■よくよく考えてみれば、恋愛映画にする必要がなかったように思えてしまいますねえ
Contents
■オススメ度
キャストのファンの人(★★★)
ラブコメ好きな人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.1.26(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2024年、日本、116分、G
ジャンル:視覚と声に障がいを持つ二人を描くラブロマンス映画
監督:内田英治
脚本:内田英治&まなべゆきこ
キャスト:(わかった分だけ)
山田涼介(沢田蒼:声を捨てた青年)
浜辺美波(甚内美夏:視力を失ったピアニスト)
野村周平(北村悠真:音大の非常勤講師)
SWAY(横道:闇カジノの半グレ)
中島歩(鼓道:闇カジノのオーナー)
古田新太(柞田一平:大学の用務員)
吉村界人(中野圭介:蒼の高校時代からの親友)
円井わん(桐野弥生:蒼の友人)
高尾悠希(アツシ:蒼の友人)
海老沢七海(蒼の友人)
荒井愛花(蒼の友人、金髪)
齋藤里菜(杏奈:音大生、ライバル役)
七瀬公(北村和真:悠真の兄)
辰巳琢郎(悠真の父)
佐藤直子(悠真の母?)
山本道子(美夏のばあや)
中原果南(美夏の母?)
島田桃依(相原アキ:大学教員)
名越志保(大学のピアノ科の先生)
佐々木ありさ(ピアノ科の学生?)
宇乃うめの(ピアノ科の学生)
重松りさ(斎藤すみれ:ピアノ科の学生)
桐村和颯(悠真のピアノ吹き替え)
福松凛(蒼と喧嘩になる不良高校生)
紺﨑真紀(半グレ)
荒岡龍星(半グレ、巨漢)
北見翔(半グレ、ボクシング)
成松修(畠山克則:ベテラン刑事)
田中モエ(女刑事)
関本柊(ラーメン屋でボコられる客)
朝香賢徹(警官)
岩田知幸(警官?)
松田啓介(眼科医)
森戸マル子(闇カジノの女?)
岩田和浩(警備員)
蟹江アサド(工事現場のリーダー)
山下蓮エリック(佐伯:ピアノ科の生徒?)
朝光ゆみ(声楽科の生徒、オペラ歌唱)
石田泰誠(音楽科の生徒)
篠原雅史(蒼の居場所を聞かれる大学の学生)
瑠己也(不良高校生)
大山真絵子(アナウンサー)
■映画の舞台
神奈川県:
横浜音楽大学(架空)
ロケ地:
東京都:立川市
国立音楽大学
https://maps.app.goo.gl/juDJT2gaL5YZC4Z49?g_st=ic
東京都:東久留米市
中華料理 珍来
https://maps.app.goo.gl/EyjLXFtWhaJue1358?g_st=ic
東京都:世田谷区
松本記念 音楽迎賓館
https://maps.app.goo.gl/u2F36iSmXbLY8nNJ9?g_st=ic
東京都:墨田区
総合格闘技ジムCAVE
https://maps.app.goo.gl/xZThGEeTdGquEENu7?g_st=ic
神奈川県:横須賀市
平川宇部 生コンクリート
https://maps.app.goo.gl/tKx9kwKzygKe2JSq8?g_st=ic
横須賀美術館
https://maps.app.goo.gl/9dAXRtFJwjRrNSJLA?g_st=ic
久里浜あじのや
https://maps.app.goo.gl/uLxHZ4gDGbyDkYdh7?g_st=ic
山梨県:南都戸留群
Sercret Heaven
https://maps.app.goo.gl/u5PxrQe3hvkF88JE9?g_st=ic
栃木県:宇都宮市
宇都宮大学
https://maps.app.goo.gl/9ShbzBtJNU4C7vpk6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
横浜音大ピアノ科に通う美夏は、事故によって視力を失っていた
それでもピアニストの夢を諦めきれなかったが、指は満足に動かなかった
ある日、美夏は大学の屋上から飛び降りようとしたが、偶然その場に居合わせた大学の用務員・蒼に命を助けられた
蒼も過去の事件にて声を失っていて、高校時代の友人たちとしがない日々を過ごしていたが、美夏との出会いは彼の全てを変えてしまった
美夏は蒼が同じピアノ科の学生だと勘違いしていて、蒼は偶然出会った大学の非常勤講師・北村に身代わりになってもらおうと考える
夜もバイトに明け暮れて金を作った蒼は、金策に困っている北村に金を渡して自分の代わりにピアノを弾かせる
だが、そんな時間は長く続かなかったのである
テーマ:夢見る人を応援する理由
裏テーマ:喪失を補う愛
■ひとこと感想
難病系ラブロマンスのような宣伝でしたが、中身は「恋愛の障壁を考えられるだけ考えてみた雑食系」となっていました
視力と声を喪失した二人の恋愛で、それだけでもハードルが高いのですが、さらに設定がてんこ盛りで、展開もいじめ抜くという徹底したものになっています
いわゆる突っ込んだら負けという内容になっていて、シナリオを学んでいる学生からアイデアを募集したようなまとまりのないものに思えます
障がいだけでなく格差もあり、住む世界が違うんだあという感じになっていましたが、格差に関しては障壁どころか装飾ぐらいのノリになっていて、それが三角関係に関連するということもありません
どうやら生徒と違うクラスの非常勤講師という設定のようですが、その設定すら活かしきれていません
蒼の職業も用務員なのか清掃員なのかよくわからない感じで、用務員室が剥き出して斉藤由貴のポスターが貼ってあるというのは個人的な趣味が全開で映画に何ら関係のないので、どう捉えたら良いのかわかりませんでした
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、恋愛の障壁をこれでもかと積み上げたものになっていて、それゆえに「視覚障がいと声を出せないジレンマ」がかなり薄まっていたように思います
お互いが欠けているところを補完し合うという関係に進むこともなく、代役を立てたことで泥沼に入っていく様子を描いていました
とは言え、生徒に手を出す先生というのをさらっとぶち込んでくるところに変態性を感じてしまいます
恋人もいるのに若い女に手を出そうとする先生も大概ですが、ラストで相手の顔がわかって、そのまま勢いで公衆の面前でキスをするという展開が無茶すぎて引いてしまいます
お嬢様と底辺の恋、障がいを持っている苦悩などがあり、さらに半グレだの過去の暴力事件などがたくさん登場しています
純愛の方向を向いているのに横道に逸れているし、最後は大学教員が盗撮で捕まるという本編に全く関係のないものまで登場していました
音楽映画としても微妙で、美夏がピアノに固執する理由も描かれないし、悠真の方の背景も完全に無視されていましたね
兄っぽい人もいるし、まさかの辰巳琢郎が親父だけど存在感ないし、と何をしたかったのかよくわからない感じになっていました
おそらくは出来すぎた兄か弟にコンプレックスがあるのだと思いますが、それを匂わすシーンもほとんどありませんでした
■恋愛の障壁とは何か
本作は、恋愛映画として、様々な障壁というものが登場します
これは恋愛映画に不可欠なもので、その障壁を破れるかどうかを「応援する」という要素が映画への没入感というものを生み出していきます
基本的には、メインとなるものがひとつあって、それに付随するものが立ちはだかることになるのですが、本作の場合は、それが多すぎて強すぎるという問題がありました
最終的に脇役に「住む世界が違う」と言わせるシナリオは最悪の部類になると思います
本作のメインとなる障壁は「見えない女性と話せない男性」という身体的トラブルになっています
これによって、通常行われるであろうコミュニケーションが取れないのですが、そのジレンマを二人がどう克服するか、というのが主題となっていきます
それぞれがわかる範囲で相手を知っていくことになるのですが、今回の場合は「見えない美夏」の方がハードルが高く、彼女の目線で見たときに、どのような障壁があるかを描いていくことになります
「見えているけど想いを伝えられない」のが蒼の方なのですが、こちらの恋愛の障壁というのは美夏の身体的トラブルではなく、「相手の想像」というものになっています
この交錯がメインになっているので、これ以上の要素は不要ということになります
でも、映画では「格差」というものが障壁になり、ライバルの登場があり、さらにトラブルに巻き込まれるというものがあります
格差に関しては、裕福な家庭と清掃員という格差があり、それが住む世界が違うとなるのですが、実際の違いというのは、暴力的な世界とそうでない世界ということになっていて、ここでも微妙なズレが生じています
住む世界が違うというのは圭介の見方でありますが、それを蒼が感じているかどうかは別問題なのですね
なので、第三者的に見て恋愛を起こすべきではないと考えていますが、それが当事者同士が感じている恋愛の障壁ではないので、彼の見解というものは意味がないと言えます
また、ピアノが弾ける弾けないという障壁はありますが、それは美夏が勘違いしていると思い込んでいる蒼の見方であり、弾けるかどうかが恋愛の障壁にはなっていません
ピアノを弾けないことが理由ではなく、あくまでも舞台設定として、ピアノを弾ける悠真を登場させることになっていて、それによってライバルというものが生まれてきます
悠真は家庭も裕福で、ピアノも弾ける存在ですが、彼は美夏の音大の非常勤講師という設定なので、本来は障壁にならないタイプの人間なのですね
彼には恋人もいるし、美夏を好きになる要素もなければ、蒼から奪う理由もありません
美夏が蒼だと勘違いしたまま恋愛を進めていくというものがあれば意味がありますが、恋愛的なアプローチをしたのは悠真の方で、美夏はある程度の段階から彼が蒼ではないことに気づいているのですね
なので、唐突な悠真の行動は意味不明な部分が多く、さらにコンプライアンス的におかしな部分が多いので、登場させる意味すらないように思えてきます
結局のところ、物語を右往左往させて展開を作るために登場させているだけで、純粋に想いを簡単に伝え合えないとか、相手の想像に勝てないと思い込むなどの要素の方が描くべき恋愛の要素であり、それから逃げているだけだと思います
なので、展開ありきでキャラが設定されているので、この二人の恋愛を応援しようと考えることすら不可能な感じになっていたのが大きな問題だったのではないでしょうか
■勝手にスクリプトドクター
本作をどう手直しするかと考えた時、純粋なラブコメにするのか、後半でジャンルチェンジをする映画にするのかという核を見つけることが先決になります
映画の前半はハンデを背負った二人の邂逅を描き、そこで起きるジレンマを重ねていきますが、後半では蒼の背景で起きたこと、悠真の行動の結果に美夏が巻き込まれる展開になっていました
このジャンルチェンジに関しては問題ないと思うのですが、ラブロマンスの方向性がブレブレになっているために、これらの一連のシーンも全く活かしきれていないと感じました
このトラブルの中で、美夏は自分が好きになった人を守る、自分自身を守るという行動から「鉄パイプを持って殴りかかる」のですが、それが悠真に当たったことによって、その罪を蒼が被ることになります
でも、被害者は悠真ということになり、彼が告訴をしなければ裁判にはなりません
それでも、蒼が罪を被ることになったのは、悠真のトラブルが露見することを恐れてのものだと思います
とは言うものの、闇カジノがバレたら困るのは悠真だけではなく、借金に関しては親が肩代わりするとか介入するということで解決しそうな気がします
なので、あの場所で反社とトラブルになったことを隠す理由というものが無いに等しいのですね
また、警察がちゃんと調べれば、そこで複数人が暴れていたことはわかりますし、そこから去った車についてもわかると思います
なので、そこから反社の関連が露見し、悠真の恐れていることは遅かれ早かれ現実のものになります
それを考えると、美夏が殴った相手は反社で、その罪を被るという方がしっくり来るのですね
悠真の関わりを隠すためならば、彼自身を先に帰らせて、殴られた反社と蒼と美夏が現場にいれば、それだけで同じようなシチュエーションを作ることはできるでしょう
その後、なぜか悠真に心が動いた美夏が2年間を過ごすことになり、彼女を蒼の元に返すことになりますが、この美夏の心理というもののよくわかりません
彼女が悠真に傾く理由は彼を怪我させたからなのですが、目が見えない美夏にできることってほとんどないのですね
なので、美夏が悠真のそばにいようとしても、突き放すという行動の方が整合性が取れているのでは無いかなと思ってしまいます(元々いた恋人は何をしてたんでしょうねえ)
この2年間にさほど意味があるように描かれていないので、なおのことこの迂回させるシナリオは意味不明で浮いていたように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ハンデを背負った二人の恋愛の物語だったはずですが、それがなかったかのような後半がありました
美夏の目は病気ではなく、一時的に視力を失っているという状態ですが、彼女の演技はまるで生まれながらの全盲という感じの演技になっていました
突然視力を失った人はあそこまでスムーズに動けるとは思えず、常にばあやか母親がそばにいると思われます
それを跳ね除けたとしても、距離を置いて見守ると思うので、なおのこと「美夏の日常は家族に筒抜け」で、彼女が誘拐された場合も家族が警察に通報すると思います
映画は、スリリングな展開を嵌め込んでいくことで緊張感を持続させているのですが、恋愛映画ならではの緊張感というものを持続させることも可能なのですね
蒼がどれぐらい美夏のことを好きなのかは描かれていませんし、美夏も自分を助けてくれた人をどれぐらい好きになっているかなどはわかりません
二人の邂逅はのちに恋愛感情を有するほどに燃え上がるものではなく、同じ時間を共有する友人の域を超えてきません
なので、実質的には恋愛映画だったのかも何とも言えない感じになっているのですね
恋愛映画では無いというスタンスで映画を見ていれば、無垢なお嬢さんが素行の悪い若者の背景に巻き込まれたというものになるので、後半の巻き込まれ感はあり得る展開なのですね
でも、最終的に姿を消した蒼を探すところまでは良かったものの、公衆の面前で溜まりかねてキスをしてしまうという、唐突な展開に唖然としてしまいます
このシーンが映画のポスタービジュアルなどに使われているために恋愛映画だと判断されるのですが、ラストのキスシーンが無ければ、自分を助けてくれた恩人という距離感のまま、二人の関係は収束していったように思えます
結局のところ、恋愛映画にするのかどうかがブレブレになっていて、そちらに突き抜けるわけでもなく、要素だけ取り込んだ感じになっています
なので、逆に恋愛部分を完全に排除した方が作品のテイストに合うのですが、タイトルに「Love」とある以上、どっちつかずの企画のまま、ウケそうな要素を全部盛るという判断になったのだと思います
ここまで方向性が無茶苦茶だとシナリオの破綻は当然のことで、恋愛かバイオレンスなのかも曖昧なので、演者もキャラをどう演じたら良いのか悩んでしまったと思います
恋愛に落ちるというのは、単なる感謝の延長線上では無いのは明白なので、一気に心が持っていかれるような「好き」が前半でない以上、物語が向かう先が定着しないのは当然の帰結なのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/100204/review/03420359/
公式HP:
https://gaga.ne.jp/silentlove/