■友人同士が隣で眠る奇跡は、紡がれた絆だけでは説明できないものかもしれません
Contents
■オススメ度
開拓時代以前の雰囲気を堪能したい人(★★★)
牛映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.25(アップリンク京都)
■映画情報
原題:First Cow
情報:2019年、アメリカ、122分、G
ジャンル:猟師団のお抱え料理人と訳あり中国人の友情を描いたヒューマンドラマ
監督:ケリー・ライカート
脚本:ケリー・ライカート&ジョナサン・レイモンド
原作:ジョナサン・レイモンド『The Half Life(2004年)』
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キャスト:
ジョン・マカロ/John Magaro(クッキー/オーティス・フィゴヴィッツ:毛皮狩猟団の料理人)
オリオン・リー/Orion Lee(キング・ルー:ロシア人に追われている中国人の移民)
アリア・ショウカット/Alia Shawkat(犬を連れた女性)
ディラン・スミス/Dylan Smith(ジャック:クッキーを毛嫌いしている毛皮猟師)
Ryan Findley(ダム:毛皮漁師)
Clayton Nemrow(クライド:毛皮漁師)
Manuel Rodriguez(ビル:毛皮漁師)
Patrick D. Green(ロシアの毛皮漁師)
Evie(雌牛)
ユエン・ブレムナー/Ewen Bremner(ロイド:砦の貿易商)
Jean-Luc Boucherot(砦の船乗り)
Don MacEllis(ブリリアント・ウィリアム:頭に傷のある貿易商)
ジャレッド・カソウスキー/Jared Kasowski(トーマス:小柄な兵士)
ルネ・オーベルジョノワ/Rene Auberjonois(小鳥を愛でる男)
Jeb Berrier(クリベッジを奏でる男)
John Keating(ブーツに文句をいう男)
Todd A. Robinson(ドーナツを買いにくる毛皮漁師)
Kevin Michael Moore(ドーナツを買いにくる毛皮漁師)
Eric Martin Reid(ドーナツを買いにくる毛皮漁師)
Ted Rooney(ドーナツを買いにくる毛皮漁師)
Phelan Davis(ドーナツを買いにくる毛皮漁師)
Mike Wood(ドーナツを買いにくる毛皮漁師)
トビー・ジョーンズ/Toby Jones(イギリスの貿易商、仲買人)
リリー・グラッドストーン/Lily Gladstone(セレステ:仲買人の妻)
Mitchell Saddleback(仲買人の従者)
スコット・シェパード/Scott Shepherd(ルビー隊長)
ゲイリー・ファーマー/Gary Farmer(トッティリカム:マルトノマ地区のリーダー)
サブリナ・モリソン/Sabrina Morrison(イルチェ:トッティリカムの妻)
Mary Ann Perreira(クッキーを助ける老女)
T. Dan Hopkins(クッキーを助ける老人)
James Lee Jones(コナコナ:カヌーの持ち主)
Gia Fisher(コアルポ:川沿いにいるマルトノマの女性)
Cassandra Frost(スティザの友人、川沿いにいるマルトノマの女性)
James Ridley(兵士)
■映画の舞台
現代、
アメリカ:オレゴン州
ソーヴィー島コリンビーチ/Sauvie Island
https://maps.app.goo.gl/Z7Dov6qA5oVyqQ6r5?g_st=ic
1820年、
アメリカ:オレゴン準州
マルトノマ群/Multnomah
https://maps.app.goo.gl/5LRHQwBzZ5JxM1yW6?g_st=ic
ロケ地:
アメリカ:オレゴン州ソーヴィー島
ハーウェル・テリトリアル・パーク/Howell Territorial Park
https://maps.app.goo.gl/hmoHV6CZ6fU3p4RC7?g_st=ic
オレゴン州マルトノマ群
オックスボー・リジョーナル・パーク/Oxbow Regional Park
https://maps.app.goo.gl/tDnDF5HQ8ayb9tcs5?g_st=ic
オレゴン州
ポートランド/Portland
https://maps.app.goo.gl/CGLWL1uxwVJuvnVs6?g_st=ic
バイビー=ホーウェルハウス/Bybee-Howell House
https://maps.app.goo.gl/i88b4iFeoNr8BDsA7?g_st=ic
ミロ・バッキーバ州立公園/Milo McIver State Park
https://maps.app.goo.gl/K1hDPucWsXPK7HDr9?g_st=ic
サン・サルバドールビーチ/San Salvador Beach
https://maps.app.goo.gl/LzSNR57NrZR1cCYR8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
オレゴン州ソーヴィー島にて、犬の散歩をしていた女性は、そこで二体の白骨を見つけてしまう
そして時は遡り、1920年のオレゴン州ムルトノマ群では、毛皮狩猟で生計を立てている集団が森の中で狩りをしていた
その集団に雇われている料理人のクッキーは、ある時、裸で逃げ回っている中国人を保護する
彼は、ロシア人の毛皮猟師から逃げていて、一晩をクッキーのテントで過ごすことになった
その後、砦に戻ったクッキーは、そこで裸の中国人ことキング・ルーと再会する
危険は去ったとのことで、再会を喜びあう二人
そんな折、砦に一頭の雌牛が運ばれてきた
雄牛が死んだため役に立たないと思われていたが、クッキーとルーは「牛のミルクを使ってドーナツを作ること」を思いつく
そして、夜にこっそりと忍び込んでは、雌牛からミルクを採取し、それを元にドーナツを作り、猟師や兵士たちに売って金を稼ぎ始めるのであった
テーマ:夢の代償
裏テーマ:人が生きていくために必要なもの
■ひとこと感想
冒頭にて、ウィリアム・ブレイクの名言「The bird a nest, the spider a web, man friendship.」が引用されて始まります
人には「友情が必要」ということで、映画の内容は、そのまま「クッキーとルーの友情物語」になっていました
冒頭のタンカーが通る現代のシーンと、クッキーたちが住んでいた地域は同じ州ですが、若干距離があるところがポイントでしたね
これによって、ラストの解釈はどちらとも取れるようになっています
物語は、クッキーとルーが一攫千金を夢見て、ドーナツで小銭稼ぎをしていく中で、バレそうになって逃げるというものですが、本懐は何気ない販売シーンになっていましたね
彼の暴力が行われたのかはわかりませんが、それほどに恨みを買うことになったのだと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、冒頭のシーンの時代がほとんど分からず、場所も明示されません
そこからいきなり1820年に時代が飛んだのですが、200年前の白骨としてはとてもキレイなものになっていました
関連づけることもできるし、ルーが目を閉じたところで終わるので、事がなされなかった可能性も否定できません
物語は、男同士の友情という事で、バレそうになって逃げて、バラバラになっても命懸けで相手を探しに戻るというものでした
二人の夢は些細なもので、あの場所で流通している貨幣だけでは難しいところもあったでしょう
でも、原資が原資なので、それ以上のことは無理だったと思います
画面がかなり暗く、会話という会話がほとんどなく、人物の説明はほとんどありません
前半の狩猟団には名前があるのに、砦の男たちには名前がないのも不思議でしたね
先住民たちも印象的で、リリー・グラッドストーンが出てきた時は「おお!」と思ってしまいました
■ラストをどう解釈するか
映画のラストは、クッキーとキング・ルーが合流を果たし、それをトーマスが追うという構図になっていました
二人は安心し、そこで眠りにつくところで映画は終わっていて、その後に何が起こったのかは描かれていません
でも、冒頭に発見されるふたつの白骨死体が、彼らを想起させるようになっています
死体は埋葬されたというよりは、その場で亡くなって、そのまま自然へと還っていったようにも思えてきます
普通に考えれば白骨はあの二人ということになりますが、それを紐づけるのは観客の想像力だけになります
決定機を描かないことで様々な憶測を生みますが、この決定機を描かないというところに、本作のこだわりというものを感じます
冒頭の白骨死体の距離も近く並んでいるもので、この白骨からも何かしらが感じられるのですね
それを友情と呼ぶかは人それぞれですが、映画を通じてみると、白骨の並びにすら何かを感じ取ってしまいます
映画の主題は、ウィリアム・ブレイクの「地獄の格言」を体現するもので、人には友情が必要であることを訴えていきます
でも、その友情よりも「利益」を優先した結果、思わぬヘイトを産んでいます
トーマスがドーナツを食べていた世界線があるとしたら、彼らと何らかの交流があったり、守る側にいたのかもしれません
人生はやり直しが効かないものですが、人の情けというものが大きく作用することを描いていて、横並びの白骨になれたことは唯一の救いだったようにも思えます
二人を見つけたトーマスが、ドーナツを作れるクッキーだけを生かして、自分に売らなかったキング・ルーだけを殺すこともできたわけで、それをしなかった理由というものが本作の命題になるのかもしれません
■時代背景について
1820年代のアメリカと言えば、ミズーリ妥協(Missouri Comproise)が起こった年で、ミズーリがアメリカ合衆国への加盟を申請していた時期になります
1812年に起こったアメリカ合衆国&インディアン諸部族と、イギリス連合軍による米英戦争は長引き、1814年にガン条約を結ぶことによって戦争は終結します
この戦争によって、インディアン部族の多くが消滅寸前まで虐殺され、領土を奪われて散り散りとなっってしまいます
そして、インディアンを追い出した多くの土地はアメリカの植民政府の植民地となっています
その後、1817年4月にはアメリカ、イギリス、英領カナダとの間で、「ラッシュ・バゴット協定(Rush-Bagot Treaty)」というものが締結されます
これによって、アメリカと英領カナダの国境問題が解決されるに至りました
映画は、これらの時期の直後になっていて、インディアンの土地にイギリス人が入植し、商売を始めたりしています
多くの移民が流入し、チャンスを伺うのですが、この時期は「毛皮」がムーブメントになっていました
毛皮というのは旧石器時代から重宝されていて、1500年代のイギリスでは貴族以外の着用が認められなかったという歴史もあります
ロシアでは、ビーバーやキツネなどの毛皮を輸出する産業が発達し、ロシア帝国はシベリア開発なども行っています
18世紀になってラッコの毛皮が流行し、20世紀初頭までの乱獲によって絶滅寸前にまでなっています
また、映画で対象になっているビーバーも一時期はヤバいくらいに減っていましたね
20世紀になってから需要が下がり、大半は飼育場で飼われたものを加工するように変わっていきます
天然の毛皮は世界各地が産出地となっていますが、供給されるのは寒冷地が主となっています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、ドーナツを売り始めるまでが長く、いつ作り始めるんだろうと思って見ていました
牛の登場も中盤くらいで、ここからようやく話が動き出す感じになっていましたね
この土地に最初に来た牛ということですが、実は原作には登場しないそうですね
原作は、オレゴン準州で毛皮漁師一行の料理人クッキーが難民のヘンリー・ブラウンと交流し、旅を始めるというものでした
それから160年後、ティーンエイジャーのティナ・プランは少女トリクシーと出会い、友達になった二人は、「二体の白骨死体を発見する」ことになります
そして、この二人の人生は予期せぬ方向で、クッキーとヘンリー・ブラウンに繋がるという構図になっています
映画では、ヘンリー・ブラウンをキング・ルーに変更し、彼ら二人の人生を主軸に置いていますね
そして、発見者は一人の犬連れの女性となっていて、彼女との関連については言及していません
このあたりの改変をどうみるかではありますが、見つかった白骨に思いを馳せるのは観客だけで良いという判断なのだと思います
物語は、そこまで感情を揺さぶるものではなく、ドーナツを介して深まっていく友情とか、夢を語り合う大切さというものが描かれていきます
カリフォルニアに土地を買うという夢を語るキング・ルーと、それを支えようとするクッキーの間に芽生えたものは、危険を犯すことになりますが、それでも命懸けで探しに戻るのは胸熱の展開になっていました
また、印象的だったのが、牛がクッキーを認識していく過程でしたね
最後の方は飼い主と家畜以上のものが感じられて、ここにも絆が生まれているのは良かったと思います
映画としてはかなり地味な映画ではありますが、丁寧に作られた良作なので、鑑賞後に原作を読んで、その違いと堪能するのも良いかもしれません
とは言え、日本語版がないのが残念ですが、原作をここまで再構築できるのは、原作者が脚本に関わっているからだと思います
これらの再構築で新しいものを描きつつも、白骨のイメージだけは大事にしたいと考えていて、そこから想起されるものはやはり白骨から滲み出る友情というものなのでしょう
友人同士が隣で眠るということは現実には起きえないことなので、そういったものが築かれたということは、ある意味奇跡なのかもしれません