハンモ/韩陌(タンタン/糖糖:チリの娘)
ジャン・ズーシェン/張子賢(リウ・シャンシァン/刘洪亮:マネージャー)
【交友関係】
スーシー/齐溪(ダンダン/丹丹:ディン・レイの元妻)
ワンディ/王迪(モーダー/马达:ディン・レイの友人)
ドン・ボルイ/董博睿(ダーフェイ/大飞:ディン・レイの友人)
シュー・ファナン/徐化楠(バオジー/包子:ディン・レイの友人)
チャン・ユーエイ/张祐维(カン/康:洗車店の先輩)
ベイ・ジュー/备注(洗車店の同僚/洗车店小哥)
ティアン・イー/田野(洗車店のオーナー/洗车店老板)
【その他】
リャン・ボー/廖搏(ホイ兄貴/辉哥:ベテランダンサー、ダンス大会の司会者)
ゾン・ジュンタオ/宗俊涛(全国大会の解説者/全国大赛评论员)
ダ・スオ/大锁(全国大会の解説者/全国大赛评论员)
イ・ユンへ/衣云鹤(代理運転手/代驾司机)
ヤンディ/杨迪(ヤンディの蝋人形/杨迪蜡像)
コン・リャンシュン/孔连顺(ラオバイ/老白:?)
アルナ/阿如那(警備員/保安)
ホアン・ジンシン/黄景行(ダンサー/劲舞表演舞者)
イエ・フオ/叶火(イエ・フオ/叶火:マジシャン、洗車店の客?)
タオ・リャン/陶亮(自動車ディラーのオーナー/车行老板)
チェン・ジーシー/陈祉希(観客/观众)
ダー・ポン/大鹏(観客/观众)
スン・リー/孙俪(ディン・レイが見ているドラマ「宮廷の諍い女」の女優)
■映画の舞台
中国:浙江省
ロケ地:
中国のどこか
■簡単なあらすじ
ダンスチーム「感嘆符!」に入ることを夢見ているチェン・シェオは、2019年に行われたオーディションに落ちたものの、地道に練習を重ねていた
チェン・シェオは実家の料理店を手伝いながら、洗車場でアルバイトをしていて、帰りの電車の中などでダンスの練習をしていた
ある日、彼のもとに「感嘆符!」のコーチであるディン・レイがやってきた
チームの練習になかなか参加しないエースのケビンの代役をしてほしいとのことで、チェン・シェオは憧れのチームに入ることになった
だが、ケビンは全国大会で優勝するためにメンバーの入れ替えを考えていて、それが叶わぬとわかるとチームを脱退してしまった
それから、「感嘆符!」のメンバーとして練習を重ねてきたチェン・チェンは、ようやく檜舞台に上がることになった
ディン・レイは「ステージに手を当てろ」と言い、「お前が信じるなら応えてくれる」と勇気づけた
テーマ:情熱の保ち方
裏テーマ:体現されるダンス愛
■ひとこと感想
パリ五輪で「ブレイキン」が正式種目になり、いろんな意味で爪痕を残してしまった競技ですが、この競技をオリンピックの種目にするのは無理があると思います
アンダーグラウンド的なダンスバトルが主体で、映画を見てもわかるように「観客も一体となって判定する」という作品なので、ジャッジが非常に難しい競技であると思います
映画は、ダンス愛に溢れた作品で、実直で不遇なチェン・シェオの壮絶なダンス人生が描かれます
ディン・レイの選択も難しいところがありますが、やはり楽しんでこそのダンスなのですね
後半の「お約束のような音響機器故障」からのグルーヴ&ムーヴメントはとても爽快な気分になれると思います
いっそのこと、チェン・シェオの蝋人形を作ったら、あの店がもっと繁盛するように思えました
個性的なキャラが多くて、少女タンタンのメンバー紹介もとても面白かったですね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
胸熱ダンス映画として、ストーリーとしては王道の展開を迎えていました
チームからの不遇、思惑に左右される中で、チェン・シェオの引っ込み思案の性格と我が道をゆくケビンの対比が色濃くありました
チェン・シェオのような自己主張の少ないタイプの主人公は結構難しいと思うのですが、言葉よりもダンスで魅せるというのが徹底していて、それに説得力があるところが凄かったと思います
映画は、憧れのチームに入る中で自分の存在価値を高めていくことになり、それと同時に五輪を控えた国の代表にまつわる政治的な駆け引きもありました
金持ちの息子ケビンも「結果を出さないとダンスを続けられない」というものがあって、アングラで勝ち続けても認めてもらえないのですね
生きる世界が違っても、ダンスで名を残したいという想いは強く、そして目の前にある障壁に対して実力で乗り越えようとする男気があったと思います
物語としては、スポ根映画の王道を行く作品で、ダンスバトルはお約束と言っても良いほどに機器トラブルから無音になるんだなあと思ってしまいました
ともかく、ダンス好きならOKの内容で、ダンスステージに上がってバトルを見ているような臨場感のある映像になっていましたよ~
■ブレイキンについて
映画に登場するブレイキン(Breakin‘)とは、ブレイクダンスの略称でストリートダンスのスタイルの一つとされています
1980年台頃のニューヨークのブロンクスあたりで始まり、今ではオリンピックの競技に名を連ねるまで発展してきました
技術的には、トップロック、ダウンロック、パワームーブ、フリーズの4種類の動きを主体とし、ファンク、ソウル、ヒップホップなどのドラムブレイクが特徴的な楽曲に合わせて踊られます
イメージとしては、体をロック(固定)させてリズムに合わせ、床で逆立ち状態になってクルクルと回転し、そのまま停止するという技を使うダンスのことを言います
1980年代にニューヨークのデイリー・ニュースで取り上げられ、その後、大衆文化に根付いていきます
ブレイクという言葉自体は1920年代からジャズ音楽で使用され、ソロミュージシャンの休憩タイム(ブレイクタイム)という意味で使われてきました
その後、ニューヨークを拠点とするビーボーイングに加えて、ポッピング(体を弾く)、ロッキング(体を固定する)、エレクトリック・ブーガルー(左右に動いて手足を当てる)などの動きを加えるスタイルが定着するようになりました
このダンスをするダンサーをB-Boy(B-Gril)、ブレイクダンサー、ブレイカーと呼びます
ブレイクダンスの大会と言えば、「Battle of the Year」で、これは1990年にトーマス・ヘルゲンレイザーによって創設され、最大級のブレイクダンスの大会となっています
他にも「The Notorious IBE(1998年、オランダ)」「Chelles Battle Pro(2001年、フランス)」「Red Bull BC One(2004年、オーストラリア)」「R16 Korea(2007年、韓国)」などがあります
そして、2018年のブエノスアイレスで行われたユースオリンピックいて取り入れられ、2024年のパリ五輪の競技として採用されることになります
女子の部で日本人の湯浅亜美が金メダル、男子の部でカナダ人のフィリップ・キムが金メダルを獲得しています
現時点では、2028年のロサンゼルス五輪では行われませんが、2032年のオーストラリアのブリスベンオリンピックで復活する見込み、とされています
■五輪はどうなる?
五輪でブレイキンが採用された理由として、「SNS時代を踏まえて、そういったものに精通した若者を惹きつけるためだった」とされています
「より都会的なオリンピックを目指す」という名目もあり、目新しいものをという意味合いが強くて、元々はあまり期待されてはいなかったと言います
オリンピックでは、3大会連続で採用されると「競技の核」と見なされますが、パリ五輪の開催時点では、次のロス五輪では採用されないことが決まっています
ブレイキンが外れた代わりに入ると考えられているのはフラッグフットボール、ラクロス、スカッシュなどが候補に上がっていました
ブレイキンが五輪に採用されたと聞いた時、個人的には「マジか?」という感じで、どうやって優劣を決めるのだろうと思っていました
採点の基準になるものもなく、即興性と表現性というものが主軸となっているので、採点者が誰になるのかというところもありました
ダンスバトルは個人技を披露するというよりも、相手の技との兼ね合いがあるので、単なるダンス技術の見せ合いではないところがあります
パワームーブを何秒したら何点とか、技の難易度を点数に表すこともできると思いますが、その場のノリみたいなものは加味されないのですね
このあたりの競技の特殊性というものがネックになるんじゃないかなと感じていました
映画におけるバトルも、ある程度の演目は決めていますが、それを正確に行ったから勝ちという単純なものではありません
そもそもが「対戦相手は何をしてくるかわからない」という中で、ステージの中でどの技で返すかというものを瞬時に行なっています
その動きに審査員がついてきて、かつ大衆が見ても納得性のある勝敗をつけるというのは結構難しいと思うのですね
技術の正確さとかよりも、会場と一体になったムーブメントのようなものが必要になってくるので、そう言ったものが五輪の採点競技として親和性があるのかは微妙だと感じていました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、パリ五輪のブレイキン採用を受けて公開が決まったと思われる映画の一つですが、五輪とは無関係の内容になっていました
憧れのダンサーがコーチをしているチームに入りたい若者が描かれ、そんな彼が努力で自分の居場所を探していくというものになっています
挫折、難敵、マインドなど、いろんなものがチェン・シェオを苦しめ、わかりやすい対立軸を描き出していきます
貧富、ダンススキルなどが対照的で、埋められるものと埋められないものがあったと思います
貧富に関しては、ケヴィンも自分で成した財ではなく、生まれた環境が良かったというものですが、それがダンスの実力に直結するかはわからないという感じに描かれています
ケヴィンには才能がありますが、同時に努力も怠らない人で、金で買えないものは自分の実力で手に入れるというスタンスを取っています
それゆえに勝負自体は純粋なものになっていて、ガチバトルになっていたのは胸熱な展開でしたね
卑怯で姑息ということもなく、怪我をさせてダンスできなくするみたいな路線には行かないので、純粋な実力勝負になっていたと思います
そんな中でも、チェン・シェオはディン・レイの開発した技を受け継ぐことになり、それがとてもわかりやすい勝敗を決するものとして描かれていました
チーム名が「感嘆符!」で、そのまま「感嘆符」をダンスで表現するとは思いませんでしたが、あの技は素人目に見てもとても危険な技でしたね
それを完璧に表現し、名実ともにチームの歴史を繋いで代表になったことで、完全決着に近い結末になっていたと思います
ダンス映画はたくさんありますが、本作のように努力で徐々にスキルアップして成功するというスポ根系の物語は熱くさせる何かを持っていますね
彼の場合は、母親の背景であるとか、憧れの人が聖人ではなかったりと、様々な要素が組み合わさっていました
このあたりを作り込みすぎたり、語りすぎたりすると重くなりすぎるのですが、本作の場合はさらりと説明して、その変化を映像で見せるというわかりやすいものになっていました
「母親は元歌手だったが父の他界により諦めた」とセリフで説明して、その理由を「父のことを思い出すから」と続けていました
それを「母親がステージで笑顔で歌っている」というシーンだけで変化を描き出しているのですが、それ以上のことは何も言わないし、その後の母親との関係も一切描きません
この潔さとビジュアルで瞬間的に理解できる構成というものは見事だったと思います
この場合、母親が父親の喪失を克服したかは意味がなく、チェン・シェオが母親の行動を見て何を感じて、何を決意したかが重要なのですね
それを考えると、このような転機をどのように見せるかで、映画の質というものは変わってくるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101713/review/04239909/
公式HP:
https://oneandonly.ayapro.ne.jp/