■民意にそぐわない意思決定の裏側で、民意に機敏な妻が政局を動かしていたのですね
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■オススメ度
大統領夫人の物語に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.11.13(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Bernadette
情報:2023年、フランス、93分、G
ジャンル:シラク大統領夫人の政治活動を描いた伝記映画
監督:レア・ドムナック
脚本:クレマンス・ジャルダン&レア・ドムナック
キャスト:
カトリーヌ・ドヌーヴ/Catherine Deneuve(ベルナデット・シラク/Bernadette Chirac:シラク大統領の妻)
ドゥニ・ポタリデス/Denis Podalydès(ミッケー/ベルナール・ニケ/Bernard Niquet:ベルナデットのイメチェン担当)
ミシェル・ヴィエルモズ/Michel Vuillermoz(ジャック・シラク/Jacques Chirac:フランスの大統領、ベルナデットの夫)
サラ・ジロドー/Sara Giraudeau(クロード・シラク/Claude Chirac:ベルナデットの末娘、ジャックの個人顧問)
バーバラ・シュルツ/Barbara Schulz(オーロール/Aurora:クロードの助手)
ローラン・ストッカー/Laurent Stocker(ニコラ・サルコジ/Nicolas Sarkozy:3年前に裏切った政治家、のちのフランスの大統領)
フランソワ・ヴィンセンテリ/François Vincentelli(ドミニクド・ヴィルパン/Dominique de Villepin:ジャックの選挙参謀)
ヴィクトル・アルトゥス・ソラーロ/Victor Artus Solaro(ダビド・ドゥイエ/David Douillet:ジャックの選挙参謀)
ヴァンサン・プリモー/Vincent Primault(グサヴィエ・ベルトラン/Xavier Bertrand:オー=ド=フランス地域圏議会の議長、ジャックの友人)
オリヴィエ・バラザック/Olivier Balazuc(アラン・ジュペ/Alain Juppé:フランスの政治家、シラク大統領時の首相、保守派)
スカリ・デルペイラット/Scali Delpeyrat(ジャッキー=ピエール/Jacky-Pierre:ジャックの執事)
ライオネル・アランスキー/Lionel Abelanski(イヴォン・モリニエ/Yvon Molinier:ジャックの専属運転手)
モード・ワイラー/Maud Wyler(ロレンス・シラク/Laurence Chirac:ジャックの娘、拒食症)
ジャッキー・ネルセシアン/Jacky Nercessian(ムーレ神父/Father Mouret:ベルナデットの相談役)
オリヴィエ・ブライトマン/Olivier Breitman(カール・ラガーフェルド/Karl Lagerfeld:ベルナデットが好むブランドのファッションデザイナー)
Bertrand Goncalves(ベルナデットのアシスタント)
パトリック・パルー/Patrick Paroux(マスター・グルンドマン/Master Grundmann:顧問弁護士)
ステファン・ブーシェ/Stéphane Boucher(ヴァル=ド=グラース/Val-de-Grâce:医師)
Emilie Pierson(ローレンス/Laurence:看護師)
Louis-Marie Audubert(おしゃべりな隣人)
Christian Scelles(コレーゼ総評議会の議長)
Thierry Souffir(コレーゼの総評議員)
アロイス・メニュー/Aloïs Menu(市場のワイン商人)
Lionel Aknine(市場の肉屋)
Florence Prévost(フランソワーズ/Françoise:市場の客)
Libérette Coutier(マルグリット/Marguerite:サイン会のファンの女性)
Pirotte Juliette(ミレーヌ/Mylène:コレーズの農家の人)
Stéphane Hausauer(飲酒検問の警察官)
Laurence Oltuski(『パリス・マッチ』のジャーナリスト)
Anne Eyer(『パリス・マッチ』のカメラマン)
Jérémie Graine(2002年のジャーナリスト)
Philippe Couerre(PQRのジャーナリスト)
Bernadette Chirac(本人役、アーカイブ)
【Choriste(コーラス隊)】
Léo Fernique
Marie-Claude Barthélémy
Jean-Marie Doucet
Serge Fortin
Guy Givry
Françoise Guerchovitch
Bernard Hubert
Camila Rocaboy
Claudine Scali
Caroline Vettori Charnassé
Nicolas Certenais
Martin Laskawiec
Marion Rybaka
Julia Scoatariu
■映画の舞台
1995年~2007年、
フランス:パリ
ロケ地:
フランス:
ランス/Reims
https://maps.app.goo.gl/T2utHnPqkkiGpazN7?g_st=ic
エペルネー/Épernay
https://maps.app.goo.gl/Sx2ThieWsipoPvgf9?g_st=ic
ベルサイユ/Versailles
https://maps.app.goo.gl/fiExjxwCDDQJc2Kv5?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1995年、フランスのパリでは、時期大統領選の準備に入っていた
ジャック・シラクはリオネル・ジョスパンを下し、エリゼ宮殿に入ることになり、妻のベルナデットも晴れて大統領夫人となった
ベルナデットは常に夫の後ろに立つように言われてきたが、彼女はコレーズ県議としての職務もあり、そのイメージを刷新する必要が出てきた
「古きフランス」から脱却するために、ミッケーことベルナール・ニケがPRの担当となり、現状分析を始める
ベルナデットのイメージは「古臭い」「気難しい」などのネガティブな言葉が立ち並び、それをどのように変えるかが問われていた
そこでベルナデットは、有名人を起用して慈善事業へのアピールをしたり、若者ウケを狙ってクラブなどに顔出しをしていく
その行動は夫を刺激するものの、幾度もの大統領選での包括的な状況把握に長けており、国民人気も相まって、大統領選の切り札としての立場を固めていくことになったのである
テーマ:時勢と感性
裏テーマ:古風と刷新
■ひとこと感想
ジャック・シラク大統領の妻の伝記で、彼を支えてきたファーストレディ時代を描いていました
地方県議を兼務していたとは驚きましたが、似ている女優さんを選んだというわけではないと思いますが、妙に貫禄があるなあと思って観ていました
映画は、そこまで深掘りという感じではなく、2回の大統領選の背景を描いていて、3回目に関しては病気で辞退という流れになっていました
このあたりの流れは最近のことなので知っている人も多いかな、と思います
映画の冒頭で「これはフィクションです」を2回強調していましたが、アーカイブと合成したりと無茶な展開になっていて、ほとんどコメディ映画のノリになっていましたね
柔道選手とのコラボとかOK出たのか分かりませんが、思いっきり嵌め込み動画なっていて驚いてしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
伝記映画なのでネタバレというのはないと思いますが、どの部分を切り取っているのかというところはネタバレに近いのかもしれません
映画は、ベルナデットの私生活というよりは政治家としての側面を描いていて、自伝を出したり、慈善活動に傾倒する様子が描かれていきます
さらに、当時のフランスの考え方の変化を描いていて、結婚して夫の後ろに控えるのが女性の役目というものが過渡期になっていたと思います
95年に大統領夫人となってから、エリゼ宮殿に入ることになり、生活が変わっていくことになりました
でも、冒頭で示されるように「どこまでが事実かわからない」という感じになっていましたね
それでも、運転手との顛末は本当のようですね
映画ではイヴァンという名前になっていますが、実際にはジャン=クロード・ローモン(Jean-Claude Laumond)という人で、著書はおそらく『Vingt-cinq ans avec lui』であると思われます
細かなエピソードは忠実で、ある程度のフィクションを混ぜているのだと思いますが、おそらくは「夫の許可はいらないわ」というセリフなんじゃないかなあと思いました
当時のセリフとしてはメッセージ性が強すぎるのですが、現代に向けたものだとすれば強烈なインパクトを残すと思います
実際にベルナデットがどのような思いで夫の敵であるサルコジと密約を交わしたのかは分かりませんが、「夫を変えろ」とまで言われたことに対するパンチとしてはエッジが効いていると思います
そういったところも含めて「フィクション」を強調しておいた方が、何かと都合が良いのかな、と感じました
■ベルナデットはどんな人?
ベルナデット・テレーズ・マリー・シラクは、1933年生まれのフランス人で、夫はフランス大統領ジャック・シラクでした
シラク大統領は1995年5月17日から2007年5月16日まで大統領として活躍していたので、その間は「ファーストレディ」という立ち位置になっています
シラク大統領の後任は映画でも登場するニコラ・サルコジで、彼との関係性が後半に描かれていました
ベルナデットとシラクは政治学院時代に出会い、1956年3月16日に結婚しています
二人の間にはローレンス(8歳で死去)と劇中で登場するクロードの二人の娘がいて、元ベトナム難民のアン・ダオ・トラクセルという養女がいます
2001年以降に、少額の寄付金を集めて、フランスの病院の子どもたちを支援する慈善団体「Opération Pièces jaunes」を設立し、パトロンを務めていて、クロード・ポンピドゥ(フランスの元ファーストレディ)の死去に伴って、「クロード・ポンピドゥ財団」の会長に就任することになりました
映画でも描かれるように、1995年からジャックの大統領選挙運動に関わるようになり、2002年の夫の再選では重要な役割を果たしたとされています
また、コレーズ県(夫婦の故郷)の県議会議員という側面も持ち合わせていました
1933年に生まれたベルナデットは、敬虔なカトリック信者の家族に生まれ、父親は第二次世界大戦中にドイツで投獄されていました
母とベルナデットはロット=エ=ガロンヌに逃げることができ、サント=マルトの学校に通いました
その後、ロワレ県のジアンへと逃れ、1945年に父親と再会を果たしています
戦後はパリに戻り、6区にて居住し、パリ政治学院へと進学することになりました
政治家としては、1971年にコレーズ県サランの市議会議員に選出され、1977年にはサラン市長補佐官を務めていました
1979年にはコレーズ県議会議員に選出され、その後6回の再選を果たしています
■時代背景について
シラク大統領の一期目は1995年で、9人の候補者が立候補に名乗りをあげていました
第1回目の投票では634万票を獲得し、リオネル・ジョスパンには及びませんでしたが、第2回投票にて52.64%の得票にて大統領となっています
争点となったのは、イデオロギーの対立を煽るとか、社会構造の変革というよりは、国家元首として相応しいのは誰かというイメージ選挙になっていたとされています
雇用問題は主要候補全員の優先課題となっていて、シラク候補は「失業者のための社会保障政策よりも景気回復が優先」という立場を取っていました
それによって、「イニシアティヴ雇用契約」という企業援助による雇用創出政策を推し進めるようになります
一方のジョスパン候補は、社会福祉政策を重点とした大型プロジェクトを提案し、労働者に対する社会保障政策を重点に置いていました
当選後、同年11月には、シラク大統領率いるフランス政府によって、フランス国鉄、パリ交通公団、フランス電力公社、フランスガス公社などの職員が加入する「公務員特別年金制度」の改革に着手をするようになります
当時の首相アラン・ジュペは「公務員の年金受給資格の取得期間の延長を盛り込んだ改革案」を国民議会に提出し、それに反対する公務員や学生たちが大規模なデモを起こすことになりました
さらにゼネラル・ストライキが3週間にわたって発生し、フランスの公的セクションの多くがストップする事態になってしまいました(これによってアラン首相は退任に追い込まれています)
2002年の大統領選挙では、ジョスパンや極右のジャン=マリー・ル・ペンを破って再選を果たしますが、この時に活躍したのがベルナデットだとされています
シラク大統領は、2001年のアメリカ同時多発テロを受けて、報復攻撃としてのアフガン侵攻に賛同していましたが、当選後の2003年のイラク戦争では反対を表明していました
そして、2007年の大統領選挙では、保守派の重要候補であるニコラ・サルコジとの関係性が取り沙汰され、出馬するかどうかという瀬戸際に追い込まれます
結果として、映画のように引退を表明し、サルコジを支持することになるのですが、この時に動いたのもベルナデットというふうに描かれていました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
シラク大統領の支持が下がったのは、欧州憲法の国民投票とされています
急速な欧州統合政策は、東欧からの労働力の流入を招き、外国人増加による社会文化の変質が国民不安を招いていました
それによって、2005年の国民投票にて欧州憲法が拒否され、当時の首相のシュレーダーも総選挙で敗北して退任することになりました
さらにロビー活動の一環として、2012年の夏季オリンピックのパリ招致を積極的に推し進めるものの、ロンドンに敗れてしまい、同年10月には主要各都市で起きたパリ郊外暴動事件で戒厳令を発するようになりました
これは、移民同化政策の綻びによる、「若者向け初期雇用契約」を核とする機械均等法を制定したことによる国内の暴動で、ストライキなども多発するようになります
この時点での支持率は29%と第五共和制下の大統領支持率としては最低記録となっていました
このような四面楚歌の状況で3選目を考えていて、ベルナデットはもう無理だと感じていました
このままでは政界に居場所がなくなると考え、そこでニコラ・サルコジと秘密裏の約束をすることになります
サルコジを支持する代わりに居場所を残せというもので、それがシラク大統領の事実上の政治家引退を示唆するものとなっていました
映画では、そのような政局下におけるファーストレディの活躍というものを描いていて、実に政局に敏感である様子が描かれていました
それは彼女自身が政治家であったこともありますが、地方の声を身近に感じていたからだと言えます
そこで起こっている民意というものは、やがて国民の声として集約することになっていて、その火種を感じる能力に長けていたのでしょう
このあたりは夫の政治音痴を強調することになっていますが、フィクションなので良いのかな、と思いました
映画は、ベルナデットをカトリーヌ・ドヌーヴが演じているのですが、本当に再現性が高い方に思います
ビジュアルが似ているというよりは、イメージにピッタリという感じで、この人以外にいないと思わせるには十分だったと思います
本人自身が自分を演じるならカトリーヌ・ドヌーヴというように何かしらシンパシーを感じていたのだと思いますが、それが実現するところがすごいなあと思ってしまいました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/102224/review/04467202/
公式HP: