■リアリティとフェイクの間には、どんな「思い」が挟まっているのだろうか
Contents
■オススメ度
実録再現系の映画に興味のある人(★★★)
スノーデン系の映画に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.11.28(京都シネマ)
■映画情報
原題:Reality
情報:2023年、アメリカ、82分、G
ジャンル:情報漏洩に関わった諜報局職員の職質を再現したクライムムービー
監督:ティナ・サッター
脚本:ティナ・サッター&ジェームズ・ポール・グラス
キャスト:
シドニー・スィーニー/Sydney Sweeney(リアリティ・ウィナー/Reality Winner:情報漏洩を疑われるNSA翻訳者)
ジョシュ・ハミルトン/Josh Hamilton(ジャスティン・ギャリック/Justin C. Garrick:リアリティを尋問するFBI捜査官)
マーチャント・デイヴィス/Marchánt Davis( ウォレス・タイラー/R. Wallace Taylor:ギャリックと同行するFBI捜査官)
ベニー・エレッジ/Benny Elledge(ジョー:指名不詳と表記されるFBI捜査官)
ジョン・ウェイ/John Way(FBI捜査官)
Kristoffer Brodeur(FBI捜査官)
Allan Anthony Smith(FBI捜査官)
Darby(ミッキー:リアリティの愛犬)
Arlo(ミーナ:リアリティの愛猫)
■映画の舞台
2017年5月9日、
アメリカ:メリーランド州
フォート・ミード/Fort Meade
https://maps.app.goo.gl/7FQjsG8t79PqdDHr5?g_st=ic
アメリカ:ジョージア州
オーガスタ/Augusta
https://maps.app.goo.gl/y5soDhAoKthJKCqY8?g_st=ic
ロケ地:
アメリカ:ニューヨーク
■簡単なあらすじ
2017年5月9日、オーガストに住むリアリティ・ウィナーの元に捜査令状を持つFBI捜査官が2名現れた
ギャレックとタイラーはリアリティの動向を注視しながらも、少しずつ距離を詰めていた
2015年から1年ほどNSAの下請け会社にて働いていたリアリティだったが、その際に「ロシアのハッカーによる2016年アメリカ大統領選挙介入の疑惑に関する報告書」というものが流出し、その容疑者として疑われているという
リアリティな青天の霹靂のような表情を見せるものの、ギャレックたちは有力な消費を抱えていて、彼女は未知なる組織と通じている内通者だと思われた
応援部隊が到着し、令状による家宅捜索がおこなれ、ようやく本題へと入るギャレック
普段は使用していない部屋に入り、そこでギャレックたちは令状を見せて、彼女が問われている罪について紐解いていく
それと同時に彼女の背景を情報と照らし合わせるようにして、言い逃れのできない状況を作り込んでいくのである
テーマ:真実の暴き方
裏テーマ:思想と衝動
■ひとこと感想
映画はFBIの捜査データ(音声)を完全再現しているというもので、脚本というものがあるのかはわかりません
書き起こされた言葉をそのままに再現しているので、その人物の個性的なところがリズムやタイミングで出ていると思います
とは言え、本題に入るまでに20分くらいかかっているし、尋問が始まるのが40分ぐらい経ってからというリアルは退屈に思えるかもしれません
物語はあってないようなもので、FBI捜査官の捜査とその裏付けのすり合わせを見ているような感覚になっていて、答えありきで進んで行くように思えます
なので、どのような過程で言い逃れを諦めるかという感じになっていますが、その辺りも淡白なように思えてきます
映画は、リアリティを演じたシドニー・スィーニーの演技を堪能するもので、彼女の中にある焦燥と正義感、不安定さというものを感じる内容になっています
とは言え、基本的に会話劇で室内ドラマなので、ほとんど絵作りが変わりようがないところがキツくも思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
この映画にネタバレがあるのかはわかりませんが、事件のことを全く知らない状態で観ると、「この女が本当に犯人なのか?」とか、「どうやって白状させるんだろう?」という視点になると思います
事件についての詳細を知っていると、事件を起こした人物の詳細を深掘りする感じになるのでしょうか
会話劇と言っても、シナリオのように洗練されたものではなく、無駄の多いリアルな会話になっています
なので、感嘆詞のような「つなぎ」が多いのも特徴で、その分かったるい感じがしましたね
油断すると睡魔に持っていかれる感じで、ちょっと集中して観ないと厳しいかもしれません
映画は、表情や間を含めたシドニー・スィーニーの演技を堪能するものですが、事前知識がないと彼女が何をして、どのような影響があったのかはわからない感じになっています
このあたりはパンフやウィキでも調べられるので、彼女の行動が賛否両論になっている理由も含めて、次の大統領選までに知っておいた方が良いかもしれません
■リアリティ・ウィナーについて
本作は、2017年に実際に起こった事件の「FBIの取り調べ」をそのまま映像化したものになっています
容疑者リアリティ・ウィナー(Reality Winner)は1991年生まれで、事件当時は25歳のNSA(国家安全保障局)通訳者でした
2018年に「2016年のアメリカ大統領選へのロシアの介入に関する報告書」を漏洩させた罪に問われていて、史上最長の懲役刑として5年3ヶ月の刑を言い渡されています
2017年6月3日に、軍事請負業者プルリバス・インターナショナル・コーポレーションに雇用されたリアリティは、NSAの翻訳者として働いていました
いわゆる下請け業者の契約社員という扱いで、諜報報告書を「The Intercept」というニュースサイトに漏洩しています
内容は「ロシアのハッカーが電子メールによるフィッシング作戦でアメリカの有権者登録名簿にアクセスしたこと」で、変更が加えられたかどうかは「不明」となっています
リアリティは、テキサス州で生まれ、キングスビルで育ちました
9.11の後、リアリティは父親と話し合って、アラビア語を学ぶことを決めます
その後、2010年から2016年までアメリカ空軍に所属し、上級航空士の階級を所得しています
そして、メリーランド州のフォート・ミードに配属され、言語学者として働いていました
米軍に情報を提供するために会話を盗聴し、「空軍表彰メダル」を授与されるほどに貢献していました
2016年11月に空軍を名誉除隊したリアリティは、1ヶ月後にジョージア州のオーガスタに移り、クロスフィット・ジムとヨガ・スタジオで働き始めます
その後、NSAの子会社的な存在である会社に所属し、米国駐屯地のフォート・ゴードンにて勤務することになりました
彼女はかつての従軍にて、そこに駐屯していた過去を持っていたとされています
■取り調べ完全再現の意味
映画は、脚色がほぼ無しの「取り調べの完全再現」になっていますが、再現されているのは「会話と音」ということになっています
なので、立ち位置や距離感というものがどこまで再現されているかは分かりません
実際のFBIの取り調べ記録が映画内でも登場するのですが、脚本のようになっていません
あくまでも、録音された文字起こしを元にしているので、ある程度の「想像」が入っていると考えられます
とは言え、主たる目的は「会話の再現」であり、これは「FBIがどのように尋問するのか」を視覚化しているという意味合いが強いと思います
どのような感じで接触し、どのような会話の過程を経て本題に入るかなど、従来のイメージをアップデートするような内容になっていました
また、文字起こしから「当時の本人たちの感情」を再現しているところも凄く、実際にこうだったのでは?と思わせるだけの説得力があります
録音の声のトーンなどから感情は読み取れますが、それでもここまで再現するのは凄いことだと思います
個人的には、途中まで「これ、音ハメ?」と錯覚していた部分があって、本人の声をそのまま流して、それに演技を当てはめているのかと思いました
さすがに、この手法は限界があって、何らかの方法で音声を聞きながら演技をしても、ズレが生じてしまうと思います
でも、それぐらいのリアリティがあって、従来の脚本にはない「咳払い」などの「会話以外の音」というものまで再現していました
そこまでこだわる理由は「リアリティ」への追求であり、それによって「彼女の罪と罰は妥当か?」という印象への働きかけがあるように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では、その後は字幕で語られるだけですが、彼女が米国民のために動いたという印象は強く残っています
それでも、国の在り方として、国家機密の漏洩は許すべきではないというものがありました
ちなみに「The Intercept」は彼女の行動を高く評価しています
彼女の刑期が長いことは、裏を返せば「漏洩されたものの信憑性」というものを保証する形になっていて、早々に出られては困るという力が働いたようにも見えます
当時はネット上で「大統領選への疑惑」というものが多数流れていて、トランプ政権の成り立ちにはきな臭い噂が流れていたのをよく覚えています
物語の起点として、「ジェームズ・コミー(James Brien Comey)FBI長官の更迭」というものがあり、これが「アメリカの危機である」と認識したリアリティが行動を起こす要因になっていました
「司法長官の申し出をトランプ大統領が受容した」という経緯があり、司法長官がFBIの人事に踏み込んだということになります
FBIは司法省に属する組織で、警察機関の一つなので、その人事権というものは司法省にあるとは思いますが、政権が変わったことでFBIのトップを入れ替えるというのは、恣意的なものであると考えられてもおかしくはないのですね(よくあることですが)
この人事異動によって何を得たのかは闇の中だとは思いますが、彼は2016年に「ヒラリー・クリントンのメール問題の捜査再開」を明言し、それが「2016年の大統領選の直前だった」ことが、大統領選に介入したと批判を浴びることになっていました
この発言によってとまでは言いませんが、ヒラリー・クリントンはドナルド・トランプに負けているので、何らかの因果を噂されても仕方ありません
トランプ大統領が彼を切るというのは、無関係を証明したいということもあるでしょうが、恣意的な捜査活動によって、選挙そのものが脅かされるという図式にはなっています
名目上は「大統領選への干渉」ということになっていますが、真相は藪の中だと思います
映画は、このあたりの影響に関してはスルーしていますが、リアリティの犯行動機に関しては明確にしています
この映画を観ることで、リアリティの行動の妥当性を主張しているのか、司法(FBI)の暴挙を示しているのかは微妙な感じになっていますが、深掘りすることで「国政に関心を持つ」ことは大事なのだと思います
映画公開は2023年で、来年には次の大統領選が控えています
この映画を観た米国民にどのような影響があるのかは分かりませんが、「直前ではないこと」は歴史から学んでいるように思えてなりません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://transformer.co.jp/m/reality/