■「ルート29」を擬人化すると、ハルのような少女になるのかなあと思いました
Contents
■オススメ度
不可思議な世界を旅する映画が好きな人(★★★)
『こちらあみ子』が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.11.12(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2024年、日本、120分、G
ジャンル:ある母親の頼みごとを叶える清掃員を描いたロードムービー
監督&脚本:森井勇佑
原作:中尾太一『ルート29、解放(書肆子午線刊)』
Amazon Link(単行本)→ https://amzn.to/3Z30PMf
キャスト:
綾瀬はるか(中井のり子/トンボ:娘を連れてくるように頼まれる清掃員)
大沢一菜(木村ハル:母のもとに送り届けられる娘)
市川実日子(木村理映子:ハルの母)
虎井雅子(理映子の担当看護師)
河井青葉(中井亜矢子:のり子の姉、小学校の先生)
久保田磨希(広子:のり子の同僚)
川面千晶(弥恵:のり子の同僚)
千國めぐみ(千佳:のり子の同僚)
播田美保(シャケ師匠:ハルの知り合い)
あかね&ジョリーン(坂本:シャケ師匠の飼い犬)
伊佐山ひろ子(赤い服の女:ドライブインで犬を探す女)
モアナ&ルアナ&ハリア(赤い服の女の愛犬)
我妻恵美子(ドライブインの無言の店員)
高良健吾(森でキャンプする父)
原田琥之佑(森でキャンプする少年)
大西力(じいじ:事故に遭ったおじいさん)
松浦伸也(牧場の大きい男)
渡辺美佐子(時計屋のおばあさん)
レ・ロマネスクTOBI(修学旅行の引率の先生)
風呂こころ(抜け出す修学旅行生)
大関悠士(抜け出す修学旅行生)
安藤蓮(抜け出す修学旅行生)
松森モヘ一(ゲストハウスの店主)
太田達哉(摘発警官)
岡田柴吉(摘発警官)
西東靖代(亜矢子の隣人)
有吉司(亜矢子の隣人)
浦沢義雄(喫茶店の神経衰弱おじいさん)
灘井紘明(喫茶店の神経衰弱おじいさん)
杉田協士(29号線の車中の父)
田中良子(29号線の車中の母)
細田幹太(29号線の車中の少年)
荒巻全紀(警察官)
鈴木晋介(警察署の警察官)
能島瑞穂(連行する女性警官)
一木良彦(連行する警察官)
村上由規乃(ハルを護送する女性警官)
大美賀均(のり子の主治医の声)
鈴木伸(テレビ番組の音声)
各務梓菜(ニュースキャスターの声)
■映画の舞台
鳥取~姫路~鳥取
ロケ地:
兵庫県:姫路市
姫路城
https://maps.app.goo.gl/xdY5EqSPTxdSpc8P7
男山配水池公園
https://maps.app.goo.gl/M4Y97Eo3EaEgNJNf9
カフェ・ド・ティファニー
https://maps.app.goo.gl/j5e7PDVg1FLmYqTX6
兵庫県:宍粟市
ドライブインオアシス
https://maps.app.goo.gl/qfSwtCA9kp79RDr46
鳥取県:八頭郡
物産館みかど
https://maps.app.goo.gl/mvU9uCfHuKFzW1V29
鳥取県:米子市
メイちゃん農場
https://maps.app.goo.gl/Y8nkQaqX9mDrhMzE7
■簡単なあらすじ
鳥取にて清掃員として働いているのり子は、人付き合いが苦手で、最小限のコミュニケーションしか取らない女性だった
ある日のこと、精神病院の清掃に入ったのり子は、入院患者の理映子から話しかけられた
「もうすぐ死ぬんや」と言う理映子は、死ぬ前に娘と会いたいと1枚の写真を手渡した
その写真は6歳の時のもので、今は12歳くらいになっていて、彼女は姫路に住んでいると言う
そこでのり子は清掃ワゴンを拝借して、一路姫路へと向かった
ゲストハウスで暖を取りながら、方々を探していると、商店街をローラースケートで爆走する少女を見つける
彼女が写真の女の子だと確信したのり子は、彼女の後を追っていくと、ある空き地の秘密基地のようなところに辿り着いた
身を潜めていたのり子だったが、不意に物音を立ててしまい、女の子に気づかれてしまう
のり子は事の顛末を彼女に話し、一路鳥取へと向かうことになったのである
テーマ:死ぬ前に見たい風景
裏テーマ:往復の境界線
■ひとこと感想
ポスタービジュアルぐらいしか観ずに参戦
綾瀬はるかが謎の少女を母親の元に連れていくと言う内容で、道中はかなり観念的な感じになっていました
原作は詩集ということで、物語などは脚本(監督)によるものだと思いますが、原作に「解放」という文字があるように、何かから解き放たれる物語なんだろうと思っていました
映画は、いわゆるロードムービーのような内容で、道中で不可思議な人たちに出会うと言う物語になっています
29号線が選ばれた理由などは調べている最中ですが、おそらくは伊勢道には行かない道と言う意味合いがあるのかな、と感じました
かなりスローテンポの内容で、意味のわからない描写なども多いのですが、ファンタジックな中盤を思えば、ラストはかなり現実的な路線に戻ったなあと思いました
のり子が一連の出来事に傾倒する理由は様々だと思いますが、その理由が理映子と通ずるところがあるのではないでしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作にネタバレがあるのかは何とも言えませんが、ハルを無事に母親に会わせることができたと言うのが物語の顛末になっています
その後、事件化している行動にケリをつけるエンディングになっていますが、のり子としては未来のことなどどうでも良いのだと思います
道中で出会う人は基本的に死んでいる人で、のり子自身もすでに死んでいるのかなと思わせる場面がありました
ある意味、精神的な何かが体を借りてハルを導いているようなもので、夢物語のように思わなくもありません
冒頭とエピローグがかなり現実路線なので、全部が夢みたいなことではないと思いますが、夢っぽさの方が優っているように感じられます
鳥取~姫路~鳥取の往復ではありますが、わずか3時間程度の距離でロードムービーを作るのは無理があるように思いますね
ほとんど景色も変わらないし、現地民以外だと、どこで鳥取に入ったのかもわからないような気がします
印象的なエピソードはあまりなく、ワンシーンがかなり長いので、眠気との戦いになってしまいました
■国道29号線はどんなところ
国道29号線というのは、兵庫県姫路市から北に向かってほぼまっすぐに伸びている国道で、鳥取県鳥取市へと続く一般国道のことを言います
その起源は、1885年(明治18年)の「國道表」の22号「東京より鳥取県に達する路線」とされています
この路線は姫路にて現在の国道2号線と分岐していて、その先は現在の国道179号、国道373号、国道53号のルートを経て、鳥取まで至っていました
その後、1886年に戸倉峠を経由する現在のルートに変更されています
元々は、山陰地方で採れる鉄を畿内に運ぶ産業道路としての役割がありました
「日本後紀」にも記述があり、そこには「因幡国八上郡の莫男駅、智頭郡の道俣駅 馬各二匹を省く。大路に縁らず、常用希を以てなり」と書かれていました
馬が2頭通れるかどうかわからない程の細い道ですが、その道が廃止されることはなかったとされています
その後、「正保国絵図」が作成された1650年(慶安3年)頃には街道としての整備され、それ以降の「元禄・正保国絵図」でもそのルートが残されていきます
さらに、その時期には宿舎などが建つようになっていました
1813年(文化10年)、伊能忠敬が美作道及び因幡道の測量を行うと、「正保国絵図」のコースに修正が加えられ、「旧街道」という扱いになります
これは揖斐川による舟運ができたことによって、流通が変わったからとされています
その後、1957年(昭和32年)には一般改築事業が行われるようになり、現在の国道へと変わっていくことになりました
ちなみに、鳥取側では「若桜街道」と呼びますが、この道は鳥取城の城外郭の薬研堀の若桜口惚門を出て、八頭郡若桜町を通って、戸倉峠を経由して姫路に至るルートのことを言います
浅井という場所を越えたところで分岐点があって、左に行くと伊勢道(現在の国道482号線)、道に行くと播磨道という分かれ道になっていました
伊勢道は氷ノ山を越えて伊勢道に向かう道で、「但馬道」とも呼ばれていました
そして、現在の29号線となる播磨道は「因幡街道」と呼ばれていて、そのまま姫路へと続くルートとなっています
■彼らに視えていたものは何?
物語は、鳥取で清掃員として働くのり子が、清掃に訪れた精神病棟の患者・理映子から「姫路にいる娘ハルを探して連れてきて欲しい」と頼まれる物語でした
姫路に向かったのり子はハルを見つけ出し、そのまま29号線を旅する中で、いろんな人々と会っていく様子を描いています
理映子は「自分はもうすぐ死ぬ」とのり子に言い、「これまでは裏切られてきたが、今度こそ本当に死ぬ」と言っていました
のり子には円形の脳腫瘍があり、彼女も死の淵にいる人間であると言えます
この二人が交わったことによって、死にたい人と死にたくない人という構図が出来上がっていました
ハルはのり子にトンボというあだ名をつけるのですが、それは「死にたくない自分」から切り離された人格であるように思えます
そして、ハルの誘導によって、トンボは奇妙な世界へと誘われます
犬が逃げてしまった赤い服の女には車を奪い去られ、これによって二人は歩くことを強いられてしまいます
また、事故車の隣に佇む爺さんは地縛霊のようだし、不思議な親子にも遭遇することになります
この親子の父は「人間社会は牢獄で、彼らの未来は悲惨なものだ」と言い、彼らも生きているかどうかわからない存在のように描かれていました
その後、トンボは姉の亜矢子に会いますが、彼女はトンボに対して「ゾッとするほど冷たい人間だった」と言いました
それは生前の姉が妹に対して感じていたこと、のように思えてしまいます
個人的には、この29号線で会った人間はハルも含めて全員死人だった、あるいはハルが引き寄せたものではないかと感じています
それは、理映子との出会いによって死を意識し、ハルによってその先にあるものを見せてもらうことになった、と言う印象があるからなのですね
理映子には、のり子の中にある死への観念というものが見えていて、それを感じ取って、ハルを使わせたのかな、と思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の原作にあたるのは中尾太一の詩集『ルート29、解放』であり、その詩集からインスピレーションを受けた監督が物語を紡いでいます
その詩集の中で、「自分とそっくりな「国道29号線」」という言葉があり、また「国道29号線」を擬人化して、話し相手にしていたりします
29号線と対話をする場面もあり、それは自我と他者の関係性を追求していくもののように思えます
29号線を理解することは自分を理解することだと思うし、自分を理解するために29号線が必要なように思います
映画では29号線には語り掛けませんが、29号線が見せるものが「トンボ自身が探していたもの」のように思えてなりません
トンボは他人に無関心な人間で、道中で会った人と話す時も傍観者だし、車が奪われ、こだわっていたようなメモが流されても反応をしませんでした
そんな彼女の毛嫌いしているのが姉でしたが、それが変わらないことも理解しているのですね
そして、姉のとの会話にて登場した「宙を泳ぐ魚」というものが、ラストではハルの目の前に現れるという構成になっていました
おそらくは、その魚に飲み込まれたことによってのり子は人に無関心になったのだと思いますが、それはその話をしても反応がなかったというエピソードがあった(姉の反応)からだと思います
それによって、自分の中で起こったことを誰かに話しても、そこにはあまり意味がなくて、人は思った以上に他人に無関心なのだということを悟ったのかもしれません
ラストにて、宙を泳ぐ魚がハルの前に現れたのは、トンボ自身が彼女に伝えたかったものだと考えられ、ハルならば「自分の夢の話も無関心ではなく聞いてくれるのでは」と考えたからかもしれません
ハルはどこにいても必ず相手に反応する人間で、森の少年の話を聞いた時も「知らない」という言葉を用いて反応しています
これは上の空で聞いたふりをするトンボとは正反対の反応になっていて、この物語はトンボがハルを通じて「自分自身の無関心の正体」というものを感じる物語のようにも思えました
となると、ハル自身が中尾太一における29号線ということになり、それはのり子自身とも言えます
実際にどのような解釈が行われていたのかは監督のみぞ知ると思いますが、なんとなくこんな感じなのかなあと思ってしまいました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101443/review/04464554/
公式HP: