■ 人間の行動原理が美化され過ぎていて、ファンタジー感から脱却できていない
Contents
■オススメ度
アマプラ版と見比べたい人(★★)
ハンデを扱った映画に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.7.12(イオンシネマ四条畷)
■映画情報
情報:2023年、日本、144分、G
ジャンル:突然視力を失った漫画家が聾唖のファンに支えられる様子を描いたラブロマンス映画
Amazon Prime Video リンク
監督&脚本:イ・ジェハン
キャスト:
山下智久(泉本真治:突然視力を失った漫画家)
新木優子(相田響:耳が聞こえない真治のファン)
山本舞香(中村沙織:真治のアシスタント)
菅原大吉(平山省吾:真治の編集者)
八代崇司(弁護士)
深水元基(菅原哲也:真治のファンの介護タクシー運転手)
高杉真宙(植村大輔:響を知る化粧品会社の社長)
木村知貴(大輔の運転手)
山口紗弥加(遠山恵:JAZZカフェのオーナー)
渡辺大(宝石店の店主)
加藤雅也(孤児院の院長)
夏木マリ(泉本多恵:真治の祖母)
森下能幸(脳神経外科医)
吉岡睦雄(眼科医)
宮地真緒(大島芙美:介護施設「紫翠の丘」の介護職員)
葉月美沙子(擁護施設「美鈴学園」の先生)
滝沢恵(響の同僚、清掃員)
金子なな子(響の同僚、清掃員)
乾りさこ(響の同僚、清掃員)
■映画の舞台
都内のどこか
ロケ地:
神奈川県:横浜市
The Gentlmen‘s Club(JAZZ BAR)
https://maps.app.goo.gl/zBdycQ9MHrnjp7vg8?g_st=ic
東京都:中央区
JK PLANET 銀座2丁目店(宝石店)
https://maps.app.goo.gl/wopfjxsTG9ZLkLz9A?g_st=ic
東京都:荒川区
もみじはし(真治の自宅近辺)
https://maps.app.goo.gl/QSh3y6wd55BQ2ci99?g_st=ic
茨城県:水戸市
茨城県立歴史館(公園)
https://maps.app.goo.gl/DZ5eucPSt46cA9DJ9?g_st=ic
神奈川県:横浜市
平楽園弐番館(沙織の職場?)
https://maps.app.goo.gl/ZDWEKxrrwwiuWe3c6?g_st=ic
みなとみらい グランドセントラルタワー(植松の会社)
https://maps.app.goo.gl/pk5GGWahURfFncrJ6?g_st=ic
CERTE (響の職場)
https://maps.app.goo.gl/b88WGmzadjsaV5da6?g_st=ic
ローマステーション
https://maps.app.goo.gl/vXf1SgudcttrECUz7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
漫画家として軌道に乗り始めた泉本真治は、ウェブコミックの単行本化が決まり、映画化も内定されていた
アシスタントの沙織とともに喜んでいたものの、突如激しい頭痛に襲われた真治は救急搬送された末、緑内障と診断され視力を失ってしまう
祖母・多恵の世話をする立場でありながら何もできず、とうとう施設に入れる預けることになってしまった
多恵を施設に入れる際に出会ったタクシー運転手・菅原は真治の漫画の大ファンで、そこから彼の生活のサポートをしていく
その頃、聾唖として擁護学校で働いていた真治の熱烈なファンの相田響は、連載が止まっていることを心配し、彼のSNSのアップされた背景資料から自宅を導き出していた
響の来訪も盲目と聾唖の組み合わせで意思が通じずに追い返されてしまう
響は仕方なく彼の自宅を出て帰ろうとするものの、気になって彼の住む部屋を眺めたところ、ベランダから飛び降りようとしているのを見かけてしまう
慌てて彼を制止し、その日から響は住み込みで彼のサポートをすることになったのである
テーマ:通じ合う愛
裏テーマ:見えなくても聞こえなくても「わかる」こと
■ひとこと感想
アマプラで無料で見られるのですが、ディレクターズ版ということとパンフレット&フォトブックを入手するために映画館に突撃しました
内容は難病を抱える二人のラブロマンスで、様々なハプニングが起こり、支える人、利用する人が登場する王道展開を迎えていきます
物語としてはベタな感じで、盲目と聾唖だけど通じるところがあるという感じになっています
二人の愛の障壁は意外なところにありますが、ぶっちゃけあまり意味があったのかわからない感じですね
劇的な展開のためにあえて用意されたハプニングになっていて、少しばかり嘘くささが上回っていたように思います
物議を醸すのはラストシークエンスですが、これはどっちとも取れる感じなのですが、フォトブックには「ガッツリと答えらしきもの」が書かれていたので、「ああ、一応そっちを想定して演出したのね」という感じになっています
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
聾唖と盲目のコミュニケーションを描いていますが、意外なほどに意思疎通ができているので、普通の美男美女系のラブコメに見えてしまいます
二人を取り巻く化粧品会社の社長の顛末はコメディ要員になっていて、秘書なのにピアノ講師をさせられる遠山のキャラは作りすぎのように思えてしまいます
一応は、同じ孤児院の出身の大輔が初恋を実らせようと登場するのですが、いわゆる金にモノを言わせてという展開になっていて、「ないわー」感がものすごく漂っています
本当に響目線だと邪魔でしかないので、突き抜けて可哀想だなあと思ってしまいます
大輔は自分の気持ちを言葉にできず、吃音症らしい設定のためにうまくコミュニケーションができていません
彼の想いも本物なのでしょうが、アプローチが最悪なので、女性に嫌われて当然という感じになっていましたね
ちなみにラストシーンは「真治は死んで、その後を沙織が漫画にして美化させた」と思っていたのですが、フォトブックには「1年後」として描かれていて、どうやら「生きている世界線」として作られたように思います
この辺りの解釈が分かれるのは「1年後」みたいな時間経過をはっきりと明示しないからではないでしょうか
■コミュニケーションより必要なモノ
映画は、盲目と聾唖の交流を描いていて、そのコミュニケーションの難しさよりは、未来の見えない境遇による絶望が強調されていました
真治も盲目だから絶望しているわけではなく、脳腫瘍による余命が彼の心を闇に落とし込んでいます
でも、その余命への逼迫感が、後悔のない人生を歩ませているのも真実だったりします
人が生きていくことは先が見えないものですが、今が見えていると何とかなる
その今が揺らいでしまう時、人は絶望に苛まれることになるのだと思います
真治の漫画によって今を得たのが響と平山で、次の漫画を読むことが生きる希望にもつながっていました
そんな彼女を生かしてきたものの喪失は耐え難いもので、彼女はそれを何とかしようと考えます
この二人は当初コミニュケーションが取れないのですが、それを交わそうとする前に体が動いていくのですね
響は力づくで真治を止めるのですが、彼からすればその理由など分かりません
響は自分の声が聞こえないから話すのを拒んでいますが、それは手話によるコミュニケーションができているからでしょう
必要であれば学ぼうとするのは、「トロイメライ」を弾きたいという欲求にも見えていて、彼女は「トロイメライ」が聞こえなくてもピアノを弾きたいと考えています
そこにあるのは「音が聞こえない」からよりも大事なものがあったからで、響という人物は「自分の中にある優先順位」というものを大事にするのですね
彼女が真治の自宅に突撃するのも、言葉よりも衝動が優っているからで、その原動力は言葉よりも優先されるものだったことがわかります
原動力を作るのは思考と感情で、その発露が人によって違う
結果を求める人がいれば、過程を重視する人もいる
そんな中で、そんなロジカルなものよりも体を動かすのが響という人物だったように思えました
彼女が大切にしているものは、今をより良く生きるための手段であり、それを起点にして行動様式や生活すら変えていける強い女性だったと思います
■勝手にスクリプトドクター
本作は概ね問題ないシナリオなのですが、どうしても目につくのが細かなディテールなのですね
わかりやすいのが二人の医者の患者への接し方とか、いち編集者の横暴な態度などだと思います
このあたりの演出に嘘っぽさが混じっているのですが、これよりも問題なのは「植村による響のストーキング関連」だと思います
この二人はどうやら同じ孤児院の出身で、聾唖の響、吃音症の植村というハンデを持った少年少女だったことがわかります
その歴史の中で、植村だけが響のことを認識していて、彼女は正体を明かされても「誰、それ?」状態になっていました
植村は響を自分のところに引き寄せたい一心で職権濫用でモデルに仕立て上げたりするのですが、それに巻き込まれる秘書や運転手は大変だっただろうと思います
彼のその横暴が許されているのは社長だからだと思うのですが、彼が優秀な社長であると感じさせる部分が皆無なのは微妙だったと思います
過去に関わりのあった人物が恋敵のように現れていますが、彼に吃音症の設定が必要だったかは分かりません
すでに経済的な格差はありますが、最後まで真治は植村を大手企業の社長だとか、響を想っている恋敵とすら認識していないのですね
金持ちが自分の心を満たすための慈善事業をしているぐらいにしか考えていなくて、二人の恋愛の障壁にすらなっていないのは滑稽だったように思えました
植村という人物をどう表現するかは難しいところがありますが、彼を完全な善人にして、真治がその行為をどう受け止めるかというところで存在感を増します
なので、恋敵という設定よりも、ハンデキャッパーを利用する慈善家の側面をもっと強く描いても良かったと思います
真治が感じる「偽善」があっても、「やる偽善には意味がある」というスタンスで開き直り、それはWin-Winであると毒づくのですね
慈善家という顔が企業を裕福にするという社会悪の側面を描くことで、真の慈善家とは何かを説いていく
その過程において、真治は「自分は違うやり方で人を幸せにする」と作家性への目覚めを起こすというのもアリだったと思います
物語のラストでも、夢か想像のような海外での手術とその成功のようなものが描かれますが、彼がその資金を捻出できるはずもありません
夢とかならそれで良いのですが、フォトブックにて「1年後」というリアルさがあったので、植村の支援を受けて真治が手術をしたという方向でもありだと思います
響への好意と真治への援助がビジネスである、という側面を美化することもなく描けば、それはそれで問題提起になり得るのですね
このあたりを恋愛でぼやかしているのが本作の弱みであると感じました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、献身的な愛を描いていますが、その裏側にある感情を描いていません
人間はそこまで清いものではなく、全てを善人のように描くとファンタジーになってしまうのですね
響も平山も「作品に感化された」という理由はありますが、その根底には「作品の続きが読みたい」「真治の才能を終わらせたくない」というものがあったはずなのですね
このあたりは結構ぼやかされていて、本当に人の良い人たちが真治を救うのですが、その一方で多恵だけはものすごい悪者のように見てしまったりします
彼女のセリフで「身寄りのないお前を育てた」という言葉があって、真治は多恵を「おばあちゃん」と呼んでいました
この関係性を考えると、多恵は真治の祖母であり、真治の両親は何からの理由で他界しているということになります
そんな真治の過去が「辛い時こそ笑うのよ」という言葉になっていて、彼のアイデンティティが作品を通じて響たちに伝わっているのですね
なので、植村も孤児院の出身ということなら、響がどうして真治に執着するのかを知っていく中で、真治という人物が与える影響というものを思い知っていくことになります
その真実が植村を動かし、無償の援助を行うことになっても、根底にあるビジネスは捨てない
これぐらい人間的な部分があっても良かったでしょう
手術が成功したことで作家に戻った真治は、作品を通じてメッセージを発信することになり、それをサポートした植村は慈善家としてのアピールを果たす
聾唖を私的な理由でモデルにしたという行動も、化粧品業界の差別化を図る上での合理性というところがあれば、清濁を合わせ呑んだ先に人の世があることが描けます
そして、そんな善人ヅラしたサイコパス的な植村に従順な秘書・恵は彼を利用して優雅な生活を送っている
それぐらい突き抜けた方が良かったように思えました
映画は、涙腺崩壊系の難病系なのですが、それでは過去作の二番煎じに過ぎません
なので、この手の支援者の裏側というものを描くことでエッジが効いて、それが世の中にある「偽善を叩く連中」を浮かび上がらせることにもなるのですね
行動を叩くだけで何もしない人々へのアンチテーゼにもなるし、それによってバッシングも封じ込める
社会というのは、それほどまでに強力な欲望で動いていることを描いても良かったように思えました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/389983/review/825c5639-3070-499f-8e9c-23084e64caaa/
公式HP: