■母親と話すために、どんな被り物が必要なのだろうか
Contents
■オススメ度
生きづらい世の中にある光について感じたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.4.8(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、87分、G
ジャンル:知的障害の女の子が騒動に巻き込まれる様子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:上西雄大
キャスト:(わかった分だけ)
徳竹未夏(来栖梨加:知的障害の娘を育てるシングルマザー)
清水裕芽(来栖玲:梨加の娘、知的障害のある22歳の女性)
古川藍(北村亜里砂:来栖家の担当ケースワーカー)
空田浩志(亜里砂の父、刑事)
山本莉那(原:亜里砂の同僚)
上西雄大(恵比寿丈/レオン先生:玲の新しい主治医)
三月雪々乃(恵比寿の母)
楠部知子(柊早苗:玲の前の主治医)
上村ゆきえ(クリニックの看護師)
華村あすか(カナ:玲を助けるデリヘル嬢)
青木玄徳(ジュン:カナが入れ込むホスト)
萩野崇(馬渕:デリヘルの代表)
松木大輔(岩本:デリヘルのマネージャー)
志村彩佳(麻生ナミ:デリヘルの店長)
三木美毅(松林:AV男優)
水上竜士(スーパーの店長)
中谷昌代(スーパーの店員)
丈(大家)
松山旭博(玲の父?)
貴山侑哉(?)
萩原佐代子(?)
■映画の舞台
大阪府内のどこか
ロケ地:
大阪府:池田市
フードネットマート石橋店
https://maps.app.goo.gl/HFaUSXvtdaNWG6eH9?g_st=ic
大阪府:豊中市
フードネットマート蛍池店
https://maps.app.goo.gl/LuisDw7xptmBWwLb6?g_st=ic
大阪市:中央区
マキムラクリニック
https://maps.app.goo.gl/a7Y4hci7kJJQsqnXA?g_st=ic
道頓堀クリスタルエグゼ
https://maps.app.goo.gl/CTeiNrL1HjGNPJUv8?g_st=ic
Club ZEUS 心斎橋店
https://maps.app.goo.gl/brj2UqxDRisWDQLL7?g_st=ic
大阪市:西区
川口基督教会
https://maps.app.goo.gl/4oZGBgpAnNiTGorU9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
知的障害を持っている玲は、幼い頃に父を亡くして以来、障害年金を使い込んで生活をする母と一緒に暮らしていた
玲はメガネチョコにハマっていて、それを買うのを楽しみにしていて、いつも前任の主治医・柊先生からもらったウサギの被り物を肌身離さずに身に着けていた
ある日、「22歳なんだから働いて家に金を入れろ」と言われた玲は、怪しい広告と知らずに面接に行ってしまう
そこはデリヘル嬢を派遣しているところで、そこの代表の馬渕は玲を気に入って採用してしまう
デリヘル嬢のカナは止めようとするものの、玲はどうしてもお金が欲しくて、映画撮影の契約書にサインをしてしまう
また、大好きなチョコを買おうとして、スーパーの店員に万引犯と間違われてしまう
そこに、玲の新しい主治医の恵比寿がやってきて、彼はカメレオンの被り物をして、玲と話し始めるのであった
テーマ:対話とは何か
裏テーマ:共感を呼ぶ語りかけ
■ひとこと感想
どんな話かすら知らずに鑑賞
事前情報もほとんどなく、毒親と問題児の母娘の物語というぐらいしかわかりませんでした
映画は、知的障害を持つ娘と、彼女を育ててきたシングルマザーの諍いを描いていて、自立しようとトラブルに巻き込ま手ていく様子を描いて行きます
ウサギの被り物とカメレオンの被り物で話す玲とレオン先生の会話はとても奥深いものがあって、話したがらない人とどのように話すのかを細やかに描いていました
レオン先生を監督が演じているということで、少々説教が効き過ぎているところと、心情を言葉で話すぎなところがありました
物語は、知的障害の女性が自立するという内容で、様々なトラブルに巻き込まれる様子を描いていました
わかりやすく風俗に足を踏み入れるということになっていて、大阪の街が怖いというよりは、無知な人が巻き込まれる様子を描いて行きます
とは言え、何でもお金になる世の中なんだなあと思わされます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
知的障害の娘を育ててきた母親が、そのストレス発散のためにパチンコ三昧になっていて、娘に支給されている年金を使い込んでいるという設定になっていました
わかりやすい人物描写になっていますが、このような共依存に近い関係を崩すのは結構難しいように思えます
映画では、その関係性に踏み込むレオン先生を描いていて、同じ目線で話をすることの大切さがわかります
実際にはこんな先生は少ないと思いますし、このようなアプローチをしてもうまく行くとは限りません
それでも、相手に必要なものは何かを考えて接することで、見えてくるものがあるのだと思います
物語は、かなり作り込んだ感じになっていて、やや非日常に思えますが、エンタメ性を考慮した結果なのだでしょう
キャスト陣の奮闘も目立ちますが、やはり気になってしまうのは、心情を全部セリフにしてしまうところだったように感じました
■人と向き合う方法
本作において、レオン先生は玲と等身大の会話をするために、カメレオンの被り物をしていました
柊先生はうさぎの被り物で、これは「相手の話をよく聞くため」に耳の大きなうさぎを被っていました
これによって、玲は心を開くことができ、メガネチョコで姿を少しだけ隠すことで、話すことができるようになっています
レオン先生のカメレオンは、文字通り「何にでも変身する」というもので、心理学用語で言えば「ミラーリング」という効果を使っていました
レオン先生は「相手の言葉を繰り返す」のですが、これによって「自分の言葉を相手が理解している」というふうに思えて安心感が出てきます
これによって、相手との距離感が近づき、しかも目線を相手の位置に合わせることによって、さらに近づくことができます
玲は自分の言葉をうまく紡ぎ出せないのですが、これは自分の心をきちんと言語化できているかどうかが不安だからなのかなと思いました
なので、レオン先生は「わかっている」ということを伝えるためにミラーリングで「玲の言葉」を彼女に返し、それを印象付けているのだと考えられます
よく、子ども目線で話をする時には、目線を一緒にするために姿勢を低くすると言います
でも、実際には「心の高さ」も同じにして、言語化レベルも同じにしないとダメなのですね
相手が使う言葉は相手がわかる言葉である必要があって、その水準に合わせる必要があります
これは語彙レベルを合わせるいうものではなく、言葉尻や話し方を真似るというものでもありません
あくまでも、心理状態も同じ高さにして、その出てくる言葉の意味を捉えながら、相手の言葉を引き出すテクニックが必要になってくると言えます
実際にはテクニックを習得するために訓練は必要なのですが、本当のところは「自分の過去が知っている」ということもあるので、その時のことを思い出しながら、自分ならどのような言葉を選んでいたかを思い返すことになるのですね
言語の習得、言語化の能力はそれぞれ違いますが、経験値というものは誰にでも備わっているものなので、いかにして「その時」を思い出して重ねることができるかに掛かっています
なので、レオン先生のカメレオンは目の前の玲と同化すると同時に、少年時代の自分と同化するという意味合いになるのではないでしょうか
また、自分の少年時代に話しやすかった相手になりきるということも可能なので、自分が親しかった大人の話し方を思い出すというのも効果的であるように思いました
■勝手にスクリプトドクター
本作は、知的障害のある女の子が社会の荒波に揉まれる系の物語で、彼女を助けようとするたくさんの人が登場します
母親は若干悪者で、デリヘル業が完全に悪の立ち位置ですが、デリヘル界隈でも会長依存の店長とか、ホストに嵌められたデリ嬢などが登場し、いろんなところに行きづらさを抱えている人が登場しています
それらと関わって、心を洗っていくのがレオン先生で、実質的な主人公の立ち位置になっています
それでも、映画は玲の自立が主軸なので、物語の構成的にはダブル主人公のような構成になっていました
物語の登場人物には全て役割があり、それは主人公を中心とした機能というものが存在します
物語のログラインは「知的障害の成人が周囲の人の助けを借りて自立を果たす」というもので、レオン先生は「メンター=贈与者」というポジションになります
この映画には玲に対する贈与者が多く、レオン先生は「マインドの同化」、ケースワーカーの北村は「人間関係の構築と母親へのフォロー」、デリ嬢のカナは「行動を促す」という感じになっていましたね
それぞれに役割ははっきりしていますが、レオン先生が他のキャラクターにとっても贈与者的なポジションになっているので、そのあたりが気になってしまいました
レオン先生はデリヘル店長の行動を変えるきっかけを作りますが、デリヘルの中の悪人を会長だけにしてしまうことで、敵対者が分裂する格好になっています
敵対者であるデリヘル軍団は男女問わず全員が敵対者であることが必要で、その分裂が起こるとしても、玲の行動によって起きなければバランスが悪くなってしまいます
玲がデリヘルに応募したことでカナの良心が動きますが、その後「利用し搾取する側」の変化を起こすかどうかはあまり重要ではありません
カナが分裂を起こしたことで地位が揺らぐのが店長で、それによって暴力の報復が起こります
レオン先生はこの状態で店長を諭すことになるのですが、そこでレオンマジックが炸裂してしまうとちょっと安直な感じになってしまうのですね
彼の能力の高さというものは玲との関わりで証明されているので、あえてデリヘル分裂に寄与する必要はなかったように思います
社会的な悪に対する背景を読み解き、そこにエクスキューズを求める作品は多くありますが、本作にその要素が必要だったのかは何とも言えません
母親を完全なる毒親にしないという配慮は必要だとは思いますが、万引き容疑のスーパーをあれだけ敵対者にしていたのに、社会悪のデリヘルがそこまでではないのはバランスが悪いのですね
なので、完全なる悪として描き、何なら玲がレイプ寸前まで追い詰められてしまい、そこで「会長の女性に対する姿勢を店長が知る」というのでも良いでしょう
会長が玲にしていることは、会長が店長にしていることと同じ
これを俯瞰して店長が見ることで目覚めるとか、カナが「あんな変態に尽くすのか?」と詰め寄っても良いような気がしました
デリ分裂はカナの役割でもあるので、彼女の言葉で分裂がなされ、それを玲が見て学ぶというのでも良いでしょう
なので、レオンマジックを発揮するなら、店長ではなくカナの方がよかったのではないか、と思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、生活苦の家庭を描き、その構造を紐解いていくものですが、玲は「軽度の知的障害」ということになっています
この「軽度」というのは、療育手帳の障害の程度ということになると思われ、軽度だと「知能指数が概ね51以上75程度の者で日常生活において介助を必要とする状態にあるもの」となります
ちなみに、知的障害があるかどうかの「程度」に関しては、厚生労働省によって基礎調査というものが行われます
↓厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査:調査の結果」URL
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html
また、北村の同僚が言っていた「障害年金」は、この療育手帳の障害程度の基準とは異なります
玲の知的障害が生まれつきのものだとしたら、障害基礎年金の3級には該当しないのですが、そうでない場合(後天的)の3級は「知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの」となります
おそらくは障害の程度「2級」で、「知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの」と考えられます
このあたりの詳しいことは厚生労働省による「国民年金・障害年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」の項に書かれているので、参考にしてください
↓厚生労働省「国民年金・障害年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」URL
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000130041.html
映画では、最終的に玲がスーパーマーケットで働き始めていますが、これによって「日常生活の向上とはみなさない」とされています
労働に従事している人については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類や内容、従事している期間や状況、さらには他の従業員との意思疎通の状況などが考慮されます
なので、働いているからダメというものではないので、玲の場合も就業状況を考慮されると思うので、軽度が変わることはないと思います
でも、障害年金の使い込みに関しては問題になると思うので、母親は即座に今の環境を変えて、生活を見直す必要があるでしょう
障害年金と玲が入れたお金で生活している母親というのは擁護不能なので、これまでの苦労というものは考慮されません
それを考えると、母親の行動が変わるエピソードをラストで入れても良かったのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100673/review/03695485/
公式HP:
https://www.cinema-factory.jp/2024/03/24/44914/