■シングルに昇華した孤独は、その癒しすらも愉しみになっているのではないだろうか
Contents
■オススメ度
シングルライフに満足している人(★★★)
一風変わったラブコメが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.10.28(MOVIX京都)
■映画情報
原題:싱글 인 서울(ソウルのシングル)、英題:Single in Soeul
情報:2023年、韓国、103分、G
ジャンル:シングルライフのエッセイ特集を手掛ける編集者と作家を描いたラブコメ
監督:パク・ボムス
脚本:イ・ジミン&パク・ボムス
キャスト:
イ・ドンウク/이동욱(パク・ヨンホ/박영호:シングルを好むインフルエンサー、エッセイの塾講師)
イム・スジョン/임수정(チュ・ヒョンジン/주현진:恋愛苦手な出版社の編集長)
イソム/이솜(ホン・ジュオク/홍주옥:ヨンホのアルバイト時代の先輩)
チャン・ヒョンソン/장현성(ジンピョ/진표:出版社の社長)
キム・ジヨン/김지영(キョンア/경아 :ヒョンジンの先輩、ジンピョの妻、本が読めるカフェの経営者)
イ・ミド/이미도(ユンジョン/윤정:編集スタッフ、校正)
ジ・イス/지이수(イェリ/예리:編集スタッフ、装丁デザイン)
イ・サンギ/이상이(ビョンス/병수:編集社のインターン)
チョ・ヨンジン/조영진(ヒョンジンの父)
ユン・ダキョン/윤다경(キョンソン/현진:ヒョンジンの父の恋人)
ク・シヨン/구시연(ヨン・ホネ/영호네:ヨンホの隣人)
イ・ソヨン/이소영(ユ・ジニョン/유진영:ヨンホの元カノ)
ハン・ユンジ/한윤지(ヨンホの元カノ)
ハン・ジョンフン/한종훈(キム先生/김선생:ヨンホの塾の同僚)
キム・サンウク/김상욱(塾長)
ユン・ゲサン/윤계상(ソヌ/선우:ヒョンジンの行きつけの書店の店員)
イ・ジウォン/이지원(ソヌの恋人)
チョ・ダルファン/조달환(オ・イシン/오시인:朗読会を行う詩人)
オ・ジョンヒョク/오준혁(ラジオのホスト)
チョ・ミングク/조민국(編集部に来る新しいインターン)
■映画の舞台
韓国:ソウル
ロケ地:
韓国:ソウル
■簡単なあらすじ
ソウルにある「街の本出版社」では、新たな企画として「Single in the City」というものを立ち上げていた
シングルライフをテーマにしたエッセイで、バルセロナとソウルに住む作家に同じテーマで書いてもらって、同時に発売するというものだった
編集長のヒョンジンは仕事はできるが他はダメという女性で、行きつけの書店員ソヌとの関係を妄想するばかりだった
大学時代の先輩ユンジョンに呆れられていたが、ヒョンジンはその妄想を止めることはなかった
出版社の代表のツテで、インフルエンサーのヨンホを会うことになったヒョンジンは、彼にソウル編を書いてもらうことになった
だが、シングルライフにこだわるヨンホは頑なで、編集が入るのを嫌っていた
彼は、人間関係は最小にしたいと考えていて、その人生観は彼の過去に由来するものだった
テーマ:シングルライフと自由
裏テーマ:自由を感じられる関係
■ひとこと感想
非モテ女子とイケメンの組み合わせで、恋愛に行くか行かないか微妙な関係というものが描かれていました
予告の段階から気になっていた作品で、出版社が舞台になっているために、執筆に関するあるあるがたくさん登場していました
キャラクターがとても面白くて、ヒョンジンの同僚二人も個性的でインターンも最高
ヨンホの過去の恋愛話も切ないものがあって、恋愛の記憶を自分が傷つかないように改変しているというものも登場します
彼らがシングルでいることを選んでいるのは、人間関係が苦手というものもありますが、自分にお金をかけることの快楽を知ってしまったからのようにも思えます
ヨンホは恋愛が拗れてそっち方面に振り切った男ですが、ヒョンジンの妄想癖もなかなか強烈だなあと思ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
バルセロナとソウルにいる韓国人作家がエッセイを書くという企画で、そこにはバルセロナに行ってしまったジュオクの未練というものがありました
ヨンホとジュオクはバイト仲間で、そこから恋愛に発展していたのですが、彼らが覚えているエピソードが少しだけ違っていたというのは興味深いものだと思います
ヨンホは初恋を思い出すことで曖昧な記憶が美化されていて、それを本当のことだと思い込んでいましたね
ジュオクとヨンホの両方のエッセイの校正をしたビョンスは同一人物のように感じていましたが、それぐらい似通っていて違うという内容だったのだと思います
最終的に恋愛は寸止めという感じになっていますが、どちらも諦めていないところが微笑ましくもあります
ヨンホは二人でいる時間を壊した理由をジュオクから知らされ、ヒョンジンは父の恋人キョンソンから「シングルライフの意味」を知ることになります
二人は「一緒にいながらも時々シングルになれる関係」というものを知らなかったのですが、それは恋が盲目で突破的だからかな、と感じました
■シングルライフの本懐
昨今では晩婚化や少子化などが叫ばれていますが、結婚せずに「人生を楽しむ」という人が増えたのは事実だと思います
結婚が遠のいたのからと一概に決めつけるのもナンセンスですが、結婚や人と生活することに価値を見出さない人が増えたことで、相対的にそう見えるようにも思えてしまいます
一人暮らしの気楽さは精神的な部分もあれば、金銭的な部分もあると思います
一方で、パートナーや家族のいない暮らしの寂しさもあると思いますが、その天秤をを掛けているというわけではないと思います
頓挫があって反対方向に舵を切る人もいると思いますが、そのままの生活を過ごしていたら、いつの間にかそうなっていたという人の方が多いように思います
「そうなっていた」というのは「潜在的選択の結果」なのですが、本人にはその意図がない場合が多いと思います
なんとなく世間で見聞きしたもの、近しい人の体験談などを吹き込まれていると、「そうはないたくないなあ」という感覚が選択に影響していると思うのですね
特に結婚に関して晩婚化や未婚化が進んでいるのは、両親が結婚に失敗したという事例を間近に見てきた人が多く、配偶者となった異性の真実!を知ってしまったからのように思います
このあたりは個人差があって、結局は「衝動には勝てない」のですが、この衝動にあたる機会も「潜在的選択の結果」が大きく影響しているのですね
特にスマホが普及し始めてから、SNSやネットの世界でいろんな情報を入手してしまうことで、そういったバイアスがさらに加速しているようにも思います
一時期はテレビなどで「家族の美談」が取り沙汰されていましたが、「家族の醜聞」もどんどん大きくなって、当事者年齢だと「他人事で笑って済ませる」のですが、年下世代だと「協調する親を見て、結婚なんてロクでもないかも」と刷り込まれてしまうのですね
結果として、人と接する機会の減少が起きて、それが衝動を産まなくなり、さらに衝動が起きても現実感がそれを否定するというサイクルに陥ってしまい、今の世の中があるのかな、と感じました
そう言った中で、自分を確立する人がいて、本作だとヨンホがそちら側に行ってしまった人になっていましたね
ヒョンジンとの出会いが「衝撃」だったわけではありませんが、彼にとっての衝撃はジュオクとの日々で、それが「体験」となって個を確立することになっていました
シングルライフを極めている二人を雑誌で特集するという企画になっていましたが、ヨンホとジュオクは公私ともに世界観を作りあげていたけど、ヒョンジンの方は成り行きのままの世界観になっていたのも面白かったと思います
■恋愛とシングルの親和性
恋愛はシングルであるかどうかを問うことなく訪れるもので、自分の過去が作り上げた理想などを突き飛ばして、瞬間的に訪れるものだと思います
中には、異性として意識するタイミングが遅れていて、ある程度の関係性が構築されてから恋愛状態になる人もいれば、そう言った気持ちを押し隠して最初にできた関係を守ろうとする人もいます
シングルでいる方が動きやすいとは思いますが、実際には同時進行系の人もたくさんいて、法的関係を結んでいるのにも関わらずという人も一定数います
自分の衝動に従順な場合と、すでに誰かに認められているというステータスに魅力を感じる人がいて、後者は関わり合いになるととても厄介な生き物であると思います
シングルでいることを選択すると、他人との距離感は自分の生活リズムに合致するかどうかという判断基準になっていくと思います
話すスピード、歩く速度などのフィジカルな部分と、話す内容、行動方向性などの内面的なことまでが干渉し、常に自分のリズムとの相対性を優先してしまうでしょう
個人的にも自分のリズム重視の人なので、会話モードに入っていない時に話しかけられても耳に入らないし、要約する癖がついているために話の先を読んで自己完結してしまうという悪い面があったりします
シングル派は、このリズムを阻害しない人とだったら問題なく付き合えるのですが、そう言った場合は相手も同じリズム感だったりするのですね
その時は、ほぼお互いのプライベートには干渉し合わないので、衝突が起こるということも稀な出来事となっていきます
感覚的には、シングルと恋愛は反発関係にあると思いますが、それは融和するポイントが少なすぎるからだと思います
それでも、そう言った問題を傍に追いやってしまうほどの衝撃というのは存在します
自分に向かっていたベクトルが一気に相手に向いてしまうもの
そう言ったものは理屈では語れない部分があって、戸惑いながらも、その機会損失の影響を冷静に考えたりします
そこからどれぐらいで醒めるかは人それぞれですが、個人的な感覚だと一定の区切りを見るまでは、その流れに委ねるほうが正解に近い印象がありますね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、「Single in the City」という連載をするために、ソウルと国外のおひとり様を特集することになっていました
インフルエンサーのヨンホと、謎の作家という組み合わせで、当初はその繋がりがあるとは思えませんでしたが、出版社のインターンが「類似性」と見つけることになります
そして、この二人には因縁があることがわかり、という内容になっていて、その間に挟まれるヒョンジンという立ち位置になっていました
ヨンホはジュオクの幻影に縛られていて、それを察して距離を置くことになったのですが、彼女自身もヨンホに囚われていたことがわかります
それでも、この関係性には終わりが訪れていて、それゆえに二人が同じような価値観で「一人でいること」を選んだ人生を歩んでいることがわかります
特にヨンホにはこだわりがあって、「ひとりでも幸せ」と「ひとりだから幸せ」の言葉の使い分けに固執していました
ヒョンジンはそこまで大きな差がないと考えていましたが、当事者からすればまったく意味の違うものとなっています
ヒョンジンは「でも」という言葉を使い、これは「二人でも、ひとりでも」という意味になります
対するヨンホは「一人だから」という理由を述べていて、「でも」が示すシチュエーションではないことにこだわっていました
自分が選んで突き詰めた人生観がその言葉に凝縮されていて、原稿をアップする際にも、その言葉のチョイスを頑なに貫いていましたね
このヨンホのこだわりが見えないうちは、ヒョンジンはノーチャンスのように思えます
一人だから幸せを変えるには、二人だから幸せという大掛かりなシフトチェンジが必要になってきます
そのためには、相手の人生のことを自分の人生よりも大切に思えることというマインドシフトが必要になってきます
恋愛とは、相手のことを常に考えているという状態ではありますが、まずはヨンホの思考をハイジャックしないと話は始まらず、関係を持てても便利な女になるのかなあと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/102181/review/04414461/
公式HP: