■目の前の一人を救うことは、数えきれない命の連鎖を救うことにつながっていく
Contents
■オススメ度
ヒトラー関連の映画に興味ある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.6.27(MOVIX京都)
■映画情報
原題:One Life(ひとつの命)
情報:2023年、イギリス、110分、G
ジャンル:プラハにて難民の子どもたちを救った実在の人物を描く伝記映画
監督:ジェームズ・ホーズ
脚本:ルシンダ・コクソン&ニック・ドレイク
原作:バーバラ・ウィルトン『If It’s Not Impossible.. The Life of Sir Nicolas Winton』
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キャスト:
アンソニー・ホプキンス/Anthony Hopkins(ニッキー/ニコラス・ウィントン/Nicky Winton:プラハの少年少女を救おうと動いた青年、株の仲買人)
(若年期:ジョー・フリン/Johnny Flynn)
レナ・オリン/Lena Olin(グレーテ・ウィントン/Grete Winton:ニッキーの妻)
【家族親族関連】
ヘレナ・ボナム・カーター/Helena Bonham Carter(バビ/バビット・ウィントン/Babi Winton:ニッキーの母)
Ffion Jolly(バーバラ・ウィントン/Barbara Winton:ニッキーの娘)
Richard Popple(スティーヴ・ワトソン/Steve Watson:バーバラの夫)
【難民支援関連】
ロモーラ・ガライ/Romola Garai(ドーリン・ワリナー/Doreen Warriner:チェコスロバキア難民英国委員会のプラハ事務所の所長)
アレックス・シャープ/Alex Sharp(トレバー・チャドウィック/Trevor Chadwick:プラハの難民支援に従事した仲間)
Juliana Moska(ハナ・ヘイドゥコワ/Hana Hejdukova:プラハの難民支援に従事した仲間、連絡係)
Jirí Simek(ルディ:組織の受付)
Adrian Rawlins(ジェフ・フェルプス:同志)
Tim Steed(バーナード:同志?)
Matilda Thorpe(ニーナ:同志?)
Daniel Brown(フランク:同志?)
【難民関連】
Barbora Váchová(モニカ・ホルブ/Monika Holub:夫を連れて行かれた難民)
Jolana Jirotková(すきっ歯の少女)
Barbora Cerná(すきっ歯少女の母)
Michal Skach(ヤン・スロネク/Jan Slonek:難民の三兄弟、兄)
Samuel Himal(カレル・スロネク/Karel Slonek:難民の三兄弟、弟)
Matej Karas(ピーター・スロネク/Petr Slonek:難民の三兄弟、末っ子)
Martin Bednár(ヴァーツラフ・スロネク/Vaclav Slonek:三兄弟の父)
Ella Novakova(レンカ・ヴァイス:赤ん坊を抱き抱える少女)
Henrietta Garden(ヴェラ・ギッシング/Vera Gissing/ヴェラ・ディモントヴァ/Vera Diamontova:ニッキーに助けられる難民)
(少女期:Frantiska Polakova)
Henrihs Ahmadejevs(クライヴ・ギッシング/Clive Gissing:ヴェラの夫)
Alma Salomon(レベッカ:ヴェラの孫娘)
Anna Eliseeva(ニコラ:ヴェラの娘)
Jaromíra Mílová(レインロード:ヴェラの養母)
Alzbeta Cerna(エヴァ・ディモントヴァ/Eva Diamontova:ヴェラの妹)
Dan Vynohradnyk(トミー:ヴェラの弟)
Max Vynohradnyk(ホンザ:ヴェラの弟)
Anna Darvas(ミレーナ・グレンフェル・ベインズ夫人/Lady Milena Grenfell-Baines:ニッキーに助けられた少女、老年期)
Jonathan Tafler(ハヌス・スナブル/Hanus Snabl:ニッキーに助けられた少年、老齢期)
Joel Edwards(ニック:テレグラムの少年)
Alara-Star Khan(エヴァ:難民)
Ágnes V. Móricz(ユダヤ人難民の母)
Bitu Thomas(タミル人難民の女性)
Beáta Mikusová(怯える少女)
Janusz Hummel(車窓の父)
Michaela Hráská(車窓の母)
Jiri Vales(孤独な父)
Katerina Kocichová(ショックを受ける母)
Katerina Jebavá(ドイツ人の母親)
Kiana Klysch(若い母親)
Sean Brodeur(父親)
Lukás Král(不本意な父)
Vilma Frantová(泣く母)
Eliska Jechova(パニックになる母)
Justin Svoboda(怒る父)
【その他】
Samuel Finzi(ラビ・ヘルツ/Rabbi Hertz:イギリスの主席ラビ、リストを託す人)
ジョナサン・プライス/Jonathan Pryce(マーティン・ブレイク/Martin Blake:活動を記事にした新聞記者)
(若年期:Ziggy Heath)
マルト・ケラー/Marthe Keller(ベティ・マクスウェル/Betty Maxwell:マスコミ王の妻、スクラップブックに興味を持つ)
Marie-Claire Wood(ベティのアシスタント)
Samantha Spiro(エスター・ランチェン/Esther Rantzen:「ザッツライフ」のホスト)
Stuart Ramsay(ギャビン・キャンベル/Gavin Campbell:「ザッツライフ!」の司会者)
Angus Kennedy(ニュー・ステイツマン/New Statesman:ネタにならないと突き放す記者)
Simon Thorp(ハート氏/Mr. Hart:ニッキーのクライアント)
Tom Glenister(ウィリアム・ヒューズ/William Hughes:BBCラジオの司会者)
Antonie Formanová(マルタ・ディモントヴァ/Marta Diamontova:子どもたちの引き取り手)
Rút Schmidtová(ディモントヴァ夫人/Mrs. Diamantova:子どもたちの引き取り手)
Anna Datiashvili(ベック夫人/Mrs. Beck:子どもたちの引き取り手)
Daniel Charles Doherty(ベック夫人のつき人)
Petr Jenista(BCRCのボランティア)
Michal Rones(難民キャンプのガイド)
Darren Clarke(内務事務員)
Nick Blakeley(下級公務員)
Michael Gould(ビザ発行の役人)
Milan Ligac(チェコの軍人)
Matilda Bedford(レストランのホステス)
Charles Armstrong(ワインのウェイター)
Ales Bílík(列車の警官)
Liam Smith(鉄道の職員)
Joe Weintraub(ゲシュタポの将校)
Emily Laing(BBCのスタッフ)
Allan Cook(BBCのフロアマネージャー)
Michael van Koetsveld(BBCのカメラマン)
Alan D West(「ザッツライフ」の観客)
Valerie Hazan(観客)
Stuart Whelan(観客)
Kemal Shah(ダイナー)
Edward Terry(労働者階級の乗客)
Julia Westcott-Hutton(バーで煙草を吸う女)
クイーン・エリザベス2世/Queen Elizabeth II(受賞アーカイブ、本人)
ニコラス・ウィントン/Nicholas Winton(受賞アーカイブ、本人)
■映画の舞台
1938年、
チェコ:プラハ
イギリス:ロンドン
ロケ地:
チェコ共和国:プラハ
イギリス:ロンドン
■簡単なあらすじ
1938年、イギリスのロンドンで株の仲買人をしていたニッキーは、ドイツのチェコスロバキアの侵攻に心を痛めた
友人のマーティンからプラハの実情を聞いた彼は現地に赴き、そこで逃げ込んできた人々の現実を目の当たりにした
ニッキーはイギリス難民委員会のプラハ事務所の所長ドリーン、トレヴァー、ハナたちと交流を深め、自身はロンドンに戻って、難民の子どもたちを入国させる具体的な方法を調査する
それは子ども一人あたり保証金、里親、医療証明書などが必要だった
また、ニッキーの母親バビも移民局に出向き、必要な手続きの手助けをすることになった
ドリーンたちは、子どもたちのリストを作り、列車を使って子どもたちを移動させる
到着が迫る中、新聞広告を通じて里親に応じる家族や、資金提供なども増えていく
だが、その列車の便は8便目で終わってしまう
それは、ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発したからだった
それから数十年の時を経て、ニッキーは妻グレーテと共に、娘バーバラの子どもが生まれる瞬間を待ち侘びていた
彼らが家に来ることになり、部屋の整理を始めるニッキー
だが、色んな活動記録を燃やせても、プラハで作成したスクラップブックは捨てられずにいたのである
テーマ:ひとつの命がつなぐもの
裏テーマ:始めたら終わらせる
■ひとこと感想
ユダヤ人を助けた話というのはたくさんあって、これも歴史に埋もれかけた英雄を取り扱っていました
映画で登場する「ザッツライフ!」も実際にある番組で、あの放送回も再現されたものになっていました
ニッキーたちのことが世に出たのは「ザッツライフ!」にて取り上げれたからで、それまでは資料もまともい残っていない慈善活動のひとつになっていました
映画では、青年期のニッキーと老年期のニッキーを交互に描き、あの時に何が起こったのかを紐解く流れとなっています
実話を基にした作品で、原作は娘のバーバラによるものになっています
映画では、後半に身重の姿で登場していますが、彼女も「ザッツライフ!」までは詳細を知らなかったのではないでしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
史実系の物語なのでネタバレもあったものではありませんが、低俗に思われたバラエティ番組が偉業を表舞台に出したというのは驚きでしたね
でも、番組の歴史を調べると、意外と社会派的な側面もある番組になっていました
事前に何かを調べる必要はありませんが、ナチスとホロコーストについての基礎知識さえ知っていればOKだと思います
人物に関しては、詳細を調べるのが大変ですが、結構な著名人が登場していますね
ラストの番組の観覧席には実際に助けられたニッキーチルドレンの面々が参加していました
ともかく「普通の人が団結して普通のことをする」という物語なのですが、その難しさとか、活動への理解の低さというのは今も変わらないように思えます
国がもう少し関わってくれればという想いはあると思いますが、イギリスも戦争に突入する前夜でもあるので、自国内のことで手一杯だったようにも思えます
それにしても、開戦によって全てが終わってしまい、それが何十年も後悔として残るというのは、見ていて辛いものがあります
669人を救ったのではなく、何千人を救えなかった方に目が入ってしまうし、助けた子どもたちから他の人の予後を聞くことほどキツいものはないのかな、と思いました
■ニッキーについて
ニッキーこと、ニコラス・ウィントンは、1909年生まれのイギリス人で、主に株式仲介人として活動していました
1938年のクリスマスを迎える頃、スキー休暇にてスイスに行く予定ででしたが、マリー・シュモルカとドリーン・ワリナーからの電話を受けて、急遽プラハに向かうことになりました
その後、マーティン・ブレイクに電話をすることになります
ブレイクは、当時ドイツに占領されていたチェコスロバキアの難民英国委員会の協力者としてプラハに滞在しており、かねてからニコラスにユダヤ人福祉活動を手伝ってほしいと頼んでいました
このチェコスロバキア難民委員会と並行して、ニコラスたちはナチスの危険に晒されているユダヤ人の子どもたちを支援する組織づくりに取り込んでいきます
彼らは、ヴァーツラフ広場を中心に事務所を構え、ニコラスは1ヶ月ほどプラハで過ごすことになりました
1939年1月にチェコスロバキアがドイツに占領される6週前に、ニコラスは受けて側としてロンドンへと出発することになります
チャドウィック、ワリナー、ウィリトンなどの他のボランティアは残留することになりました
1938年11月、イギリスが17歳未満の入国を許可する措置を承認しますが、一人あたり50ポンド(現在の4000ポンド相当)の保証金が必要となっていました
イギリスからの保証によって彼らの活動は成功を収め、ニコラスは669人の子どもたちの家を見つけることができました
その多くは、親がアウシュヴィッツに強制収容所で両親が亡くなった子どもたちでした
ニコラスはピクチャーポストに子どもたちの写真を掲載し、フランクリン・D・ルーズベルト大統領などのアメリカの政治家に働きかけることになりました
彼の功績は、1988年にBBCのテレビ番組「That‘s Life」で取り上げられるまで、ほぼ50年間、世界に知られることはありませんでした
番組に招待されたとき、何十人もの子どもたちと再会し、多くの子どもや孫たちと出会うことになります
イギリスのマスコミは彼を称賛し、「イギリスのシンドラー」と呼ぶようになりました
2003年、この活動が認められ、エリザベス2世女王からナイトの称号を授与されています
また、2014年にはチェコ共和国のミロシェ・ゼマン大統領からチョコ共和国の最高の栄誉である「白獅子勲章(一級)」を授与されています
■活動についてあれこれ
映画で描かれる活動は「Kindertransport」と呼ばれる活動の一環で、直訳すると「子どもの輸送」という意味になります
1938年から1939年にかけて「第二次世界大戦勃発前の9ヶ月間」に行われた、ナチスの支配下にいる子どもたちを組織的に救出するというものでした
イギリスは、ドイツ、オーストリア、チェコスロバキア、ポーランド、自由都市ダンツィから、約1万人のユダヤ人の子どもたちを受けれるに至りました
彼らの多くは、里親の家、寄宿舎、学校、農場などに預けられることになります
1938年11月15日、ドイツとオーストリアで壊滅的な被害が出た5日後、ユダヤ人のクエーカー教徒の指導者の代表団が、イギリスのネヴィル・チェンバレン首相に直接訴えを起こします
親のいない子どもたちの一時的なイギリスへの入国を要請し、イギリスの内閣は問題を議論し、法案の準備に取り掛かります
法案では、いくつかの条件下において、乳児から17歳までの保護者のいない子どもたちのイギリスへの入国を許可するために、特定の移民要件を免除する、というものでした
難民の受け入れ人数の上限は公表されておらず、当初は5000人を現実的な目標として掲げていました(その後、15000人を目標に修正)
短期間のうちに難民児童運動(ROM)として、ドイツとオーストリアに代表を派遣し、児童の選出、組織化、移送システムを確立させます
ドイツ系ユダヤ人のためのイギリス中央基金が救出活動の資金を提供するようになります
BBCのラジオ放送を通じて、元内務大臣のサミュエル子爵が里親を募集する呼びかけを行い、500件もの申し出がありました
ドイツでは、組織のネットワークが設立され、危険度の高い優先順位リストというものが作られます
強制収容所にいたり、逮捕の危機にある若者、国外追放の脅威に晒されているポーランドの子どもたち、ユダヤ人孤児院の子ども、貧困により養育できない子ども、あるいは親が強制収容所にいる、などのリスト化がされていきます
最初の一行は196人、TSSプラハ号に乗って、ハーウィッチに到着し、ペーケストン埠頭に下船することができました
2011年には、ハーウィッチ港にこの出来事を記念する記念碑が建設されています
その後の9ヶ月間で、主にユダヤ人の約1万人の保護者のいない子どもがイギリスに渡ることになりました
最後の輸送は、74人の子どもを乗せて、1940年5月14日にオランダのエイマイデンから出発したとされています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ニコラスの生涯を描きつつ、実際に「ザッツライフ」にて白日に晒された事実というものを淡々と描いていきます
あまりにもドラマティックで、フィクションのように思えてしまう部分はありますが、ほぼ事実というのは凄いことだと思います
活動に関するものは戦争と同時に処分され、ニコラス以外のほとんどの関与者が戦争を生き残っていないというものがありました
語るべき人々も幼く、何が起こっているかわからない中で生き延びたという経緯があるので、助けられた側も全体像は把握していません
そんな中、自らが書き残していた資料の存在があって、それが人々の興味を惹きつけることになりました
ニコラス自身も自分の功績をアピールしようとは考えておらず、どちらかと言えば負の歴史のように思っていました
もっと多くの人を救えたのに、という想いがあって、そうできなかった部分は当時の国にあったこともわかっています
そう言った中、この資料を他の活動記録と一緒に捨ててしまって良いのかを悩んでいたと思います
ある意味において、その後の彼の活動は、この時に生まれた後悔から出た行動なのだと言えます
そうした自責の念があり、これを繰り返さないためにも、人道的な支援は必要に応じて、最大限の努力をすべきだという想いがあったと考えられます
そういった過ちを犯さないために、今後に残す教訓的な意味合いで「失敗の記録」を後世に残したかったのではないでしょうか
でも、それは失敗の記録なんかではなく、その後わかっているだけで6000人もの命の系譜を繋いだことになりました
一人を救うことで大きなことが起きる
それを感じさせる貴重な人生だったというのは、誰しもが否定できない事実なんだと思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101434/review/03976897/
公式HP: