■豆腐にとっての春とは、その存在が輝きを放ち続けることではないだろうか


■オススメ度

 

ほんのりとした人情系が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.8.21(MOVIX京都)


■映画情報

 

情報2023年、日本、120分、G

ジャンル:老舗豆腐店を舞台に、出戻りの娘と頑固な父を描いたヒューマンドラマ

 

監督脚本三原光尋

 

キャスト:

藤竜也(高野辰雄:職人気質の豆腐店の店主)

麻生久美子(高野春:出戻りの辰雄の娘)

柊瑠美(高野久美:辰雄の夫)

 

中村久美(中野ふみえ:辰雄と親しくなる女性、患者仲間)

赤間麻里子(坂下美野里:ふみえの姪)

宮坂ひろし(坂下豪志:美野里の夫)

 

徳井優(金森繁:辰雄の悪友、理髪店店主)

竹内都子(金森早苗:口が軽い繁の妻)

 

山田雅人(横山健介:辰雄の悪友、タクシー運転手)

 

日向丈(山田寛太:辰雄の悪友、英語学校の講師)

黒河内りく(田代奈緒:演劇部の高校生、寛太の知り合い)

 

菅原大吉(鈴木一歩:辰雄の悪友、定食屋店主)

太田美恵(鈴木由美子:一歩の娘)

 

桂やまと(西田道夫:駅ナカの新任管理者)

今里真(有田陽一:道夫の上司)

 

小林且弥(村上ショーン務:イタリアンシェフ)

生津徹(前田義明:ジムのインストラクター)

瓜生和成(宮島修:大学の助教授)

田口智也(中村慎也:経営コンサルタント)

 

守谷周徒(辰雄が世話になる警官)

酒田速人(ソムリエ)

酒井貴浩(喧嘩する客?)

 

橋本美和(高田恵子:高野豆腐店の常連客)

藤本静(多美子:ふみえの同僚)

高井純子(ふみえの同僚?)

小林千里(ふみえの同僚?)

 

大宅聖奈(ストリートピアノを観覧する女子高生)

Kristen Watts(外国人旅行客)

Nihi(外国人旅行客)

 

智順(辰雄の主治医)

福原美穂(看護師)

 


■映画の舞台

 

広島県:尾道市

 

ロケ地:

広島県:尾道市

尾道本通り商店街

https://maps.app.goo.gl/KyHCRq5aAjp9gxui6?g_st=ic

 

絵のまち通り(ストリートピアノ)

https://maps.app.goo.gl/Zj2AGZBggSLEdPE98?g_st=ic

 

尾道渡し船フェリーのりば

https://maps.app.goo.gl/HHbTiw75EZ1dpfrm6?g_st=ic

 

向島(ふみえの実家)

https://maps.app.goo.gl/ebVtzzHoqqsfAncz6?g_st=ic

 

浄土寺(芝居の稽古場)

https://maps.app.goo.gl/ZJcnEa1exeXP3yJG7?g_st=ic

 

ホテル・α-1 尾道

https://maps.app.goo.gl/pCazV57ydqnMmAto9?g_st=ic

 

Café しましま

https://maps.app.goo.gl/7P87znq6gigvTvia8?g_st=ic

 

CHOKO TOKO

https://maps.app.goo.gl/PYPGGf1d3wLTxGxGA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

広島の尾道で豆腐店を切り盛りしている高野辰雄徒その娘・春は、毎日のように丹精を込めて豆腐に向き合っていた

春は東京に嫁いでいたが、ある理由で出戻りになっていて、その理由はタブーのようになっている

辰雄は春に多くのことを教えているが、ニガリを投入する作業だけはまだやらせてはいなかった

 

春はもうすぐ50歳になり、辰雄は娘の今後が気になってしまう

そこで、悪友たちと偶然を装うマッチングを企画し始める

春はそんなことはつゆ知らず、父の豆腐を多くの人に届けたい一心で、卸し先の駅ナカの担当者・西田と新しい方法を模索していた

 

ある日、辰雄は定期検診で訪れた病院で、心疾患を患う婦人・ふみえと出会う

身寄りのない彼女を不憫に思う辰雄は、なんとか彼女の支えになれないかと考え始める

だが、辰雄自身もカテーテル処置を勧められていて、手術が怖い辰雄は前向きに考えられなかった

そんな折、ふみえに手術の話が舞い込んでしまう

 

テーマ:父と娘を繋ぐもの

裏テーマ:支えあう男女に必要なもの

 


■ひとこと感想

 

広島・尾道が舞台になっている本作は、土地の景色を映し出し、まるでその場所にいるような気持ちにさせてくれます

個人的に豆腐は食べるけど、豆乳は苦手というタイプで、毎日のように出来立ての豆乳を飲む生活ができるかどうかはわかりません

鑑賞動機は麻生久美子さんでしたが、アラフィフ出戻り設定というところに訳ありが潜んでいましたね

 

映画は、二人の日常を描きながら、春の将来を思うおっさんたちが暗躍するというもので、シェフ役の小林且弥さんが大学時代の友人にそっくりで驚いてしまいました

西田の扱いが雑だったのですが、それが妙な伏線になっていましたね

ちんちくりんは言い過ぎだと思いますが、彼が信念を語るシーンはとても良かったと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、晩年の恋と壮年の恋が描かれているラブロマンスですが、根幹には父娘の親子愛の確認という感じになっています

二人の関係性の秘密が後半で語られるのですが、戦後を生き抜いた人々が持つ絆というのは、戦争を知らない人には理解し難いかもしれません

でも、個人的にはその献身こそが、血縁には足りない愛であると感じるので、とても慈しみの深い関係であったと感じました

 

映画は、父娘の関係のみならず、同じ土地で生きてきた晩年二人の絆というものも描かれていました

良い年して恋愛?と思うのは若年層の心情ではありますが、人生の終盤を迎えてくると、若い頃に欲する恋愛とは違った趣が感じられます

孤独が哀愁になるのが若年期であるとするならば、孤独が不安になるのが壮年から晩年にかけての心情だと思います

 

映画は、悪い人は出てこない作品で、ほのぼの人情系のドラマになっています

明らかに中高年向けではありますが、晩年の恋を気持ち悪いと感じるのは何故かを考える良い機会になるかと思います

 


すれ違いの中にあった本音

 

本作は、前半で春のお見合いチャレンジが描かれ、後半では思いもしない相手とのロマンスが芽生え、それまで乗り気だったはずの辰雄の心変わりが描かれていきます

「はず」という感じになっているのは、お見合いに関しても辰雄はそこまで乗り気ではなく、ふみえと出会ったことによって、考え方が変わっていきます

ふみえよりも健康に見える辰雄ですが、それはリスクが顕在化していないだけで、いつ何が起こるかは分かりません

余命とリスクを意識することで、「はず」で良いのかと問うていく流れになるのですが、そのマインドを揺らすのが「自分の理想とは違う男性の出現」だったのですね

 

イタリアンシェフの村上は辰雄にとっては理想的ではあるものの、春にとってはそうではなかった部分があります

これは、春が何をしたいのかというところに通じていて、村上と仕事を始めても、主役は村上の料理になってしまうのですね

でも、春は父の豆腐が世界一だと思っていて、それが主役になることが生きていく喜びに繋がっていきます

これが、春流の恩返しというもので、二人の間には同じように「父と娘の絆を確認したい」という願望がありました

 

二人はすれ違いの日々を過ごしていましたが、どちらも同じ不安を抱えていて、それも愛おしい関係にも見えてきます

でも、すれ違いは決して悪いことではなく、そのことを考えるたびに、不安と同時に確信というものも醸成されていくのですね

不安を打ち消すために、自分の都合の良い物語を作るのが人間というもので、これらの不安は絶望には向かわないようにバランスが取られていきます

何度も自問することで、不安も確信も育っていきますが、それは同時に心の乖離を産んでいくことになります

なので、いずれは本作のように、本音を交わして、素直になる瞬間というものは訪れてきます

 

今がその時なのかどうかは神様が教えてくれるようなものなので、相手の考える不安を跳ね除ける現実ができた時、それをクリアするためのタイミングというものが生まれます

本作の場合は、西田の想いを辰雄が知るというシークエンスが、そのタイミングの呼び水になっていました

 


良いものを伝えたいという熱意

 

後半になって、辰雄と春は実の親子ではないということが判明し、時間が育んだ親子関係が血縁を越える瞬間を描いていきます

舞台は平成が終わりを告げる頃(「オープニングのナレーション」による)ということで、今から5年前、戦後70年を過ぎた頃になります

春はもうすぐ50歳なので、戦後25年くらいの時期(昭和45年くらい)に生まれ、その後、春の父が亡くなっていることになります

このあたりの時代背景は、もう少し過去に設定した方がしっくり来る感じで、「昭和が終わる頃」とかの方が良かったかも知れません

 

昭和63年(1989年)だと、戦後44年ぐらいになるので、春が5歳くらいの頃に父が亡くなっている感じになります

豆腐を世界に売り出すというのがマッチしないように思うかも知れませんが、実はこの頃に森永乳業が海外で豆腐販売を始め、「Morinaga Nutritional Foods, Inc.」をロサンゼルスに設立したのが1985年のことでした

なので、その4年後だと、職人気質の辰雄はダメでも、若い世代の考えは世界に向かい始めている頃なのですね

舞台が30年前でも、物語としては何の問題もなかったと思います

 

映画では、世界に向けて、多くの人に辰雄の豆腐を食べてほしいという春の願いを描いていきます

辰雄の豆腐は量産できるものではなく、それを春が受け継ぐことはできません

とは言え、西田の言う「パッケージだけ豆腐」と言うものも存在しているので、「本物を届けたい」と言う熱意は現実になってほしいものだと思います

でも、生産には限りがあり、オートメーション化もできないとしたらどうするか?

 

それは、辰雄のように本物を作り続けてきた人たちを集めていくことになると思います

日本の豆腐店は1960年頃がピークで、その後減少を続けています

物語の設定を30年前にしても減り続けている頃に該当するので、豆腐店の危機というものはあったと推測できます

そのあたりも踏まえて、現代でもできる「もしもの世界」というものを映画の中で描いても良かったように思えました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、晩年の人間関係を描いていて、辰雄とふみえは相思相愛の関係にあると思います

この恋愛は、若い人たちの恋愛とは少し趣が違っていて、そばに誰かいてほしいという孤独や不安を打ち消すためのパートナー関係に近いと思います

現在も過去も、永遠に続く結婚生活というのはなくて、離婚がなくても死別して独り身になることの方が圧倒的に多いですね

通説では、妻に先立たれた夫の寿命は30%とも短くなると言われています

 

かつての日本は専業主婦の割合が今よりも多く、家事ができない男性というのは思った以上に多くいました

高齢になった段階で妻が亡くなると、日常生活が一変し、特に食生活が雑多なものになります

辰雄の場合も、豆腐は作りますが、食事の献立は春が行なっていて、セリフの中でも妻が行なっていたことがわかります

ある程度こなしていた人だと違うとは思いますが、それでも「食事を共有する人の不在」というのは、よほどの料理好きでもない限り、淡白になってしまうものだと思います

 

その食生活の簡素化による栄養バランスの崩れなどが原因で健康寿命そのものが短くなってしまうのですが、この他にも「対話がなくなることで脳の活力が落ちる」というものもあります

言語などによる脳への刺激が一方的なものになってくると、単調になりますので、それによって脳の鈍化というものが起こってきます

でも、孫と接している祖父母とか、頻繁に誰かと話せる環境があると、その鈍化というものを防いでくれることになります

辰雄は活力があって、豆腐作りによって保たれているところはありますが、とは言え刺激が失われると豆腐作りにも影響が出てくると思います

 

人は、対人によって緊張感を保つのですが、それが失われることの方がリスクは高いと思われます

辰雄は春がいることで緊張感を保っていて、それは職人として毎日納得ができるものを作るというところに繋がっています

それは辰雄にとっての「父の威厳」そのものであり、それを褒められること、春の満足そうな笑顔を見ることが活力にもつながっていきます

 

春は西田と結婚し、辰雄の元を離れると思いますが、今度は春の代わりをふみえが務めていくことになるでしょう

なので、二人の相思相愛というのは、お互いと健康にしていく糧にもなっていくのなのですが、これが理解できるのは50歳以上になってからのようにも思えてきます

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://takanotofuten-movie.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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