■元ネタと大きく変わったところを、どう評価すべきだろうか?


■オススメ度

 

LGBTQ+の映画に興味がある人(★★★)

実話ベースの映画に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.11.27(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:Stranizza d’Amuri(奇妙な愛)

情報:2022年、イタリア、134分、PG12

ジャンル:打ち解けあった若者2人の顛末を描いた伝記系恋愛ドラマ

 

監督:ジュゼッペ・フィオレッロ

脚本:ジュゼッペ・フィオレッロ&カルロ・サッサ&アンドレア・チェドロラ

 

キャスト:

サムエレ・セグレト/Samuele Segreto(ジャンニ:ある噂から仲間はずれにされている整備工、17歳、モデルはジョルジオ・アガティーノ・ジャンモンナ)

ガブリエレ・ピッツーロ/Gabriele Pizzurro(ニーノ・スカリア:ジャンニと事故を起こす青年、花火職人の手伝い、16歳、モデルはアントニオ・ガラートラ)

 

シモーネ・ラファレ・コルデアーノ/Simone Raffaele Cordiano(トト:ニーノの甥っ子、モデルはフランチェスコ・メッシーナ)

 

アントニオ・デ・マッテオ/Antonio De Matteo(アルフレード:ニーノの父、花火職人)

ファブリッツァ・サッキ/Fabrizia Sacchi(カルメラ:ニーノの母)

 

ロベルト・サレミ/Roberto Salemi(ピエトロ:採石工場の社長、アルフレードの兄)

Barbara Giummarra(ピエトロの妻)

Raffaele Gangale(パスクアーレ:ピエトロの部下)

Alessio Micieli(若い煉瓦職人、トゥーリの仲間)

Felice Napolitano(ミケーレ:ヘマをする労働者)

 

シモナ・マラト/Simona Malato(リーナ:ジャンニの母)

エンリコ・ロッカフォルテ/Enrico Roccaforte(フランコ:リーナの恋人、整備工場経営、ジャンニの雇い主)

ジュディッタ・ヴァシーレ/Giuditta Vasile(イザベッラ・スカリア:ニーノの姉、トトの母)

ジュゼッペ・スパタ/Giuseppe Spata(チッチョ:ニーノのおじ、イザベッラの夫?)

Orazio Alba(パレルモ:ニーノのいとこ)

 

アニタ・ポマリオ/Anita Pomario(ジュゼッピーナ:ジャンニの噂を流した少女)

アレッシオ・シモネッティ/Alessio Simonetti(トゥーリ:ジャンニを揶揄う青年)

Giuseppe Lopiccolo(エマエーレ:トゥーリの友人)

 

Marta Castiolia(マルタ:イザベッラの友人?)

Damela Macaloso(マルタの母、目撃する人)

 

セバスティアーノ・ティネ/Sebastiano Tinè(アレッソーネ・フィリオ:評議委員)

Rose Mary Calderone(評議員)

Toti Mancuso(司祭)

Sergio Vespertino(カフェの店長)

Pippo Virgata(聖サバスティアーノの交通警察官)

 


■映画の舞台

 

1982年夏、

イタリア:シチリア島

 

ロケ地:

イタリア:シチリア島

マルツァメミ/Marzamemi

https://maps.app.goo.gl/BPmgAD7JJqsUqbhB7?g_st=ic

 

ノート/Noto

https://maps.app.goo.gl/9jy2AFNcJSmxzxHL8?g_st=ic

 

フェルラ/Ferla

https://maps.app.goo.gl/xpnBeay9GqwDePM4A?g_st=ic

 

ブシェミ/Buscemi

https://maps.app.goo.gl/JGs5Nm6hmRDM2Lsr6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

1982年、イタリアのシチリア島には、ある噂を流されたことで孤立している青年ジャンニがいた

彼は母リーナの恋人フランコの整備工場で働いていたが、近くのカフェにたむろする若者たちから執拗ないじめを受けていた

 

ジャンニは、地元のジョゼッピーナという女の子が目撃した「あること」が広まっていて、それゆえに白い目で見られている

グループのリーダー格のトゥーリはしつこく彼に迫るものの、ジャンニは耐えるしかなかった

 

ある日、フランコから使いを頼まれたジャンニは、その道中で事故に遭ってしまう

気絶した彼を助けたのは事故相手のニーノという青年で、彼は人工呼吸で彼を蘇生させた

 

それから2人の交流は始まり、ジャンニはフランコの工場を辞めて、ニーノのおじアルフレードの採石工場で働くことになったのである

 

テーマ:家族の不寛容

裏テーマ:排除に誘引する大人

 


■ひとこと感想

 

実話ベースということですが、元ネタに関しては何も調べずに鑑賞

若い男の子のひと夏の淡い恋という感じですが、実際には壮絶な幕切れに向かう切ない物語になっていました

モデルは「ジャッゼ殺人事件」で、ニーノとジャンニにはモデルがいますが、25歳と17歳と歳が離れていたことが悲劇に繋がっているようでした

 

物語は、現場を見られたジャンニがその噂を広められて孤立するというもので、キリスト教的にもアウトな雰囲気がずっと漂っていました

ジャンニはシングルマザーに育てられ、矯正施設に入れるべきだったと言われるほどで、当時の同性愛に対する見識というものが伺いしれます

 

ラストは「え? 終わりなの?」という感じになっていますが、実際の事件の犯人も捕まっていない(容疑者はいた)ので、ぼやかすしかなかったのかもしれません

それでも、容疑者だった人物の犯行現場を描いてしまうと、2人の時間が失われた喪失感よりも、違った衝撃を受け取るだけなので、なかった方が良かったのかもしれません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画では、仄めかされている程度ですが、2人を殺したのは劇中のトトにあたる人物で、実在の事件では13歳の時の犯行だったとされいます

警察での証言が二転三転し、結局のところ真相はわからないままになっていて、でも「排除」に至る下地というものはしっかりと描かれていたと思います

 

物語は、2人の恋愛がどうなるかという主軸がありつつも、根底にあるのは「家族が許容できるかどうか」だったと思います

ニーノの母カルメラが友人から目撃情報を聞いて動揺したり、2人の関係を察したニーノの母がカルメラに助言をすることになるのですが、リーナ自身がジャンニを除外したいと考えていたようにも思えます

彼女がジャンニを矯正施設に入れなかった理由はわかりませんが、自由にさせておいたことが悲劇を生んでしまったとも言えます

 

映画では語られませんが、犯人はどのような動機で2人を殺すことになったのでしょう

もし、トトだとしても、彼にとっては「ジャンニだけが邪魔者」なので、ニーノを撃つとは思えません

ニーノの父も自分の息子だけは殺さないと思うので、ニーノを殺そうと考える人物が映画にはいないように見えます

可能性があるのは、トゥーリですが、その嫉妬心があったとしても、彼らの秘密の場所を知っているとは思えないので、本当に誰がどのような経緯でというのが全く読めないように思えました

 


ジャッレ事件について

 

映画の元ネタとなっているのは「ジャッレ事件(Delitto di Giarre)」という事件でした

これは、1980年10月31日に起きた事件で、当時25歳のジョルジオ・アガティーノ・ジャンモナと15歳のアントニオ・ガラトーラが、失踪から2週間後に死体で発見されたというものです

2人は男性同士で、ジョルジオは16歳の時からゲイであることを公言していました

彼には「puppy ‘ccô bullu(スタンプを押した同性愛者)」というあだ名がつけられていました

 

捜査の結果、犯人はガラトーニの甥であるフランチェスコ・メッシーナが容疑者となりましたが、当時の彼は13歳だったことと証言が曖昧だったため、実質的には犯人の特定には至っていません

メッシーナは死んだ2人から殺してほしいと脅迫されていたと供述していますが、のちのその発言を撤回しています

それでも、彼が殺したであろうと考えられていて、それは両家の代表的な意見だったと言われています

そして、この事件を受けて、イタリアでは同性愛者に対する差別問題がクローズアップされることになりました

 

ちなみにこの「ジャッレ」というのは、殺人が起こった町の名前で、イタリアのシチリア島のカターニャ県にあります

位置的には、シチリア島の北東部で、海から少し内陸に入ったところになります

映画の場所もおそらくこのジャッレで、客のバイクを運ぶ先は「サンタ・ヴェネリーナ」という町だったと思います

この町はジャッレから車で12分の距離ですが、歩くと 2時間近くかかる距離になります

 


犯人を暴く必要性について

 

本作では、犯人の断定に至る情報がなく、死因そのものも明確には描かれません

画面の外で「銃声が鳴った」ということだけがわかり、それを2人の死に結びつけるものは「想像」より他がありません

劇中で銃を撃っているのは、アルフレードとトトだけで、トトの方は途中で撃てるようになっています

また、ジャンニの存在を疎ましく思っているような描写がありますが、それは構ってくれないニーノが、さらにジャンニの登場によって顕著になっていることを感じ取っているからだと言えます

 

元々の事件がトトにあたる人物がいるものの、13歳という若さと証言が二転三転してことから信憑性がないという感じに締めくくられています

当初の証言では、「ジャンニとニーノに脅された」というもので、ニーノがトトに銃を向けたとされています(ややこしいので劇中の人物に置き換えています)

ニーノもジャンニも自殺を仄めかすような感じはなく、どちらかと言えば「偏見があろうとも生きていく」という感じになっていました

なので、当初の証言である「ジャンニとニーノに脅されて撃った」というのは、動機と結びつかない証言であると言えます

 

映画がどこまでこの事件をベースにしているのかは分かりませんが、一連の逮捕から取り調べに至る流れというものが無視されているとは思えません

なので、トトの証言の反証として、脅迫に結びつくような描写がないのだと思います

逆に、トト本人もしくは、アルフレードが撃ったというふうに見せかけていて、それは「この時代の同性愛者への考え方」を強調したかったのかなと思いました

トトが撃った場合は、「ニーノを取られそうだから」なのですが、この気持ちを誰かが利用しているようにも思えます

この時期の若者ならば、その気持ちに目的が生まれると妄信してしまうかもしれません

それを考えると、まだアルフレードが「同性愛者を排除する」という信条で行った方がマシにも思えます

でも、そうではない可能性を残しているところに、本作のメッセージ性というものがあるのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、事実ベースの物語でありますが、大きく変えている点があります

それは2人の年齢差で、元ネタでは25歳と15歳、映画では17歳と16歳になっています

イタリアの成人年齢は18歳なので、ニーノは未成年になるのですね

映画では、どちらも未成年にしているので、同世代の恋愛に見えますが、実際には未成年淫行にも思える年齢差になっています

 

性的同意年齢としては、イタリアは14歳なので問題はないのですが、改変にあたって年齢を変えているのは、テーマとは別の問題が発生するからだと考えられます

年齢差があると、そちらに目を奪われてしまい、この事件における「同性愛者差別」というテーマが薄まってしまうのですね

イメージすると分かりやすいのですが、性的なアイデンティティが確立していないニーノに対して、25歳の同性愛者が迫っていると構図は、性的同意年齢とは違う意味合いを持ちます

大人の手引きによって、マイノリティの性に引き摺り込んだようにも見えてしまうのですね

これが、ニーノが元から同性愛者であることを自認していて、ジャンニに迫ったというものなら穿った見方はされないのですが、映画の流れで「ジャンニを25歳にする」と、そのような余計なイメージが湧いてしまうと思います

 

個人的には、25歳という大人でもよかったと思いますし、年齢差があっても自然と惹かれあったのだと考えています

でも、事件にまで発展したという流れの中で、ニーノの家族が感じたものというものは、年齢差込みの違和感だと思うのですね

映画のトトは13歳よりも幼く、おそらく10歳前後だと思われますが、実際の事件では兄とは3歳差なのですね

自分とそこまで年齢が変わらない兄が25歳の年上の同姓と兄がそういう関係になっているというのは、思った以上に衝撃的なことだったと考えられます

 

映画は、このあたりの諸問題を生じさせないように改変していて、同性愛者への差別というものを強調させています

これが正解かどうかは観る人に委ねられますが、実際の事件がベースであると知り(エンドロールで捧げるという字幕が出るので意識するはず)、そして事件のことを調べていくと、年齢差への違和感というものは感じると思うのですね

なので、映画から汲み取れる差別意識と、実際の事件を知った時に感じる差別意識には微妙なズレがあるのだと考えられます

その違和感を生じさせることの是非も何とも言えない部分ではありますが、そこまで小さなものではないと思います

映画を深掘りして感じることにも嘘はないと思うので、それゆえに微妙な映画になってしまっているように感じられました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://movies.shochiku.co.jp/sicilysummer/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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