■約束の地には、自分が生きるべき世界の地図が隠されていた
Contents
■オススメ度
東北の大自然を堪能したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.7.11(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、89分、G
ジャンル:行政から禁止された熊狩りを行う若きマタギを描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:飯島将史
原作:飯嶋和一『汝ふたたび故郷へ帰れず(小学館:Kindle版)』に所収→ https://amzn.to/3ztJDWQ
キャスト:
杉田雷麟(信行:高卒で親の仕事を手伝う20歳、養鶏場)
寛一郎(礼二郎:マタギの青年、信行の兄貴分)
三浦誠己(信行の親父、マタギ衆の一人)
占部房子(信行の母)
渋川清彦(田島:マタギ衆の一人)
小林薫(下山:マタギ衆のリーダー)
■映画の舞台
日本:東北地方
ロケ地:
山形県:鶴岡市
大鳥 繁岡集落
https://maps.app.goo.gl/62AbLH1YTt1E6WzD8?g_st=ic
大鳥 寿岡集落
https://maps.app.goo.gl/m2Y6YYvxYXZNGxyB9?g_st=ic
大鳥 松ヶ崎集落
https://maps.app.goo.gl/bb233NgDUAi3frt69?g_st=ic
■簡単なあらすじ
マタギとして、熊狩を行ってきた礼二郎は、村が下した狩猟禁止に憤りを見せていた
リーダーの下山は制するものの、礼二郎は弟分の信行を連れて、雪山に入ることになった
壮大な自然と向き合いながら、熊を探す2人だったが、今では年に1頭駆除するかどうかの世界で、これが最後の狩りになるのではないかと考えていた
秘密裏に山に潜った2人は、変わりゆく時代と変わらないしきたりの中で踠きながら、その時を待っていた
テーマ:マタギの生きる道
裏テーマ:青年の生き残る道
■ひとこと感想
逮捕上等で狩りに出かける青年2人を描いた作品で、良くも悪くも、一行で終わる物語を濃密に描いている作品だったと思います
山に入ったこともなければ、野生の動物を目撃したこともほとんどない都会っ子なので、彼らが置かれている立場というものはあまり馴染みがありません
いわゆる伝統的な仕事が消えゆく運命にあるというものなのですが、その背景には変化する人間社会と、野生動物との関係性があるのだと言えます
動物愛護団体の声だけを取り上げて、熊を保護すべきみたいな論調はありますが、地元に住んでみて、いつ熊が身の回りに出て来るのかわからない環境に住んでから言えと思ってしまいますね
その土地には生き残るためのルールがあり、そこに過剰な殺生をしないという暗黙知があります
そう言ったものを蔑ろにする議論はナンセンスで、それでも変わっていくものに抗えない現実があるのかな、と感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ネタバレというものはほとんどなく、一歩間違えれば、熊狩りのドキュメンタリーのような感じになっていました
狩猟シーンはあっさりしたもので、その後どうするかというところに哲学があったように思います
熊の亡骸を土に埋めてなかったことにするのか、マタギとしてやるべきことをやり切るのかという二択になっていましたね
礼二郎はマタギとして生きていくことを決めていて、そこには駆除すべき熊に対する畏敬の念を持ち合わせています
ある意味、そう言った所作を見る映画になっていて、そこに溶け込んでいる2人の俳優は改めて凄いのだなと思わせてくれます
脇を固める俳優陣も渋いので、会話以外から汲み取られるものがたくさんある映画だったように思いました
とは言え、ヒーリング効果も絶大なので、集中できない場合は、あっさりと睡眠の世界に持っていかれそうな危うさがあったように思いました
■マタギとは何か
マタギとは、日本の東北地方・北海道から、北関東、甲信越にかけての山間部や山岳地帯にて、伝統的な方法を用いて集団で狩猟を行う人たちのことを言います
現代では、マタギ郷の土地に生まれ、猟銃を使う猟師を指す言葉になっていて、獲物は主に熊だとされています
その他にも、カモシカ、ニホンザル、ウサギなどを獲物とすることもあります
マタギの語源には諸説あって、漢字を当てると「又鬼」「叉鬼」と表記するとのこと
また、東北地方で狩人を意味する「山立」が訛ってマタギとなったとか、シナノキ(マタ)の木の皮を剥ぐために入山する人と言う説(菅江真澄説)、アイヌ語で「冬の人」を意味する「マタンギ」「マタンギトノ」が訛ったとも言われています
「鬼」の漢字が当てられているのは、執念深く獲物を追う姿や、熊さえ撃ち殺す強さなどの説があります
映画では、主人公の礼二郎はマタギであることに誇りを持っていて、行政の停止命令に納得ができずに単独で山に入ることになりました
彼のセリフで、年に1頭も撃たないと言う言葉があり、その需要というものが減っていることに懸念している様子もありました
ニュースなどでは稀に熊が出没するというニュースを聞きますが、場所によってはそう言った機会が激減したところもあるのかなと思いました
ちなみに、時代によって使用する銃が変わり、どんどん高性能になっていったと言われています
元々は火縄銃だったものが、戦後は陸軍払い下げの村田銃、さらにスコープ付きのライフルなどが使われるようになりました
それゆえに「集団で役割分担をしてきたマタギ本体の姿」というものも変わってしまい、それはまたぎが衰退する理由になっているともされています
映画では、高性能スコープ付きライフルは登場しませんが、リスクヘッジを考えると、使用武器が高性能なものに変わるのは必然かなとも思います
■彼らが大切にする概念とは
映画にて、漁を終えた礼二郎と信行は、獲物の御霊を慰める儀式などを行なっていました
その後、皮絶ちの儀式、獲物を授けてくれた山の神に感謝する儀式などを執り行っていきます
これらの儀式は「修験道」に由来するものとなっていて、シカリと呼ばれる頭領が主催者となって執り行われていきます
この際に唱えられる呪文は、シカリを継ぐ者に対し、先代のシカリから師質相承という形で受け継がれていきます
「修験道」とは、古代の日本において、山岳信仰に仏教や密教、道教などの要素が混ざりながら成立したものとされています
日本独自の宗教・信仰形態であり、山に籠って厳しい修行をすることで悟りを開くことを目的としています
修験道を行う人を「修験者」「山伏」と言い、修験道のはじまりの地・葛城山には「葛城二十八宿」というものがあります
ちなみに、またぎには狩の作法を示す秘巻があって、これを「山立根本之巻(山立根本巻)」「山立根本由来之事(山立由来記)」と呼びます
マタギには流派があるとのことで、日光派と高野派というものがあって、「山立根本巻」は日光山縁起をもとに日光派が秘伝書として取り扱ってきたものとされています
「山立由来記」は高野派が高野山海山に関係して作成され、弘法大師から獣に対する引導としての秘巻が与えられたものとされています
東北地方は日光派が多かったとして、「山立根本巻」が伝えられているとされています
礼二郎たちがどちらの派だったかまでは覚えていませんが、場所を考えると日光派だったかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、マタギに信念を持っている礼二郎と、実家のしきたりが嫌な信行がタッグを組むという流れになっています
田舎の慣習に肯定的な礼二郎と否定的な信行なのですが、自然に対する崇高な念と敬意は持ち合わせていたように思います
アイデンティティを自然に求める礼二郎と、別の場所に何かあるのではないかと考える信行
おそらくはどちらも間違いではなく、深層心理の自分との対話によって、方向性が決まるものだと思います
それぞれが生きていく上で感じるものというのは、対象の本質に向かい合った時に見えてくるもので、それは同時に自分の生き方をしっかりと熟考している時とも言えます
生き方そのものが惰性的で指示受容型だと起こらないもので、何かしらの感覚的な反発が起こった時には、それに従うのもありだと思います
また、信行のように「揺らぎの状態」である場合は、その時に派生する対外的な出来事に身を委ねるのもありだと思います
映画では、礼二郎の狩りに付き合うという対外的な出来事があり、その経験というのは「揺らぎ」自身を明確な方向に持っていくことになると言えます
映画は、狩りを隠蔽しようとする大人との衝突を描き、礼次郎は自然にも法にも従順である様子が描かれていました
彼のアイデンティティがそうさせていて、それは若さゆえの事のように思います
彼が法で裁かれることは、マタギの未来にも関係してくるものであり、それを訴求する意味合いがあったように思います
それを考えると、自身の行動に責任と誇りを持つという生き方は美しいものなのだなと再確認できますね
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/98557/review/04025880/
公式HP:
https://www.promisedland-movie.jp/