■戦時中の女スパイの存在は「幽霊」だったのかもしれません


■オススメ度

 

平城時代のソウルのスパイ映画に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.11.21(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:유령(幽霊)、英題:Phantom

情報2023年、韓国、133分、G

ジャンル:朝鮮総督府の転覆を狙うスパイの暗躍を描いたスリラー映画

 

監督脚本イ・ヘヨン

原作:マイジア/마이지아『豊盛/풍성』

 

キャスト:

ソル・ギョング/설경구(村山淳次:保安情報受信係、元軍人)

イ・ハニ/이하늬(パク・チャジョン:暗号記録係)

パク・ソダム/박소담(吉永佑璃子:政務総督直属秘書)

ソ・ヒョヌ/서현우(チョン・ウノ:暗号解読係長)

 

パク・ヘス/박해수(高原海人:スパイ捜索を任される新任の警護隊長)

 

キム・ドンヒ/김동희(イ・ベクホ:パク・チャギョンの弟)

 

キム・ジュンヒ/김중희(佐久間タダシ:淳次の後輩、高原の部下)

 

コ・インボム/고인범山形トグジ:陸軍大尉、大将)

チョ・ハソク/조하석(山田次郎:軍隊長、信任総督)

ソ・ジンウォン/서진원(石丸マサシ:行政士官長)

ユン・テイン/윤태인(大山アキヒロ:凶悪な兵士)

ユ・ギョンフン/유경훈(倉田サトシ:若い兵士)

 

チャヘ/차희(修道女)

チョン・ダソム/정다솜(ヨンヒ:修道院の少女)

 

ハン・ウヨル/한우열( イ・ソンハ:黒色団のメンバー)

ユン・ジョンソブ/윤정섭(パク・サンソプ:黒色団のメンバー)

ソン・ギョンピョ/손경표(キム・ヨンホ:黒色団のメンバー)

キム・ヨンテク/김영택(チェ・ギョンス:黒色団のメンバー)

 

BIBI/비비(綾波:政務長官の新人秘書)

クォン・ジウ/권지우(陸軍大尉の軍医)

パク・ガヨン/박가영(朝鮮神社の女性シャーマン)

ジン・アリム/진아림(朝鮮神社の女性シャーマン)

 

ハン・ヘス/한혜수(総督の専属運転手)

キム・イウ/김리우(日本人運転手)

クム・セロク/금새록(チャンファ/ホンリョン:ポスターの女)

コン・テユ(ラジオアンカー)

 

ミシュカ/미슈까(はなちゃん:チョン・ウノの愛猫)

 

キム・ヘオク/김혜옥(淳次の母)

 

エソム/이솜(ユン・ナニョン:巫女に扮する黒色団のスパイ)

 

キム・ジョンス/김종수(ウダン:ゴールデンホールの映写技師)

イ・ジュヨン/이주영(イ・ヨンジュ:ゴールデンホールのチケット係、黒色団の支援者)

パク・サンフン/박상훈(イ・ドンウ:イ・ヨンジュの弟)

 

白竜(陸軍大将/知事の声)

 


■映画の舞台

 

1933年、

日本統治下のソウル(京城)

黄金喫茶店

ハトホテル

 

ロケ地:

韓国のどこか

 


■簡単なあらすじ

 

1933年の韓国・平城(今のソウル)では、朝鮮総督府が置かれていたが、黒色団を名乗るテログループの暗躍に瀕していた

スパイ捜索を任された新任警護部長の高原海人は、容疑者として4人を指名し、海沿いに建つハトホテルに幽閉することになった

 

招かれたのは、保安部の情報受信係の村山淳次、暗号記録係のパク・チャジョン、総督直属の秘書佑璃子、暗号解読係のチョン・ウノの4人

高原は「この中の誰かを指名するか名乗り出よ」と言い、明朝までの猶予を与えた

 

黒色団はユリョン(幽霊)と呼ばれるスパイを各所に潜らせていて、新任総督の暗殺計画が危惧されていた

村山たちはそれぞれの部屋に通され、互いを監視し合うようになる

先の未遂事件にて緊迫感が高まる中、ある人物は幽閉を解くために動き出すのである

 

テーマ:独立のための犠牲

裏テーマ:血へのこだわりの愚かさ

 


■ひとこと感想

 

朝鮮総督府時代の韓国が舞台ということで、そこで独立を目論むテロ集団「黒色団」の暗躍を描いています

事前に調べることがしなかったのですが、予告編で大体ネタバレしている感じでしたね

誰がユリョンなのかというよりは、ユリョンを使って何を成し遂げようとしているのかが描かれていました

 

そのユリョン探しを任される警護班長を筆頭に、「日本人を韓国人が演じる」という内容になっていて、これは「誰が本当の日本人なのか」という疑心暗鬼を起こさせるための配役だったように思います

総督や知事の声は白竜が行なっているのですが、おそらくは彼に演じてもらいたかったのかなと思いました

 

映画は、集められた容疑者4人がそれぞれの思惑で動き、誰もがユリョンに見えなくもありません

でも、冒頭で暗号を伝達する段階でユリョンが登場しているので、ネタバレ状態で映画が動いていることになりますね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

結局のところ、ユリョンは複数人いて、劇中の二人以外にもたくさんのユリョンがいました

とは言え、誰かが死んだら補充するという感じで、同時に存在するのは2名までという感じになっています

 

映画は、パンフレットがなくて、人物相関を作るのに時間を要する内容になっていて、韓国語のサイトの解説文などので、何とか上記のキャスト欄を作っています

 

歴史背景などは個別に調べるとして、そこまで複雑な内容ではないと感じました

「韓国併合中」ということさえ理解していれば問題ないと思います

また、抗日映画ではありますが、併合から独立を目指す内容なので、抗日なのが当たり前ですね

 

問題は、日本人を韓国人が演じて、韓国国内で何かしらの軋轢がないかを心配してしまうところでしょうか

日本の軍部にはモデルがいると思いますが、そこまで調べるのは無理ゲーのような気がします

 


歴史背景について

 

映画の時代は「日韓併合条約」後の、日本の植民地時代の韓国・ソウルが舞台となっています

当時は朝鮮総督府というものが敷かれ、それによって韓国は日本に統治されていました

これは1910年頃から始まり、1945年の第二次世界大戦終了によって終わっています

 

時代はロシア帝国の南下があり、日本の日清戦争勝利があった直後になります

1900年い義和団の乱に乗じたロシアの満州軍事占領が起こり、1902年の日英同盟を機に緊張が高まります

そして、1904年1月21日に、韓国政府は局外中立を宣言するのですが、日本は「大韓帝国の独立と領土保全及び皇室の安全を保障する代わりに、韓国領土内における日本軍の行動の自由と軍略上必須な土地の収用を韓国に了承させる」ことになりました

8月22日には「第一次日韓協約」を締結し、韓国国内への影響力を強めていきます

 

1904年に日露戦争が開戦し、この際に韓国国民は「ロシアの排除と日本の勝利を支持していた」ので、政府と国民の間に溝ができることになります

イギリスは戦後の韓国に関して、「日清戦争後に独立した韓国には政治家に統治能力がない」と判断し、「独立維持は困難」という見方を強めます

これの動きを受けて、「第二次日英同盟」にて、「日本が韓国を保護国にすること」が承認されることになりました

また、1905年にはアメリカとのフィリピン支配権に関する「桂・タフト協定」にて、日英同盟を踏まえた内容というものが盛り込まれることになりました

 

これによって、「大日本帝国は、アメリカ合衆国の植民地となっているフィリピンに対して野心はない」「極東の平和は大日本帝国、アメリカ合衆国、イギリス連合王国による事実上の同盟によって守られるべきである」「アメリカ合衆国は、大日本帝国の韓国における指導的地位を認める」というものが確認されることになりました

ロシアは日露戦争の講和条約(ポーツマス条約)によって、韓国に対する日本の優越権を認めることになります

そして、1905年4月8日に、第一次桂太郎内閣は「韓国保護権確立の件」を閣議決定し、11月には「第二次日韓協約」が締結されました

これによって、12月に韓国軍の指揮権を有する行政府として総督府が設置され、伊藤博文が初代総監に就任することになりました

 


独立運動の変遷

 

その後、1909年に伊藤博文が暗殺され、これによって軍閥の力が増強するに至ります

朝鮮半島統治でも、これまでは文官が務めていたものが武官にとって代わり、武断政治が行われるようになります

そして、1910年に「併合後の韓国に対する施政方針」が閣議決定され、8月6日には韓国首相の李完用に併合受諾が求められ、条約締結の全権委員に任命されることになりました

そして、19001年8月22日に、韓国併合条約が調印され、29日より併合へと至ることになりました

 

総督府は、新たに戸籍制度を導入し、姓を持つことを許されなかった奴婢、白丁などの賎民にも「身分の記載なしに登録」というものが行われていきます

また、土地調査事業に基づく測量が行われ、土地の所有権というものを確定するに至ります

これによって、法的な登記が安定し、水防工事や金融組合の設立、水利組合なども作ったことにより、これで裕福になった朝鮮農民は総督府と良好な関係を作るに至りました

1911年に、総督府は「第一次教育令」を公布し、朝鮮語を必修項目とし、ハングルを学ぶことになります

これによって、朝鮮人の識字率は1910年で10%だったものが、1943年では22%に上昇したとされています

 

無論、これらの方策に朝鮮人が全て許容してきたわけではなく、先の伊藤博文の暗殺事件なども含めて、「義兵闘争(国権回復運動)」というものが続いてきました

これらの義兵戦争は暴徒側で14500名、の死傷者が出ていて、憲兵警察隊の死者は日本人127名、朝鮮人52名という記録もあります

この義兵の1人である安重根はハルビン駅にて伊藤博文を暗殺しているが、日本側では単なるテロリストとして扱われています

韓国では「抗日義兵戦争」の英雄とされていて、「衛正斥邪」の思想のもと、保護国だった日本に対して、朝鮮の危機として立ち上がった義兵の戦いを鼓舞するようにもなっていました

 

この「衛正斥邪」は、朱子学を正統として守り、西欧や日本の侵略を排除しようとする思想のことで、義兵闘争の思想的根拠となっています

第三次日韓協約にまで至った背景にて、激しい義兵闘争が起こり、映画で描かれているのも、その一環の行動であると考えられます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、前半ミステリー、後半スパイアクションの構成になっていて、ユリョン探しは意外なほどあっさりとしたものになっていました

前半にて、村山が自分がユリョンだと言い出して場が混乱するのですが、それぞれが「解放されるにはどうするか」という苦肉の策で突っ走っていたところがありました

解読係のウノが帰りたい理由がまさかの愛猫ハナちゃんというところは笑って良いのか悩みます

 

映画は、抗日色全開で、時代背景を考えれば当たり前の価値観です

太平洋戦争時の映画で「鬼畜米英」にて、アメリカに抗う日本人の特攻と同じような感じになっていて、当時の朝鮮人が侵略者に抗おうとするのは普通の感覚なのですね

なので、敵を日本に定めるシナリオを作るなら、無理な改変をするよりは、事実ベースでその時代を選択する方が良いと思います

 

抗日プロパガンダの映画を作ろうとしても、歴史観の捏造問題で揶揄されてきた歴史があり、それは日本の戦争美化も同じようなテイストであると思います

要は、現時点の国際情勢とかを鑑みて、その思想誘導を目論む先に何があるのかが問題なのだと思います

映画では、日本人を倒す朝鮮人というわかりやすい構図を作り、そこで活躍するのが女性という特徴があって、これは従来の韓国映画ではあまり観ないテイストだったと思います

家父長制や儒教が色濃く残っている価値観の中で、女スパイがマシンガンぶっ放して歴史を変える話は、ちょっと斬新に映りました

 

これまでにも『悪女(2017年)』とか『魔女(2018年)』シリーズのような猟奇的なハイパワーの女性というものも登場してきましたが、このような動きは2015年くらいからだと思います

KPOPでもスタイル抜群でキュートな女性が席巻しているので、その流れが映画業界にも来ているのはすごいですね

もしかしたら、新しいステージに入ってきたのかなと思ってしまいました

特に戦時中が舞台で女性が活躍する映画というのは稀なことだと思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://klockworx-asia.com/phantom/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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