■マモルが守りたい物語は、彼の内側にあったのかも知れません
Contents
■オススメ度
後悔ともしもの物語が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.2(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2024年、日本、111分、G
ジャンル:スランプの漫画家と彼の前に現れる幽霊を描いた青春映画
監督:榊原有佑&武桜子&野田麗未
脚本:林青維
原案:Seta「幽霊ハイツ203号」
キャスト:
山下幸輝(堀真守:新人賞受賞後にスランプに陥る漫画家)
(幼少期:中村羽叶)
桃果(佐倉春:マモルの幼馴染)
(幼少期:秋本月椛)
宇陽大輝(小森海:小学生の幽霊)
斎藤汰鷹(山本樹:中学生の幽霊)
竹原千代(落合愛:女子高生の幽霊)
岡部たかし(林光太郎:マモルの担当編集者)
坂井真紀(佐倉さら:春の母)
占部房子(堀マリコ:マモルの母)
三浦貴大(羽車杏悟:中学の図書室の先生)
竹中直人(倉田:中学の課外授業の引率)
さかたりさ(野々村かな:樹の担任の先生)
吉田日向(樹のクラスメイト)
りきまる(樹のクラスメイト)
吉田伊吹(樹のクラスメイト)
森美理愛(放送部の生徒?)
大村つばき(夏海:春の小学時代のクラスメイト)
沼田あきら(亜希:春の小学時代のクラスメイト)
佐藤光(春の小学校時代のクラスメイト)
吉田海怜(春の小学校時代のクラスメイト)
seta(春の小学時代の理科の先生)
加島知枝(愛の担任の先生、高校)
真宮葉月(編集部の女性社員)
髙橋飛夢(イベントの弾き語りミュージシャン?)
■映画の舞台
日本のどこかの都市(関東圏)
ロケ地:
千葉県:松戸市
光英VERITAS中学校・高等学校
https://maps.app.goo.gl/2jZq3by5fsXGx67U8?g_st=ic
東京都:武蔵村山市
村山医療センター
https://maps.app.goo.gl/HtGwzLcqZXr2aaCB9?g_st=ic
神奈川県:三浦市
みうら映画舎
https://maps.app.goo.gl/J6AKJDEsEGufHjFY6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
新人賞を受賞した漫画家の堀マモルは、それ以降にスランプに陥っていて、原稿を持ち込んでは編集者の林にこっぴどく酷評されていた
マモルの部屋はいつも電灯が不安定で、ブレーカーが落ちていないのに消えることがしばしばあった
そんな時にはいつも、彼の周りに3人の幽霊が現れていて、マモルとの会話を楽しんでいた
ある日のこと、漫画が描けずに悩んでいることを打ち明けると、幽霊たちは「僕たちの話を漫画にして欲しい」と言い出す
マモルは、小学生、中学生、女子高生それぞれから話を聞き出して、それを漫画にしていく
そんな中で、幽霊たちが抱える後悔に気づき、マモルは彼らの本心を聞き出して、漫画にしていくのであった
テーマ:後悔の先にあるもの
裏テーマ:自信を築く根幹欲求
■ひとこと感想
原作の存在は知らずに鑑賞
noteというアプリで作品を公開しているsetaというアーティストの原案が元になっていて、映画化とともにブラッシュアップされて世に出た作品となっています
note自体は私も使っていて(競馬の予想ブログですが)、いろんな人がいろんなものをアップしていますね
映画は、スランプになった漫画家がどうしてスランプになったかを描いていて、そこにはある秘密があった、というテイストになっています
それが幼馴染との関係性になっていて、彼女が何らかの理由で今はいないということが前半でわかるようになっていました
彼の前に現れる3人の幽霊も「そうなんだろうなあ」というそのまんまになっていて、彼自身が加筆する部分というものは、彼だからこそできる部分なのかな、と思いました
監督が3人という珍しい邦画で、初めはオムニバス形式なのかと思いましたが、そんなことはなかったですね
丁寧に作られた作品で、第四の壁突破が登場しますが、演者もとても好感の持てる感じがしました
メディア露出が少ない作品でWikiもまだなかったりしますが、鑑賞できる地域にいるなら行っても損はないと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
幽霊がマモル自身であることは早々にピンときますが、高校時代が女子高生になっていたのは、マモル自身の春との関係性を表していたのだと思います
でも、おそらく春の方はそうではない感じで、その想いというものは最後まで隠して旅立ったように思えました
映画では、過去の後悔を成仏させるというテイストで進み、自らの筆で、自身の過去を清算していく流れになっていました
そんな中で、いつの間にか病死していた春との関係が最後までどうにもなりませんでした
さよならを言えなかったことが最大の原因でありますが、二人で歩むはずの夢がぼっちの道になってしまったことで拍車がかかったようにも思います
春は病気が原因で、いつかいなくなることがわかっていたのですが、おそらくはこの関係のままずっといたくなかったという想いもあったと思います
でも、映画はマモルの視点かつ、彼の解釈によって進んでいくので、その想いに辿り着けなかったのは切なく感じました
■スランプと原点回帰
本作は、漫画家のスランプを描いていて、その理由が「実は話を考えた人はすでに死んでいた」というものになります
いわゆる作画だけの漫画家が話を作れないというもので、それゆえに「新しいもの」が生み出せない状況になっていました
それでも、彼の過去が漫画を描くことを願い、それが新しい作風へと繋がっていきます
大したエピソードがなくてネタに枯渇しますが、これまでは「他人の物語」を描いていたので、「自分の物語」を描けるようになっただけ成長しているとも言えます
漫画家に限らず、多くの創作者は「自分をどのようにして作品の中で表現するか」というものを具現化している存在だと思います
このブログは創作物ではありませんが、感想を通じて自分の価値観を披露しているわけで、その手段が「文章」ということになっています
物語でそれを行える人を小説家と言い、エッセイならエッセイスト、漫画なら漫画家、絵なら画家、音楽ならミュージシャンというように、様々な表現方法というものがあります
また、トークや芸などのように繰り返し発信されるけど、回数を重ねることによって変化していくもの、というものもあります
これらを習得し、一線級でで活躍している人でさえスランプというものは訪れてしまいます
それは、時流に沿った変化をできていないとか、スタイルが時代に合わなくなったというものもあると思いますが、ある種のネタ切れとか迷いが生じている段階だと思います
そこから復帰する最も効果的なものは原点回帰になりますが、それはそのスタイルを取り戻すというものではなく、「なぜこのスタイルを選んだのか」などのように「形が生まれた理由」を突き詰めることになります
わかりやすく初心に帰るとも言われますが、時流を掴むことができた感覚とか、売れなくても貫きたかったものを取り戻すことで、瞬間的な復活ではなく、永続的な復活の道標というものが見つかる可能性があると思います
私にはこれしかできないというだけではなく、自分にできるものが受け入れられた理由を分析すると、それをそのまま継続していくのが良いのか、根幹の部分を変えずにスタイルをアップデートすれば良いのかが見えてくるのではないでしょうか
このブログはまだバズってはいませんが、わかりやすい特性というのは「等身大の疑問とその解決」だと考えています
その表現のために「文章」を使っていますが、時流を考えるとトークとか映像の方が良いのだと思います
それでもブログにしているのは、単に人より文章を書くのが速いとか、自分の適性を考えてのものになっています
今後、何かしらのきっかけでトークをすることがあって、それがハマるようならスタイルが変わるかもしれませんが、根本の「等身大の疑問とその解決」というものを見失わなければ良いのではないかと考えています
■交わらない想いと続いてしまう夢
本作の主人公マモルは、春という同年代の異性と作品を作り上げてきたのですが、二人の根幹となる部分には異なる感情があったと思います
マモルから春にある感情は憧れで、春からマモルにある感情は恋愛
これが如実に現れているのが、高校生時代の春が女子高生の姿をしている、というものになります
当初は「幽霊がマモルではない」というミスリードの一環だと思っていましたが、どうやらそんな単純な問題ではなかったように思います
春は病気を患っていて、今後一緒に漫画を作れないということで突き放すことになるのですが、それ以上に「漫画家と原作者の立場のままでいる」ということに苦しんでいたように思えます
マモルは物語を作れないので、いろんな物語を考えてくれる春のことを尊敬していますが、彼は春がその物語に込めている感情までは理解していません
春は物語を通じて、マモルに告白をしているのですが、彼は鈍感ゆえにスルーされてしまっているのですね
それとタイムリミットが設定されていることから、春の中でリセットしたいという感情が生まれていったのだと考えています
マモルが創作者として弱いのはこの部分であり、自分の中にある感情を別のキャラクターの中に落とし込むことができないのですね
それゆえに直接的な作風になってしまうのですが、これは彼自身の作風と味であると言えます
その資質を持ったままでいることも大切ですが、彼自身がその弱点に気づかないままだと春との関係は変わらないままなのですね
この想いが交わってしまうとマモルの創作者としての人生も終わってしまうと思うので、それらに配慮した状態が春の決断なのかな、と感じました
春とのタッグがなくなることでマモルはそれでも夢を追い続けるのか?
それに直面しているのが冒頭のシーンになると思いますが、彼自身は漫画を描くこと自体は好きでやめられないのですね
それでも、漫画にはストーリーが必要で、そこには共感性のある個別なものというものが必要となっています
それを踏まえると、マモルが創作者として生き続けていくためには、春への気持ちに正直になって、すれ違いの物語を生み出していくことなのかな、と感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、漫画家としてブレイクをしそうでしない若手を描いていて、漫画家デビューのきっかけにあったのが共作となっていました
それを隠したまま漫画を描き続けることで、それが苦痛へと変わってしまいます
担当者も物語を作ったのはマモルではないと感じていて、これはプロならば容易に看過できるけど、相手が言わないのでツッコまないという感じになっています
また、ストーリテリング以外にも特筆すべきものがあったのだと考えられます
物語を漫画で表現する際に必要な能力はたくさんあって、単に物語が面白いだけでは通用しない部分があります
その物語をどのような絵柄で表現するとか、空間把握能力、感情の映像化など、様々な要素が必要になってきます
マモルの場合は、春の物語を丁寧に画に落とし込むことができて、その世界観を表現できていたのでしょう
ある意味、原作者の世界観を汲み取って、それを絵として表現しているのは凄いことだと思います
このような才能というものは稀有なもので、それゆえに編集者はマモルの作品の中に「自分」が降りてくるのを待っていたのだと思います
彼が彼自身の物語を語れるようになった時、それは感情が直接的に表現され、世界観というものもダイレクトになってきます
その時に初めて、漫画マモルというブランドが誕生し、ブレイクの時を待つことになるのではないでしょうか
そのブランド化は容易なものではないけれど、彼の場合は「喪失と後悔」という感情が常に付き纏うようにも思うので、それが理解できるようになれば一皮剥けるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100717/review/04207239/
公式HP:
https://mangaka-horimamoru.com/