■もしかしたら、重大なパラダイムシフトの転換点を目撃したのかもしれません


■オススメ度

 

おさかなが好きな人(★★★★)

さかなクンに興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.9.2(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、139分、G

ジャンル:小さい頃からおさかな大好きなミー坊の半生を描いた青春映画

 

監督:沖田修一

脚本:沖田修一&前田司郎

原作:さかなクン『さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!(2016年、講談社)』

 

キャスト:

のん(ミー坊/さかなクン:お魚大好き小学生→高校生→おとな)

 (幼少期:西村瑞季

 

柳楽優弥(ヒヨ:ミー坊の幼馴染→不良→TV局員)

 (幼少期:中須翔真

島崎遥香(谷崎ゆりえ:ヒヨの彼女、芸能人)

 

夏帆(モモコ:ミー坊のクラスメイト→キャバ嬢→シングルマザー)

 (幼少期:増田光桜

長尾柚乃(ミツコ:モモコの娘)

 

磯村勇斗(総長:ミー坊の親友)

岡山天音(籾山/カミソリ籾:ミー坊の親友、寿司屋を開業)

前原滉(田村:ミー坊の旧友、総長の連れ)

奥秋達也(赤鬼:ミー坊の旧友、総長の連れ)

三河悠冴(青鬼:ミー坊の旧友、総長の連れ、バタフライナイフ使い)

 

宇野祥平(おさかなショップ「海人」の店長)

賀屋壮也(酒井:バイト先の水族館の先輩飼育員)

 

鈴木拓(鈴木先生:高校の先生、カブトガニの飼育をミー坊に託す)

 

長谷川忍(木戸まさし:テレビ番組「あやしい動物園」のMC)

朝倉あき(浜野庄子:番組のアシスタント)

 

豊原功輔(ミー坊に水槽設置を依頼するリッチな歯科医)

 

さかなクン(ギョギョおじさん:地元に住むおさかなに詳しいおじさん)

大方斐紗子(「さかなクン」と命名する漁港のおばあちゃん)

 

三宅弘城(ジロウ:ミー坊の父)

井川遥(ミチコ:ミー坊の母)

田野井健(スミオ:ミー坊の弟)

 


■映画の舞台

 

日本のどこかの漁港近くの町

 

ロケ地:

静岡県:沼津市

横浜圏:横浜市

 

神奈川県:綾瀬市

綾瀬市立北の台小学校(通う小学校)

https://maps.app.goo.gl/cS9sxunrvYmyjcYd7?g_st=ic

 

東京都千代田区(パレット買うお店)

レモン画翠 建築模型材料 本店

https://maps.app.goo.gl/DWZA3ZnNb3hGUjzq5?g_st=ic

 

静岡県:沼津市

あわしまマリンパーク

https://maps.app.goo.gl/gQv7Rg4vokcQw5Jy5?g_st=ic

 

静岡県:静岡市

東海大学海洋科学博物館

https://maps.app.goo.gl/tcY4C3nER6B3Sd4UA?g_st=ic

 

岡山県;笠岡市

笠岡市立カブトガニ博物館

https://maps.app.goo.gl/gebwKj3knCJyaUFg9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

子どもの頃からおさかな大好きのミー坊は、来る日も来る日もおさかなのことばかりを考えていました

クラスメイトのヒヨやモモコはそんなミー坊の日常に連れ添っています

 

町にはおさかなに詳しいけど、噂の絶えないギョギョおじさんがいて、父は「知らない人と遊んではダメ」と言うものの、母は「人を信頼する人生を歩んでほしい」とミー坊については寛容的でした

 

ミー坊は中学に上がっても変わらず、同じ中学の不良・総長らに絡まれますがマイペースを貫きます

そんな総長らは隣町の不良と対抗していて、それが小学校の時の同級生ヒヨでした

 

それから大人になったミー坊は、水族館でアルバイトしたり、寿司屋で働きますが、思ったような仕事にありつけません

そんなとき、シングルマザーになったモモコと再会し、一緒に住むことになりました

ミー坊は二人のためにもっと働こうと考えますが、モモコの娘・ミツコのためにパステルを買ったその日、二人はどこかへ消えてしまいます

 

ミー坊はパステルを手にして、包み紙におさかなの絵を描き始めるのでした

 

テーマ:好きなことの続け方

裏テーマ:家族の理解

 


■ひとこと感想

 

さかなクンのことはあまり詳しく知りませんでしたが、経歴がスゴいことだけは知っています

そんな彼(劇中では「女でも男でもどっちでもいい」と宣言されますが)のエッセイを元に構築された作品ということで興味を持って鑑賞しました

 

あらすじ欄がほのぼのとしてますが、映画のテイストがまさにあんな感じの朴訥さで、なんとなく釣られてしまいましたね

 

さかなクンの前半生を描く作品で、そのルーツが窺える内容になっていて、カブトガニの人工孵化、ミー坊新聞、寿司屋のペインティングは実話だそうです

本人もカメオ出演していますが、町にいるちょっとアブナイおじさんと言う感じに描かれていて、よく引き受けられたなあと思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

彼の数々の偉業はほぼ知らず、とにかくおさかなの被り物をした芸人か何かだと昔は思っていました

いきなり濃いのが来たなあと言う感じで、あまりおさかなに興味がないので、稀にワイドショー関連で「ギョギョ」と言っているのを聞いたことがあるくらいの認識でしたね

でも、語られる知識はとても豊富で、おそらくは相当知識のある人なんだろうなあぐらいには思っていました

 

そんなさかなクンの自伝ということで、俄然興味が湧き、しかも異性ののんさんが演じるということで、どうなってんの?と思っていました

でも、本編を見ると納得できて、これはさかなクンの人生を描いているようでいて、実は子どもの頃の夢を諦めなかった人全般へのメッセージになっていました

 

母親の寛容さは恐れ入るばかりで、全てを受け止める覚悟のある母というのは素晴らしいと思います

一方で、魚があんまり好きではなかったという暴露話もおかしくて、コミカルというかユーモアの質がとても上質で微笑ましいと思いました

 


さかなクンはどんな人?

 

さかなクンの本名は宮澤正之で、東京海洋大学の名誉博士、東京海洋大学の客員教授という肩書きを持っています

特定非営利活動法人「自然のめぐみの教室」の室長でもあり、多方面に活躍の場を広げている方ですね

映画に登場するカブトガニのエピソードは実話で、中学3年生の時に「19個体の人工孵化に成功した」とされています

 

その後、高校3年生の時に「TVチャンピオン」とくバラエティ番組に出演し、「第3回全国魚通選手権」で準優勝、その後同番組で5連覇を果たします

その後は設問イラストの提供、スタジオゲストなどとして参加していて、芸名である「さかなクン」は小学生時代に呼ばれていたあだ名だと言われています

キャラクター的には「TVチャンピオン」の時から一貫しているそうですが、ハコフグの帽子を被り出したのは2001年の「どうぶつ奇想天外」に出演した際からですね

伊豆の海で潜るロケ番組をしていた時に、ディレクターの一声がきっかけだと言われています

 

その後、専門学校を卒業し、水族館やペットショップなどを転々として、寿司屋にたどり着きます

その時に店内で魚のイラストを描いたことがきっかけで、それによって絵の仕事が来るようになりました

イラストレーターとして活躍していたさかなクンは、テレビのドキュメンタリー番組に出演し、それがアナン・インターナショナルの会長の目に留まったとのこと

この時から絵の展示をしてもらったり、サイエンスライターとしての活動が生まれたとされています

 

2010年には京都大学の中坊徹次教授の依頼でクニマスのイラストを担当した際、参考のために全国から近縁種のヒメマスを取り寄せました

そのうちの西湖の個体にクニマスに似た特徴を持つものを発見して教授に提示、のちに田沢湖のクニマスが西湖にも生息していることを発見することになりました

この一連の出来事によって、クニマスは絶滅種から野生絶滅への指定変更が行われ、魚類学者でもあった第125代の明仁天皇より名指しで感謝の意を伝えられたと言われています(天皇が個人名をあげて謝意を伝えることは極めて稀なことで一大ニュースになっていました)

 


好きなことを仕事にするということ

 

映画ではさかなクンことミー坊をのんが演じ、さかなクンがギョギョおじさんを演じるという設定がなされています

このオファーをよく引き受けたなあというのが率直な感想で、要は「好きなことをして生きている人の顛末」を両極端に描いていると言えます

ギョギョおじさんは町外れでひっそりと生活をしていて、好きなものに囲まれていますが周囲の理解は得られていません

対するミー坊も当初は否定的に捉えられていましたが、母の寛容、総長たちの理解を経て、活躍することになりました

 

どちらも起点が同じように見えますが、やはり母の寛容さというものが大きかったのかなと思います

母は普通ではないことを悪いとは思っておらず、その考え方の違いで両親が離婚しているように見える描写がありました

ミー坊の行動はそれほど他人に迷惑をかけていないように見えますが、最後に家族は結構辛かった的なことが描かれていました

母もそれほど魚が好きではなかったようですが、それを理由にミー坊を否定しません

 

子どもが何かに夢中になる時、大人は自分の価値基準でそれの是非を考える傾向にあります

その価値基準の多くは感情的なものと論理的なものに大別されるのですが、多くの場合、感情が優先されるように思えました

父はもともと魚があまり好きではないということと、ずっと魚のことを考えて生活できるわけがないという固定観念があります

でも、母は全く真逆で「ずっと魚のことを考えていてほしい」と思っていました

この立ち位置の違いの中で、ミー坊は純粋に魚のことを考える人生を歩み、それに反発する人がたくさんいる中で、理解者というものを獲得していきます

 

彼らがミー坊に対して理解者になり得たのは、彼ら自身の資質に依るところが大きいのですが、ミー坊自身が楽しそうにしているというところに憧れを感じているのかなと思いました

彼らの周りには不良がいて、不良というのはそもそも自分の生活とか環境に文句をいう存在で、反発することでアイデンティティを確立している存在でもあります

そう言った彼らからすると、ミー坊は自分たちを不良とは見ていないし、否定も肯定もせずにマイペースだったと言えます

このマイペースさというものがそれぞれの不良性の意味をなくしているように見えて、そこからはそれぞれが「いつまでもこんなことをしてもだめだ」というマインドになっていったのは道理なのかなと思ったりもしました

 

数年ぶりに会っても変わらないミー坊は、大人になったみんなからすればずっと憧れの存在でした

ヒヨは装飾的な女性関係の無意味さを痛感しますし、総長はミー坊をみんなに見てほしいと言うし、モモコは自分で生きていく覚悟を決めていきます

彼らの人生に対してミー坊は能動的ではないけれど、人は生きているだけで他人に影響を与えるものなので、そういったものがこの3人には生まれたということになるのだと思います

 

好きなことをして生きている人生は妬みも生みますが、その妬みの正体は自分の人生に対するこだわりと同様のものでしょう

そう言ったものが生まれたとき、それを攻撃性に転嫁してしまう人もいれば、それによって自分の変化の糧にする人もいます

どちらを選ぶかはその人次第であると思いますが、他人の行動に影響を受けて反応するだけの人生にあまり意味はないように感じています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

この映画の特徴は「さかなクンを女性が演じているけど、劇中内の扱いは男性的に見える」というところでしょう

実際にミー坊の性別がどちらかは言及されてなくて、ミー坊の見た目でこちらが勝手に判断しているだけだったりします

これはさかなクンのマインドに近いイメージがあって、彼が本名とか家族構成を公表しないところに原点があるのかなと勘繰っています

 

昨今のジェンダー問題に示されるように、何かを区分しなければ創作物は作れないのかと思うことはしばしばあります

はじめはさかなクンを女性が演じる意味というのはわからなかったのですが、映画を見るとのんさんが演じる意味というのも、女性が演じる意味というのもわかってきます

本作は「好きなことを一生できる人」とそうでない人の間にあるものを描いていて、さらに「好きなことを一生できて成功できる人とできない人」を描いているのですね

そうなった時に、題材の根底としてさかなクンがいて、そこでこのキャラクターを演じることができる人という側面からキャスティングすることが近道だったと言えます

 

これは映画制作などのこれまでの考え方とは真逆で、描くべき人物の内面を表現できる人を配置するというやり方なのですね

これまでだと、容姿が似ているなどの表面的な理由が真っ先に来ていたと思うのですが、単純にさかなクンの自伝映画を撮るという目的なら加藤諒さんとかを抜擢すると思うのですね

でも、この映画で描きたいのはそこではないので、逆のアプローチをした結果、のんさんに辿り着いたのだと思います

 

こうして見ると、映画に限らず「伝えたい物語をどう伝えるか」という基礎的な部分が重要になっていて、それに対する引き算の重要性というものを感じます

さかなクンのエッセイから伝えたいことを抜き出して、そこから引き算してできたのがこの映画だと思うので、単なる自伝映画になっていないところはすごいなあと思いました

今後、こういったテイストの作品も生まれてきて、このような形でジェンダー問題というものが収束していくような予感もします

そう言った意味において、画期的で素晴らしい作品になっていると思うので、歴史に残る映画になっていくのかな、と感じました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/381816/review/a5691a87-6b36-4ee8-bebe-1f3684904e31/

 

公式HP:

https://sakananoko.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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