■もし、出産と同時に成人というPODができれば、世界はどう変わっていくのだろうか
Contents
■オススメ度
近未来SFが好きな人(★★★)
女性の出産問題に関心がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.12.5(京都シネマ)
■映画情報
原題:The Pod Generation(POD世代)
情報:2023年、ベルギー&フランス&イギリス、109分、G
ジャンル:体外妊娠が可能となった未来における夫婦の選択を描いた近未来SF映画
監督&脚本:ソフィー・バーセス
キャスト:
エミリア・クラーク/Emilia Clarke(レイチェル・ノヴィ:ハイテク企業「Fulio」の幹部社員)
キウェテル・イジョフォー/Chiwetel Ejiofor(アルヴィ・ノヴィ:植物学者、レイチェルの夫)
ヴィネット・ロビンソン/Vinette Robinson(アリス:レイチェルの友人、同僚)
Jelle De Beule(ベン:アリスの夫)
ロザリー・クレイグ/Rosalie Craig(リンダ・ウォツェック:「Womb Center(子宮センター)」所長)
【「Fulio」関連(レイチェルの同僚)】
Aslin Farrell(PODを勧めるレイチェルの上司)
Veerle Dejaeger(幹部)
Lamara Strijdhaftig(幹部)
Emma De Poot(幹部)
Kyoung Her(幹部)
Karel Van Cutsem(幹部)
David Beelen(幹部)
Bernard Gallant(幹部)
【アルヴィの生徒】
Benedict Landsbert-Noon(ジョシュ:イチジクを食べる生徒)
Padraig Turley(レオ:イチジクを拒否する生徒)
Paul Kiza Amani
Leonard Santos
Loreanne Asratian
Malaika Wilson
Anoushka van Keulen
Nathalie Opare
Ramy Moharam Fouad
Francis Connelly
Joy Verberk
Maya Chinnery
【親類・交友関係】
James Gentile(レイチェルの父)
Mylène d’Anjou(レイチェルの母)
Jade Wheeler(アンナ:レイチェルとアリスの友人)
Matthijs van de Sande Bakhuyzen(ピーター:レイチェルとアリスの友人)
Michelle Sertz Scully(ヴェラ:レイチェルとアリスの友人)
Jennifer Schmidt Ferreira(ヴァレリー:レイチェルとアリスの友人)
【「子宮センター(Womb Center)」関連】
Jean-Marc Barr(ペガサス創設者)
Rosalie Craig(ディレクター)
Ella Holland(スタッフ)
Jennifer Heylen(「Early Childhood Center 」の美術教師)
Kelly Huysmans(スウェーデン人の母、見学者)
Matthieu Sys(見学者)
Sarah Gallagher(見学者)
Abigail Abraham(見学者)
Bowy Goudkamp(見学者)
Heidi Dechief(見学者)
Jord Knotter(見学者)
Andres Emedan(見学者)
Isis Caljé(看護師)
Audrey Muller(看護師)
Quin Vermeersch(看護師)
Isabel Palomar(看護師)
Anne-Marie Agbodji(愛想の良い看護師)
Leonoor Koster(Podを抱く母)
Gina Dos Santos(Podを抱く母)
【その他】
Ashley Johnson(「Breathing Bar(街角の吸入場所)」のホステス)
Troy Scully(創設者へのインタビュアー)
Ken Samuels(スティーヴン:アルヴィの大学の大学長)
Prudence Leroy(ジムの妊婦)
Kathryn Hunter(郵便局員)
Alix Dunmore(AIイライザの声:レイチェルのセラピスト)
Megan Maczko(AIエレナの声:レイチェルのアシスタントAI)
Eliza Butterworth(AIマーシャの声)
Rita Bernard-Shaw(AIレベッカの声)
Elke Shari Van Den Broeck(アイヴィのタブレットのアシスタント)
■映画の舞台
アメリカ:ニューヨーク
ロケ地:
ベルギー:ブリュッセル
■簡単なあらすじ
AIアシスタントの開発をしているレイチェルは、ある日上司に呼ばれて「POD」を利用しないかと打診される
上司は有能な社員は働きながら家庭を持ってほしいと考えていて、体外妊娠と育成を一元管理する「子宮センター」の利用を促した
レイチェルには「自然」をこよなく愛する夫のアルヴィがいて、彼は自然との接点を常に持ちたがり、無機質なAIアシスタントには興味を示していない
無論、人口妊娠には拒否反応を示し、利用を考え始めているレイチェルと意見が合わずに衝突してしまう
だが、アルヴィは徐々にレイチェルへの理解を示し、そして「POD」を利用することになった
妊娠初期でも一喜一憂するレイチェルだったが、自宅への持ち込みができ、接することができるようになると、今度はアルヴィの方が執着を持ち始めてしまう
そして、出産を間近に控えた頃、2人は「あること」を考え始めるのである
テーマ:女性の解放
裏テーマ:自然と人工
■ひとこと感想
妊娠を人工的に管理して行うと言うSFチックな内容で、妻は乗り気で夫は消極的と言うわかりやすい構図になっていました
妻の方は仕事も有能で、キャリアもこどももと言う感じになっていて、いわゆる今風の話題になっています
映画では、体外受精から体外妊娠と言う流れを、民間の企業がサービスとして行なっているというものでした
映画は、近未来を思わせるAI中心の世界で、仕事をしながらウォーキングとか、街角で自然由来の空気を吸うみたいなサービスがあったりしました
「子宮センター」と呼ばれるものをレイチェルの会社が購入したことで優先権が与えられるのですが、出産していないので母乳は出ないし、育児も全てAI任せになるのかなと思ってしまいます
物語としては、女性の地位向上が背景にあり、出産から解放されることは良いことだと言う風潮を描きます
それでも、少子化への対策が必要となっていて、出産&育児を女性から切り離すにはどうするかという話になっていました
主人公たちの心情の逆転が既視感満載ですが、産まれた後に同じように愛情を保ち続けるのかは何とも言えない感じになっていましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ほぼ出オチのような感じになっていて、PODが自宅に来て、リアルにふれることができるようになってから、それまでは消極的だった夫が能動的になると言う感じに描かれています
「自然とは何か?」と言う禅問答をAIセラピストと繰り広げたりと面白い部分もありますが、深いようで浅い話だったように思えました
「キャリアのために」と言うことは、出産後も赤ん坊を直には育てないと言うことで、レイチェルの両親が面倒を見ないのならば、問題は解決していないのですね
「子宮センター」はあくまでも出産までを見てくれるわけで、産まれた後のことにはふれられていないのは片手落ちだと思います
実際に生まれるとなるとレイチェルの母性らしきものが生まれていて、それによって規約違反の出産にまでこぎつけています
これらの技術革新の裏側には「男性不要」で出産ができるとか、母体不要で育成ができると言う環境を整えているように思えます
それがAIの方策なのか、人間の考えなのかは読めませんが、あの方法だと「保存していた精子と卵子」でいくらでも再現が可能だったりします
何のために子どもを増やすのかというところはスルーされていて、女性だけでも女性なら作れると言うところに、深い闇を感じてしまいますね
■技術と思想の行く末
本作では、体外受精、対外妊娠が確立した世界になっていて、それをPODと呼ばれる形態可能な卵型機械によって行う世界になっています
卵型にしているのは愛着を持ちやすいためで、受精卵が出来上がり、スクスクと育っていく様子を観察することができます
現在でも体外受精などは行われていて、夫婦がその結実を実況で見るというところまでは行ってないのですが、望むのであれば可能なレベルにはあります
現在は体外受精した受精卵を何らかの母体に戻して育てるということになるのですが、それを機械でやってしまうおうという世界で、この技術が確立すれば社会は激変すると考えられます
このような技術は「ある需要」によって研究開発に多額の資金が投入され、それによって一般化するものですね
人類の歴史を振り返ると、「純粋な研究」というよりは、「軍事関連」にて、技術革新が進んでいくイメージがあります
無論、軍人関連だと「軍事力増強のための兵士づくり」となるのですが、この方向性よりは「無人機」の方がコスパが良いので、実際にはそのような研究には向かいづらいと思います
技術革新によって変わるのは「戦術」の方であり、昨今の戦争でも「無人機=ドローン開発」の方向に舵を切っているので、軍事力=軍人の数ではないという感じになっています
いかに無傷に効率的に敵を倒せるかというもので、体外受精&育成で人を増やしても、軍事力に使えるまでに何十年とかかるので効率的ではありません
このような技術が軍事以外で発達するとすれば、その障壁は「権利関係」であると思います
人権問題、特に女性の地位向上的な情勢と旧来の価値観の衝突は安易に想像できます
映画では、女性の社会進出と天秤にかけるかたちでWin-Winのような構造を用いています
幸福論は傍に置いていますが、あくまでも男性からの解放というものが根底にあるので、男性依存をしたい人以外には支持されそうな気がしないでもありません
健康面のリスクもほぼないので、このシステムの障害というのは「感情」の部分になるのかなと思いました
■少子化対策の必要性
巷では、少子化対策が待ったなしという風潮になっていますが、その多くが「経済的な縮小」に向かうことへの懸念となっています
働き手がなくなる=収入の発生が減る=税収が減るという構図になり、社会保障などが立ち行かなくなってしまいます
現役世代が年金を支えているという構造の崩壊を待つことなく、人口ピラミッドの変化というものがそれを加速させていくのですね
そのために、人口を増やすことを考えるのですが、今から対策を行なっても効果が出る頃にはさらに悪化していることが明白なので、対策を行うことへの本気度というものが伴ってきません
少子化になれば困るのは現役世代ですが、人間には適応能力というものがあるので、これまでに得ていた世代が喪失に対応できなくても、元々ないものと考えられる現役世代は強かったりします
なので、この中間層にいる「今から対象となる人」が一番割を食っていることになります
彼らが政治に関心を持って、渦中の世代を救うための支持をしても、過渡期という変化を避けては通れません
この世代に対する保障をしていく中でズルズルと停滞しているのが日本なのですが、この渦中世代が一気に切り捨てられる時代が来るというのが見えている未来ではないでしょうか
そのために何をするかというのも時間がなく、個人的な見立てだと、この世代の動きいかんによっては、安楽死関連の諸事情が一気に動かざるを得なくなるのかなと懸念しています
少子化も高齢化もどちらも止められません
移民などで対応しようとしても、全世界で起こっていることなので、貧困国は見向きもされないのが現実でしょう
機械化なども進んではいくものの、需要が細ればそれも意味を為さなくなってしまいます
需要の先細りに対応することが命題であり、それが需要の回復に寄与するものでないと、未来が明るくなることはないでしょう
そう言った意味において、本作のような「未来の需要を生む現在の需要拡大」というものは意味があるように思えてきます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の面白いところは、最初に懐疑的になるアイヴィが変化していく過程で、従来の方法とは違い、自然に背いているものだとしても、愛着を持っていくことだと思います
PODが自宅に来たことで、その中に自分の赤ん坊がいると認識するわけですが、日々大きくなる妻のお腹というものではなくても、同じようなことが起こっていきます
これは、育成シミュレーションなどで、対象に愛着を持つのと同じような感じになっていて、自分の所有物であることを認知することで起こっているように思えました
人は不思議なもので、所有権を得たものに愛着を持ってしまうのですが、この愛着が消えるのも些細なことだったりします
現実の赤ん坊でも、父親が自分ではないと懐疑的になる要素があれば覚めていくのと同じなのですね
愛着を裏切る決定的な要素の出現というものは、それまでに注いだものを一瞬にして無意味にしてしまい、その回復は容易なものではありません
最終的には「一度愛着を持った義務感」というものが発生するのですが、これまでの異常なまでの愛着とは違う種類の感情で対応していると考えるのが自然だと言えます
映画でこの感情のシフトが起こるとするならば、「自分の精子ではなかった」というものですが、それを保証するものは実のところ何もありません
子宮センターへの信頼だけで成り立っていて、それが揺らぐようなことが起きるまでは安泰であると言えます
ラストでは、ペガサスの創始者が「出産」に関する興味深いセリフを残しますが、映画内の設定でもあるように「精子と卵子があればOK」というものなので、提供されたものの廃棄分を廃棄せずに自由に組み合わせることで、認知されない子どもというものを大量に生み出すことができます
映画では、出産後の「教育」についての言及はありませんが、PODから出るタイミングを遅らせて「成人するまでPODの中にいる」とか、胎教という名の洗脳を効率よく行なっていくことができれば、何かしらの楽園を作ることは可能かもしれません
そう言った人種というものが、「POD肯定派」のシェアを広げていくことになるので、政治的な部分においても、大きなうねりを生み出すこともできるようになるかもしれません
物理的な子育てに対する労力を極限まで高めれば、出産と同時に就業ということも可能なので、そう言った未来というものがSF的には可能なのかな、と思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://pod-generation.jp/