■2019年6月14日(映画公開2日後)にスイスで何が起こったかを知っていますか?


■オススメ度

 

スイス映画に興味のある人(★★★)

村のゴタゴタコメディが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.10.9(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Tambour Battant(太鼓を叩く)、英題:Roll the Drum!

情報:2019年、スイス、90分、G

ジャンル:ブラスバンドの指揮を巡って争う遺恨のある男2人を描いたコメディドラマ

 

監督:フランソワ=クリストフ・マルザール

脚本:ニコラ・フレイ&フランソワ=クリストフ・マルザール

 

キャスト:

ピエール・ミフスッド/Pierre Mifsud(アロイス・ジルー/Aloys:12年目になるブラスバンドの指揮者)

 

パスカル・ドゥモロン/Pascal Demolon(ピエール・クレッタズ/Pierre:ローベルの息子、プロの音楽家)

 

サビーネ・ティモテオ/Sabine Timoteo(マリー=テレーズ/Marie-Thérèse:アロイスの妻、女性選挙権運動に興味を持つ)

アメリ・ペテルリ/Amélie Peterli(コリネット/Colinette:アロイスに反発する娘)

 

ジャン=リュック・ビドー/Jean-Luc Bideau(ロベール/Robert:元医師、ピエールの父)

 

ジュゼッペ・オリッキオ/Giuseppe Oricchio(カルロ/Carlo:アロイスの下で働くイタリア系移民の青年)

 

ローランド・ブイヨー/Roland Vouilloz(ジョルジュ=アンドレ/George-André:アロイスの親友、楽団員)

ピエール=イザイ・デューク/Pierre-Isaïe Duc(マルキュス/Marcus:アロイスの親友、楽団員)

フランソワ・フローレ/François Florey(ギュス/Gus:アロイスの親友、楽団員)

Roger Buchard(ロジェ/Roger:居酒屋の店長、アロイスの楽団員)

 

ベルナー・ビールマイアー/Werner Biermeier(アンリ/Henri:村の警察署長)

 

Florence Quartenoud(シャンタル/Chantal:女性選挙運動を手伝う女教師)

Bibi Holenweg(女性選挙運動の委員長)

 

Sara Barberis(ジョバンロナ婦人/Mme Giovanlona:マリー=テレーズの友人)

 

Philippe Matthey(フィリベール/Philibert:アロイスの楽団員?)

Paolo La Torre(マルチェッロ/Marcello:アロイスの楽団員?)

Marie-Lou Mottier(ステラ/Stella:?)

Camille Roduit(ジョセリン/Jocelyne:?)

 

【ピエールの楽団員】

Safi Martin Yé(ヌアージュ/Nuage:新加入のドラマー)

Elise Jacqumettaz(パール/Perle:新加入のトロンボーン)

Aylvia Tschopp(ソランジュ/Solange:新加入のクラリネット)

Daine Christoff(ギルダ/Gilda:新加入のヴァイオリニスト)

Ronald Favre(ベルナール/Bernard:新加入のサックス)

Sarah Mayor(ビルギット/Birgit:新加入のトロンボーン)

Patrick Jean(ジェラルド/Gérald:新加入のラバンジョー)

 

Franck Giovagnoni(デルコ/Delco:ケガする楽団員)

Nathalie Monnet(モニーク/Monique:ケガするピエールの楽団員)

Sarah Duthilleul(サラ/Sarah:ピエールのサインをもらう楽団員)

 

【その他】

Fabienne Berthoud(村の女性)

Sophie Rosset(メイド)

Philippe Bender(村長)

Pascal Emonet(カメラマン)

Jeannot Robyr(ガソリンスタンドの給油係)

Jordano Ceresa(オーディションの陪審員長)

Alan Miart(オーディションの陪審員)

Pascal Bruchez(オーディションの陪審員)

Michel Zermatten(警官)

Laurent Duc(村人)

Sébastien Coutaz(村人)

Mauricette Chevalley(村の委員会の委員)

Colin Aymon(喧嘩する少年)

Leny Bruhin(喧嘩する少年)

Serge Matthey(手当をする人)

Marlon Daengeli(カルロの叔父)

Yehan Dorsaz(ヴィート:カルロの兄)

Sofia Kamel(バーバラ:カルロの姉)

 

【ブラスバンドの方々:所属不明】

Thierry Abbet(カルダン/Cardan)

Martial Biftare(マーシャル/Martial)

Yorick Biselx(ヨリック/Yorick)

Matteo Bonvin(マテオ/Matteo)

Germain Bouscaglia(ジャーマン/Germain)

Caroline Bridel(キャロライン/Caroline)

André Clausen(アンドレ/André)

Fernand Clément(アルセーヌ/Arséne)

Elie Darbellay(エリー/Elie)

Yohan Darbellay(ヨハン/Yohan)

Léonce Dorsaz(レオンス/Léonce)

Michel Duay(ミッシェル/Michel)

Raphaël Favre(ラファエル/Raphaël)

Nicolas Franck(ニコラス/Nicolas)

Joël Gaillard(ジョエル/Joël)

Michel Giroud(ミシェル/Michel)

Baptiste Grange(バティスト/Baptiste)

Cédric Jacquemettaz(セドリック/Cédric)

Cyrille Jacquemettaz(シリル/Cyrille)

Jean-René Jacqumettaz(ジャン=ルネ/Jean-René)

Paukine Jean(ポーキーン/Paukine)

Lucas Jordan(ルーカス/Lucas)

Marko Korunovic(マルコ/Marko)

Jean-François Lattion(ジャン=フランソワ/Jean-François)

Eliot Maillard(エリオット/Eliot)

Line Marchet(ライン/Line)

Loris Minoia(ロリス/Loris)

Loris Nicolleraz(ロリス/Loris)

Henri Phlippoz(アンリ/Henri)

Nathan Purruchoud(ガンジ/Ganji)

Loris Polpni(ロリス/Loris)

Lisa Rey(リサ/Lisa)

Aloys Robellaz(ピーター/Peter)

Michel Rosseier(ミッシェル/Michel)

Jean-Marie Tornay(ジャン=マリー/Jean-Marie)

Christian Sauthier(クリスチャン/Christian)

Camille Zufferey(カミーユ/Camille)

Tox(旗手)

 


■映画の舞台

 

1970年、

スイス:バレー州

モンシュー村(架空)

 

ロケ地:

スイス:

Valais

https://maps.app.goo.gl/wLE2mr3WoKYTRFz68

 


■簡単なあらすじ

 

1970年のスイス・ヴァレー州にあるモンシュー村では、3年に一度の連邦音楽隊を目指すオーディションを控えていた

村の楽団の指揮者を務めるアロイスは12年間タクトを振り続けていたが、いまだに結果が出ずにいた

 

ある日、楽団員から「プロの音楽家を指揮者にしたい」と言われ、それによって楽団は真っ二つに割れてしまった

そして、新しい楽団の指揮者には、村を出ていった遺恨の相手ピエールが就くことになり、アロイスの心中はさらに激化してしまう

 

そんな折、アロイスの妻マリー=テレーズは学校の先生シャンタルがお手伝いをしている「女性の参政権運動」に加わることになった

アロイスは頑なに考えを変えぬまま、従業員のカルロをスパイとして潜らせ、彼らの動向を探ることになったのである

 

テーマ:諍いの火種

裏テーマ:思想の転換期に起こること

 


■ひとこと感想

 

かなり昔の出来事の映画化ということで、実際に起きた事件がベースになっています

とは言え、それを調べることはほぼ困難で、フランス語でググり倒して見つかるかどうか、という感じになっています

 

映画は、楽団が分裂する危機を描きつつ、村で起こっている女性参政権運動の余波というものに晒される頭の堅い男を描いていました

都会に出ているピエールはそう言ったものには抵抗がなく、村でずっと生きてきたアロイスとしては青天の霹靂のように感じているのだと思います

 

物語は、ほぼ痴話喧嘩の延長線上で、アロイスとピエールの関係性が判明した段階で脱力してしまいましたね

史実もこんなくだらないことだったのかは分かりませんが、当の本人としては死活問題だったのかな、と感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、卑怯の応酬になっていて、制服をカカシにしたかと思えば、レイシスト的な圧力をかけたりしていました

男尊女卑の真っ只中にあって、妻が女性の参政権活動をしていることを恥だと考えてしまう男がいる時代でしたね

そんな中で、移民の労働者と娘が恋仲になるというエピソードがあって、その顛末も追っていくことになっていました

 

ラストでは、「葬式?」と思わせてからの結婚式という、何を目的にしたのかわからない演出がありましたが、いろんなものが端折られすぎているので、こういうものだと理解するしかないように思います

 

両方の楽団で100人近くいたはずですが、80人ぐらいが食中毒か何かでオーディションを欠席するハメになっていましたね

あのワインがどこから来たものかもよく分かりませんでしたが、練習もしていないのに演奏ができるのはファンタジーにしか思えませんでした

 


女性の参政権の歴史

 

映画の舞台はスイスの山奥の村で、その村にも女性の参政権運動が及んできたことが描かれていました

主人公アロイスの妻マリー=テレーズはその運動に積極的になっていて、それが原因で夫との関係が悪化していくようにも見えています

 

スイスにおける女性の参政権運動は、1971年2月の国民投票によって連邦選挙における投票権を獲得したところで一応の決着がついています

歴史的には、1959年2月に女性参政権の関する国民投票が行われたのが最初で、その時点では67%が反対という結果になっていました

それでも、スイスのいくつかの州(フランス語圏)では、州の国民投票の権利を獲得するに至っています

 

スイスはヨーロッパ諸国に比べて遅れを取っていて、その理由として「政治システムとしての直接民主主義の弊害」というものが指摘されています

連邦および州での普通選挙の導入には、国民投票における選挙人(当時は男性のみ)の過半数の投票が必要となっていました

連邦憲法改正に対しても、州の過半数の承認が必要だったために、ハードルが高かったとされています

 

この直接民主制によって、物事は政府ではなく当時の男性が決めるというものになっていて、女性の民主化への道が暗礁に乗り上げていました

また、兵役と関係していて、戦争への意思表明をするのは兵役義務のある者だけだった、というものがあります

兵役義務のない女性への参政権というものがこの宣言にそぐわないと考えられていて、それゆえになかなか過半数を超えることができませんでした

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作は、前時代的な田舎者のアロイスと、都会帰りのピエールの対立になっていて、そんな村に女性参政権の運動が波及してきた、という舞台になっていました

この構図のどこまでが史実ベースなのかは分かりませんが、フランス語でググってもほとんど情報が出てこないのですね

なので、史実ベースの物語だけど、そこを軽く無視しておいて、どうなったら映画が面白くなったのかを考えることにします

 

映画は、分かりやすい対立構造を描いていて、保守的な田舎者アロイスと革新的な都会帰りピエールが対決するというものになっています

二人は実は恋敵で、マリー=テレーズは「私が選んだの!」と娘に熱弁していて、このシーンは笑うところだったのかもしれません

彼女がアロイスを選んだ理由は分かりませんが、アロイスとの生活を続けていく中で、このような結婚の形は限界である、と悟ったのだと考えられます

そして、女性参政権を巡る運動に参加することによって、スイス国内で起きているうねりに巻き込まれていくことになりました

 

妻の心理的な変化というものがどのようにして起こったのかを描く必要があって、単にアロイスの魅力が薄れたのか、新しい価値観に晒されることによって、相対的にアロイスの考えがナンセンスと思えるようになったのかが分かりません

参政権運動への参加も当初は怖いもの見たさのようなところがあって、それを手伝っていくことで感化されたという感じになっています

でも、それと同時にアロイスを悲観的な目で見るようになっていて、時代に取り残されて変われない悲哀というものを感じ取っていくことになります

 

アロイスがどのように立ち直り、前時代的思考から抜け出すのかを描く必要があるのですが、それが食中毒の影響がなかったメンバーで演奏する、では弱すぎるように思います

演奏ありきでアロイスの変化はおざなりになっているように思えるので、明確なターニングポイントがあっても良かったように思いました

その為に都会から戻ったピエールがいたわけで、彼がどうして玉石混合のバンドの指揮を取ろうと考えたのかなどの哲学的な話をすればマシだったように思えました

時代はアロイスを置いて行く方向に向かっていて、その波に妻はすでに乗っている

なので、一緒に添い遂げるためにはアロイスが変わらなくてはいけないので、その根本が変わってから、ピエールのバンドの指揮を執るという方向の方がメッセージは強いのですね

食中毒で双方が満身創痍というのは良いと思いますが、アロイスの楽団のメンバーに対して、一緒に変わろうと宣言するシークエンスがあっても良かったのかな、と感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は2019年の作品で、何で今更日本で公開されたのだろうと思っていました

当初はスルーしようかなと思っていたのですが、この映画が作られた時代に興味があったので、その影響を見てみたかったというものがあります

映画公開年の2019年の6月にスイス各地でストライキが起こっていて、このストライキでは女性の権利向上運動のイメージカラーである「紫色の衣装」を着て更新するというものがありました

この運動には50万人以上が参加し、賃金格差や保育園不足などの問題が影響を及ぼしています

当時の女性の平均賃金は男性よりも18%程度低く、女性の8時間労働は男性の3時間半という状況になっていました

 

映画の撮影は2018年で、ストライキが起きるかどうかわからない時期に作られていますが、機運自体は高まっていたのだと思います

このストライキは1991年(Grève suisse de 1991)以降2度目となるもので、この時はヴィー州ジュラという街で働く数人の時計職人が発端となっていました

この動きが50万人にまで膨れ上がり、当時は「同一労働・同一賃金」「社会保障の平等」「差別・セクハラの根絶」などが訴求されていました

このストライキによって、「連邦平等法」というものが制定され、ストライキが起きた「6月14日」は「スイスにおける女性の権利を象徴する日」となっています

 

この映画がこれらの出来事に関連していると感じたのは、フランス語圏スイスにおける公開日が「6月12日」だったからなのですね

2日後が女性の権利の象徴日となっていて、明らかに狙っての公開だったのかなと思いました

実際には当時の記事がググれないので、公開日を2日前にした理由まではわからないのですが、事前にストライキの計画がわかっていたのなら、その直前を指定したのには意味があるのかな、と感じました

映画が公開され、その2日後に大規模なストライキが起きる

これを偶然ですよと考える方が微妙だったので、結構政治色の濃い映画だったのかな、と感じました

 

日本では10月4日というよくわからない日に公開になっていますが、そこはせめて「女性の日(4月10日)」か、「国際女性デー(3月8日)」じゃないの?と思ってしまいました

ちなみに4月10日が女性の日なのは、1946年に戦後初の総選挙が行われ、初めて女性の参政権が行使された日で、1949年に労働省によって「婦人の日」と制定されています

また、3月8日が国際女性デーなのは、1975年に国連総会にて「国際婦人年」というものが提唱された日なのですね

そして、3月8日は「ミモザの日」とも呼ばれていて、黄色いミモザの花がシンボルとなっています

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/102028/review/04349778/

 

公式HP:

https://culturallife.co.jp/roll-the-drum/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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