■対象を間違えているのは、無知だからなのか、歴史を揶揄しているのかどっちだろうか


■オススメ度

 

社会問題になった事件をモチーフにした映画に興味のある人(★)

 


■予告編(映画スクエア版)

鑑賞日:2022.11.3(京都シネマ)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、91分、G

ジャンル:仕事と住処を奪われた女性がたどり着いた世界を描いた社会派ヒューマンドラマ

 

監督:高橋伴明

脚本:梶原阿貴

 

キャスト:

板谷由夏(北林三知子:バス停で寝泊まりするホームレスの女性)

 

大西礼芳(寺島千晴:三知子が働いていた居酒屋の店長)

三浦貴大(大河原聡:居酒屋のマネージャー)

ルビー・モレノ(石川マリア:三知子の同僚、フィリピン人)

片岡礼子(小泉純子:三知子の同僚、実家が農家)

土居志央梨(高橋美香:三知子の同僚、解雇を免れる若手)

幕雄仁(小出:居酒屋の厨房スタッフ)

鈴木秀人(井上:居酒屋の厨房スタッフ)

 

松浦祐也(工藤武彦:三知子に近づく男)

 

あめくちみちこ(三知子の雇用を拒否する介護職員)

長尾和宏(赤ら顔の男)

柄本佑(KENGO:正論を吐くYouTuber)

 

筒井真理子(如月マリ:三知子のアトリエのオーナー)

 

下元史朗(センセイ:古参のホームレス)

柄本明(バクダン:古参のホームレス)

根岸芽衣(派手婆:古参のホームレス)

 


■映画の舞台

 

モデルの事件:

2020年冬、渋谷の幡ケ谷にあるバス停で起きた「渋谷ホームレス殺人事件

東京都:渋谷区、幡ヶ谷原町(バス停)

https://maps.app.goo.gl/4zS6cuyZhF5NTH1T8?g_st=ic

 

ロケ地:

渋谷近辺、バス停&都庁近辺

 

ちょっぷく 人形町店(大久保店として登場)

https://maps.app.goo.gl/1w6QLW2S5ofJ7hQA6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

居酒屋で10年アルバイトをしている三知子は、繁盛している店をベテランたちと支えていた

マネージャーの大河原は言葉と行動がバラバラの男で、店長の千晴は気弱で存在感が薄かった

 

そんな彼らは、2020年に発令された緊急事態宣言の煽りを受け、店は休業、マネージャーから嫌われていたベテラン三人も突然解雇されてしまう

三知子はなんとか介護施設での職を見つけたものの、そこに向かうと「採用は見送りのメールを送った」と言われ、まるで病原菌扱いであしらわれてしまった

 

行く宛のない三知子は新宿近辺をうろうろし、そこでホームレスの派手な婆さんやバクダンと呼ばれる爺さんたちと交流を深めていく

 

一方その頃、千晴は三知子たちの退職金が未払いであることに気づき、しかもそのお金をマネージャーが横領していることを知る

そこで彼女は、退職覚悟で「ある行動」に出ることになったのである

 

テーマ:自己責任論

裏テーマ:社会と弱者

 


■ひとこと感想

 

渋谷ホームレス殺人事件は記憶に新しいのですが、あまり詳細は知らないまま鑑賞

どこまで事件を再現したのかなと思いましたが、どうやら事件を参考にしたフィクションと言うことになっていました

 

主人公の名前はそれとわかる程度に微妙に変えていて、背景とか年齢は変えているようで、実際の事件をモチーフにしたと言うのは言い過ぎなほどにフィクションになっていましたね

 

緊急事態宣言で行き場を失った女性労働者の悲劇を追っているのですが、社会の情勢とか政治の不寛容とかの前にやるべきことがたくさんあるようにしか思えません

結局は自分のプライドとか性格が邪魔をしているだけで、命と引き換えにするほどのものかと感じてしまう人が多いのではないかと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

渋谷の事件は被害者が64歳の女性で、犯人は46歳ぐらいの男性でした

その後、保釈された犯人は自殺をすると言う衝撃の展開を迎えています

 

映画はその事件の設定をほんの少しだけ借りていて、内容はある思想の表現と言う目的があったように思いました

それでも、過去の思想と行動が今の日本を創っているわけで、それ自体の正しさを証明はできていません

 

映画は弱者の顛末を描いていますが、やるべきことはいくらでもあるのに、安直な行動を起こしているだけのようにも見えます

犯人を深掘りもしていないし、何を訴えたかったのかがよくわからない作品になっていましたね

 


モデル(着想)の事件について

 

モデルというか「着想元」になった事件は「渋谷ホームレス殺人事件」とされています

モデルと呼べないのは、実際の事件を知っていると「バス停で寝泊まりしていた女性」ぐらいしか共通点がないからです

 

実際の事件は2020年の11月16日に起こり、場所は映画で登場した「幡ヶ谷原バス停」でした

被害者の女性は広島県出身の64歳の女性(ウィキでも名前はAになっているので明記しません)で、地元の短大時代には「演劇に打ち込んでいた」とされています

その後、東京のコンピューター系の会社で働き、バス停に来るまでは近くのスーパーで働いていました

事件の少し前に家賃滞納を理由に杉並区のアパートを出て、そこから路上生活を行い、生活保護は受けていなかったとされています

 

彼女の身元確認には時間を要していて、所持金はわずか8円、免許証も期限切れで、電源の入らない携帯電話と親族の連絡先の書いてあったメモしかなかったそうです

そのメモを頼りに弟さんに連絡を取って身元確認をしたとされています

弟とは10年ほど音信不通(4年前から定期的に送られてきたクリスマスカードが届かなくなったとのこと)で、親族に迷惑をかけたくないという理由で頼らなかったのか、その辺りのことは知るよしもありません

 

事件を起こした容疑者は「死ぬとは思わなかった」と供述していて、レジ袋に大きめの石を入れて殴ったと言われています

さらに事件の前日に本人と接触していて、「お金を渡すからバス停から退いてほしい」という会話をしたのですが、それを拒否されたと供述しています

映画でも襲った人物がボランティアのような感じでゴミ拾いをしていたシーンがありましたが、実際の犯人にもこのような目撃談もあったとのことですね

事件ののち、母親から警察に通報が入り「あんな大事になるとは思わなかった」という趣旨の言葉を発していたとされています

 

事件は公判中に加害者が自殺をするという顛末になっていて、犯人は罪を償うこともなく、姿を消すことになりました

実際の弟さんとの距離感は映画ほど乖離があるわけではないみたい(NHKの取材Noteや番組などを見ると)ですが、実際には当事者の間でしかわからないものは多いと思います

 

映画では「年齢が40歳前後に引き下げられ、働いていた場所もホームレスになった理由も変えてある」ので、「単身の女性が家族と疎遠になって認知されないままホームレス生活をしている」という状況を引用していると考えられます

年齢設定を変えるに至った経緯はパンフレットに記載されていたので、興味のある方は購入して読まれても良いかなと思います

個人的な感想としては、その理由は適切であると思うし、明確な意図がしっかりしているので良いと思います

 


緊急事態宣言とは何だったのか

 

実際の被害者もコロナ禍の煽りは受けていて、高齢の女性の就労は相当厳しかったと思います

生活保護を受けなかった理由はわかりませんが、映画の三知子の年齢だと速攻で生活保護というのはあまり考えないと思います

ただし、疎遠の家族を頼らないかと言われれば、そこは個別の関係性になるのでなんとも言えません

 

映画では「コロナ禍で最も影響を受けた業界」を舞台にしていて、三知子がホームレスになってしまう経緯を作るために「悪人がたくさん登場」します

それぞれは自分たちで必死ということでしょうが、居酒屋のマネージャーの描き方はちょっと悪意があるかなあと思ってしまいますね

あの性格だと疎まれることはわからないではないですが、退職金の横領やセクハラまで描く必要があったのかは疑問かなあと思いました

 

映画は緊急事態宣言を受けて居酒屋が休業要請を受ける流れを描いていきます

その後の時短営業なども描かれ、従業員は給料が半分まで減るという事態になり、最終的には「コロナを理由にした不当解雇」へと繋がっていきます

退職金をくすねるくらいなので、休業補償に関する支援金なども申請だけして本人たちに渡さなかったと思われるので、実際には三知子たちに渡るのは30万円では済まないはずです

コロナ禍では弱者救済がないとは言われますが、実際には「悪用して使途不明金が億単位である」という状況なので、悪徳な居酒屋に関わったために生活苦になったという感じに見えてしまいますね

 

緊急事態宣言は当時はやむなしという感じでしたが、今では「何のために起こったのかわからない」という評価になってしまいます

結局のところ、コロナの正体がわからないことで過剰に反応したというものがありますが、こればかりは誰も責めようがないと思うのですね

でも、その後のコロナ対策の後手後手感は凄まじく、現在進行形で愚策ばかりが目立ち、コロナによってさらに貧富の差が生まれただけという状況になっています

緊急事態宣言が問題というよりは、国民の気質的な部分が強くて、他者に迷惑をかけたくないというマインドが悪い方向に出ているといえるのかもしれません

逆に言うと、迷惑をかけても良いと思っている人が政権を握っているのかなあと思えてくる部分はありますね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画の三知子も他人には迷惑をかけたくないというマインドで家族を頼らないし、誰にも相談しません

仲の良い同僚にも話さないし、店長からの電話に折り返すこともしません

映画では安倍元総理の宣言と同じく、菅元総理の「扶助」にまつわる発言が引用されていました

緊急事態宣言が発令されてからのグダグダをみて、政府が役に立つと思っていた人たちが悲惨な目にあって、政府が役に立たないことがわかっている人たちがこの機会に乗じて資産を形成したり、悪いことをしたりしていました

 

日本という国は「声が大きい人が有利な社会」「知らないと損をする社会」であることは明白で、最終的には頼りにならないということは歴史が証明しています

欧米諸国のみならず、アジアでも無策ゆえに先が見えない社会になっていて、半径10メートルを守ることすら難しい世の中になっています

日本という国は「わかりにくい構造」を作ることで、「やってますよ感を出しながらふるいをかけるのがうまい」ことが評価される社会でもあるので、その流れに身を委ねていても何も解決はしません

問題を先送りにすることでやった感を出している戦後を見ればわかるように、清算ができないのが日本という国なのですね

そう言った世界で生きるには、システムを変えるしかないというのが本作の後半で描かれるメッセージだと言えます

 

でも、過去も同じように暴力的な行動で蜂起してきましたが、その効果はかなり限定的だったというのを歴史が証明しています

日本のこれまでの歴史でも、歴史が動いた転換点は今回のことに限らず、「個人にターゲットを絞ったとき」だけのようにも見えてきます

数々のデモを行っても政治は動きませんが、ある個人を的にした攻撃というものは相当な効果を発揮します

なので、コロナ後に起こった事件の衝撃を知っているのなら、三知子たちがターゲットにするのは都庁の片隅ではないと思うのですね

 

映画ではそこが少し日和ったかなと思っていて、この爆弾騒ぎを起こすなら、彼女らの不幸の原点となったマネージャー殺害に向かってもおかしくないように思います

実際にはバクダンの思想に傾倒して、政府に矛先を向けていますが、これは「三知子の無知」を描いているのか、「やってる感を出してきた行動」を揶揄しているのかは微妙に思えました

なので、個人的には「居酒屋チェーン店の本社を爆破する」ぐらいのことをやっても良かったのかなと思ってしまいました

個人的な怨恨の清算だとマネージャー宅爆破ですかね

本人が不在の時にマネージャー宅を爆破すれば人的被害なないと思うので、ちょっとばかり爽快感があったのではないかなと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/383243/review/e5b95a5e-01b3-4742-bfda-5f296cc37a98/

 

公式HP:

https://yoakemademovie.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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