■朝起きた時も、夜眠る時も「PERFECT DAYS」と呼べる生活をしていますか?
Contents
■オススメ度
日常系の映画が好きな人(★★★)
役所広司をまったりと見たい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.22(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本&ドイツ、124分、G
ジャンル:ある清掃員の日常を追いかける実録系ヒューマンドラマ
監督:ヴィム・ヴェンダーズ
脚本:ヴィム・ヴェンダーズ&高崎卓馬
キャスト:
役所広司(平山:決まった生活を送る清掃作業員)
柄本時生(タカシ:平山の同僚、清掃員)
安藤玉恵(佐藤:タカシの後任の清掃員)
アオイヤマダ(アヤ:ガールズ・バーの女、タカシの想い人)
中野有紗(ニコ:平山の姪、高校生)
麻生祐未(ケイコ:平山の妹)
石川さゆり(飲み屋の女将)
三浦友和(トモヤマ:女将の元夫)
田中泯(公園で踊るホームレス風の街の老人)
【以下、登場順】
田中都子(早朝の竹ぼうきの婦人)
水間ロン(トイレを使う酔っ払いのリーマン)
渋谷そらじ(トイレに隠れる子ども)
岩崎蒼維(トイレに隠れる子ども)
島崎希祐(トイレに閉じこもっている迷子の子ども)
川崎ゆう子(迷子の子どもの母親)
小林紋(ベビーカーの赤ちゃん)
原田文明(神主)
Reina(トイレの使い方に悩む旅行客)
三浦俊輔(平山行きつけの銭湯の番台)
古川がん(銭湯の老人)
深沢敦(かっちゃん:居酒屋の客)
田村泰二郎(居酒屋の常連客)
甲本雅裕(居酒屋の店主)
岡本牧子(トイレを利用する年配の女性)
松居大悟(レコードショップの店主)
高橋侃(レコードショップの客)
さいとうなり(レコードショップの客)
大下ヒロト(レコードショップの客)
研ナオコ(野良猫と遊ぶ女性)
長井短(公園のOL)
牧口元美(空地の老人)
松井功(地元の老人)
吉田葵(でらちゃん:タカシに絡む青年)
柴田元幸(平山行きつけの写真屋の主人)
犬山イヌコ(平山行きつけの古本屋の店主)
あがた森魚(飲み屋の常連客、ギター弾き)
モロ師岡(飲み屋の常連客)
殿内虹風(トイレを利用する女子高生)
大桑仁(ケイコの運転手)
片桐はいり(平山の電話の相手の声)
芹澤興人(トイレを利用するタクシーの運転手)
松金よね子(路上駐車監視員)
■映画の舞台
東京都:渋谷区
ロケ地:(ほぼ登場順)
恵比寿東公園トイレ(1:タコ滑り台)
https://maps.app.goo.gl/jFsgnY6co2wvrJ7s9
鍋島松濤公園トイレ(2:迷子発見)
https://maps.app.goo.gl/7zNuP8Jx4Z3u7weT9
代々木八幡公衆トイレ(3:2回目にメモ紙発見)
https://maps.app.goo.gl/sDT8k9LBAcwG1bGj7
代々木深町小公園トイレ(4:旅行客困惑)
https://maps.app.goo.gl/p6oaAxADZbc3iSLr9
恵比寿公園トイレ(5)
https://maps.app.goo.gl/zh2pb3yMU9vTpSyk8
はるのおがわコミュニティパークトイレ(6:アヤ登場)
https://maps.app.goo.gl/pt5FGNHkzsSX7WGa9
神宮通公園トイレ(7)
https://maps.app.goo.gl/a62azXQLXZpNcA2Y7
西原一丁目公園トイレ(8:耳たぶ少年)
https://maps.app.goo.gl/gsjU534PPbmj27DE9
東三丁目公衆トイレ(9)
https://maps.app.goo.gl/rvbfuw59iNTytQHw9
恵比寿駅西口公衆トイレ(10)
https://maps.app.goo.gl/9cw9QQy8VXJFtPax8
七号通り公園トイレ(11)
https://maps.app.goo.gl/icZ8pgAxweDHnPbs6
↓上記のプロジェクトのHP
TOKYO TOILET URL
■簡単なあらすじ
東京の渋谷で清掃員をしている平山は、同僚のタカシと一緒に渋谷近郊の公衆トイレの清掃を行っていた
1日で数か所回る重労働で、彼は様々な工夫を凝らして、日々仕事に明け暮れていた
彼の一日は、箒で掃く音から始まり、昼食は境内にて簡単に済まし、露店で酒を飲む日々で、時折古本屋で本を買ったり、休憩中に撮った写真を現像していた
また、芽吹きを見つけては家に持ち帰り、それを少しずつ育てていたりもする
ある日、姪っ子が彼の元を訪れ、母と折り合いがつかずに家出をしてきたという
平山はやむを得ず仕事に同行させ、妹に娘が来ていることを告げる
そんな波風が起きようとも、彼のルーティンに揺らぎは生じなかった
テーマ:日常に在る幸福
裏テーマ:木漏れ日の中に見える群像
■ひとこと感想
日常系で「外国人が見た日本人」という視点になっている本作は、トイレ清掃員という一見すると底辺の職業にスポットライトを当てています
とは言え、登場するトイレはプロジェクト「TOKYO TOILET」にて著名な建築家がデザインしたもので、一般的な公衆トイレのイメージとは違うと思います
映画では、このプロジェクトを維持するための下請けの清掃会社が登場し、少ない人数で合計13ヶ所(映画では11ヶ所:見落としがあったらすまん)のトイレの清掃を行なっていました
タカシのようにやる気のない人もいれば、真面目に創意工夫をする平山のような人間もいる
彼の過去はほぼ語られませんが、姪と妹との関係を考えると、大人だけが知る軋轢というものがあったのだと推測されます
本当に淡々とした世界観になっていて、BGMに登場するのは平山が所有しているカセットテープの音源だけだったりします
物語としては特に動きはなく、平山の日常に降って湧いたような乱れがあったりするのですが、まるで木漏れ日に揺れる小枝のように、また元の世界に戻っていくように感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
渋谷にあるオシャレなトイレを管理するお仕事で、そこまで高収入でもないし、生活も質素なものになっていました
妹のなりを見ると裕福の近くにいるけれど、あえて清貧にいるという感じで、何気ない日常の中にある幸せというものを噛み締めているように思えます
意味深な登場人物やセリフはあるけれど、ほとんど回収されないままで、それは平山自身が深い意味を求めていないからでしょう
姪が家出してきた時も、理由を聞くこともなく、仕事を見学したいと言えば見学させたりします
ほぼルーティンを守って生きている感じになっていますが、それが乱れることを恐れていないのがいいですね
映画は、忙しい時間を過ごしている人が精神を休めるためにあるような世界観になっていて、好意的に受け止められる余裕のある人ほど、幸せに近づいているのかなと思ってしまいます
途中で寝落ちしてもOKな映画かもしれませんね
■人物描写をどう行うか
本作は、平山の日常を切り取った作品で、およそ3日間ほどを追ったドキュメンタリーのようになっていました
姪が押しかけてしまう前後の日という感じになっていて、大きく未来が揺らぎそうでいて、揺らがないという感じになっていました
映画では、時折「風にそよぐ枝を眺めるショット」というのがあって、ラストでは「木漏れ日」についての監督の言葉が引用されていました
映画は、平山という人物がどんな人物かというものを、ほぼ映像だけを通して描いていて、この人物を描写するのに3日は必要だったという事になります
とは言え、3日眺めただけで人の何がわかるのかと思いますが、表層的に見える部分はほぼ見えているという感じになっていました
人が人を理解するのは見た目と内面になりますが、見た目というのは見る側の主観となります
なので、きちんと布団を畳む平山を見て、「律儀な人」と思う人もいれば、「刑務所上がりなのか?」と考える人もいます
そこで描かれているものを判断するのは、見る側の経験になっているというのが面白いところだと感じます
映画は、これらの人間描写を多重構造で行なっていて、観客は画面を通して平山を見て、平山自身は画面の中で多くの人を見ています
この平山の見ているものと観客が見ているものには大きな乖離があって、平山は何を思っているかと考える人もいれば、彼の視点を借りて自分なりの解釈を生む人もいると思います
人間描写というのは、特徴的な仕草ばかりではなく、普通にしている時でも何らかの特徴や心理というものは滲んでいます
例えば、平山が妹と会うシーンひとつでも、二人の立ち位置、距離感、どちらに傾いているかなどの違いがあります
これらの視点をカメラワークで演出しているのが本作で、そこには「こう見てほしい」という誘導があります
公園でOL(長井短)と猫を撫でる女(研ナオコ)と会いますが、フォーカスがハマるのはOLの方で、猫を撫でる女は凝視しないと誰だかわかりません
これは、平山の視点では「OLは存在認知が必要」で、「猫を撫でる女は風景と同化してもOK」という事になります
この相違から想像できる平山像というのは、かつてサラリーマンのような仕事をしていた、もしくは会社経営で部下を持っていたというものになると考えられます
また、彼は動物を飼ったことがないので、猫を撫でる女は風景になっていると言えるでしょう
彼の過去については多くは語られず、妹は見下すけど、姪は懐くという家族関係がそこにあります
姪は母親が嫌いで家を飛び出しますが、平山はその理由を聞きません
また、彼が妹に電話をかけて迎えにくるシーンでも、平山のいうことはちゃんと聞くのですね
ここには信頼関係がありますが、その説明はありません
想像するには、詮索をしないという平山の対応によって、姪は一人の人間として信頼されていると感じているということになるのかな、と思います
■日常を動かす些細な風
映画の中では色んなことが起きますが、それによって平山の生活が変わるかといえば、ほとんど変わらなかったと思います
彼は時間を大切にしている人で、それが乱れると困りますが、日常にある問題を先送りすることはしません
姪が来た時も、その日のうちに妹に連絡をして、翌日に持ち越すことはしません
これによって、妹が感じる「なぜすぐに連絡をよこさない」という無駄な反応を起こさせることがありません
彼が唯一能動的に動くのは、タカシがいきなり辞めて、物理的に業務がこなせなくなった場面でした
誰かを手配するように連絡をして、翌日にはベテランの清掃員・佐藤が登場し、それによって平山の日常は元に戻っていきます
映画を見ていて思うのは、彼が本を読む時は、毎日同じ量のページを読んでいるのでは?ということなのですね
面白いところに来て夜更かしをして読み込むというよりは、楽しみを明日に残しておくという感じで、人生における至福というものを理解しているように感じます
実際に彼がどのような人物かはわからないし、描写も断片的なので断定はしませんが、私の目にはそのように映るという感じになっていました
人生は波風が起きまくるものですが、実際に人生を動かす波というものは、本当に些細な波から始まっていきます
映画で言えば、姪が来たことや女将さんの元旦那と遭遇するという大波よりも、本屋で新しい本を見つけることの方が、彼の人生を大きく変えて行くのですね
それは、平山が感情に流されないタイプの人間で、思考が変わることで行動が変わっていくことを知っているからだと思います
読書は知的好奇心探究の場ではありますが、根幹となる思想に影響を与えるもので、それはより深く自分で考えるタイプの本ほど、その影響力が強いと言えるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、東京の渋谷近辺にある個性的なトイレを管理している様子が描かれていて、こんなトイレが本当にあるのかとびっくりしてしまいました
渋谷在住だと利用したことがある人も多いと思いますが、渋谷に行ったことがない人からすれば、透明トイレとかスモークトイレとかは、何を考えて作っているのだろうと思ってしまいます
パンフレットにもプレジェクト「TOKYO TOILET」に関するページもありますし、そのままググればたくさんの情報もあります
この個性的なトイレが、日常系映画としては小気味の良いアクセントになっていましたね
普通の公衆トイレを回るだけだとほとんで絵面が変わらないのですが、風景に色がつくだけで、こんなにも見た目が変わるのかと驚かされます
また、たくさんの著名な俳優が登場していて、これらも日常系に色を持たせるための配役だったように思えました
さすがに初見で研ナオコはわかりませんでしたが、こんなところにも!みたいな感じで、知っている俳優さんが出てくると嬉しくなってしまいます
映画は、外国人監督が見た日本という感じになっていますが、それゆえに無駄な演出がなかったように思えました
過剰な演技も言葉もなく、表情で心象風景を描き、平山を含めた多くの人物が反応するのがカセットテープに録音された英語詞の楽曲でした
特にラストシーンで流れた『Feeling Good』は、パンフレットに歌詞全文が掲載されているほどに重要な意味を持ちます
映画では、テーマソングのような楽曲の場合に「字幕」をつけることが多いのですが、本作ではそのようなシーンがひとつもありません
歌詞を理解していれば、そのシーンで楽曲を聴いた人がどのような感情になっているのかがわかりますが、全部が字幕で表示されても、作品の趣というものはなくなってしまいます
歌詞を知っている人、映画が聞き取れる人限定になりますが、「Feeling Good」のとある場所で平山が涙を浮かべるというのは、本作のメインであると思います
英語詞を掲載して、翻訳するのもありですが、映画の余韻を噛み締めながら、耳を傾ける方が良いと思うので、Youtubeからひとつ引用動画を載せておきます
日本語訳が知りたい人は「Nina Simone Feeling Good 日本語訳」でググるとすぐに出てきます
上の「 」はそのままグーグル翻訳で上記の文言が検索されるようにリンクを貼ってあります
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://www.perfectdays-movie.jp/