■搾取構造の暴露と解決としては物足りないが、わちゃわちゃ感があって楽しい映画でしたね
Contents
■オススメ度
海女さん密輸映画に興味を持てる人(★★★)
70年代の韓国のファッション&音楽に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.7.12(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:밀수(密輸)、英題:Smugglers(密輸業者)
情報:2023年、韓国、129分、G
ジャンル:生活の困窮から密輸ビジネスに足を突っ込む海女さんたちを描いたクライムムービー
監督:リュ・スンワン
脚本:リュ・スンワン&キム・ジョンヨン&チェ・チャウォン
キャスト:
キム・ヘス/김혜수(チョ・チュンジャ:密輸を持ちかける女、元家政婦の海女)
ヨム・ジョンア/염정아(オム・ジンスク:海女のリーダー)
チョ・インソン/조인성(クォン軍曹:密輸王、実業家で元軍人)
チョン・ドウォン/정도원(片目の男:クォンの右腕)
ユン・テス/윤태수(クォンの部下)
チェ・ジョンウォン/최종원(オム船長:ジンスクの父、海女たちのリーダー)
オム・ギョンドク/김경덕(オム・ジング:ジンスクの弟、漁船乗組員)
パク・ジョンミン/박정민(チャン・ドリ:チュンジャとジンスクの補佐係→地元の密輸のまとめ役)
キム・ジェファ/김재화(豚ママ:ジンスクの仲間の海女)
パク・ジュンミョン/박준면(ヤン・グムネ:ジンスクの仲間の海女)
パク・キョンへ/박경혜(トクスン:ジンスクの仲間の海女、足首捻挫)
チュ・ボビ/주보비(オク・チョクイ:夫を支える海女、サメに襲われる)
シン・サムボン/신삼봉(片腕を失っているオク・チョクイの夫)
パク・ジユル/박지율(オク・チョクイの子ども)
ホン・セミン/홍세민(オク・チョクイの子ども)
シン・ハソ/송하소(オク・チョクイの子ども)
キム・ジョンス/김종수(イ・ジャンチュン:税関の係長)
アン・セホ/안세호(キム・スボク:税関職員、ジャンチュンの部下)
コ・ミンシ/고민시(ゴ・オップン:明洞の喫茶店のオーナー、人脈通)
クァク・ジンソク/곽진석(フック:チャンドリの部下、片手を失ってフックの義手をしている男)
シン・ミンジェ/신민재(ホットパンツ:ドリの手下)
キム・チュンギル/김충길(バカ:ドリの手下)
イ・ジョンス/이정수(甘党:ドリの手下)
キム・ウォンへ/김원해(密輸を持ちかけるブローカー)
ユン・ビョンヒ/윤병희(西海岸ギャングのボス)
キム・ギチョン/김기천(キム船長:オム船長の仕事仲間)
ジンギョン/진경(ローラ社長、輸入品業者)
シン・ウヒ/신우희(ローラのスタッフ)
ソン・ウォンス/송원수(衣料品の買い手)
ユ・ヒョンジョン/유현종(衣料品の買い手)
キム・ソユン/김소윤(ローラのスタッフ)
チャン・ジョンヨン/김환영(ローラののスタッフ)
ペク・アヒョン/백아형(ローラののスタッフ)
ヨン・ハジュン/연하정(ローラのスタッフ)
ユン・ジョング/윤종구(税関職員)
シン・ヨンオク/신영옥(税関職員)
ホン・ソンオ/홍성오(税関職員)
キム・ジュンシク/김준식(税関職員)
イ・サンヒ/이상희(電気屋)
ク・ボンウン/구본웅(マスタング:ムーンスター)
ペク・ジュヒ/백주희(サマーズ:ソムリエ)
チョン・ヒョンスク/전현숙(ディーンの妻)
イ・ソンヒ/이선희(大佐の妻)
イ・ジニ/이진희(議員の妻)
ユン・デヨル/윤대열(ボードゲーム)
イ・テヒョン/이태형(チャーリー・チョン:精神科の医師)
ペク・スンチョル/백승철(洗濯係の船員)
チョン・ジェウォン/정재원(家を訪問する船員)
チャン・ギハ/장기하(モルドのヒップな男)
ユン・ギョンホ/윤경호(主任調査員)
シム・ソヨン/심소영(海女)
チョン・スンミ/정순미(海女)
カン・ジエ/강지애(海女)
ペク・ソナ/백선아(海女)
イ・チャンソン/이창선(海女)
ヤン・グォンソク/양권석(密輸業者)
チェ・ウジュン/최우준(密輸業者)
ユン・ソンス/윤성수(密輸業者)
パク・シネ/박신혜(密輸業者)
シン・ヒョンヨン/신현용(西海岸のギャング)
パク・セギ/박세기(西海岸のギャング)
ハン・ドンヒ/한동희(西海岸のギャング)
キム・ミン/김민(西海岸のギャング)
ペク・ジヌク/백진욱(西海岸のギャング)
チュ・グァンヒョン/주광현(西海岸のギャング)
クォン・ユング/권윤구(西海岸のギャング)
イ・ドグン/이도군(西海岸のギャング)
チョ・スング/조승구(西海岸のギャング)
チェ・スンヘ/채승혜(喫茶店のウェイトレス)
チョン・ヒョジン/전효진(喫茶店のウェイトレス)
チョン・ユンジ/정윤지(喫茶店のウェイトレス)
ソン・ヨンオク/손영옥(喫茶店の厨房のおばさん)
シン・ミンス/신민수(牧師)
ハ・イリャン/하이량(ナイトクラブのバンドボーカル)
チョ・ウォンウク/조원욱(ナイトクラブのバンド)
キム・ドゥヒョン/김두현(ナイトクラブのバンド)
キム・グァンドゥク/김광득(ナイトクラブのバンド)
チャン・ヨンジュン/장용준(ナイトクラブのバンド)
チョン・ウヨン/정우영(ナイトクラブのウェイター)
クォン・オチョル/권오철(ナイトクラブのウェイター)
Brain M. Yan Heiss(アメリカ軍の将校)
イ・ヒョング/이형구(チョン刑事)
■映画の舞台
1970年代、
韓国:西海岸の漁村・群川(架空)
クンチョン港
ロケ地:
韓国のどこか
■簡単なあらすじ
海岸沿いに化学工場ができたために漁獲量が激減した海女たちは、ある日、密輸業者から海底に沈ませているブツを引き上げてほしいと依頼を受ける
オム船長は1度きりということで話を引き受けるものの、それは繰り返し行われることになってしまった
ブツの中身は徐々にエスカレートし、ある時の仕事にて、中身が金塊であることがわかる
そして、それと同時に税関による捜査が行われ、それに加担した海女たちは、ただ1人を除いて捕まってしまった
海女のリーダーのジンソクは獄中で過ごし、捕まらなかったチュンジャが密告したと考えていた
服役を終えて現場に戻るものの、相変わらずまともな仕事もなく、漁業も下火になっていた
漁船時代の補佐役だったチャン・ドリは裏稼業で成功を収め、ジンソクたちはドリの下請けとして、安い賃金で密輸品の引き上げなどを行っていく
そんな折、羽振りの良さそうな格好をしたチュンジャが町に帰ってきたという噂が流れた
チュンジャは釜山にて密輸品の裏売買を行っていたが、それが地元のマフィアの縄張りを荒らしていた
釜山を仕切るクォン軍曹に補償を迫られたチュンジャは、やむなくクンチョン港で、密輸品の引き上げができると嘯くのであった
テーマ:強欲の成れの果て
裏テーマ:環境破壊と海女の実情
■ひとこと感想
70年代の韓国を舞台にして、海洋汚染で仕事がなくなった海女たちが犯罪に加担する様子が描かれていました
サメが出る海域と近い場所にあり、税関も目を光らせているのですが、それらのやりとりもどこかコメディっぽさが多かったように思います
冒頭の密輸であっさりと逮捕されるのですが、その展開の速さに驚いてしまいましたね
その後、そこから難を逃れたチュンジャが裏切り者のように恨まれていて、彼女が港に厄介ごとを持ってくるという内容になっていました
どことなくコメディなのですが、サメに襲われるシーンは臨場感ありますし、後半のマフィアVSギャングの壮絶な戦いも迫力がありました
物語としてはかなり捻った感じになっていますが、服役が終わってからの日常パートをしっかりと見ておけば、最後のカラクリがわかるようになっています
ちょっと時系列が入り乱れるタイプの作品ですが、そこまで混乱することはありません
パンフレットにはさらっとした感じの犯罪の流れが書かれているので、それで脳内補完はできると思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
密輸業者の実態を暴いているのか、実際の出来事がモチーフになっているのかは微妙な感じですが、やけにリアルな感じに描かれていましたね
密輸業者と税関の思惑が一致して、こいつらが本物のワルという感じに結ばれますが、ネタバレが展開されてもスッと入ってくる感じではありませんでした
とは言え、騙し合いの末に誰が勝ち残ったのかというのはわかるので、そこまで気にしなくても良いのかもしれません
韓国特有の先輩などを「兄さん」「姉さん」と呼ぶセリフ回しになっているので、誰と誰が家族なのかは結構わかりづらいところがありました
人物相関はチュンジャを中心に描くとわかりやすく、主要なキャラは20人前後で、あとはモブという感じになっています
モブっぽいキャラにも役名があるのですが、彼らは名前を呼ばないので、適当な日本語訳のコードネームみたいなもので置き換えるしかなかったですね
海女仲間の主要な人物や、中盤からのドリの仲間を役名だけで判別するのはほぼ不可能な感じになっていると思いました
■韓国の海女事情
韓国における海女(해녀)は、主に済州島、釜山および南海沿岸などの地域で、潜水して海産物を採取する女性のことを言います
韓国で海女といえば済州島というほどですが、南海沿岸や東海沿岸の水深が深い漁村にもたくさん存在します
映画は架空の村になっていますが、場所は西海沿岸となっていました
済州島は冬でもある程度温かい水温のために潜れますが、東海沿岸は秋が過ぎると水温が急激に低下するために難しいとされています
これらの地域には、済州島出身が移住したケースも多く、釜山などでは済州の方言を聞くことができると言います
海女といえば女性ですが、男性のダイバーがいないわけではないのですが、その後の歴史によって、女性専任になっていたとされています
ちなみに、海女には階級があって、上軍、中軍、下軍と分けられているとのこと
上軍は一度潜水したら2分ほど海の中に潜れる人で、水深15m以上の海で作業ができると言います
中軍は水深8m〜10m、下軍は5〜7mほどで作業をします
水深が深いほど良い海産物を採取できると言われています
済州島の海女の賃金は低く悪条件で、1920年には「済州島海女漁業組合」というものが結成されます
それでも海女の労働条件は改善されず、1930年からストライキが始まります
そして、1932年に済州島海女抗日闘争」というものが始まりました
12000人もの海女たちによる200回にも及ぶデモが行われたとされています
海女の移動の制限はなく、1945年までは自由に動けましたが、戦後は制限がかかるようになり、密航が増加することになります
1989年に海女の海外渡航自由化というものがなされるまでは韓国国内からは出られなかったと言います
現在の海女は、済州島でおよそ5000人、そのうちの約4割が70歳を超えていて、30代以下は10人程度しかいないとされています
2007年には、海女博物館日韓国際学術会議というものが開催されました
その後も交流は続き、「海女フォーラム」なども行われています
■勝手にスクリプトドクター
本作は、海女が密輸に関わる過程を描き、その中で地元と釜山のワルが衝突するという流れになっていました
そこまで難しい話ではないものの、人物が入り乱れすぎて、急展開が多過ぎるように思います
さらに税関との癒着なども仄めかれる結果になっていますが、それらの関わりなどもわかりにくいところが多かったように思います
映画は、最初の方の密輸でジンスクの弟が亡くなり、父親も仕事を追われることになりました
ジンスクたちは逮捕されて刑務所に行きますが、ドリは何故か無罪放免で、チュンジャはうまく逃げることができています
この段階で、裏切り者がチュンジャだけに集中するのですが、ドリの方に疑惑の目が向けられないのは変だなあと思って見ていました
実際には密告者がドリだったわけで、この時から税関とドリの癒着があったことがわかります
その後、釜山に身を隠したチュンジャは密輸品の販売で地元のクォンの縄張りを荒らしたことで「交渉」を行うことになります
かつて、密輸の経験があったチュンジャはそれを申し出る格好になっていますが船もなければ人員もいない
そこで、ドリとクォンを対立させて巻き込むという構図になっていました
このあたりの流れがうまく行き過ぎるところもあって、展開ありきのシナリオのように思えました
基本的には群像劇となっていて、誰が一番巨悪なのかという物語なのですが、その巨悪の中に海女がいないことが問題のように思います
あくまでも、海女は男性社会の犠牲者であり、巻き込まれる側ということになりますが、これらの紛争を引き起こしているのも女性側の暗躍だったように見えます
なので、巻き込まれだけを強調するのなら、チュンジャが密輸を持ちかけるのではなく、どこからともなく情報を仕入れたクォンが密輸による海女大量逮捕の事件を知り、その中で逃亡した女チュンジャを見つける、という流れの方が良かったと思います
それから、彼女を無理やりジンスクたちのもとに行かせて、暴力的かつ経済的な追い込みによって、密輸せざるを得ない状況を生むことでしょう
最後の逆転劇は、ドリと税関、クォンの三竦み状態を利用して、海女たちが機転を効かせて嵌め込むというもので、それによって大団円に向かうシナリオの方がスッキリしたのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、かなり登場人物が多く、話も二転三転するので把握するのが結構大変な作品だったと思います
海女軍団も6人いたのですが、個性的なメンツの割には単独で見せ場があるという感じでもありませんでした
どことなく、この個性ある6人が策を講じてギャフンと言わせるという印象があったのですが、最後までモブで終わったのはもったいなかったように思います
また、クォンの右腕の眼帯の男も良いキャラだったので、あのような終わり方ではかわいそうに思えました
個人的には、ジンスクたちを嵌めたドリが痛い目に遭って、クォンに全てを奪われるという展開で、その功績をクォンが認めて対等の立場になるのかな、と思って見ていました
根底に女性蔑視と搾取構造が遭って、それを挽回するオチの方が清々しくて、ドリに関しては、もっと非業の死を遂げても良かったし、税関に関しては癒着構造を吊し上げられて、実は根深い問題として、密輸の黙認と甘い汁を吸っていたことが国全体の問題であるように大ごとになっても良かったと思います
また、彼らがクスねることになった金主の存在も不明瞭なので、実は某政治家の隠し資産だったとかでも良かったかもしれません
これ以上、設定とキャラを入れ込むとさらに意味がわからなくなってしまいそうではありますが、ここまで乱れていたら、さらに乱してもOKのように思いました
映画は、70年代のカルチャーを再発掘する流れを汲んでいて、懐古的なブームはどの国でも起こるのだなあと思ってしまいます
70年代の韓国のカルチャーはあまり日本に馴染みがない時期のことですが、意外と似通っているのかなと思ったりもします
それは、日本も韓国も欧米の影響を受けていた時期で、そうしたポップカルチャーが同時もしくは時間差的に影響を及ぼしているのでしょう
日本でリメイクするかはわかりませんが、もし実現したら、懐かしのサウンドとファッションの巻き戻しが起こって、一大ブームになるのかもしれないなあと思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101567/review/04028546/
公式HP: