■人類の住む世界は「動物界」のほんのわずかな領域なのに、全てを支配している気になっていると思います


■オススメ度

 

動物化する人間を描いた映画に興味がある人(★★★)

人類愛がテーマの作品に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.11.11(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:Le régne animal(動物の王国)、英題:The Animal Kingdom(動物の王国)

情報:2023年、フランス&ベルギー、128分、PG12

ジャンル:動物化する奇病が蔓延するフランスを描いたファンタジースリラー映画

 

監督:トマ・カイエ

脚本:トマ・カイエ&ポリーヌ・ミュニエ

 

キャスト:

ロマン・デュリス/Romain Duris(フランソワ・マリンダース/François Marindaze:罹患した妻を持つ夫、料理人)

ポール・キルシェ/Paul Kircher(エミール・マリンダース/Émile Marindaze:フランソワの息子)

Florence Deretz(ラナ・マリンダース/Lana Marindaze:獣人化しつつあるフランソワの妻)

 

アデル・エグザルコプロス/Adèle Exarchopoulos(ジュリア・イスキエルド/Julia Izquierdo:南仏の憲兵隊の曹長)

 

トム・メルシエ/Tom Mercier(フィクス/Fix:カラスに変化する男)

 

ビリー・ブラン/Billie Blain(ニナ・モクタリ/Nina Moktari:エミールのクラスメイト、ADHD)

Gabriel Caballero(ヴィクトール/Victor:エミールのクラスメイト)

Iliana Khelifa(マエーレ/Maëlle:エミールのクラスメイト)

Paul Muguruza(ジョルダン/Jordan:エミールのクラスメイト、金持ち)

 

Xavier Aubert(ジャック/Jacques:レストラン「ラ・タンカダ」の店主)

サーディア・ベンタイブ/Saadia Bentaïeb(ナイマ/Naïma:ウェイトレス、フランソワの同僚)

 

Maëlle Benkimoun(グレノール/Grenouille:ナエマが匿うクリーチャー)

 

ナタリー・リシャール/Nathalie Richard(ヴァレリー・ボードアン教授/Professeure Valérie Beaudoin:ラナの主治医)

 

Tom Rivoire(憲兵の中尉/Lieutenant gendarmerie)

Francois-Xavier Raffier(ボーン巡査/Gendarme Bonnel)

Sébastien Boissavit(憲兵隊の司令官/Commandant gendarmerie)

Anwar El Kadi(診療所の警察官/Gendarme infirmerie、治療)

Clément Corbiat(受付の警察官/Gendarme accueil、署名)

Célia Lalande(監視塔の警察官/Gendarme tour de guet)

 

Louise Lehry(校長/Professeure principale)

Jean Boronat(EPSの教師/Professeur EPS)

Maxime Sebile(高校生)

Lillian Gauguin(高校生)

Julien Pierre(高校生)

 

Nicolas Avinée(渋滞中に語りかけるドライバー/Conducteur voisin)

Kévin Dubertrand(クリーチャーにビビるドライバー/Conducteur)

 

【森にいるクリーチャー/Créature】

Victoria Belen Martinez

Jérémy Marchand

Fabrice Colson

Clément Dazin

Ismael Bangoura

Maël Sauvaget

Nicolas Fabian

 


■映画の舞台

 

近未来の地球

フランス南部

 

ロケ地:

フランス:

ランド/Landes

https://maps.app.goo.gl/sY1DcN3Tf117JeWR6

 

リバーニャック:

Château de Bridoire

https://maps.app.goo.gl/xKg3dr7USJP4LHP18

 

グラディニャン/Gradignan

Collège Fontaines de Monjous

https://maps.app.goo.gl/6PdmoMbPBeSvX1cz5

 

ル・タンプル=シュル=ロ/Le Temple-sur-Lot, Lot-et-Garonne

Solar Café

https://maps.app.goo.gl/WrQHrucFbhb8sGtG7

 


■簡単なあらすじ

 

なんらかの感染症か突然変異にて獣人化する人類が出現し出したフランスでは、隔離措置と研究がなされ、南仏に新しい保護施設が建設されていた

罹患した妻ラナを持つフランソワは、息子エミールとともに施設のある南仏に移り住むことになり、フランソワは現地のレストランで働くことになった

 

エミールは現地の高校に通い、そこでADHDの女子生徒ニナとその友人たちと仲良くなっていく

そんな折、父の元に突然の知らせが入った

それは、母を護送していたトラックが嵐で横転し、中にいた罹患者たちの行方がわからなくなったと言うものだった

 

フランソワとエミールは現地に赴き、憲兵隊を振り切って現場へと突き進む

そこには池の中から引き上げられる車両があり、曹長のジュリアは40人ほどが行方知れずのままだと言う

そこでフランソワは、規制線を無視し、単独でラナを探そうと森に入るのであった

 

テーマ:人類愛はどこまで続くのか

裏テーマ:獣人化することの意味

 


■ひとこと感想

 

何の話かほとんど調べないままに参戦

ポスタービジュアルからはホラーか何かだと思っていたのですが、実際には現代社会の暗喩のようになっていましたね

病気か突然変異かわからない獣人化と人類との分断を描いていて、「それ」を何と呼ぶかで差別意識がわかると言う内容になっています

 

映画の主人公は、妻が獣人化した夫であり、息子も獣人化の兆しが見えると言うものになっていました

何がそうさせているのかなどの科学的な話はほぼゼロで、どの獣になるかの因果もわかりません

カラスになりかけている男フィクスにしても、中途半端な獣人化の途中で、完全にカラスになってしまうのか、半獣人になるのかはわからない感じになっていました

 

映画は、徐々に獣人化する若者を描いていきますが、それは母親の方向に近づいていることを意味します

それゆえに父親のスタンスは姿がどうなろうと息子は息子と言う感じで、社会の実験材料にならないように匿っていく様子が描かれていました

獣人化に対する人々の対応も様々で、恐怖に駆られるもの、差別意識が露呈するもの、そして神格化するものなどが現れていきます

そうした中で、フランソワはどうするのかという決断が描かれていて、それは現時点での最良ということになるのかな、と感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、奇妙な世界観を描いていますが、これはどの病気でも起こり得ることのように思います

それを意図してか、ADHDのニナをエミールと接近させ、社会から爪弾きにされている者同士の共鳴というものが描かれていました

獣人化に関しては、細かく観察していれば気づくというもので、父親が先に気づかないのは「妻探し」に明け暮れているからなのでしょう

 

物語としての着地点は、治療という名の実験に息子まで差し出してしまうのか、というものがあり、国家が行なっている治療の全貌がわからない中で、直感的な決断をするという内容になっていました

フランソワの決断は誰もが思うもので、同僚のウェイトレスのナエマも同じように獣人を匿っていたりします

 

前半で「医者の言うことが一番信用できない」というエミールの言葉があるのですが、これは元々フランソワの口癖だったのですね

これが後半の決断の決め手となっていますが、憲兵隊が捜索から外されたあたりから「やはり信用できるのは自分だけ」と言うマインドに切り替わっていったように思います

憲兵のジュリアにもエミールのことは打ち明けられないのですが、彼女はフランソワがエミールを匿っていることに気づいていましたね

国家側にいても不信感は募っている様子を察することができますが、それぐらい人類がコントロールできるようなものではないと言うことなのだと感じました

 


獣人化の先にあるもの

 

本作は、謎のウイルスか何かの影響で人類が獣人化していく様子が描かれていきます

主人公のフランソワの妻ラナは何らかの病気に罹っていて、その治療もままならないという感じになっています

そして、息子のエミールにもその兆候が出始めている、という内容になっていました

医療が機能していないのか、実は隠された別の目的があるのかという感じで、主人公は医療に関して肯定的ではない、という立場を取っていました

 

ラナの治療のために南フランスのある施設に行くことになりますが、彼女を乗せたトラックが事故を起こし、そこから行方不明になってしまいました

これによって、実験&治療から逃れることになり、ラナは文字通り野生へとシフトしていくのですが、それは獣人化を推し進める結果となっていきます

ラナはすでに獣人化しつつある人間で、エミールは発症したてという感じになっていて、母親と同じようになるのではと懸念していました

獣人化した親を持つ苦悩と、同じようになってしまう苦悩

そして、そばには無能で理解力の低い父親がいることで、エミールのストレスはマックスになっていきます

 

獣人化するカラクリなどは明かされませんが、未知なることに遭遇した時に、人は何を頼るべきかというのがテーマになっていて、政府などの機関はあまり役に立たないことがわかります

また、疑心暗鬼を起こすのが人間である間となっていて、獣人化するとそういった思考は消えて、野生的な判断にて、自己の生命を維持する方向に向かうのですね

人間社会から隔離されていくことになるのですが、それが悪いことなのかは何とも言えません

獣人化途上が一番危険でもあり、理解できないものへの許容度が低いのは人類の特徴で、それがわかっているからこそ怖いという感じになっています

 

獣人化して、人類と意思疎通ができなくなると、愛玩的な一部の種族を除いたら、生息域を分離するより他はないと思います

映画は、その区分を強いられる親子を描いていて、本能的には人間の管理下に置かないほうが良いとフランソワは感じています

それは自身が懐疑的な人間であるほどに強まる思考となっていて、生きる世界の違いというものを理解していく必要があります

フランソワはエミールの獣人化に気づき、一度は政府の管理下における治療を考えますが森の中に彼を逃す選択をします

その選択が理性的な領域で行われたというよりは、感覚的な判断のだったのですが、その判断こそが人類の中に眠る「獣の領域」のように思えてなりません

 


幸福の境界線

 

本作には、映画ではカットされたエピローグがありました

ヨーロッパで発売済みのDVDには特典として入っているようで、その内容は「森が完全なる生物保護区となる」という内容になっていて、人類は生態系を分けて管理をしていくように描かれています

保護区内に入れるのは完全獣人化した人類のみのようで、保護区内にある監視塔の中にいるジュリアは、獣人化の兆候が見られて、徐々にコンタクトを取り始めていきます

フランソワは未だその兆候が見られませんが、彼は保護区内にいて、セイウチ男と一緒にいるナイマと共にいます

エミールと関係を持ったニーナは保護区外からエミールを探し、彼の声を聞くと安心するし、多くの叫び声の中からフランソワは息子の声を確認したりしています

 

感覚的な部分で意思疎通ができていて、理解があればその中にいられるのか、それとも潜伏しているのかまではわかりません

それでも、この後日談が削除されたというのは、その後を明確にしない方が良いという判断が下されたのだと思います

人類の思考の行く末としては、そう言った区域を保護区という名のもとで「管理」をしたがるので、そう言った方向に向かうのは必然のように感じます

映画のタイトルが「動物の王国」という意味なので、このラストに出来上がった保護区がそれを意味しているのだと思いますが、それは人類のエゴ丸出しの世界だったりするのですね

なので、そう言った部分を排除することによって、区分けのない世界で不干渉をしていく状態で映画を終わらせることになったのかな、と思いました

 

意思疎通が不可能とされる世界では、野生的な感覚が全てを凌駕します

人類が保護区を作ろうとするのは、そう言った種族を危険に晒すのが人類であるという認識があるからなのでしょう

かつて、特徴的な人類を見世物にしてきた歴史や、相違を受け入れられずに排斥するということが起こってきました

人類との違いを区別する認識というのは曖昧なのですが、意外なほどに細かな違いに敏感な種族であると思います

 

そう言った観点からすれば、人類は多様な民族がひしめき合う中で区分けをしつつ、その領域の侵犯にかなり敏感になってきた歴史がありました

かつては言葉がそれを区分けし、見た目が区分けし、今では思想が区分けしていきます

許容度が恐ろしく低い人類の本質を考えれば、何を基準にして区分けをするのかという歴史があって、今は過渡期のように思います

民族と思想という区分けが混同している今が一番危ない時期であるのは言うまでもないと思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作では、獣人化していく過程の家族を描いていて、すでに獣人化している母、徐々に獣人化しつつ息子、全くその気配がないという父親という構造になっています

獣人化に対して理解度の低い父は、理解度が高くともに暮らしているナイマと出会うし、獣人化しつつある息子は獣人化が完成した世界に憧憬を抱くようになります

息子は自分が獣人化しつつあるので、それに理解を示さない父というのは恐怖の対象のように思います

母親のようになっていく怖さもありますが、それ以上に不寛容な父に見つかった時にどうなるのかという怖さの方が強かったように思いました

 

映画は、類稀なる美術によって獣人化していく様子が描かれ、半獣人の苦悩なども描かれていきます

一番不幸に思えるのが中途半端な状態で、その過程を理解していても、苦悩までは分かち合えません

完全に獣人化した人ならば過程を理解できても、その段階では意思疎通もできないので、難しいのだと思います

半獣人としては、早く獣人化を終わらせたいと思うし、元に戻れるのなら戻りたいでしょう

でも、治療という名の実験に耐え得るかは別の問題で、本作のように懐疑的だとその身を委ねることはできないと思います

 

映画は、何となくコロナパンデミックを準えているところがあり、未知なる病に対する人々の許容度を描いているようにも思えます

でも、コロナと違うのは「見た目が変わること」であり、より罹患者というものがビジュアルではっきりと示されている世界に見えてしまいます

何を失えば違うものになるのかとか、何が残っていれば変わらないのか、という命題もあって、本作では「変わらないものを感じることができる」という救いを描いているのでしょう

かなり独特な世界観ではありますが、ビジュアルと訴求力の強さは間違いないので、観ても損のない映画だったと思いました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101543/review/04461945/

 

公式HP:

https://animal-kingdom.jp/

アバター

投稿者 Hiroshi_Takata

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA