■行動の理由を追っていく中で、真実の愛と自分の欲望が解き放たれていく


■オススメ度

 

良質なミステリー映画を観たい人(★★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.11.3(京都シネマ)


■映画情報

 

原題내일의 기억(「明日の記憶」)、英題:Recalled(「思い出された」)

情報:2021年、韓国、99分、G

ジャンル:記憶を失った妻が最愛の夫に支えられて、予知夢の正体を追っていくミステリー映画

 

監督&脚本:ソ・ユミン

 

キャスト:

ソ・イェジ/서예지(キム・スジン:記憶を失った妻)

キム・ガンウ/김강우(イ・ジフン:スジンの夫、不動産屋)

 

ヨム・ヘラン/염혜란(アートスクールの校長)

ぺ・ユラム/배유람(ぺ刑事)

パク・サンウク/박상욱(チョ・ギサン刑事)

 

ぺ・ジェギ/배제기(高利貸し)

 

キム・ガンフン/김강훈(少女に手を振る少年)

パク・ボム/박봄(3階に住む少女)

アン・ミニョン/안민영(3階に住む少女の母)

コン・ユリム/공유림(7階に住む女子高生)

ソンヒョク/성혁(スジンの夢に出てくる7階に住む男)

キム・ウク/김욱(スジンの夢に出てくる若い男)

チョン・ギソプ/정기섭(706号室の中年の男性)

 

キム・ジュリョン/김종구(解体現場の管理人)

 

キム・ジュリョン/김주령(スジンを診る医師)

キム・アラム/김아람(看護師)

 


■映画の舞台

 

韓国:瑞草区

https://maps.app.goo.gl/FNqyxmcLUj9RgPFBA?g_st=ic

 

カナダ:バーミリオン湖

https://maps.app.goo.gl/evPTzi2FwZzZyrKz9?g_st=ic

 

ロケ地:

韓国:ソウル

 


■簡単なあらすじ

 

山で滑落事故に遭ったスジンは、命に別状はないものの、記憶のほとんどを失っていた

夫ジフンの献身的なサポートで自宅に戻る

 

夫はカナダに移住する計画をしていて、スジンの傷が癒えたら実行に移そうと考えていた

だが、ジフンは時折「予知夢」のようなものを見て悩まされ、マンションで起こる出来事がなぜか予見できていた

 

そんな折、刑事が二人自宅までやってくる

刑事の一人は壁に飾られた結婚写真を見て「位置が違うじゃないか」と意味不明の言葉を残して去っていった

 

テーマ:献身の正体

裏テーマ:隠されてきた想い

 


■ひとこと感想

 

ネタバレ厳禁系のミステリードラマで、冒頭から「意味不明なことが起こりまくる」と言う展開を迎えます

その意味が徐々にわかっていくのですが、最大のネタバレは「献身に至る正体」であるように思えました

 

記憶を無くした妻が見る「予知夢」と、彼女の目の前に現れる少女と女子高生

これらの意味がつながるとき、映画が描きたかったことがわかると言う内容になっています

 

本当にネタバレなしで観た方が楽しめるので、ネタバレなしのレビューですら見るのはやめておいた方がいいですね

最後までしっかりと観て入れば、映画の構造が理解できますし、ラストシーンの意味がわかると思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

本当に見てませんか?

 

 

と言うわけで、以下感想をわかりやすくするために、「ネタバレあり」のキャスト一覧を書いておきます

 

以下、ネタバレありキャストです(なし→あり、の順に説明を補足してあります)

 

ソ・イェジ/서예지(キム・スジン/チェ・スジン:記憶を失った妻→美術学校の先生、ジフンの妻、ソヌの義妹)

(3階に住む火事に遭う少女→スジンの幼少期:パク・ボム/박봄

(7階に住む性的虐待を受けている高校生→スジンの高校時代:コン・ユリム/공유림

 

キム・ガンウ/김강우(キム・ソヌ:スジンの夫ギフン→スジンの義兄)

(3階の少女と親しい少年→ソヌの幼少期:キム・ガンフン/김강훈

(予知夢に出てくる青年→ソヌの高校時代:キム・ウク/김욱

 

ソンヒョク/성혁(9階に住む謎の男→本物のイ・ジフン:スジンの夫、倒産した不動産屋)

 

チョン・ギソプ/정기섭(9階に住む性的虐待をする男→スジンの養父、キヌの実父)

アン・ミニョン/안민영(3階に住む家事に遭う少女の母→スジンの義母、ソヌの実母)

 

となります

他は役どころは変わらない感じになっていますね

 

 

映画は「予知夢」が実は「記憶だった」と言うことになっていて、「予知夢が現実になる瞬間も過去の記憶」と言うことになります

「夢が過去だった」と言うのはある程度勘の良い人ならわかると思いますが、最後のショットまで分からないのは「お互いの気持ち」だったと言えます

 

このお互いの気持ちと言うものが端的に現れているのが「二人の立ち位置」と言うことになり、バーミリオン湖でどっちが左側に立っていたかを思い出していただければ、その意味はわかるかと思います

 


写真の立ち位置について

 

結婚式の多くは「新郎が新婦の右側に立つ」と言う決まりがあります

この理由は諸説ありますが、新郎が右手に剣を持っていたと言うヨーロッパ起源のものや、日本のひな壇のような上座・下座などのようなものもあります

「結婚写真」で画像検索すると多くの「結婚式場のサイトで使用される写真」が表示されますが、ほとんどがこちらから見て「左が夫、右が妻」となっています

フォトウェディングだと逆位置のものも見かけますが、結婚式場で撮られた写真は「新郎が新婦の右側に立つ」と言うものがほとんどだったりします

 

映画ではギサン刑事が「スジンと偽ジフン」の写真を見て「逆じゃねえか」とわざわざ言わせているので、映画内の立ち位置には意味があると観客に説明しています

その後、9階に住む謎の男(真ジフン)の部屋には「正位置の写真」があり、これによって本当のジフンが誰なのかと言うことを明示していました

これらの写真の立ち位置が違う理由がラストシークエンスでちゃんと描かれていて、兄妹で写真を撮る際にカメラマンから指摘されて位置を入れ替えていましたね

映画では親切に描かれていましたが、一点だけ「観客の観察眼」に依存した演出がなされていました

それが、湖畔で見るスジンの妄想でした

 

事件が終わり、義兄ソヌも死んでしまいます

彼が道筋を立てたカナダへの移住を果たしたスジンは、そこでソヌと一緒に湖を眺めている妄想を見ます

これは彼女の願望であり、ソヌとの理想の関係というものが露見しているシーンになっています

湖を見るようにスジンの右側に立つのがソヌで、それはスジンが願う理想の立ち位置だったと言えます

 

また、前述の結婚写真の撮影でも、ジフンの隣に迷いなくソヌが立つ様子が描かれていました

それ自体は撮影の流れで、空いた右側に立ったということなのですが、そこでジフンはソヌに意地悪な質問をしていました

ひょっとしたら、この時点でジフンはソヌの気持ちに気づいていたのかもしれません

 


正体を明かさなかった理由

 

映画では記憶喪失になったスジンに対して、自分が夫であると偽装するソヌが描かれています

その理由としては「スジンが記憶を取り戻さないため」ですが、同時に「スジンの夫として過ごしたい」というソヌの願望があったのだと思います

また、病院から連れ出す際にも「夫と名乗る方が怪しまれない」というのもあったように思えました

ソヌはスジンを夫から守るために退院を急ぎ、そしてあらかじめ用意してあった偽の住処へと彼女を誘導します

その部屋に対して刑事が「モデルルームみたいだ」と言ったのは言い得て妙でしたね

 

ソヌがわざわざ同じマンションの別の階に住処を用意したのは、記憶喪失のレベルが読みきれないからだったと思います

でも、ソヌは実際に二人の部屋に入ったことはないと思われるので、それらしい雰囲気をつくることになっていました

映画内では言及されませんが、もしかしたらあそこはソヌの家だったのかもしれません

モデルルームと言われていましたが、かと言って半日程度で人が住めるレベルの日用品を集めるのは無理だと思うので、自分の部屋に招き入れたということの方があり得そうに思います

実際に彼の家だったとして、そこに結婚写真を飾っていたのがいつからかという疑問は湧きますが、おそらくソヌは極度のストーカーっぽさというものはあったのかなと思いました

 

ソヌはスジンに手を出した実父を衝動的に殺せるほどにスジンのことを想っていて、それが兄妹愛としては行き過ぎているように思えます

幼少期の頃に養子に入ったために兄として接してきましたが、どこかの段階で女性として意識していたというのはなきにしもあらずでしょう

実際には兄妹の関係なのでその先はありませんが、ずっと彼女を見守っていたいという願望はあったのかなと思いました

このあたりは映画で描かれていない想像の世界ではありますが、お互いの想いが隠せていないシーンは思った以上に多かったように思えます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は時系列シャッフル系の難解さと、虚実入り混じっているようにも思える予知夢(実際には過去)が入り混じっていました

 

物語を時系列に整理すると、

幼少期に養子としてスジンが家にやってくる

幼い頃に家が火事になってしまう

高校になって義父にスジンが襲われる事案が発生

ソヌが衝動的に父を殺害、それを山の中に埋める

成人になり、スジンはアートスクールで働き始める

この頃に夫ジフンと出会い、結婚に至る

ジフンの会社がマンション投資の失敗で傾く

ジフンが闇金から返済を迫られて、スジンを毒殺して保険金を手に入れようと解体現場に呼び出す

スジンが来る前に金貸しが毒を飲んで死ぬ

スジンが到着してしまい、ジフンは彼女を殺そうとするも反撃に遭ってしまう

ジフンは死んだかのように思え、そこにソヌが到着

ソヌはジフンをセメントに沈める

自責の念を抱えたスジンは飛び降り自殺して病院に運ばれる

スジンは記憶を失い、ソヌとともにソヌの家に戻る

いくつかのフラッシュバック、9階の自分が元々住んでいた部屋を見つける

ジフン、セメントから抜け出してスジンを追う

スジンを自宅で見つけて火を放つ

ソヌ、そこにやってくるも息絶えだえのジフンに刺されて死んでしまう

スジンだけが生き残り、カナダへといく

と、こんな流れになると思います

 

終わってみればこの流れがスッとわかっていくのですが、映画は過去を予知夢のように見せることで、先が読めない展開を見せていきます

夫を名乗る男は本物か?というところから始まり、スジンの記憶障害の理由を追っていく

そして、それらのピースがハマった後、ソヌはどうしてここまでのことをしたのかという想いの階層を提示していきます

ソヌがスジンを想っていることは強く描かれていますが、それに対するアンサーとしてのスジンの想いは実にさりげなく描かれていきました

 

この構成がとても素敵で、前半にかなりのヒントがありながらヒントになり過ぎていないところも良かったですね

映画はミステリー&サスペンスの始まりですが、終わってみると「ソヌとスジンの許されざる愛」を描いた切ないラブロマンスだったように思えてきます

全てを知った後にもう一度観ると印象が変わりそうですが、おそらくは終始物悲しい雰囲気が漂うのではないでしょうか

ラブロマンスとしても、愛する人が傷つけられていく様子を見ていることしかできないソヌの悲哀が全面に落ち出されます

スジンはソヌの愛の正体を知らぬまま過ごすことになりますが、彼女の中に生き続けるソヌは兄としてのソヌではないのかもしれません

そう言った意味においても、あの湖畔のシーンが見せる真実というのは衝撃的だったかなと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384227/review/cc9f5f5c-3481-4de9-a6dd-c72198731f69/

 

公式HP:

https://synca.jp/kimishira/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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