■エンタメにするわけにもいかない題材なのでやむを得ないけど、映画的な演出がもう少し必要だったかもしれません
Contents
■オススメ度
#Me Too運動の起点となった告発に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.1.17(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:She Said
情報:2022年、アメリカ、129分、G
ジャンル:映画プロデューサーが立場を利用してセクハラを行なっていた事件を描いた社会派ヒューマンドラマ
監督:マリア・シュラーダー
脚本:レベッカ・レンキェビチ
原作:ジョディ・カンター&ミーガン・トゥーイー(『She Said: Breaking the Sexual Harassment Story That Helped Ignite a Movement(2019年、邦題『その名を暴け #Me Tooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』)』
キャスト:
キャリー・マリガン/Carey Mulligan(ミーガン・トゥーイー/Megan Twohey:ニューヨークタイムズの調査報道記者)
Tom Pelphrey(ヴァデル・ラットマン/Dadim Rutman:ミーガンの夫)
ゾーイ・カザン/Zoe Kazan(ジョディ・カンター/Jodi Kantor:ニューヨークタイムズの調査報道記者)
Adam Shapiro(ロン・リーバー/Ron Lieber:ニューヨークタイムスのジャーナリスト、ジョディの夫)
Dalya Knapp(タリヤ:ジョディの娘)
パトリシア・クラークソン/Patricia Clarkson(レベッカ・コーベット/Rebecca Corbett:ニューヨークタイムズの編集局次長)
Maren Lord(モリー・コーベット/Molly Corbett:レベッカの娘)
アンドレ・ブラウアー/Andre Braugher(ディーン・バケット/Dean Baquet:ニューヨークタイムズの編集長)
Frank Wood(マット・パーディ/Matt Purdy:ニューヨークタイムスのジャーナリスト)
Sarah Ann Masse(エミリー・スティール/Emily Steel:ニューヨークタイムスのビジネスジャーナリスト)
Mike Spara(マイケル・シュミット/Micheal Schmidt:ニューヨークタイムズのジャーナリスト)
ジェニファー・イーリー/Jennifer Ehle(ローラ・マッデン/Laura Madden:ミラマックス社のロンドン支社で働いていた女性、乳がんで闘病中)
(若年期:Lola Petticrew)
Elle Graham(グレイシー:ローラの娘、長女)
Maren Heary(ニル:ローラの娘、次女)
Kathleen Mary Carthy(ローラの主治医)
Catherine LeFere(パメラ・ルーベル/Pamela Lubell:ローラを罵倒する元友人)
Katherine Laheen(アイルランドで若きローラをクルーに引き入れる女性)
サマンサ・モートン/Samantha Morton(ゼルダ・バーキンス/Zelda Perkins:ミラマックス社のアシスタント、ロウィーナから性的被害の相談を受けた女性)
(若年期:Molly Windsor)
アシュレイ・ジャッド/Ashley Judd(本人役、セクハラを受け、役を奪われた女優)
Keilly McQuail(ローズ・マッゴーワン/ Rose McGowan:サンダンス映画祭でセクハラを受ける女優)
グウィネス・バルトロー/Gwyneth Paltrow(本人役(声):ワインスタインに可愛がられたスターの卵)
アンジェラ・ヨー/Angela Yeoh(ロウィーナ・チウ/Rowena Chiu:ミラマックス社の元アシスタント、ヴェネチア国際映画祭にて性的被害を受ける)
Edward Astor Chin(アンドリュー・チャン/Andrew Cheung:ロウィーナの夫)
Shirley Rumierk(ミラマックス社の内部告発者、匿名)
ジュディット・ゴドレーシュ/Judith Godrèche(本人役(声):ジョディに性的被害について相談をするフランス人女優)
Lauren O‘connor(本人役:元ミラマックスの従業員、下級管理者、告発者)
Mike Houston(ハーヴェイ・ウェインスタイン/Harvey Weinstein:告発される映画プロデューサー)
Anastasia Barzee(リサ・ブルーム/Lisa Bloom:ハーヴェイの弁護士)
Peter Friedman(ラニー・デイヴィス/Lanny Davis:ワインスタインの代理弁護士)
Marceline Hugot(リンダ・フェアスタイン/Linda Fairstein:グティエレスの事件を隠蔽した元検事)
Sean Cullen(ランス・マエロフ/Lance Maerov:ワインスタイン・カンパニーの理事、オコナーのメモの掲載を承諾)
Zach Grenier(アーウィン・ライター/Irwin Reiter:ワインスタイン・カンパニーの財務担当、副社長)
John Mazurek(ジョン・シュミッツ/John Scmidt:ミラマックス社の現CEO)
Hiary Greer(シュミッツ夫人)
Jason Babinsky(デヴィッド・グラッシャー/David Glasser:ミラマックス社の元CEO)
Emma O‘Connor(レイチェル・クロックス/Rachel Crooks:トランプ大統領からの性的被害をミーガンに相談する女性)
James Austin Johnson(ドナルド・トランプ大統領(声)/ Donald Trump:レイチェル・クロックスへの性的暴行を告発される大統領)
Bill O‘Reilly(本人役:FOXのニュースアンカー)
■映画の舞台
2017年
アメリカ:ニューヨーク他多数
1998年
イタリア・ベニス
1992年
アイルランド
ロケ地:
アメリカ:ニューヨーク
■簡単なあらすじ
1998年、イタリアのベネチア国際映画祭に参加したミラマックス社のゼルダとロウィーナは、そこで映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインからセクハラを受けてしまう
時は巻き戻り、1992年アイルランド
そこでは若き日のローラが映画撮影のクルーと遭遇し、そのままクルーの一員として働き始めた
だが、その5年後、彼女は性的被害を受けて逃走する羽目になっていた
それから時が過ぎた2017年、ニューヨークタイムズのジャーナリスト、ミーガン・トゥーイーはレイチェル・クロックスからトランプ大統領からセクハラを受けたとの相談を受けていた
同じ頃、別の階で働いているジョディの元にも多くのセクハラ被害の相談が寄せられていて、上司のレベッカはジョディのサポートにミーガンをつける
二人はそれぞれの相談者から情報を引き出し、外堀を埋めるべく取材を続けていく
そんな行動を察知したワインステインの弁護団から脅迫まがいの連絡を受けるものの、二人は意にも介さずに内偵を進めていく
元ミラマックス社の従業員をはじめ、映画祭で関係を強いられた女優なども多数いて、判明した分だけでも二桁に届こうとしていたのである
テーマ:性被害告発と守秘義務
裏テーマ:業界の慣習と法的な障壁
■ひとこと感想
#Me Too運動はあまり詳しくはありませんが、日本で行われているものと本場のものでは乖離があるという話はチラホラ耳にしますね
本作は、本国で起こった運動のきっかけともなる、映画プロデューサーの性的被害事件の顛末を描いていきます
とにかく登場人物が死ぬほど多くて、全員を網羅できている自信がありません
個人的には、ジョディとミーガンが並行して色んな人物と会っていくので、途中で誰と誰が会っていて、どんな被害者がいたのかが追えなくなってしまいました
近年の事件を実名で映画化するという意欲作で、実際の被害者も本人役で登場するという気合の入った作品になっています
でも、エンタメ度は物足りなくて、ほとんどドキュメンタリーのような印象を受けます
また、場面展開が恐ろしく多くて、登場人物も「名前とセリフがある人で80人くらいいる」ので、事件の概要と関係者を調べてから臨んだ方が良いかもしれません
一応は、被害者の取材がジョディで、VSミラマックス&トランプがミーガンという感じのざっくりとしたもので良いのかなと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は事実を追って淡々と進むので、かなり退屈な感じになっています
性的被害の実態として、直接的な描写は皆無で、とにかく「オブラートに包んだ表現」で性的被害を描いていくという感じになっていました
映画の前にパンフレットを買ってサラッと読んでいたのでニューヨークタイムズの面々と被害者はなんとなく頭に入りましたが、さすがに被害者の数が多くて、途中から意味不明な感じになっていましたね
睡眠不足も相まって、ミーガン&ジュディのプライベートパートはちょっと眠たくなってしまいました
この事件から#Me Tooがどのように動いたのかは描かれませんが、映画界の重鎮が好き放題やったというのはよくわかります
でも、ワインスタイン本人役が「背中だけで登場」はコメディっぽく思えましたね
誰もがやりたくない役でしょうし、そのあたりの配慮があるのでしょうが、後ろ姿だけでわかってしまうところに配役の妙を感じてしまいますね
■事件の概要
映画で度々登場する「ミラマックス社」は、逮捕されたハーヴェイと彼の弟であるボブ・ワインスタインが共同設立した会社です
いわゆる「映画およびTVの制作&配給」の会社で、日本で馴染み深いのは『スパイキッズ(2001年)』『キルビル(2003年)』などになりますね
配給に関しては、『パルプ・フィクション』などもあります
設立は1979年、二人の両親であるミリアムとマックスの名前を組み合わせて命名され、コーキー・バーガーが設立に関わっています
1993年からはウォルト・ディズニー社がミラマックスを買収し、2005年までハーヴェイとボブは会社に残っていたとされています
その後、2010年にディズニーはミラマックスをFilmyard Holdingsに売却、2013年にハーヴェイとボブが復帰を果たします
性的暴行の告発は2017年のこと、これによりハーヴェイはミラマックスの共同議長の座から降りることになりました
ハーヴェイ・ワインスタインは1952年生まれの70歳(2023年現在)で、ニューヨーク州第3級レイプ1件、第1級性的暴行1件、カリフォルニア州強制口頭交尾1件、異物による性的挿入1件、強制レイプ1件にて、23年の有罪判決を受けています
逮捕に至ったのは2018年5月25日のことで、記事が出たのは2017年10月5日でした
取材に関しては、女優のローズ・マッゴーワンからジョディにオフレコの告発があったのが最初で、その後アシュレイ・ジャッド、グウィネス・バルトに直接取材をしています
その後、ミラマックス社のアシスタントも被害を受けていたが、示談が成立しているために話せないという顛末もありました
性的虐待に関しては、古くは1970年代後半から80人以上の女性が申し立てています
2018年に起訴、2020年2月に有罪判決を受け、最も早い釈放日は2039年で87歳を迎える頃になります
また、2021年にロサンゼルスでも同様に裁判が行われ、そこでも有罪判決を受けることになりました
2017年の報道によって、ワインスタインは制作会社を解雇され、英国映画テレビ芸術アカデミーから停職処分、映画芸術アカデミーから追放されています
2017年10月10日には妻であるジョージナ・ワインスタインから離婚が発表され、2021年7月に離婚が成立しています
これらの一連の流れは「ワインスタイン効果(Weinstein Effect)」と呼ばれています
この騒動によって、「#Me Too運動」が発生し、多くの告発と処分というものが起きる転換点になったとされています
■#MeToo運動とは何か
「#MeToo運動」とは、「MeToo Movement」と呼ばれていて、「性的虐待、セクハラ、レイプなどに反対する社会運動」のことを言います
「MeToo」という言葉は、2006年にMySpace(ソーシャルネットワークサービス)上で、タラナ・バーク(Tarana Burke)によって使用されたとされています
これらはハーバード大学の研究「Leading with Empathy: Tarana Burke and Making of the MeToo Movment(2020年)」によって発表されることになりました
「MeToo」の目的は「性的暴行を受けた人々(特に若くて傷つきやすい有色人種の女性)に、共感、連帯、および数の多さを通じて、目に見える形で力を与えること」とされています
ハーヴェイ・ワインスタインの報道を受けて、この運動は加速し、SNSなどで「#(ハッシュタグ)」がつけて拡散されるようになりました
映画で登場したグウィネス・バルトロー、アシュレイ・ジャッドの他にもジェニファー・ローレンス、ユア・サーマンなどの投稿が注目を集めるようになりました
ちなみに「#HimToo」というものもあり、男性の性的加害者が発信をすることに用いられているとのこと
「#MeToo」に関しても、虚偽の告発というものがありますが、拡散力があるために複雑な問題が発生することがあります
当事者間の意識の違いはありますが、それでも「不快に思ったのならば声を上げるというのは大事だ」と思います
冤罪を生むような虚偽の告発は非難されて然るべきではありますが、結局のところ、被害者側の感覚というものが優先されるのはやむを得ないかもしれません
社会的にはリスクを考える人は異性に近づかないという風潮があり、虚偽であっても告発されたという事実は社会的にダメージを負います
日本でも問題になっている痴漢冤罪にしても、女性専用車両の是非よりも「男性専用車両を作って欲しい」という声もあります
いっそのこと、利便性とかは無視して「車両を3分割して女性専用、普通、男性専用と分ける」か、天井に複数の防犯カメラを設置するなどの対策を講じる以外にないでしょう
一部のエレベーターなどでもエレベーターホールでエレベーター内の映像が見られるというものもあって、電車内に一向に防犯カメラを設置しない理由というのはよくわかりません
プライバシーと人権の匙加減かもしれませんが、公共の場においてプライバシーを主張するのは無理難題に近いので、個人的にはさっさと導入して、何かあったら「バスの停車ボタン」みたいなボタンで乗務員に知らせる機能があっても良いのではないかと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は世間を騒がせた事件を追っていくドキュメンタリータッチで描かれていて、実際の被害者も多数出演する意義深いものだったと思います
事実に即している分、様々な配慮が必要になっていますが、ドキュメンタリーっぽさが前面に出ているので、エンタメとしての機能はほぼ損なわれているという感じになっていました
かと言って、実録の犯罪をエンタメにするのはどうかとも思うので、被害者に配慮した分、映画的な面白みを諦めたのかなと感じました
この手の被害者も加害者も現存している内容だと、劇的な改変というのは難しく、映画でも「ジャーナリストが記事をアップロードするまで」という手法の方に特化していました
なので、性的被害の直接的な描写はなく、それゆえに「ワインスタインが何をしたのか」というところがボヤけてしまっています
客観的に見てもワインスタインが悪いよねという感じになれば良いのですが、そこを強調すると「この人はこんなことをされたのか」という性的暴行による二次被害というものが生まれてしまいます
それゆえに、直接描写がないというのが妥当な判断になると言えます
映画として、ある事件が認知され、それが世間に出るまでを追っていくのですが、裁判のシーンがないためにカタルシスは低めの設定になっています
ワインスタイン自身も背後からという描写になっていて、最終的には本人映像みたいなものもありませんでした
色々と調べた上でネットに上がった記事などでワインスタイン本人がわかるのですが、アメリカだと有名人で連日報道されていたと思うので割愛しても問題なかったのかなと思います
日本でも報道された記憶はありますが、それほど連日メディアを騒がせたとか、週刊誌の一面やワイドショーを賑わしたというところまであったのかは思い出せません
映画的な面白さを追求する題材ではないものの、本作で得られるカタルシスとは、ワインスタインが屈するところだと思いますので、ニューヨークタイムズに乗り込んでとか、電話で申し出を拒否るでは少し弱いところがありますね
記事にする過程における圧力というものもあまり誇張されておらず、記者が実害を受けたという事実もないので、そこをエンタメ化することもできなかったのだと思います
昔からある手法だと、記事になって新聞が刷り上がって、それが街角に届けられてみたいなシーンがあるのですが、本作では今風な感じになっていて、「アップロードボタン、ポチッとな」みたいになっていたのがシュールに思えました
何度も記事を読み返して、「ちょっと待って!」みたいなやり取りにも緊張感はあるのですが、おそらく紙媒体のニューヨークタイムズもあると思うので、それが拡散される場面とか、その記事を取り上げた実際のニュース映像などが欲しかったですね
あとは当局に拘束される様子とか、裁判などもあればエンタメっぽいとは思いますが、そう言った方向に舵を切らなかったところが「こだわり」なのかもしれません
この映画によってもたらされる利益というものがあるとしたら、このような性的被害を受けた場合にどうしたら良いかという手法論なのだと思います
映画内では主に電話とかメールをジャーナリストが受けて話すという内容と、実際の本人から話を聞くというものがありましたが、これが2017年の時点で止まっているのが残念だと思います
映画公開時点で、「この騒動によって告発がどのように変化した」とか、「実際に声を上げたのはどれくらいの人がいた」とか、「その後」というところをもう少し追って欲しかったですね
一応はワインスタイン絡みで82人が告発したというところには言及されていますが、実際に起こっている性的被害の規模が、この「転換点」によってどのように変わったのか、というところが必要だったのではないかと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385098/review/61e621de-2c6d-4c8b-9afa-2a2d34fa204e/
公式HP:
https://shesaid-sononawoabake.jp/