■身近に感じられる100万円と、別世界に感じられる10億円の配分が絶妙だったように思います
Contents
■オススメ度
池井戸潤作品のファンの人(★★★)
■公式予告編
https://youtu.be/3iCwVdaZ8MM
鑑賞日:2023.2.17(イオンシネマ久御山)
■映画情報
情報:2023年、日本、122分、G
ジャンル:消えた10億円を巡る行員たちの悲哀を描いたヒューマンドラマ
監督:本木克英
脚本:ツバキミチオ
原作:池井戸潤『シャイロックの子供たち(2006年、文藝春秋)』
キャスト:
【東京第一銀行、長原支店、営業課、相談グループ】
阿部サダヲ(西木雅博:課長代理)
上戸彩(北川愛理:西木の部下、100万円紛失の容疑者になる行員)
近藤公園(高島勲:課長)
中井千聖(所ヒカル:愛理の後輩)
【東京第一銀行、長原支店、お客様二課】
玉森裕太(田端洋司:外資に転職を考えている若手行員、100万円紛失の当事者)
木南晴夏(半田麻紀:愛理を目の敵にする田端の同僚)
西村直人(松岡建造:課長)
遠田恵理香(二課の受付)
【東京第一銀行、長原支店、お客様一課】
佐藤隆太(滝野真:課長代理、赤坂支店から来た仕事のできる行員)
渡辺いっけい(鹿島昇:課長)
忍成修吾(遠藤拓治:精神的に追い詰められる課長代理)
【東京第一銀行、長原支店】
柳葉敏郎(九条馨:支店長)
杉本哲太(古川一夫:パワハラ副支店長)
【東京第一銀行、本部、検査部】
佐々木蔵之介(黒田道春:検査部次長、10億円融資の調査に来る行員)
安井順平(堂島俊介:黒田の部下)
【取引先関係】
柄本明(沢崎肇:西木に財産相続の相談をする飲み友達)
橋爪功(石本浩一:赤坂支店時代の滝野の顧客)
【家族関係】
酒井若菜(滝野奈緒子:真の妻)
斎藤汰鷹(滝野翔:真の息子)
森口瑤子(黒田亜希子:夫と共に演劇鑑賞をする道春の妻)
【その他】
前川泰之(岡崎法正:司法書士)
徳井優(枝幸秀夫:建築設計士)
吉見一豊(舞台「ヴェニスの商人」のシャイロック役の俳優)
吉田久美(舞台「ヴェニスの商人」のシポーシャ役の俳優)
高川裕也(舞台「ヴェニスの商人」のアントーニオ役の俳優)
青木健(西木に金を貸す闇金)
加藤満(九条の運転手)
宮瀬茉祐子(クラブのホステス)
牧野莉佳(クラブのホステス)
■映画の舞台
東京:メガバンク「東京第一銀行」
長島支店
ロケ地:
東京都:大田区
芝信用金庫 梅屋敷支店(長島支店)
https://maps.app.goo.gl/Z1WhrgCXp9dhyja5A?g_st=ic
ぷらもーる 梅屋敷商店街
https://maps.app.goo.gl/gNFVqW8KkjkPS84A9?g_st=ic
東京都:千代田区
大手町プレイス
https://maps.app.goo.gl/A3S8YpGLWQAYAxym6?g_st=ic
魚源
https://maps.app.goo.gl/1xMWH2eTTQdBH6iB8?g_st=ic
えどや食堂
https://maps.app.goo.gl/qoHGjQzBxEFkuTkD6?g_st=ic
東京都:中央区
ちょっぷく 人形町店
https://maps.app.goo.gl/zYHsmGV9LkeyF58F8?g_st=ic
東京都:町田市
ランバリオン BAR RUMBULLION
https://maps.app.goo.gl/fAuPRKzEypzHcbgk6?g_st=ic
お金のなる喜
https://maps.app.goo.gl/WYmv5sot9ChjpCLa9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
営業成績が一向に上がらない東京第一銀行・長島支店では、パワハラ副頭取の檄が飛ぶ会議で行員たちが吊し上げにあっていた
そんな支店で働く西木はマイペースで業務をこなし、プライベートではかなりお金に困っていた
ある日、お客様一課に配属された滝野のもとに、古い付き合いの不動産会社の社長・石本から一本の電話が入る
それは、かねてから開発を進めていた案件のパートナーが飛んで困っていると言うものだった
上物が完成すれば返済には滞ることはないと石本は説得し、滝野の探られたくない腹に探りを入れる
支店にとっても10億の融資は実績になり、九条支店長も最優先事項で稟議に入らせた
そんな折、行内似て100万円が消えると言う事件が勃発、犯人探しをしていく中で、ある事実が浮上してきて、西木はそのからくりに近づいてしまうのであった
テーマ:後ろめたさと亡霊
裏テーマ:道を外れた先に待っているもの
■ひとこと感想
原作もテレビシリーズも知らないまま、「完全に真っ白な状態」で参戦
それが良かったのか、とても楽しいテレビ映画を堪能することになりました
とある銀行で起こる事件は「あるある」を描きながら暴露されていきますが、ほぼ犯人がわかっている感じで前半は進んでいきます
後半になって、きな臭い流れになってからが本領発揮なのですが、前半の融資案件が素人にも噛ませに見えてしまうほど稚拙なのはどうなのかなと思ってしまいます
映画は配役の妙と言う感じになっていて、俳優さんのイメージそのままと言う感じになっていますね
それゆえにオチまでわかってしまうのですが、それがわかっていても面白さと言うのは変わらないのかなと感じます
でも、やはりテレビ映画の範疇を出ることはなく、テレビの二時間ドラマで放送されていても違和感がないほどにスケール感は小さかったように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
銀行に勤めたことがないので融資決済に関してはよくわかりませんが、不動産所得でお世話になったり、ローン融資を自分で行なってきたので、少しばかりは流れを知っています
以前に勤めていた中小企業でも経理部とか新規店舗開発、最終的には分社業務などに関わった経緯もあるので、銀行というモノがどういうものかは肌感覚でわかる感じでしょうか
とは言えメガバンクには縁がなく、地場的な信用金庫なら、という感じではあります
本作では、そこまでの知識がなくても、10億円が詐欺だということがわかった上で進展し、「それがいつ、どのようにしてバレて、そして真の黒幕は誰か?」という感じに描かれています
探偵役が西木で、加害者でありながら踊らされている被害者が滝野という存在になっています
そこに田端と北川の若手が絡んできて、彼らは観客に事態の進展を伝える役割を担っていました
完全なる融資詐欺を解決するというほどではありませんが、銀行系ミステリーの初歩編としては秀逸で、難しすぎない感じがちょうど良い感じでしょうか
また、映画はあまり悲壮感なく描かれていますが、起こっていることは一歩間違えば数人死んでいるレベルでヤバいことが起こっています
滝野、遠藤あたりは自殺していてもおかしくないし、西木自身も闇金との関係の中でもっと酷い目に遭わされるという可能性もあったように思いました
■舞台「ヴェニスの商人」について
映画の冒頭で演劇が行われ、その演目は「ヴェニスの商人(The Merchant of Venice)」でした
これはウィリアム。シェイクスピアの有名な喜劇で、1594年頃に書かれたとされています
ちなみにこの「ヴェニスの商人」はシャイロックではなく、アントーニオのことを指しています
物語の舞台は中世イタリアのヴェネツィア共和国と架空都市ベルモントとなっています
主な登場人物は「貿易商人アントーニオ」「財産相続した美貌の貴婦人ポーシャ」「強欲なユダヤ人の金貸しシャイロック」の3人ですね
富豪の娘ポーシャと結婚したいと考えたバサーニオは、友人のアントーニオから金を借りようとするものの、彼の財産は船の上にあって貸すことはできなかった
そこでアントーニオは友人のために悪名高い高利貸しのシャイロックを訪ね、お金を借りることになりました
船が着けば返せると思っていましたが、船は難破して全財産を失ってしまいます
そこでシャイロックはアントーニオの没落を喜びます
金を貸した条件として、「指定日までに返すことができなければ、アントーニオの肉を1ポンド与える」というものがありました
その頃、アントーニオの援助を受けて結婚することができたバサーニオはそのお金を返そうとしますが、シャイロックは金を受け取らずに裁判に打って出ます
この裁判を受け持つことになったのがポーシャで、シャイロックに慈悲の心を見せろと促します(このあたりから映画で登場)
それでも権利を主張するシャイロックに対し、ポーシャは「肉を切り落としても良いが、契約書にない血を一滴でも流せば、契約違反として全財産を没収する」と言います
シャイロックは肉を諦め、お金を取り戻そうとするものの、一度受け取りを拒否していたので、それは認めらません
また、アントーニオ殺害予告で財産は没収されてしまうのですね
その後はネタバレになってしまうので控えますが、契約を盾にしたシャイロックが返り討ちに遭うという流れのあと、シャイロックはキリストに改宗させられたりします
強欲な金貸しということでシャイロックが引き合いに出され、この物語は「金をどう返すか」というテーマがあります
金が元どおりに戻ればそれで良いのかという哲学があって、それぞれの考えが議論の渦を巻き起こしています
貸したシャイロックが悪いように言われるものの、見方によっては金を没収された哀れなユダヤ人と言うふうにも見えますね
■融資詐欺をコミカルに描く意味
本作で描かれているのは自分の銀行に対する金融詐欺で、稟議の根幹を握っているゆえに防ぐのは難しいでしょう
こう言った詐欺のために本部の検査部はあり、今回はそこにあった傷を巻き込みながら私腹を肥やしていきます
本部は支店の連帯責任と言いますが、この融資に対する本部の決済もあったので、それを看過できなかったのは支店だけの問題ではないでしょう
むしろ、本部を騙して稟議を通した支店の組織的犯罪だったこともあり、検査部は本部内の稟議決定の過程も見ていく必要があるかもしれません
本作はどこかコミカルに描かれていますが、犯罪の内容としては結構悪質なんですね
でも、あまり重たくなく、サラッと観れる感じに仕上がっていて、このあたりがテレビ向きの軽さなのかなと思いました
テレビ向け映画と言ってしまうと何となく下に見られがちですが、CMの入る隙を残しつつ、次の展開を読ませないというのはなかなか難しいと思います
テレビ映画の構成を考えると、ちょうど真ん中あたりにCMが入りますが、このあたりで展開や色をガラリと変える必要があります
前半は100万円紛失騒動でキャラ紹介、本題は後半で一気に展開を詰めていく
本作では、この緩急がきちんと決まっていたので、このあたりに熟練のうまさを感じてしまいます
この映画では100万円という身近に思えるお金と、10億円という規模のわかりにくいお金が出てきます
金額が増えるごとに決済に関わる人の規模も変わってくるので、支店内が慌てることになる10億というラインは絶妙なのかなと思いました
本作では、これらの金融詐欺をどちらかといえばコミカルに描いていて、テイストはやや軽めの印象を持ちます
金額的に個人なら死ぬというレベルではあるものの、死の香りがしないところに緩さがあって、この緩さがテレビ映画には必要なものだといえます
描き方によっては、100万円紛失の犯人扱いされた北川が精神的に病むという展開にもなり得そうですし、10億円詐欺に加担した滝野とか、追い込まれる遠藤あたりは自殺していても不思議ではない展開です
でも、それらを排除したのは、個人ではなく支店全体の問題への向き合い方を描いているからで、どことなく「扱っているお金に対する銀行員の温度」というものを感じてしまいます
1円足りなくても大変だと聞く銀行ですが、その規模が大きくなりすぎると自分ごとではなくなっていくあたりが妙にリアルだったように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の1番の魅力は「配役」で、重くなりすぎないテイストに一役買っている印象があります
キャスティングだけを眺めるとなんとなく犯人が読めてしまいそうになりますが、それゆえに怪しさ満点の役に橋爪功さんを起用して、銀行VS詐欺師という構図を前半で作り出していました
冷静に考えると、あの稟議が通ること自体があり得ないので、組織内部の奇妙な関係というものを少しだけ匂わせていきます
冒頭では「一行員だった黒田と上役(実は検査部)だった九条の関係」を描き、そのエピソードの意味が中盤の黒田の登場によって再燃する
観ている側は黒田の急所を九条が握っていることを知っているので、九条が「取引」を仄めかすシーンで一気に転調させていくのですね
検査部が来ることを九条は知っていて、担当者が黒田だったことももしかしたら知っていたのかもしれません
彼にとっての誤算は西木が有能だったということと、強欲すぎる故の傲慢さを逆手に取られたことでしょう
西木の能力は人を見抜く能力で、検査部が矛先を沈めたことで因果を感じ取ったのだと思います
10億円の稟議を本部に通させる能力、検査部に100万円紛失を見逃させる対人関係
これらを行える九条というのは何者なのか
この観点で事件を追っていくことで、西木は九条の権力とその強欲さに気づき、それを逆手に取ることに成功していました
西木の仕返しのシーンでは、微かなアクシデントを用意しつつ、それをも九条の強欲が消し去っていきます
詐欺られる方が勝ち誇っているように見せていき、一気に落とすというところに物語の締め方のうまさを感じます
ラストシークエンスでは、西木もお金の魔力に落ちるシーンを見せ、それによって強欲とは何かを考えさせます
お金の持つ魔力というものがきっちり提示されていて、ファンタジーで終わらなかったことに好感を持ちました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384379/review/df8f8d91-f1fe-46cc-875c-bcc851eace09/
公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/shylock-movie/