■一緒になって育まれる愛もあれば、距離を置いてこそ輝く愛というものもあるのだと思います


■オススメ度

 

ビターなラブロマンスが好きな人(★★★)

東洋思想的な物語が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.4.6(TOHOシネマズ二条)


■映画情報

 

原題:Past Lives(前世)、韓国語題:패스트 라이브즈(前世)

情報:2023年、アメリカ&韓国、106分、G

ジャンル:12歳の時に別れた幼馴染の24年ぶりの再会を描いたラブロマンス映画

 

監督&脚本:セリーヌ・ソン

 

キャスト:

グレタ・リー/그레타 리(ノラ・ムン/ムン・ナヨン:トロントへ渡ったヘソンの想い人)

   (幼少期:ムン・スンア/문승아

ユ・テオ/유태오(チャン・ヘソン:ナヨンを想う韓国在住の男)

   (幼少期:イム・スンミン/임승민

 

ジョン・マガロ/John Magaro(アーサー:ノラの夫、作家)

 

ユン・ジヘ/윤지혜(ノ・ジョンミン:ナヨンの母、イラストレーター)

チェ・ウォニョン/최원영( ムン・ミンス:ナヨンの父、映画監督)

ソ・ヨヌ/서연우(ミシェル・ムン/ムン・シヨン:ナヨンの妹)

 

アン・ミニョン/안민영(ヘソンの母)

 

チャン・ギハ/장기하(ヘソンの友人)

シン・ヒチョル/신희철(ヘソンの友人)

パク・ジュンヒョク/박준혁(ヘソンの友人)

ファン・スンオン/황승언(上海で出会うヘソンの恋人、交換留学生)

 

Jojo T. Gibbs(ジャニス:ノラの大学院の学生)

Emily Cass McDonnell(レイチェル:ノラの大学院の学生)

Federico Rodriguez(ロバート:ノラの大学院の学生)

 

Conrad Schott(ピーター:ワークショップの参加者)

Kristen Sieh(ヘザー:ワークショップの参加者?)

Stephanie Cheng(ミッチェル:ワークショップの参加者?)

John-Deric Mitchell(セバスチャン:ワークショップの参加者)

 

Chase Sui Wonders(冒頭のバーの女性の声)

Issac Powell(冒頭のバーの男性の声)

 

ソン・ヌリ /송누리(ナヨンの少女時代の友人)

ジン・シア/진시아(ナヨンの少女時代の友人)

チェ・ユンソ/최윤서(ナヨンの少女時代の友人)

 

Oge Agulué(フェリーの警備員)

Jack Alberts(アメリカの税関の職員)

Stephen Canino(小学生)

Skyler Wenger(小学生)

Nathan Clarkson(ソウルの電車でいちゃつくカップルの男)

Keelia(ソウルの電車でいちゃつくカップルの女)

Lisa Dennett(カナダ国境警備隊員)

Lynn Farrell(NYのフェリーの乗客)

Bob Leszczak(公園の歩行者/テニスをする男)

Keith Michael Pinault(バーテンダー)

Nadia Ramdass(ステージマネージャー)

Jane Kim(韓国系アメリカ人の女優)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:ニューヨーク

 

カナダ:トロント

トロント・ピアソン国際空港/Toronto Pearson Airport

https://maps.app.goo.gl/1Q9cJXGwhtACVfKM9?g_st=ic

 

韓国:ソウル

国立果川科学館/

Gwacheon National Museum

https://maps.app.goo.gl/EsD8La1bvuWpmQ5e9?g_st=ic

 

ロケ地:

アメリカ:ニューヨーク

マディソン・スクエア・パーク/Madison Square Park

https://maps.app.goo.gl/iyWGB1gZDh9rh3ka8?g_st=ic

 

Jane’s Carousel

https://maps.app.goo.gl/8ECwTkkzF5AoCmS78?g_st=ic

 

McNally Jackson Books Williamsburg

https://maps.app.goo.gl/mSs3vb4YpWV9VPrr9?g_st=ic

 

Holiday Cocktail Lounge

https://maps.app.goo.gl/yGua2LFjB6VDHVY99?g_st=ic

 

韓国:ソウル

 


■簡単なあらすじ

 

12歳のナヨンとヘソンは、クラスで1、2位を争うほどの秀才で、いつもナヨンが勝っていた

ある時のテストでヘソンに負けたナヨンは泣き出してしまい、「僕はいつも負けているけど泣いてないぞ」と励ました

二人の想いは同じだったが、ナヨンは両親の都合でカナダのトロントに移住してしまう

 

それから 12年後、ナヨンは大学に進学し、工学を学んでいた

ナヨンは英語名をノラとして活動を開始し、父の後を追うように劇作家の道を道を歩もうとしていた

ある日、ノラは自分の父のfacebookに「ヘソンの書き込み」を見つけてしまう

ノラは友達申請をして、 12年ぶりにスカイプで話すことができた

 

ヘソンの近況は変わらず、ナヨンは作家への道を遠回りしている

何週間か話した後、ナヨンは「ソウルを出た時の夢を叶える」と言い、一方的に会話するのをやめようと言い出す

そして、ナヨンは一人、芸術家たちが集う泊まり込みのワークショップに出向いた

 

テーマ:縁と輪廻

裏テーマ:現世の罪も心を焼く

 


■ひとこと感想

 

予告編の感じから「元恋人の再会かな」と思っていましたが、かなり訳ありな感じで再会することになっていましたね

12歳の時の突然の別れで、ヘソンは「さよなら」を言えたけど、ナヨンは言えなかった

それが24年の時を経て、どのような感じになるのか、と言う物語でした

俯瞰してみると、ナヨンのキャラは好き勝手している我儘な娘で、このタイプが嫌いな人には合わない物語のように思います

 

タイトルは「過去の人生」ということで、わかりやすく「前世でどうだったか」と言う話が出てきました

このあたりが仏教由来の輪廻転生と魂の存在のような観念になっていて、アーサーには意味不明の思想になっていたように思います

 

本来ならば付き合っていたと思う二人を引き裂いたのが前世と言うことになっていますが、実際にはそのような観念に囚われている人の転嫁のようにも見えてきますね

でも、ラストのヘソンの選択は、御伽噺を利用した本音が滲み出ているように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

物語は、 12歳、24歳、36歳の二人を描いていて、36歳の時点でナヨン(ノラ)とアーサーは結婚生活9年目に入っていました

この時点で子どもがいないと言うのは、それよりも優先するものを持っていると言うことになると思います

ともに作家としての大成を夢見ていますが、どうやらアーサーの方だけが売れっ子になれているように描かれていました

 

24年のヘソンの恋煩いが決着する物語なのですが、その執着が今度はナヨンの方に移ってしまうと言う内容でしたね

ヘソンは現在の彼女をみて、「あの時の私はもういないの」と言われてしまいます

美化された過去を愛していたことに気付かされ、お互いが交わらない運命だったと言うふうに解釈していますが、この関係は結ばれてもうまくいかないものだったと思います

 

会えない間にそれぞれが恋人を見つけていますが、ヘソンは結婚で躓き、ナヨンはそれをあっさりとクリアしています

アーサーとの関係もナヨンが主導しているところがあって、さらに作家としての底も感じてしまうのですね

そんな中、自分のことを24年も思い続けている人が来るのですが、それが手放しで喜べないもの、と言うところが残酷にも思えてきます

 

ヘソンは今のナヨンを見て、自分が愛したナヨンはもういないと悟り、彼女のSOS的なものを封じて去ります

彼女の閉塞感は彼女にしかわからないものではありますが、今後はそれをアーサーが背負う立場になります

この夫婦の関係性も変わってしまう可能性があり、これらは前世の責任ではないのですね

なので、それは単に言い訳として使われていて、それゆえに本当のところから目を背けることで、現世を地獄にしてしまったのがナヨンだったと言うことになるのかな、と思いました

 


「イニョン(縁)」について

 

映画で登場する「イニョン(이영)」は「縁」という訳され方をしていました

これは「因縁」を韓国語読みしたもので、日本語の「縁」とよく似た意味合いを持っています

どちらかと言えば良い方の意味で、「縁、由来、ゆかり」などという意味で使われることが多いのですね

 

映画では「8000層の縁の中から」という概念が登場しますが、これは仏教の時間の概念である「劫の縁」が由来となっています

「劫」はとてつもなく長い時間を指す単位で、43億2000万年を「1劫」と言います

そして、「縁」にまつわる言葉として、

一千劫の縁は、同じ国に生まれる

二千劫の縁は、一日の間、同じ道をゆく

三千劫の縁は、一日、一緒の家で寝る

四千劫の縁は、同じ民族に生まれる

五千劫の縁は、近所に生まれる

六千劫の縁は、一晩を一緒に過ごす

七千劫の縁は、夫婦となる

八千劫の縁は、親子になる

九千劫の縁は、兄弟姉妹になる

一万劫の縁は、師と弟子になる

というものがあります

 

これを見ると、ヘソンとナヨンの縁というのは「五千劫の縁」である「近所に生まれる」というところになります

でも、ナヨン(ノラ)とアーサーの縁は「八千劫の縁」ということになるのですね

この三千の差は絶望的な差に思え、ヘソンは「あなたはこの人生では去る人だ」と結論づけているのだと思います

 

「縁」というものをとても大事にしていて、「近所に生まれる」というステージと「夫婦になる」というステージは相入れないという感じになっていますね

このステージは登っていけるものなのか、絶望的なものなのかはわかりませんが、映画におけるヘソンは絶望的なものとして受け入れているように思えました

 


ヘソンがナヨンを受け入れなかった理由

 

ヘソンはナヨンに執着を持ち続け、それは24年にわたる長きものでした

24歳の時にスカイプで話をしましたが、この時のことをナヨンは「画面のイメージ」として捉え、実体化していないように記憶しています

そして、36歳の再会において、12歳の時の記憶のまま実体が現れる

24歳の時に画面越しに話していなければ、相手をすぐに見つけられたかはわかりません

 

ヘソンは途中で交換留学生と恋に落ちますが、結婚の話を切り出されて悩んでいるという状況がありました

これに対してナヨンは「結婚した方が良い」と答えているのですが、それは彼女の結婚観というよりは、ナヨンの気持ちに区切りがつくという意味合いでしょう

結婚すれば自分への執着がなくなると考えていて、それは自分の中にある概念のようなものでした

でも、ヘソンと過ごし、「あの時」を思い出すことによって、自分自身の方が強い執着を持っていたことに気づかされます

 

ナヨンがアーサーと結婚した経緯は描かれませんが、状況としては「ナヨンがヘソンを突き放した」という過去があります

彼女としては、その時点で「ヘソンは自分のことを見限るだろう」と考えていて、その概念をかき消すためにアーサーとの恋に溺れていきます

この時点ではヘソンがどのような状況かはわかりませんが、その後恋人ができたことがわかり、ナヨンの心は軽くなったのだと考えられます

このあたりの両者の恋愛と結婚に対するタイミングまではわからないのですが、それぞれが相手を見つけたことによって、次のステージへと進む弾みができたのだと思います

 

でも、実際にはヘソンは次のステップには踏み出さず、ナヨンの方はあっさりと結婚に踏み切っています

36歳の9年前に結婚ということで、27歳ぐらいになりますが、これは24歳のスカイプ越しの3年後になるのですね

ヘソン目線だと「自分との会話を打ち切って3年後」には、すでに恋人がいて結婚したということになるので、この状況を考えると「ヘソンは自分のことを恨んでいるかもしれないが、次の恋愛から結婚に向かえば、私のことを忘れるだろう」と考えていたのだと思います

でも、再会したヘソンは12歳の時と変わらないままで、恋愛はしたけど結婚には至っておらず、彼の中にある自分というものを、ナヨンは感じ取ることになりました

 

この状況下で二人が会うことで、ヘソンは「12歳の私を好きなままでいる」と感じ、それに対して「あの時の私はもういない」と言います

ヘソンもそのことはわかっていて、実体と接することで変わってしまったものを見極めることになりました

映画では「ヘソンがニューヨークに来た理由」というのは明確には描かれませんが、「自分の中にあるナヨンへの気持ちとは何か」を確認しに来たのですね

それは結婚を保留している恋人への誠意のようなもので、この想いがきちんと切れないと前には行けないということをヘソンはわかっていました

そして、それを見事に断ち切ることができたのだと思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、ラストにて長回しでシーンが撮られていて、ナヨンがヘソンを見送り、そして自宅の前に戻るまでが描かれています

自宅から少し離れたところで二人きりになり、タクシーを待つ間に奇妙な時間が流れます

この時点でヘソンは彼女への想いを完全に断ち切ることができていて、彼女に対して何も言いません

逆にナヨンの方にはまだ執着があって、溢れ出しそうなものを堪えている様子が伺えます

 

「あの時の私はいない」と言ったナヨンですが、それは「あなたが思っているような人ではなくなった」ということだと思います

それを汚れたと取るかは何とも言えませんが、ヘソンの紳士的な印象からすればそう思われてもおかしくないと考えても仕方がないのですね

相手が自分のことを好きでいると知っていながら、仕事や夢に向かう理由で突き放し、その後すぐに恋人を作って、子どもがいないにも関わらずに結婚に踏み切っている

ヘソンとの24歳の会話の中で、ナヨンの中で何かが違うと感じていて、欲しているものをアーサーが持っていた、ということになります

これが「結婚に向かうかどうかの縁」のようなもので、同じものがヘソンには感じなかったものだったのでしょう

 

二人はその概念をとても大切にしていて、「この世では君は僕から去る人間なんだ」というヘソンの言葉を素直に受け止めることができています

12歳の時に二人を割いたのは両親だけど、その後トロントからニューヨークに移動し、韓国に帰らなかったのはナヨンの意志によるものでした

24歳の時にも会うことができたと思いますが、ヘソンにその余裕もなく、ナヨンにもその意志がない

これが五千劫の縁と八千劫の縁との差なのかはわかりませんが、運命的なものとして受け入れているヘソンがいました

 

二人が別れることになったのは前世からの縁が決めたものであり、次の人生では違うかもしれません

でも、二人の譬え話では一緒になるという未来を想像していないのですね

近くにいて遠い存在

それが二人の織りなす過去からの縁の極みのようなものになっていて、このような概念を理解できる人にとっては、切なさが二人の人生をより良くしていくという考えに行き着けるのかな、と感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/98820/review/03690642/

 

公式HP:

https://happinet-phantom.com/pastlives/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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