■桃子というキャラクターを眺めていると、見えない行動原理に対する面白さというものが見えてくるように感じますね
Contents
■オススメ度
不条理に見えるヒューマンスリラーが好きな人(★★★)
江口のりこの演技を堪能したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.3(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2024年、日本、105分、G
ジャンル:夫の浮気が原因でおかしくなる妻を描いたヒューマンスリラー映画
監督:森ガキ侑大
脚本:森ガキ侑大&山崎佐保子&鈴木史子
原作:吉田修一『愛に乱暴(新潮社)』
Amazon Link(原作:上巻)→ https://amzn.to/3MwLxcM
Amazon Link(原作:下巻)→ https://amzn.to/3Tfaygl
キャスト:
江口のりこ(初瀬桃子:夫の実家の離れで暮らす妻)
小泉孝太郎(初瀬真守:桃子の夫)
風吹ジュン(初瀬照子:真守の母)
馬場ふみか(三宅奈央:真守の不倫相手)
水間ロン(李:近所の住人、ホームセンターの店員)
青木柚(浅尾:桃子の元後輩社員)
斉藤陽一郎(鰐淵:桃子の元上司)
梅沢昌代(今井葉子:桃子の母)
恵田侑典(今井大輔:桃子の兄)
倉田奈純(今井ゆり:大輔の妻)
堰沢結萌(今井沙織:大輔の娘)
田中寛人(今井健:大輔の息子)
西本竜樹(地域の警察官)
堀井新太(地域の警察官)
岩瀬亮(産婦人科医)
福津健創(ホームセンターの客)
諫早幸作(カフェのウェイター)
中山求一郎(社食の社員?)
山本亜依(社食の社員?)
柴田瑠歌(元職場の会社の受付嬢)
高槻祐士(ラーメン屋さん?)
平尾優花子(バスの母親?)
平尾瑛茉(バスの赤ん坊?)
伊波あゆみ(教室の参加者?)
今井遥大(?)
虎谷温子(アナウンサー?)
山崎佐保子(?)
■映画の舞台
日本のどこかの地方都市
ロケ地:
神奈川県:綾瀬市
らーめんぎょうてん屋GOLD綾瀬店
https://maps.app.goo.gl/sSdnJFTr3cfbMgR28?g_st=ic
神奈川県:大和市
肉の太田屋
https://maps.app.goo.gl/As9YtiWyX7y6ikG28?g_st=ic
神奈川県
綿半ホームエイド相模原店
https://maps.app.goo.gl/4XdTKbf3XQHm7HUm8?g_st=ic
千葉県:千葉市
The QUBE Hotel Chiba
https://maps.app.goo.gl/HRgMmE9QYKrn2Sd8A?g_st=ic
東京都:立川市
立川中央病院
https://maps.app.goo.gl/6ZFUAUWJS9YUa3G39?g_st=ic
■簡単なあらすじ
専業主婦の桃子は、夫との関係がギクシャクしていて、夫婦の会話もほとんどない状態だった
何かを話しかけてもうわの空の生返事で、家のリフォームの話も乗り気ではなかた
桃子は趣味の延長線上で手作り石鹸教室を開いていて、その管理は元職場が行っていた
桃子は義母・照子の住む母屋の隣にある離れに夫と住んでいて、些細な交流がある程度だった
ゴミ出しを手伝ったり、昼間のお茶菓子休憩をするぐらいだった
ある日、近くのゴミ捨て場でボヤ騒ぎがあり、桃子は警察官から注意喚起を受けることになった
ゴミ捨て場はいつもルールを守らない人がいて、桃子はその後始末を小言を言いながらもしていた
街にも不審な影が近づき、さらに夫の行動にも不穏な動きが出てくる
そして、ついに夫から「あること」を打ち明けられることになったのである
テーマ:愛憎の連鎖
裏テーマ:心を揺るがす要因
■ひとこと感想
予告編の情報だけで鑑賞
江口のりこが徐々におかしくなっている妻を演じるとのことで、それがどんなものかを観る感じになっていました
離れに住んでいる夫婦という設定、その離れに先祖の写真が飾ってあるという状況がすでに不穏さを感じさせます
映画は、近所のボヤ騒ぎと同時に進行する夫の不倫によって心が掻き乱される様子が描かれていましたね
夫のそっけない態度から倦怠期に入っていることは想像できますが、それ以上に夫婦関係が破綻していることは見て取れます
その理由が夫の不倫であることは中盤あたりでわかりますが、あの対応から察することは容易でしょう
突然入る出張、用意したワイシャツは乱れることなくスーツケースに入っている
これだけで匂わせは完了していて、あとはいつそれが暴露されるか、という感じになっていました
ともかく不穏な感じに進み、緊張感が画面から滲み出る作品でしたね
湿度というよりは粘度の高い作品で、終わった後にドッと疲れが押し寄せる内容だったと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画では、何不自由のない生活をしている桃子が描かれますが、町内の不審火騒動から心がざわつき、それと同時並行で家の中も不穏なことだらけになっていきます
離れに住んでいるというのは二世帯住宅とは違った意味合いがあって、その対比として、桃子の実家が兄家族と母親が同居している状態になっていました
ここにも居場所がないことを悟るのですが、母親になれなかったトラウマというものが彼女の根幹にあることがわかります
映画の後半にて、桃子と夫の結婚が略奪婚であることがわかり、ほぼ同じようなことが起こっていることがわかります
桃子は婚前に流産をしていて、不倫相手の妊娠が嘘ではないかと疑うのですが、母子手帳を見せられて落胆をしていました
その後、その家を出た後に物音がして慌てて戻るのですが、ここに彼女の優しさというものが滲み出ていたように思います
結果として、因果応報的な報いを受けることになるのですが、解放されて良かったのではないかと思います
義母も「もっと若い時に自由になっていたら」と言うように、再出発は早い方が良いのは間違いないでしょう
彼女は来た道を戻ることはできませんが、前向きになれば、どこでも生きていけるんじゃないかな、と感じました
■報いの先にある試練
本作の桃子は、略奪婚の末に真守と結婚することになったのですが、二人の子どもを流産していたことを隠していました
これによって、真守の家族からの信用を失っていて、結果的に離れに住むという距離感を強いられていました
でも、この離れは「代々、そのようないわくつきの家系が繋がった歴史」というものがあって、そこに住まわされていることは「一員」であると認められているとも言えます
記憶が正しければ、初瀬家の先祖の写真が飾られているのは離れの方だったと思います
桃子に降りかかるものは、言ってしまえば通過儀礼のようなもので、乗り越えるべき試練のようなものなのでしょう
このまま、この家に居続ける必要があるならば耐えなければならないものでしたが、最終的にこの悪しき慣例というものは終わりを告げることになりました
試練とは、進むべき道を行くためには必要ですが、その価値がない時には単なる障害でしかありません
桃子にとっての、この家における冷遇の正体を考えると、それが不要なものにも思えてしまいます
それは、真守自身が桃子から離れていることが決定期となっていて、それ以上のものはないように思えます
桃子は、おかしくなったふりをし続けるのですが、それ以上にこの家はおかしさを内包していました
そう言った意味を思えば、おかしいふりをしてあげるということが、この家における真っ当さの表現のようにも思えてきます
とは言え、それで何を得るのかはわからず、不毛な時間だけを過ごしているように思えました
そして、その時間に勝ちをもたらしたものがチェーンソーというアイテムだったのかな、と感じました
■タイトルの意味
本作のタイトルは『愛に乱暴』というもので、公式HPのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のレポート<後編>のインタビュー内にて、「人を好きになることは幸せないことなんですが、人を愛しすぎると人は狂っていく。愛の中には乱暴さがあり、乱暴さの中に愛がある、という物事は表裏一体、紙一重であることがタイトルに込められていると僕は捉えています」という監督の言葉がありました
これは原作を読んだ上での監督の解釈ということになります
その他のインタビューなどは下記のURLを踏んでみてください(公式HPのNEWSの項目になります(2024年7月8日にUPされたものです)
また、新潮社の原作者へのインタビュー記事に『愛に乱暴(2013年)』の項があり、この小説は編集者の裕子さんという女性から聞いた「ヘンな夢の話」がもとになっている、と答えています
元々は「裕子の夢」という仮のタイトルがあり、原作者は桃子に共感するところが一つもないと答えていて、「彼女のすぐ後ろで透明人間になって見ているという感覚」で書かれたものとなっています
これは、桃子というキャラクターを俯瞰的に見ていくことにより、彼女が起こす行動を楽しんで、驚きながら書き留めていくというスタンスになっています
本作以外の作品に関しても色んなお話が聞けるので、気になる人は下記のリンクを辿って見てください(新潮社の愛に乱暴のページの下の方に記事があります)
https://www.shinchosha.co.jp/book/128756/
個人的な解釈となると、乱暴だからこそ愛であると言えるのかなと思いました
それは、相手に対しても、自分に対しても、一定の乱暴さというものがあるというもので、この対義語になるのが「真守の桃子への感情」、すなわち無関心であると思います
桃子は愛に対する過度な執着を持っていて、それが暴力的のように映っています
彼女がチェーンソーを買うことになったのは、かつての愛の源泉を掘り起こしたかったからだと思われますが、それを周囲が理解することは難しいように思えました
特に、あの家には桃子に対して愛情を持っている人はいないので、なおのことおかしな人にしか見えていなかったのだと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、桃子がチェーンソーを持っているという衝撃的なビジュアルが先行し、その行動に関しては理解不能という距離感があるように思います
彼女がチェーンソーを購入したのは、離れの床下に埋められていた「流産した子どもの思い出を掘り起こすため」なのですが、あれがあの場所にどうして埋められたのか、という説明はなかったりします
それでも、購入即行動ということを考えれば、埋めたことも場所もわかっているので、封印されたものをどうやって解き放つのかを常に考えていたようにも思えました
彼女の激情的な部分を考えると、おそらくは埋めたのは本人で、当時はあそこまでしっかりした床板ではなかったと考えられます
それを封印することで、新しい生活へと前向きになっていたのだと思いますが、流産したという事実が関係性を悪化させるに至っていました
そうして、その関係性の破綻が明確になった今、それを掘り起こそうと考えたのではないでしょうか
また、映画では町内のボヤ騒ぎというものが描かれていて、それに対して桃子が過剰な関心を寄せていることがわかります
おそらくは、家が燃えてしまうと、消火活動や捜査などが行われることになり、それが見つかってしまうという先読みがあったのかな、と感じました
あの封印を思い出すこと=現実が不幸という構図になっているので、その不安さを蒸し返すことになったのが一連のボヤ騒ぎのように思えます
そうして、不安の種が発芽したところに、夫の告白があり、それによって桃子はあの家と決別するための準備に入らざるを得なくなったのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101291/review/04209456/
公式HP: