■内戦が綻ばせた糸は、歴史の流れの中で強固な束になっていくのかもしれません


■オススメ度

 

メキシコ内戦について学びたい人(★★)

子どもの取り違え事件に興味のある人(★★)

ペネロペ・クルスさんのファンの人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.11.9(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Madres Paralelas、英題:Parallel Mothers

情報:2021年、スペイン、120分、R15+

ジャンル:子どもの取り違えを知ったスペイン内戦犠牲者の子孫である母親の葛藤を描いたヒューマンドラマ

 

監督&脚本:ペドロ・アルモドバル

 

キャスト:

ペネロペ・クルス/Penélope Cruz(ジャニス・マルティネス・モレノ:シングルマザーの写真家、40歳)

ミレナ・スミット/Milena Smit(アナ・マンソ・フェレラス:ジャニスと同室のシングルマザー、17歳)

 

ルナ・アウリア・コントラレス(セシリア:ジャニスの赤ん坊、2歳)

イスラエル・エレハルデ/Israel Elejalde(アウトゥロ:法人類学者、ジャニスの恋人、44歳)

 

アイタナ・サンチェス=ギヨン/Aitana Sánchez-Gijón(テレサ・フェレラス:アナの母、売れない女優)

Yohana Yara(クラリッサ:アナの家のメイド)

Pedro Casablanc(アナの父、声の出演)

 

ロッシ・デ・パルマ/Rossy de Palma(エレナ:ジャニスの親友)

Daniela Santiago(ジャニスが撮影するモデル、金髪グラマー)

Ana Pleteiro(ジャニスが撮影するモデル、アスリート)

 

Adelfa Calvo(メメン:ジャニスの年の離れた友人)

Carmen Flores(ドロレス:ジャニスの家政婦)

Ainhoa Santamaria(ニネラ:若いセシリアのベビーシッター、学生)

 

フリタナ・セラーノ/Julieta Serrano(ブリヒダ:ジャニスの祖母)

Arantxa Aranguren(ブリヒダの姪)

Inma Ochoa(ブリヒダの姪)

Trinidad Iglesias(ジャニスの親戚)

 

Carlitta Castro Bohorquez(内戦犠牲者の末裔)

Eria Rey Enriquez(内戦犠牲者の末裔)

 

Julio Manrique(ヨスス:テレサの舞台の演出家)

Chema Adeva(舞台俳優)

Maria Jesus Hoyos(舞台女優)

Mar Vidal(舞台女優)

 

Juse Javien Domingvez(携帯ショップ店員)

 


■映画の舞台

 

2016年〜2018年

イタリア:マドリード

 

ロケ地:

スペイン:マドリード

Torremocha de Jarama/トレモチャ・デ・ハラマ(犠牲者が埋まっている場所)

https://maps.app.goo.gl/iXb3NFyeaExJKp5Y8?g_st=ic

 

C. de Mejía Lequerica(アルトゥロと会う喫茶店)

https://maps.app.goo.gl/1mn5acToWA12JYHk6?g_st=ic

 

Pl. de las Comendadoras(アナが働いていたカフェ)

https://maps.app.goo.gl/8fbdSBbYYWa4XgJr8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

スペインのマドリードで写真家として活躍するジャニスは、法人類学者アルトゥロのフォトグラフを撮影していた

撮影後、ジャニスは彼に「内戦犠牲者の発掘」について相談し、アルトゥロは財団に掛け合って見ると答えた

 

その件で親密になった二人は体を重ねる

妊娠が発覚したジャニスが彼にそれを告げると、彼は闘病中の妻には知らせられないと言う

そこでジャニスは一人で育てることを決意し、アルトゥロと別れることになった

 

ジャニスは産科病棟に入院し、そこで同室のアナと仲良くなる

同じ日に無事に出産を終え、それぞれは育児に奔走することになった

 

ある日、疎遠だったアルトゥロがジャニスの元を訪れる

そこでアルトゥロは「あの子の父親は誰だ?」と訊いた

絶句するジャニスだったが、浅黒い肌を持ち、エスニック風に見える娘を見て、彼女も不安を覚えてくる

 

そして、アルトゥロの助言通りにDNA検査をすることになったのである

 

テーマ:血のつながり

裏テーマ:内戦が残した爪痕

 


■ひとこと感想

 

予告編だと赤ん坊取り違えがメインのように思えますが、映画本編は「メキシコ内戦」について知らないと意味のわからないシーンが多いかと思います

シーンの時間経過が分かりにくい作品で、いきなり年月が飛んで戸惑うシーンも多かったですね

 

ジャニスとアナの間に芽生えた友情が崩壊する過程が見ていて辛いものがありますが、ジャニスの心情も計り知れないものがありますね

アナが育てていたアニタがジャニスの子どもかどうかもわからないままというのも苦しみを一層際立たせてしまいます

 

映画は「スペインの内戦」についてググってからトライした方がよくて、40歳のジャニスと17歳のアナの年齢差(映画の舞台は2016年)による歴史観の違いというものも加味した方が良いかもしれません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

赤ん坊取り違えの話が大半なのですが、冒頭と結びがスペイン内戦被害者の遺骨の白骨というシークエンスになっていて、映画のラストにはエドゥアルド・ガレアーノの言葉まで引用されていました

メッセージ性が強い作品なのですが、スペインの内戦について全く知らないとジャニスがなぜそこまで怒るのかはわからないかもしれません

 

エンドロールも凝っている作品ですが、キャストと役柄を一致させるのにかなり苦労する作品でしたね

WikipediaもIMDBも無事死亡という感じで、拙い記憶とグーグル先生を駆使して何とかまとめてみました

数人わからない人もいて諦めましたが、概ね合っていると思います

 

映画のテーマは内戦の爪痕と、歴史観の相違になっていますが、取り違えをそこに絡めているのは「運命というものはどう転ぶかわからない」ということの例えなのかなと思いました

取り違えなければアニタ(アナが育てた赤ん坊)は無事に育ったのかなど、答えのない過去というものがジャニスに覆いかぶさっていたように思えました

 


スペインの内戦について

 

スペインの内戦とは、1936年から1939年の3年間に起こった出来事で、第二共和政(スペイン共和国時代)期に起こった内戦のことを言います

マヌエル・アサーニャManuel Azaña Díaz)率いる左派の「共和国人民戦線政府(ロイヤリスト派=反ファシズム派)」と、フランシスコ・フランコFrancisco Franco Bahamonde)率いる右派の「反乱軍(ナショナリスト派=ファシズム派)」の争いでした

人民戦線をソビエト連邦が支援し、欧米市民の文化人・知識人らも多く参加し、数多くの義勇兵が参戦しました

反乱軍にはドイツ・イタリア・ポルトガルが支援し、衝突が起きています

 

1936年にスペイン第二共和国政府に対して、スペイン艦隊の将軍たちがクーデターを起こしたことが発端となっています

その後、7月17日から1939年の4月1日まで続き、最終的には反乱軍の勝利で終わっています

その後、フランシスコ・フランコが独裁政治を樹立し、フランス政権のファランへ党は勢力を拡大させて、フランコ政権下での「ファシズム体制」への転換を行いました

この内戦では戦場マスコミ報道が出現し、それによって人々の関心を惹きつけます

それによって、激しい感情的な対立や政治的な分裂を生みます

内戦には作家のアーネスト・ヘミングウェイErnest Miller Hemingway)や写真家のロバート・キャパRobert Capa)らも参加していました

双方が犯した残虐行為は報道され、この内戦によって家族内の対立、近隣住民の分断などが起こっていました

ちなみに1937年4月26日に北部の町ゲルニカが空爆され、その出来事が「ピカソのゲルニカ」としてパリの万国博覧会(1937年)に展示されたというエピソードも有名ですね

 

共和国側は「反宗教的な共和主義体制」を支持し、反乱軍側は「カトリック・キリスト教・全体主義」などを支持したことで、それによって、戦闘員以外の一般人も政治的・宗教的立場の違いで殺されたりしています

これらの背景には、1931年に左派が選挙で勝利し、王政から共和制へと移行した「スペイン革命」というものが下地にあります

この際にスペインの社会労働党や左派の共和国主義者は暴力革命志向として、カトリック教会の破壊や略奪などをおこなってきました

これらが黙認された背景があって、対立構図の下地になっていきます

その後も様々な暴動(アストゥリアス地方の暴動など)が起こり、暴動鎮圧も行われていきます

 

1936年の選挙で左派が再び勝利したことを皮切りに、7月12には突撃警備隊(Santiago Casares Quiroga)のホセ・カスティージョ(José del Castillo Sáenz de Tejada)が暗殺される事態も勃発します

それらの報復の繰り返しがあって、火種は徐々に大きくなっていきました

映画では「フランコ率いる反乱軍のファシストによる共和主義者の虐殺」が登場し、ジャニスはその末裔ということになります

この犠牲者たちの集団墓地はエステパル(映画のロケ地であるトレモチャ・デ・ハラマから北に200キロほどのところにあります)という小さな町にあります

そこで犠牲者たちが発掘されたのは2014年の7月になってからのことでした(映画はその4年後の別の場所ということになっています)

 


エドゥアルド・ガレアーノの言葉について

 

映画のラストでは、エドゥアルド・ガレアーノEduardo Hughes Galeano)の言葉が引用されていました

エドゥアルド・ガレアーノはウルグアイ人のジャーナリストで、カトリック系中産階級の家庭に生まれました

1960年代に『マルチャ(Marcha)』誌にて編集者として活動を始めます

同誌で1961年から1964年まで編集長を務めていました

 

映画で引用された言葉は以下の通りです

「No history is Mute, No matter how much they burn it, No matter how much they break it, No matter how much they lie about it, Human history refuses to shut it mouth, Eduardo Galeano」

(和訳:沈黙の歴史はない。どれだけ燃やしても、壊しても、どれだけ嘘をついても、人類の歴史は口を閉ざすことを拒む。エドゥアルド・ガレアーノ)※字幕とは違います

この言葉は彼の書籍『Upside Down: A Primer for the Looking-Glass World』 (スペイン語版『Patas Arriba: la Escuela del Mundo al Revés』)からの引用になっています

ちなみにこの本はスペイン語版が最初で、上記の部分の原語は「No hay historia muda. Por mucho que la quemen, por mucho que la rompan, por mucho que la mientan, la historia humana se niega a callarse la boca. El tiempo que fue sigue latiendo, vivo, dentro del tiempo que es, aunque el tiempo que es no lo quiera o no lo sepa. 」となります

日本語版は発売されていませんので、アマゾンの英語版のリンクを貼っておきますね

 

この本はラテンアメリカの20世紀の軍事政権について書かれたもので、主にウルグアイの軍事クーデターについて書かれています

このクーデターによって、ガレアーノ自身はスペインとアルゼンチンに亡命することになっていて、その時のことを回顧して書いたとされています

この本はノンフィクションで、教育制度な人種差別、貧困などの様々な社会問題について言及していて、散文のようになっています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

ここまでの記事にあるように、映画の本質は「スペイン内戦の悲劇」を根底に構成されています

その前提の上にあるのが「ジャニスとアナの子どもの取り違え」になっています

この一見すると無関係に思えるものは様々な解釈を呼び起こします

もっともわかりやすいのは、「歴史の真実は隠し通せない」ということで、内戦の犠牲者がいずれ掘り起こされるのと同じように、「取り違えの子どもは成長とともに誰の子どもかわかる」というものでしょう

 

母親として愛情を持って接しても、子どもが成長するごとに「それが自分の子どもではないこと」がわかってきます

ジャニスはアルトゥロとの間にしか関係を持っていない訳で、エスニックな顔立ちにはなりようがありません

彼が一目見て「誰の子?」と聞くのはかなり失礼な物言いですが、これらの問題は早く発覚した方が未来においては健全であると言えます

なので、ジャニスはDNA検査で「100%母親ではない」ということがわかった段階で、病院なり行政なりに問い合わせをするべきだったと言えます

 

ジャニスがその行動に移らなかった事で、知らない間に自分の子どもが突然死するという悲劇が並行していきます

アニタの死亡に関しては多くは語られていませんが、ジャニスがセシリアに感じた事と同じことが、アナの感性にも起きたということは否定できません

アナは3人の男性と関係を持たされたことによって子どもを産んでいますが、その3人の中に彼女が好意を抱く男性がいたことは言及されていました

アナとしては、その男性の子どもをあることを願いながら、生まれてきた子どもがそうではないこと感じています

 

彼女の視点で見ると、「残りの2人の強姦魔の子ども」と思い込んでしまうことを否定できず(写真を写すカメラでは左上の白人男性を写していましたね)、それによって子どもへの愛の欠落が起きたという可能性は否定できないのですね

その後に起きた赤ん坊の突然死というものが、彼女が愛情を持って接していれば起きなかったのかどうかということは分かりません

でも、少なくとも、アナが望まない出産であったと認識するのには十分な時間があったと言えるのではないでしょうか

 

歴史というものは、起きた時点での遺恨というものが時間が経つに従って増幅されて、思いもよらない方向へと転じながら、人々の心の中に落とし込まれていきます

遺骨が時代を経て風化していくように、赤ん坊の取り違えも判明した段階で適切な処置を行なっていれば、どのような未来を提示したかはわからないと間接的に伝えているようにも見えます

映画は紆余曲折を経てアナの元に戻ったセシリアと、アルトゥロとの間に新しい命が授かったことを提示して物語は終わります

自尊心に従って、その命を正しく導くことで神様からギフトをもらったようにも思え、並行した母親たちの想いというものが最後には重なっていくようにも思えました

 

並行世界は近づけば近づくほど同体となる可能性を秘めていて、それがミクロの世界では差異を感じますが、マクロの世界では認識されない問題のようにも思えます

そして、神様の視点は私たちの視点よりも遥に遠くから注がれるものなので、その修正を終えた先に訪れた未来というものは、並行前よりもより強固な一本の糸に見えるのかな、と思ったりもしました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384153/review/f01e933d-6550-49b8-9f58-fa0948ea9f5f/

 

公式HP:

https://pm-movie.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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