■ナショナリズムとアイデンティティが一致する人生というのは、とても恵まれているものなのだと再認識させられますね
Contents
■オススメ度
史実系スポーツ映画が好きな人(★★★)
戦後の朝鮮の状況について知りたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.4(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:1947 보스톤(1947 ボストン)、英題:Road to Boston(ボストンへの道)
情報:2023年、韓国、108分、G
ジャンル:戦後の朝鮮がマラソンの国際大会に出る苦難を描いたスポーツ映画
監督:カン・ジェギュ
脚本:カン・ジェギュ&イ・ジョンファ
キャスト:Wikiリンクは日本語Wikiのみ
ハ・ジョンウ/하정우(ソン・ギジョン/손기정/孫基貞:日本人としてベルリン五輪に参加した朝鮮人ランナー)
イム・シワン/임시완(ソ・ユンボク/서윤복/徐潤福:朝鮮人のマラソン選手)
(幼少期:キム・ジョンチョル/김정철)
ペ・ソンウ/배성우(ナム・スンニョン/남승룡/南昇竜:日本人としてベルリン五輪に出場した朝鮮のマラソン選手、チームのコーチ)
キム・サンホ/김상호(ペク・ナムヒョン:アメリカ在住の保証人)
オ・ヒジュン/오희준(ドング:ユンボクの友人)
パク・ヒョジュ/박효주(ユンソ:ナム・スンニョンの妻)
ソ・ジョンミン/서정연(ユンボクの母)
チェ・ギュファン/최규환(イ・ギルヨン:記者)
ソン・ヨンチャン/송영창(コウ:陸上連盟の会長)
イ・ギュボク/이규복(通訳)
イム・ヒョンソン/임현성(韓国協会の会長)
ソン・ヨンギル/송영길(宴席の投資家)
キム・ソヒョン/김서현(起業家)
パク・チャヌ/박찬우(宴席の出席者)
リ・ミン/리민(冷麺店の店主)
チョン・イェジン/정예진(冷麺店の女性店員)
パク・ウンビン/박은빈(オクリム:冷麺店の店員)
チョン・ヨンジュ/정영주(オクリムの母)
パク・ソウォン/박서원(グムリム:冷麺店の少女?)
ヤン・ジス/양지수(市場の店主)
ホ・ユリ/허유리(市場の店主の妻)
パク・キョンフン/박경훈(市場の客)
チェ・ジョンリョル/최종률(ハワイ在住の老人)
キム・ミンギョン/김민경(ハワイ在住の老女)
ホン・ソンドク/홍성덕(ハワイ在住の男性)
【陸上部の選手】
リュ・ヘジュン/류해준
パク・ハンウル/박한울
ホ・セジク/허세직
キム・ファンヨン/김환영
イ・ヒョンジ/이형지
ナム・ジュンギュ/남중규
ファン・ジャヌン/황자능
キム・スヒョク/김수혁
ソ・ドンギュ/서동규
アン・テジュン/안태준
ク・ジャゴン/구자건
ペ・テジュン/배태준
テギョン/태경
イ・テヒョン/이태형(キム・ギョシンの先輩弟子)
ユ・ジアン/유지안(キム・ギョシンの弟子)
イ・スンジュン/이승준(キム・ギョシンの弟子)
ソ・ドンフン/서동훈(キム・ギョシンの弟子)
イ・ハンジョン/이한종(キム・ギョシンの弟子)
【韓国人:その他】
チュ・ヨンホ/주영호(選抜大会の実況)
ペク・スンヒョン/백승현(10周年記念大会の実況)
ユン・ブジン/윤부진(ラジオ局のオーナー)
キム・テヒョン/김태현(ラジオ局の応援団性)
チョン・ミナム/정미남(レコーディングスタジオの職員)
チョ・ヘソン/조혜선(宴席のマダム)
イ・スハ/이수하(宴席のマダム)
イ・ヒョンジ/이현지(宴席のマダム)
ナ・ギュンジン/나경진(宴席のマダム)
キム・グクジン/김국진(医師)
イ・セイン/이세인(ユンボクの近隣女性)
【アメリカ関連:軍部】
ロン・ケリー/Ron Kelly(ジョン・R・ホッジ/Jhon R Hodge:アメリカ軍の将軍、陸軍司令官)
パン・カルティン/Bread Cultin(ハワイ州の知事)
ミッキー・オサリバン/Mickey O’sullivan(ブラッド軍曹)
マイケル・フォスター/Maicheal Foster(マイク大尉、空挺部隊)
アンドレアス・フロンク/Andreas Fronk(アンダーソン中尉、空挺部隊)
【外国人選手】
アレックス・ロマショフ/alex Romashov(ジェフリー:アメリカ人ランナー)
ルーカス・ラインハン/Lucas Rheinhan(ジェイコブ:アメリカ人ランナー)
ティム・グライムス/Tim Grimes(ウィルタネン:フィンランド人のランナー)
ジョエル・トービン・ホワイト/Joel Tobin White(カラグーニス:ギリシャ人のランナー)
ジェシー・マーシャル/Jesse Marshall(ジョン・ケリー:ギジョンと交流のあるアメリカ人ランナー)
【アメリカ人:その他】
モーガン・ブラッドリー/Morgan Bradley(スメドレー:朝鮮に出張しているアメリカ人の役人)
シドニー・ラングフォード/Sydney Langford(役所の女性アシスタント)
ブライアン・キャロル/Brian Carroll(ラジオ局の通訳)
ジョン・マイケルズ・デヴィッド/John Micheals Davis(財団の記者)
グレゴール・ステフェナック/Gregor Stephenac(財団の記者)
カーソン・アレン/Carson Allen(財団の記者)
アンドリュー・ウィリアム・ブランド/Andrew William Brand(財団の記者)
ジェイソン・メリアドック・ファーガソン/Jason Meriadoc Ferguson(財団の記者)
ポール・バトル/Paul Battle(アメリカ人レポーター)
ジョーイ・オルブライト/Joey Albright(授賞式のレポーター)
■映画の舞台
1930年、
ドイツ:ベルリン五輪
1947年、
アメリカ:マサチューセッツ州
ボストン国際マラソン
ロケ地:
韓国:ソウル
ドイツ:ベルリン
■簡単なあらすじ
1936年のベルリンオリンピックにて、日本人として参加したソン・ギジョンは、表彰式にて勲章で日章旗を隠したことで、マラソン界からの引退を余儀なくされていた
それから10年後、戦争が終わり、日本の統治が終わったものの、今度は米ソによる管理下に置かれていた
ギジョンを讃えるマラソン大会などがあるものの、本人は表彰式にすら遅れる始末で、一緒に走ったスンニョンは呆れ果てていた
スンニョンは後輩たちを世界の舞台で走らせたいと考えていたが、アメリカの管理下で「難民国」として扱われている朝鮮は国際大会に出場することは叶わない
そこで、ギジョンと親交があったアメリカ人ランナーのジョン・ケリーにコンタクトを取り、無事にボストンマラソンへの招待を受けることになった
だが、入国するためには現地の保証人と保証金が必要になる
また、選手の選考も難航していて、有望株のユンボクは家庭の事情でロクに練習もできなかった
ギジョンはスンニョンの熱意に感化されて、ジョン・ケリーの条件である監督を引き受けることになったのだが、大会への参加には多くの課題が山積していたのである
テーマ:祖国の旗を掲げる意味
裏テーマ:真の独立
■ひとこと感想
ボストンマラソンと言えば爆破テロの方が脳裏に浮かぶのですが、戦中戦後にこのようなことがあったのは知りませんでした
史実ベースで若干の脚色と言うことですが、大会に参加するための様々な制約であるとか、日韓併合の余波というものが色濃く残っていました
日本の統治時代に日本人として出場したマラソンで世界記録を出したソン・ギジョンですが、いまだにその記録は日本人のままというのは、個人的には可哀想な気もします
それでも、このような修正を行うと、彼だけではなくなるので、公式として動かしようがないというのも理解できます
映画は、スポ根のテイストと時代を反映する社会派の側面があり、ちょっと暗い話になってしまうのかなと思いましたが、要所要所で笑いが起きるシーンがありましたね
ボストンのホテルの一件では場内で大爆笑が起こっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
マラソンにはそこまで詳しくなく、しかも生まれる前の古い話なので、全く情報を入れることなく鑑賞してきました
当初は、戦後に朝鮮人としてギジョンが走ったのかと思っていましたが、まさかの国旗を隠して引退に追い込まれたとのいうのは酷いなあと思いました
併合に関しては人それぞれの受け止め方があったとは思いますが、国の代表として走るということを考えれば、もう少し敬意のある対応ができたと思います
映画は、史実ベースのため、かなり裏側を掘り込んでいる感じになっていて、難民国としての国際的な立場の難しさを如実に表していました
日本の統治が終わっても、今度は米ソ(彼らは南だったのでアメリカ)の管理下に置かれていましたね
韓国が名実ともに独立を果たしたのは1948年のことで、映画の段階では成立前夜となっています
国際的な立場も微妙な段階で、少しでも早く独立したことを知らせたいという想いがあって、それが実現したのは良かったと思います
そこで、まるで漫画のような展開になるのですが、師匠超えを果たしたと共に、同志のスンニョンが12位で完走したのも凄かったですね
ギジョンがあのまま競技生活を続けていられれば、何かが変わっていたのかな、と思ってしまいました
■ソン・ギジョンについて
映画に登場するソン・ギジョン(孫基禎)は、1912年生まれの朝鮮人で、日本統治時代の1936年のベルリンオリンピックにて、アジア地域出身者として初めてマラソンの金メダルを獲った人物でした
1932年に京城にある養生高等普通学校にスカウトされ、19歳で入学を果たします
この時にナム・スンニョン(南昇竜)と一緒に陸上部に入り、ナムは他の学校への入学経験などから先輩という立場になっていました
その後、1935年に東京で行われた第8回明治神宮体育大会のマラソンで、当時の世界最高記録の2時間26分42秒を樹立することになります
この公認コースでの世界記録実績によって、彼は1936年のベルリンオリンピックの「日本代表有力候補」に選ばれました
オリンピックでも2時間29分2秒で金メダルを獲ることになりますが、その2週間後の朝鮮の新聞「東亜日報」にて、「胸の日の丸が塗りつぶされた表彰式の写真」が掲載されてしまいます
これによって、同紙の記者が逮捕され、新聞の発刊停止処分が下されることになりました
当時から、ソンは民族意識が強く、なぜ日本人として参加しないといけないのかとか、君が代が国歌なのはなぜかなどの疑問を持っていて、この思想が当時の特別高等警察にマークされていました
それによって、明治大学の競争部への入学は認められず、卒業後には朝鮮陸連の紹介にて、京城の挑戦貯蓄銀行本店勤務となっています
その後、1946年にベルリンオリンピックの10周年祝賀会が開かれるようになり、大韓民国建国後は韓国籍となります
終戦後まもなくマラソン普及会をナムたちと結成し、選手の指導にあたるようになります
そして、1947年に教え子のソ・ユンボクがボストンマラソンにて、世界最高記録の更新を行うことができました
映画は、このシーンまでが描かれていますが、史実では、この帰国直後に朝鮮戦争が勃発し、朝鮮人民軍がソウルを占拠した際に自宅に監禁されたりしていました
なんとか脱出した後もコーチを続け、1948年のロンドンオリンピックと1952年のヘルシンキオリンピックでは、韓国選手団の総監督を務めていました
現在は、ソウル特別市中区にソン・ギジョン記念館があり、彼の功績が讃えられています
■祖国を背負うことの意味
本作は、日韓併合時代に日本人として出場したソン・ギジョンの苦悩と、それを晴らすためのソ・ユンボクの活躍が描かれています
歴史の流れとして、あの時点で日本代表として出ることはやむを得ず、のちに国籍が変わったからと言って、それを変更することができないのも理解できます
今では、カリフォルニア州カルバーシティにある五輪歴代記念碑については、ソン・ギジョンの国籍は「韓国」になっていて、彼自身がその式典(1986年)に出席していました
併合時点の国籍をどう取り扱うかというところはありますが、国家の選択と個人の感情に乖離があるというのはいつの時代も変わらないものでしょう
現在では国家という単位で出自が明記されますが、その区分けに弊害があって、衝突が起きているのも事実だと思います
感覚的には、血族的な民族観と思想的な民族観というものがあって、それらは国家というもので区分けするのが非常に難しいのではないかと考えています
国の成り立ちの過程において、多くの民族が融合してできた国家というものがあり、そのナショナリズムをどのようにアイデンティティに組み込むかは難しいのですね
これが本人の希望というものであれば問題ないのですが、植民地化された国家に属している場合には、個人的な感情などは一切考慮されません
この乖離というものが後々の遺恨になることが多く、国家主義なのか個人主義なのかで考え方が変わってきます
国家という存在を認知しながら、自分はどの国に属しているのかというのは、併合や侵略を受けたことがない人には分かりづらいものでしょう
個人的にも、生まれてこの方ずっと日本人だと思って生きていますが、今後何かしらの出来事があって、急に別の国籍になったよと言われて受け入れられるかは分かりません
国家の決めたことと個人の感情を合致させられる人もいれば、そうでない人もいる
この場合、祖国と呼ばれるものに愛着を持っている人と、新しい国籍となる国家への拒否反応がいる人がいて、一概に語れない部分があると思います
日韓併合時代には「朝鮮」という国はなく、国がなければ国籍もありません
その後、韓国が建立されて韓国籍が生まれたのですが、国籍が変わるたびに過去を全て変更するというのは容易ではないと思います
個人の意思とは無関係の場合には併記というのが良いと思うのですが、それもなかなか難しいものでしょう
この問題は、現在進行形で、のちの世に残す課題ではありますが、国家が亡くなった時期の所属というものは逆にアイデンティティを高めることになるのかな、と感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の骨子はスポーツ映画で、ソン・ギジョンとソ・ユンボクが抱えるナショナリズムの違いについてはあまり深く言及はされていません
映画の舞台になっているのは、戦後のことで、日韓併合は終わったけれど、アメリカの統治下に置かれていた時代で、韓国が建国に至ったのは映画の翌年である1948年8月15日になります
アメリカ軍占領時代の朝鮮人の国籍は「朝鮮籍」で、1965年の日韓条約後に表記を「韓国」に切り替えることができるようになっています
日本の占領から解いたけど、管理はアメリカがするという時代で、映画内では「難民国」と言う扱いになっていました
この時代に国際大会に出場するのはかなり難しくて、映画のメインもそこになっていましたね
難民国である以上、朝鮮のお墨付きで他国には出国できず、統治国家であるアメリカの許可を得ているので、アメリカ代表で出場みたいな感じになっています
国籍的には「朝鮮」だけど、アメリカ代表みたいな扱いになっているのですね
それを是正しようとして、マスメディアに訴えると言うシーンがありました
大会では、欧米の選手と互角に戦う様子が描かれ、その試合風景はかなりスリリングなものになっていましたね
史実通りだと思いますが、抜きつ抜かれつまで再現する必要はないので、エモーショナルな展開にするのはありだと思います
ちなみに、このレースで凌ぎを削ったのは「Mikko Hietanen(フィンランド)」「Theodore V Vogel(アメリカ)」と言う選手でした
映画は、歴史の勉強になり、スポーツ映画としても面白かったですね
非占領側の苦悩は体験者でしか分からず、彼自身が国家の選択に対して否定的だった過去があるのだと思います
そう言った個人的な感情までは制御できず、表面上は取り繕っても、それから解放された段階でどう露出するかは分かりません
それでも、生まれた時に何者だったかと言うものはとても大切なものなので、それに対する敬意というものは必要なのではないか、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101636/review/04215499/
公式HP:
https://1947boston.jp/index.html