■言葉を探り合う中で、言葉にできない感情に支配されていく


■オススメ度

 

介護疲れ問題が気になる人(★★★)

不倫のドロドロが好きな人(★★)

レア・セドゥさんのファンの人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.5.9(京都シネマ)


■映画情報

 

原題Un beau matin(ステキな朝)、英題:One Fine Morning(ある晴れた朝)

情報2022年、フランス&ベルギー、112分、R15+

ジャンル:介護疲れのシングルマザーの孤独を描いた社会派ラブロマンス映画

 

監督&脚本:ミア・ハンセン=ラブ

 

キャスト:

レア・セドゥ/Léa Seydoux(サンドラ・キンツレー:父を介護するシングルマザー、翻訳家)

カミーユ・ルバン・マルタン/Camille Leban Martins(リン:サンドラの娘、8歳)

 

パスカル・グレゴリー/Pascal Greggoryゲオルグ:ベンソン症候群を患うサンドラの年老いた父)

フェイリア・ドゥリバ/Fejria Deliba(レイラ:ゲオルグの恋人)

Catherine Vinatier(ゲオルグの妹

 

メルビル・プボー/Melvil Poupaud(クレマン:サンドラの旧友、宇宙科学者)

 

ニコール・ガルシア/Nicole Garcia(フランソワーズ:ゲオルグの元妻、サンドラの母)

ピエール・ムニエ/Pierre Meunier(ミッチェル:フランソワーズの夫)

 

サラ・ル・ピカール/Sarah Le Picard(エロディ:サンドラの妹)

Samuel Achache(エロディの夫

Esther Wajemanエロディの娘)

Rose Wajemanエロディの娘)

 

Jacqueline Hansen-Løve(ジャックリーン:ゲオルグの母、サンドラの祖母)

 

Xavier Combe(サンドラの通訳の同僚

Jana Klein(サンドラの通訳の同僚

 

Elsa Guedjエスター:ゲオルグの元生徒)

Norah Krief(エスターの母)

Philippe Bertin(エスターの父

Jeremy Lewin(エスターの友人、元学生)

Arno Nguyen(エスターの友人、元学生

 

Stéphanie Pasquet(オーレリー:クレメンの同僚)

Vasco Villaverdeクレメンの息子

 

Charles Norman Shayオハマ:追悼式典に参加する退役軍人)

 

Margaux Garzaro(ゲオルクの主治医

Masha Kondakova(救急病院の若い看護婦

Pascale Oudotエパド・クルブヴォア:院長)

Sharif Andoura(リンの担当医)

 

Pierre Granger(ホーム「Dieu」の看護師)

John Dina-Collins(ホーム「Dieu」の担架係)

Fouad Boujayra(ホーム「Dieu」救急隊員)

Djakirabou Diawara(ホーム「Dieu」救急隊員)

Ary Gabison(ブルトノー:ホーム「Dieu」の所長)

 

Vincent Speranza(ホーム「D-Day」の介護士)

Alan Rossett(ホーム「D-Day」介護士)

Vincent Harvey(ホーム「 D-Day」の介護士)

 

Jean-Luc Fossey(フェンシングの先生)

 

【フォーラムの登壇者】

Sébastien Deleau

David Olivier Fischer

Christine Hooper

Charlotte Krenz

Hauke Lanz

Olivier Lambert

Kester Lovelace

Nora Seiwerth

 


■映画の舞台

 

フランス:パリ

 

ロケ地:

フランス:パリ

ドーメニル湖/Lac Daumesnil

https://maps.app.goo.gl/x3TnVJEH64AoHvWU7?g_st=ic

 

ルイ・ドパントン/Rue Daubenton

https://maps.app.goo.gl/4QzbBHeKGCPMvteHA?g_st=ic

 

セント・オーガスティン/Rue Saint-Augustin

https://maps.app.goo.gl/2Rh2Wjced747RUhe8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

フランスのパリで通訳士として働くサンドラは、難病の父ゲオルグの介護に勤しんでいた

自分のことは自分でできず、ホームに入ることを余儀なくされていて、費用のなるべく掛からない公営のホームを探していた

 

ゲオルグに恋人のライラがいて、元妻フランソワーズは再婚している

サンドラは夫と死別していて、娘のリンと二人暮らしをしながら、多忙な日々と過ごしていた

 

ある日、旧友のクレマンと再会したサンドラは、心がときめくものを感じる

クレマンには妻子がいたが、彼の家庭も複雑なようで、つい魔が差して関係を持ってしまう

そんな中、父の病状は徐々に悪化し、サンドラのことがわからなくなってくるのである

 

テーマ:心の隙間を埋めるもの

裏テーマ:欲求不満を埋めるもの

 


■ひとこと感想

 

タイトルからどんな話かわからなかったのですが、父の介護疲れで行き詰まっている女性の心の解放を描いているようでした

クレマンとの関係がメインで、娘も彼を好意的に受け止めていましたが、不倫問題のグダグダが延々と続いていて、最後の方がかなりダレる感じになっていました

 

人間関係が結構ややこしめなのですが、ほとんど説明がなく進んでいくので、人物相関を頭の中で展開させるのに苦労が必要な感じになっています

孤独を埋め合う様子が描かれているのですが、単なる肉欲に溺れているだけになっているのはどうなんでしょうねえ

思春期の娘がいるのにイチャラブ全開なのですが、娘はクレマンが妻子持ちだと知らないので仕方ないのかもしれません

 

映画は、介護施設巡りをしていく中で理想の臨終を探すのですが、フランスの制度とか事情がよくわからないのと、ゲオルグの病気が特殊なので、理解するのにひと手間必要な感じになっています

介護問題も中途半端だし、不倫メインの物語もあっち行ったり、こっち行ったりと落ち着かない内容になっていましたね

介護問題と不倫問題の並行表記はあまりうまく行っていないように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

結局のところ、不倫で寂しさを紛らわしているだけの物語なので、共感性は低めの物語になっています

認知の悪化も微妙な描写になっていて、サンドラだけが介護で悩んでいるように見えるのも微妙な感じになっています

 

父が自分をわからなくなっていく中で、サンドラ側も父だと認識しなくなっていて、本棚を見た方が父だと思うというセリフは残酷なように思えます

父もライラだけを覚えていて、視覚障害があるのに「髪の毛は長い?」とか聞いてしまうサンドラも相当病んでいる感じになっています

 

サンドラが精神的なバランスを取るために苦慮していることはわかるのですが、どうしたいのかが見えないので、悩みも漠然としたもののように感じます

映画のタイトルは父に日記からの引用ではありますが、書き残されたものの中にしか父がいないというのは心理的なキツさがありますね

 

ほっこりできるクリスマスのシーンなどはありますが、父の不在が日常になっているように見えて、そこにいても疎外感を感じているのがサンドラのように見えます

このあたりのサンドラの心の空白が、父の不在なのかクレマンの不在なのか分かりにくくなっていましたね

 


孤独を癒すもの

 

サンドラは、おそらくは長女としてゲオルグの介護にあたっているのだと思います

エロディの子どもはどちらもリンよりも幼いのでそう見えるのですが、実際にはわかりません

でも、母フランソワーズは「サンドラの方に『エロディと一緒に行ってきて』という言い方をしていた」ので、その感覚だと、やはりサンドラの方が姉なのかなと思ってしまいます

 

サンドラは夫と死別していて、リンも8歳になったところなので、ようやく一人でできることが増えてきた時期になります

小学校に通っているので、サンドラのプライベートの時間も増えてきて、「育児の多忙からの解放」でぽっかり空いた時間の使い方に苦慮しているようにも思えます

そんな時に出会ったのがクレマンなのですが、彼に妻子がいることは彼女も知っていました

お互いが結婚していることを知っている間柄なので、学生時代に何かあったという感じではないのですね

公式設定では「旧友」なので、それを信じるならば「元カレ」ではないのだと推測されます

 

サンドラはクレマンと再会し、何気なく「夫婦仲」を聞いてしまいます

そこでクレマンは「あまり良くない」と濁していて、サンドラは付け入る隙にまんまとハマっているように思えます

でも、ハマっているように見せかけることでクレマンの免罪符を剥がし、同様に自分の免罪符も剥がさせているのですね

このあたりは「彼氏はいません、今夜だけ(By コレサワ」みたいな感じになっていて、やる気満々じゃないですかあ〜と思ってしまいました

 

このあたりの貞操の緩さは文化の違いか、二人が特別なのかはわかりませんが、クレマンに会った瞬間から「サンドラは母から女性にチェンジ」しているように見えました

サンドラは恋愛依存症なのか、単に性欲が強いのかはわからないのですが、リンへの配慮などなく行為に及ぶので、なかなかぶっ飛んでるなあと思いました

彼女に感情移入してしまう女性がいるのかはわかりませんが、既婚男性だと近寄りたくないタイプだと思います

 

クレマンは誠実な夫と、女性に都合の良い男性を演じることで、自分の欲求も満たすタイプなのですね

なので、一連の「弄び」が狡猾にもみえ、最終的には「妻の元に戻るのかな」と考えていました

でも、どうやらサンドラへの想いは本物だったようで、映画はハッピーエンドのように結ばれています

 

クレマン側の状況が「クレマンの説明だけ」というふうに徹底していたので、実際にはどんな感じかはわからないのですね

なので、サンドラの元にきたとしても、疑念は拭えないように思いました

サンドラは彼の行為を好意的に受け止めていますが、彼が妻子を捨ててサンドラの元にきたとしたら、それはそれで大変な生活(養育費など)が待っていると思います

また、彼の妻からの報復がないとも限らないので、不穏な未来しか見えないのはなんとも言えないところかもしれません

 


存在の消失と残像

 

映画では、このドロドロ不倫と並行して、認知症のような症状が出たゲオルグとの関係を描いていきます

いわゆる介護疲れ的なものと、自分のことを認知せずに恋人のことだけを話すことで、精神的にキツくなっていきます

通常の認知症だと、短期記憶が定着せずに、長期記憶だけを想起するので、サンドラの状況が生まれているということは、彼女自身が父との関わりが薄かった、ということになります

長期記憶がライラに書き変わるほどの年月があり、成長したサンドラとの接点が少ないと、父の中にあるサンドラは「幼少期の頃のまま」ということになるのですね

そのような流れで、ライラだけに固執しているのかなと感じました

 

父が手帳に書き記していた言葉があって、その中には「かつての父がいる」のですが、それはこれまで彼女が見てこなかった父であるとも言えます

父は哲学者で、さまざまなことに関して追求する姿勢ともち、思慮に長けた人物であると想像できます

でも、そんな父が神経疾患を患う中で視力を失い、アルツハイマー型認知症も進行していく

まるで別人のようにも思え、さらに自分を認知しなくなっていくことに寂しさを覚えていきます

 

サンドラと父の関係の深さはわかりませんが、母よりは距離が近い印象がありました

彼女の仕事も翻訳家ということで、言葉を使う職業なのですが、言い換えの際に「言葉の持つ意味」を深く追求することになるのですね

微妙なニュアンスの違いなどを正確と捉える必要があり、何かしらの事象を的確に表現するための語彙と想像力、発信者との対話力というものが求められます

また、フォーラムなどのような難しい言葉と理論が飛び交う中での同時翻訳もこなすので、言葉に対するこだわりというものは通常の人よりは深いものがあるでしょう

なので、哲学者だった父との方が「言葉」を介する関係性が深いのかなと思います

 

そんな父から言葉が徐々に消えていき、思慮深い哲学性も失われていくので、サンドラからすれば、まるで別人になっていくように感じたのではないでしょうか

そうした喪失が、夫の死後5年後に再度訪れることになった

その行き場のない感覚を埋めるものを探す時、単に性欲を満たせるだけの棒では意味がないのですね

なので、宇宙科学者という肩書きにこだわりを見せるクレマンというのは、知的な部分も満たしてくれる最高の相手だったのだと思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画の中でサンドラが翻訳を担当している書籍で、アンネマリー・シュヴァルウェンバッハ(Annemaire Schwazennbach)の書籍がありました

父と話す中で「手紙を翻訳している」と言い、その後「Où est la terre des promesses?(=フランス語で「約束の地はどこですか?」)」の本を借りたという会話がありました

この「Où est la terre des promesses ?(原題は不明、Amazonにフランス語の翻訳は発見、日本での購入は不可)」はアンネマリーが1939年頃にアフガニスタンに行った際に書いたものですが、先の手紙の翻訳と2回も登場するのは意味があるのだと思います

 

アンネマリー・シュヴァルツェンバッハはスイス人の作家&写真家で、彼女がアフガニスタンに向かったのは第二次世界大戦の直前でした

戦争が始まった時はカブールにいて、その後も様々な場所を転々としていきます

ちなみに、彼女は1942年に亡くなっているのですが、自転車から転落して怪我をして、医師の誤診で亡くなっているのですね

 

彼女がアンネマリーを担当するきっかけなどはわかりませんが、アンネマリーの激動の人生と恋多き人生は、女性として永遠に生き続けることの意味を感じてしまいますね

本作が、「母、妻、女」という多面性を持った女性の生き方を肯定する描き方をしているので、そのようなこだわりがあったのかもしれません

サンドラがそれを取り戻す物語ではあるものの、やはり文化的な違いなのか、不倫に関しては少しばかり違和感を覚えてしまいますね

それをリンのいないところで隠れてするのなら良いのですが、8歳の娘が寝静まった後に自宅で致すのはどうかなと思いました

8歳にもなれば、色々とわかってくる年頃だと思うし、リンには「クレマンに妻子がいる」というところは隠していたりするのですね

なので、初発の衝動はやむを得ないとしても、その後の関係性の持続に関しては、精算が先ではないのか?と思ってしまいました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385903/review/76d388bc-eacf-4fb5-98fe-c24453c0100f/

 

公式HP:

https://unpfilm.com/soredemo/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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