■悪魔における悪の定義が変わっていくと、人間の善悪感に近付くのだろうか?
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■オススメ度
鳥山明ワールドが好きな人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.8.18(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、106分、G
ジャンル:砂漠の国の保安官が国民のために水源を探す中で、国家の陰謀にふれてしまうファンタジー映画
監督:横嶋俊久
脚本:森ハヤシ
原作:鳥山明『SAND LAND(集英社、2000年)
キャスト:(声の出演)
田村睦心(ベルゼブブ:ゲーム好きの悪魔の王サタンの息子)
山路和弘(ラオ:人間の保安官、元軍人)
チョー(シーフ:ベルゼブブの博識なお目付役)
大塚明夫(サタン:魔物を束ねる王、ベルゼブブの父)
茶風林(国王:砂漠の国を治めるバカな王)
飛田則男(ゼウ将軍:砂漠の国の実質的な支配者)
鶴岡聡(アレ将軍:国王軍の将軍)
吉富英治(ドクター・ポセ:虫人間を開発するサンドランドの科学者)
杉田智和(パパ:スイマーズのドン)
遊佐浩二(パイク:目が飛びっきり良いパパの息子)
吉野裕行(シャーク:痩せこけているが足は滅法速いパパの息子)
こばたけまさふみ(グッピー:規格外に太って大砲をぶっ放すパパの息子)
黒川雅史(ケンタウロス:ベルゼブブと一緒に国王軍から水を奪う魔物)
中根久美子(グレムリン:バルゼブブの仲間の怪力魔物)
松重慎(ガーゴイル:運動不足で空を飛べなくなった魔物、ベルゼブブのゲーム仲間)
小若和郁那(ゴースト:ベルゼブブの水奪取仲間の魔物)
手塚ヒロミチ(妖狐:ベルゼブブのゲーム仲間)
田中貴子(サテュロス:ベルゼブブの仲間)
伊丸岡篤(盗賊団のリーダー)
■映画の舞台
砂漠の王国サンドランド
■簡単なあらすじ
川が干からび、水が無くなったサンドランドでは、国が供給するわずかな水を高価で買うしかなく、国民の生活は困窮に瀕していた
国の保安官であるラオは、彼らのために「幻の泉」を探すことを決め、郊外に住んでいる魔物に助けを求めることになった
魔物の王子ベルゼブブは父サタンにお伺いを立てると言い、サタンは「手助けをしろ」と命令する
ベルゼブブはお目付役のシーフを連れてラオと同行することになったが、ラオは彼が国王軍から水を奪って国民に配っていることを知っていた
3人は砂漠を行くものの、砂漠に住むゲジ竜から逃げる際に荷物を捨てるハメになり、盗賊団の罠にかかって車もパンクしてしまう
そこで彼らはなぜか近くにいた国王軍の戦車を強奪する計画を立てることになった
シーフの整髪料を毒ガスに見立てて戦車強奪に成功した彼らだったが、この動きを察知した国連軍のゼウ大将軍は配下のアレ将軍に戦車強奪犯人の抹殺を命令する
そして、国に反旗を翻したとして指名手配を行い、ラオがかつて国を救った英雄シバ将軍であると暴露する
ラオたちには賞金が掛けられ、国王軍と盗賊団を交わしながら、幻の泉を探すことになったのである
テーマ:国を統治する詭弁
裏テーマ:英雄たる行動
■ひとこと感想
久々の鳥山明ワールドということで、かなり懐かしい感じに仕上がっていましたね
どこかの国の国家の暗躍に対抗する元英雄という構図ですが、さらに多重な構造になっていました
悪魔と人間は棲み分けがされていて、人間を襲うとかそういった関係ではなかったりします
このあたりのゆるゆるファンタジー感を楽しむ内容になっていて、プレステっぽいゲームで喜ぶ2500歳の悪魔の王子というところを笑えるかどうかでしょうか
映画は、かつて国を守ることになった事件の真相を描き、国を統治しているものの正体に気づくという流れになっています
勧善懲悪的なスッキリとする物語で、久々にわかりやすい童話のような作品に出会ったような気がしました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
人間と悪魔の関係はあまり説明されておらず、同じ自然界に住んでいる生物という感じになっていましたね
このゆるさが鳥山明ワールドという感じになっていて、悪魔=悪いやつという偏見へのアンチテーゼになっています
物語は、国王軍の暗躍を暴露する流れになっていて、過去の因縁を断ち切るラオの活躍が描かれていきます
でも、彼の優しさは最後の一撃を放つことができず、それを行えるところが悪魔と人間の違いのように描かれていました
映像的に新しい感じはありませんが、とにかく懐かしい感じに仕上がっていて、少しばかり郷愁を感じてしまう物悲しさがありました
このあたりは懐古厨という感じではありますが、『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』の現役世代にとっては、かけがえないのないギフトのような作品になっていましたね
■統治と手段
本作は、サンド王国が水資源を独占し、それによって国民を統治するという方法に出ていました
水源がバレないように飛行禁止にしたり、足元を見てインフラを支配し、活動を抑え込むという方策に出ています
統治のために必要なのは、反旗を鎮圧できる武力と、反旗を抑え込むシステムが必要で、生活のレベルをギリギリに保つことで、武器などを購入できない下地を作っていました
銃は貴重品で、弾丸も高価という背景があって、体制を脅かす能力を削いでいます
でも、盗賊団やスイマーズなどのように、略奪を目的とする輩は「購入せずとも盗む」という方針で、軍備をくすねているように見えます
この世に武器がないわけではなく、その調達方法を問わなければモノは手に入るという構図になっています
軍から盗んだ武器を必要な者に売って金を稼ぐことで、より強力な武器を手に入れる
それがスイマーズのやり方のように思えます
サンド王国の人口規模などはざっくりとしていてわからず、軍備の体制から考えると、そこまで大きな大国ということはないと思います
その割には軍備や研究開発には無尽に投資している感じになっていて、このあたりの設定はフィクションならではのものでしょうか
とは言え、近くに同じようなことをしている国が、ミサイル実験を繰り返しているように、ある程度の経済規模と人民がいると可能なのかもしれません
統治に武力は必要ですが、それ以上に重要なのは「活力のコントロール」であると思います
少ない国民でも束になると恐ろしい力を発揮するので、横の連携を立たせるのですね
3S政策のような「経済力の目的をすり替える」というレベルではないので、単純に「困窮をコントロールする」ということで、生命的な活力を抑えるというのがサンド王国の手法になっていたと考えられます
■人間と悪魔の善悪感の違い
本作では、サンド王国の郊外(あるいは国外)に悪魔族が住んでいるという設定で、ラオは幻の泉に向かうために彼らの力を借りようとします
ラオは保安官なので、軍の水を奪って国民に配っている存在について認知していて、それが彼らの誰かであると考えていました
犯人は悪魔の王子ベルゼブブで、彼の仲間たちが国王軍を襲って、水を盗難していたことがわかります
彼らは自分たちが飲むためではないという不思議な行動をしていて、単純に「この国における悪いこと」をやっているだけだったりします
悪魔、ひいてはベルゼブブの善悪感というのは一風変わっていて、常識的に「少し悪い」程度のことを「大きな悪」と言うふうに解釈しています
これにはラオも困惑しているのですが、それはラオにとっての悪とベルゼブブにとっての悪の概念が違うからだと言えます
ベルゼブブの考える悪は「支配者目線の悪」であり、国王軍に反発するとか、方針に従わないことを悪だと定義しています
一方のラオは、倫理的かつ国民目線における悪を考えていて、圧政による国民いじめであるとか、過去の事件などを悪だと捉えていました
かつて、ゼウ将軍が指揮し、シバ将軍時代に実行した作戦は、国王軍目線では善であるとしても、それは詭弁に過ぎません
安定した国と言えば聞こえが良くても、国民の生活水準を低く保っていることは幸福度を下げていることになります
他民族を自国の利益と偽って排除した歴史は肯定されるものではなく、国民が望んでいると歪ませているところは巨悪以外の何者でもありません
ベルゼブブが体制に対する悪を肯定しながらも、反体制に加担するのは、ラオと出会ったことによって、倫理的な悪という概念に気づいたからだと思います
なので、最終決戦におけるベルゼブブの善悪基準は「自分の中にあるスケール」によって計られ、国王軍を悪であると断定することになりました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、20年ぐらい前の作品で、妙な懐かしさを感じてしまいます
今の世代に受けるのかは何とも言えないのですが、親子連れで見ても問題ない内容になっています
子ども向けの内容ではあるものの、悪魔とじいさんのバディというところが少し微妙な感じがして、女性キャラがほぼ皆無となっていました
恋愛要素は要りませんが、画面の華やかさを考えると、一人ぐらいメインキャストにいても良かったかもしれません
ベルゼブブとラオのバディであるということを念頭に置くならば、悪魔側にセクシーな女性的なキャラがいるか、ラオの生き別れた娘と途中で合流するという設定になると思います
ベルゼブブとシーフのコンビは捨てがたいので、それを踏まえると、旅の途中で出会う盗賊団のリーダーが娘という設定がしっくり来ます
娘は父の英雄的な行為を否定するキャラで、それによって別の道を歩むことになっていて、国王軍に反旗を翻すリーダー格の女性というポジションになります
ベルゼブブはラオとの絆を結ぶので、シーフが若い女性に入れ込むという構図によって、無理やり旅についてくる感じになりますね
いわゆる「ブルマと亀仙人」の関係で、これをやると芸がないと言われるかもしれません
個人的にはおっさんが頑張る映画は好きなのですが、一般受けするかは微妙な感じに思えました
本作は過去作のアニメ化なので、鳥山明先生の絵が動いていればOKというニッチな世界だとOKですが、新たな獲得ということになると厳しいでしょう
マーケティングとして、何を目標とするのかというところによるとは思いますが、本作のクオリティならばもっと多くの人に見てもらいたいと思うので、その訴求力をどう築くかというのが鍵になります
でも原作改変は難しいしと、色々と難題があると思うのですが、勿体無いなあというのが素直な感想でした
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP: