■戦った者たちは、前向きに生きて、未来を掴んだ


■オススメ度

 

ディザスターコメディが好きな人(★★★)

不謹慎だけど笑いたい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.11.15(TOHOシネマズ二条)


■映画情報

 

原題:싱크홀(シンクホール)、英題:Sinkhole

情報:2021年、韓国、114分、G

ジャンル:11年越しに買ったマイホームが一瞬にしてシンクホールに飲み込まれてしまう男を描いたディザスターコメディ映画

 

監督:キム・ジフン

脚本:チョン・チョルホン&キム・ジョンハン

 

キャスト:

チャ・スンウォン/차승원(チョン・マンス:取り扱いの難しい住人、何でも屋、402号室)

ナム・ダルム/남다름(チョン・スンテ:引きこもりのマンスの息子)

 

キム・ソンギュン/김성균(パク・ドンウォン:アパート購入に11年間を要した男、課長、501号室)

クォン・ソヒョン/권소현(ヨンイ:ドンウォンの妻)

キム・ゴンウ/김건우(パク・スチャン:床でビー玉を転がすドンウォンの息子)

 

イ・グァンス/이광수(キム・スンヒョン/キム代理:拗らせ気味のドンウォンの部下、同僚のヒョジョンが好き)

キム・ヘジュン/김혜준(ホン・ウンジュ:ドンウォンの部下、学生インターン)

クォン・ジョンスク/권정숙( ウンジュの母)

 

イ・ハクジュ/이학주(チョン代理、ヒョジュンと社内恋愛しているドンウォンの部下)

ハン・ヘリン/한혜린(アン・ヒョジョン:チョン代理と社内恋愛をしているドンウォンの部下)

 

オ・ジャフン/오자훈(ソンフン:母の言いつけを守る少年、202号室)

パーク・オクチョル/박옥출(ソンフンのお母さん、食堂勤務)

 

キム・ジェファ/김재화(キョンミ:301号室の派手な住人)

キム・ビョンチョル/김병철( キョンミの夫)

 

チョン・ヨンスク/정영숙(オ老女:取り残される高齢者、201号室)

ナ・チョル/나철(ミンジュン:オ老女を介護する孫)

ソン・ギョンア/송경아(オ老人の娘)

 

チョン・スンジェ/전승재(502号室の住人)

チョン・ウンミ/전은미(502の住人の親戚)

 

キム・ギョンファン/김경환(引越会社のリーダー)

ナ・ヒョンミン/나현민(キム代理を乗せるタクシーの運転手)

 

チャン・グァン/장광(向かいのマンションの屋上の男)

 

キム・ホンパ/김홍파(ソ局長:レスキュー隊のトップ)

コ・チャンソク/김홍파(レスキュー班の班長)

アン・ソンボン/안성봉(レスキュー隊のリーダー)

 

キム・ソニ/김선희YTNのニュースアンカー)

 


■映画の舞台

 

韓国:ソウル

ケポ区チャンス町(架空)

 

ロケ地:

韓国:チュンチョン市

https://maps.app.goo.gl/GbfwnaT4JnofkQ9b7?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

11年越しに念願のマイホームを購入した会社員のドンウォンは、引っ越し当日からそこの住人チョン・マンスとトラブルを起こしてしまう

なんとか引っ越しを終えたドンウォンは妻ヨンイ、息子スチャンと共にマイホームの余韻に浸っていた

 

翌日、家族写真を撮ろうと決めたドンフォンが写真屋にいくと、そこはトラブルになったマンスの店で、嫌々ながらも家族写真を取る

その後、外食したドンフォンが代行を呼ぶと、それもマンスの仕事だった

 

そんな折、スチャンは父に「ビー玉が床を転がる」と教える

欠陥住宅の様相と呈し、ドンフォンはマンスらに掛け合って、市役所に調査を依頼しようとしたが、住民の声はなかなかまとまらなかった

 

それから数日後、ドンフォンの引っ越しを祝おうと、部下たちが押し寄せた

酒も進み、泥酔したキム代理は翌朝の披露宴の司会のためにタクシーで向かおうとする

だが、荷物を忘れて取りに戻ったとき、思いもよらない事態に遭遇してしまうのである

 

それはシンクホールと呼ばれる地盤沈下によって、ドンフォンの住むマンションだけがそのまま地中へと沈んでいったのである

 

テーマ:心地よいマイホームとは何か

裏テーマ:地価高騰と管理体制

 


■ひとこと感想

 

マンションが陥没した竪穴に沈むというディザスター&レスキュー系の重い話だと思っていましたが、まさかの「不謹慎な笑いしか起きないコメディ映画」とは思いもよりませんでした

どこか日本のコメディ俳優とかお笑い芸人に似ている感じの俳優さんが出ていて、そのためかさらに「コメディっぽさ」が増幅されていましたね

それでも、マンション崩落の映像とはガチで作り込んでいて、真面目に作ればかなりのディザスターを作れそうな予感は伝わってきました

 

映画は「トラブルの中で家族の問題が噴出して解消される」というもので、引きこもりの息子を持つマンスと、家族の前でカッコつけたいドンウォンが共闘するという流れになっていました

 

思っていたのと違う映画だったのですが、「他人の不幸が楽しい」というマイナスマインドではなく、「必死になっているのに色々とおかしい」という映画になっていました

映画館の方が迫力があると思うので、大作の長蛇に並ぶよりは楽しめるかもしれません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

シンクホールにマンションが落ちる、しかも500mという、設定から「ちょっと笑わせにきたかな」と思わせる空想設定で、その後も進まぬレスキューは蚊帳の外で、生き残った人間だけでなんとかしようと奮闘していました

細かいことを言い出したらキリがないのですが、この映画は「ガチのレスキュー路線」ではなく、あくまでもシチュエーションコメディになっているところが振り切っていましたね

 

笑ったらダメな展開なのですが、本当に腹を抱えて笑うシーンが多くて困惑してしまいます

でも、劇中の誰もが笑わせるような行動は取っていなくて、一生懸命なのに「演出で笑わせる」という偉業を達成しています

 

また、ラストのオチが秀逸で、マイホームを持つことの意味とか意義などを問いかける内容になっていました

すでにローンで買ってしまった身としては、シンクホールが真下にできないことを祈るばかりですねえ

 


シンクホールとは何か

 

映画に登場する「シンクホール(Sinkhole)」とは、「石灰岩・ドロマイトの地域にて、地下に空洞ができて表層が崩落して生じる陥没孔」のことを言います

原因の多くは「地下水による侵食」「化学的な変化」とされていて、カルスト地形(石灰岩などの水に融解しやすい岩石で構成された土地)にて起こりやすいとされています

鉱山などの人為的にできた穴による崩落もシンクホールと呼ばれますが、英語では「Pinge」というふうに言い分けられています

これらは湖沼や海でも発生し、海面下のシンクホールを「ブルーホール」と呼びます

 

韓国では「人為的な要因から発生するシンクホール」が増えていて、2014年にソウルのソンパグ区にて地下車道のアスファルトの一部が深さ5mほど崩落し、その2日後には2mの地盤沈下が起こっています

その原因を上下水道管の老朽化として根本的な原因から目を背けていると言われていて、これらの沈下現象の多くはトンネル工事の補強不良、地下掘削支持台の不足、地下水の排出過多などが指摘されています

土木地質工学図が1996年頃に作成されたものの、ソウル市の認識不足から、当分の間、この工学図の活用はされていないと指摘されています

現在、危険視されているのがチャムシル区にある「第二ロッテワールド周辺」とされていて、この地域は河川を埋め立てた場所にあたるとのこと

それゆえ地下水も比較的表面近くにあり、岩石が脆くなっていると言われています

 

パンフレットによれば、「国土交通省発表で年間平均900件、1日あたり2.6件の陥没穴が発生している」とされていて、その78%がソウルに集中しているとのこと

映画のようにマンションがまるまる崩落するというケースはレアかもしれませんが、韓国では三豊百貨店の崩落事故(シンクホールではなく建築基準の無視と放置による人災)もありますし、前述の第二ロッテワールドでは数々の事故が起きています

この土地でシンクホールが発生したら、建物の崩壊も同時に起きると考えられています

ちなみに、このタワーは韓国で最も高いビルで高さは555m、123階建なので、崩落事故が起きたら周辺の巻き添えも想像を絶するものとなるとなるでしょう

そうなると、コメディ路線で映画を作れなくなってしまうかもしれません

 


マイホームはどっちが正解?

 

本作ではドンウォンが11年間かけてマンションを購入していて、同じマンションに住むマンスは賃貸で入居していました

買うか借りるかどっちが正解か?という問題は古くから議論されていて、その答えは個々の環境によると思います

私個人は30歳くらいで30年ローンを組んだのですが、それまでは賃貸を転々としていました

部屋選びは失敗すると大変なのは承知で、これまでに「ワンルーム」から「4LDK」まで、様々なマンションに住んできました

結婚後に賃貸で借りたマンションでは、別棟で火事が起きてしまい、一歩間違えばという状況にありました

その時に思ったのは、上下左右に知らない人が住んでいる環境は嫌だなあという素朴なものだったと思います

 

マンションを買うというのは私には理解しづらくて、住民が入れ替わる可能性が高い場所を購入するのはリスクがあると思います

無論、戸建てでも隣に誰が来るかとか、元々その土地に住んでいる人たちとの関わりというものがついてくるので、どっちもどっちのような感じはします

今の低金利でも、ローンはやはりリスクがあるので、購入ならある程度まとまったお金で一括購入するのが一番マシかなと思います(私の場合は3分の1の頭金を用意しました)

最近よくSNSなどで煽りで見るのが「不動産は負債」というもので、「買うやつはバカ」という論調になっていますね

自分の価値観を披露するのは構いませんが、違った価値観をバカ呼ばわりするのは品性が疑われても仕方ありません

 

結局のところ、終の住処をどうしたいかというところに行き着くのですが、高齢になっても「若い時と同じようにいつでも引っ越せる」と思う方がどうかしていると思います

若いうちは動けるし、転勤などのリスクがあるので購入が良いとは思えませんが、それも職種によるでしょう

同じ家に何年も住みたくないという人もいるでしょうし、逆に同じ家に住み続けたいと思う人もいる

人生の途中で考え方が変わることもあるし、何かしらのアクシデントで人生の方向性が決まることもあるでしょう

 

私個人の話だと、20歳の時に就職(バイトからのそのまま入社のパターン)で、30歳になる頃には購入に踏み切っています

でも、私が購入に至ったのは、その時の会社に不動産部門があったからなんですね

なので、そう言った知識のある人が社内にいないと買っていたかどうかはわかりません

家の場所を決めたのは、会社が近いというのもありましたが、本当の理由は競馬場が近いから、でした

 

それまでに住んでいた場所は「裏道(自分の中では高速道路と呼んでいる)」を通ると競馬場まで30分以内に行けるというところばかりでした

今の住処はまさにレース間隔よりも短い距離で到着できる距離ですが、近辺の様々な交通事情などを加味して決めました

最終的には妻に決定権を与えて、このへんならいいよ(本音は内緒)という誘導をしたことを今でも覚えています

なので、世間の人よりも考えずに購入しているのですね

でも、賃貸と購入の両方の経験者とすれば、購入の方が気が楽だなあと感じています

 

それは、ある程度社交性があって、それほど近隣との付き合いに苦労しないという性格があるからだと言えるでしょう

それを考えると、最終的な決め手は「自分の性格」ということになり、これは死ぬまで変わらないと仮定して、住みやすい状況を模索するのが最適解になるのかなと思っています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画はディザスター系コメディという「日本だと不謹慎だと思われて作れない映画」なのですが、これを現在進行形で被害者がいてもエンタメとして作ってしまうところが韓国映画界の強みだと思います

日本でこのような映画が作られないのは、「現実と虚構を混ぜて主張する層の声を聞いてしまうから」で、制作意図が明確であればその主張を曲げずに作るべきでしょう

でも、様々な配慮を重ねた結果、骨抜きになっている物もあれば、その主張が歪んでいるというものもあります

 

日本でも「3.11」関連は当初はドキュメンタリーで多くありましたが、これをフィクションの題材にすると議論の的になってしまいます

それを回避するために虚構に寄せても、現在公開中のアニメのようにバッシングが起こることもあります

今回のバッシングは宣伝の仕方が悪いのですが、そもそも「都市直下型地震の防災映画」のモチーフの中に「津波による被災を起こした海洋性地震を混ぜ込んだこと」が原因となっています

 

この映画で伝えられているテーマというのは、「不動産の不透明さ」「不動産管理の複雑さ」「シンクホール問題」「家屋倒壊問題」などに対する「警鐘」がメインになっています

その中で、各種の社会問題を提示しながら、最終的には「キャンピングカー暮らし」という従来からあった別の価値観の提示に至っています

このテーマに対する答えが提示されていることによって、この映画に一本筋が入ったものが生まれて、それゆえにコメディにしても許されてしまう土壌ができたのだと思いました

また、コメディになっているのは、キャラクターの行動と反応に特化していて、笑えないシーンはちゃんと深刻に描いているのですね

このバランスが絶妙だったと感じました

 

悲劇的な状況だけを描いても悲惨さしか伝わりませんし、被災者(被害者)は大変だったという目線で終わってしまいます

でも、本作のキャラクターたちは「なんとかして生き抜こう」という希望も捨てないし、選択肢の少ない中で様々な工夫をしていて、これが同じ状況に陥った時のヒントにもなっています

それでも、全員が無事というファンタジーにはせず、子どもは死ぬし、老人は見捨てるというハードな選択をもきちんと描いていきます

 

本作では「災害に遭った人々」が悲観だけではなく助け合い、建設的な意見を戦わせながら力を合わせて這い上がっていきます

シリアスな救出劇にしてリアルを追求することも可能ですが、そうしなかったのには「繰り返し観られるか」という観点があるのだと思います

悲劇的な物語を何度も観るのは苦痛でしかありません

でも、危険性の啓発として「他人に勧めやすいか」という指標は結構重要だと思うのですね

なので、このような作風にしつつ、それによって一番傷つくであろう被災者が力強く生きていること描くことで、それが観ている人の中で力になっていきます

 

被災者の人たちが一番嫌うのは、自分達の人生が優越感の中で消費されることだと思います

そういった意味において、自分達の選択が正しかったことを肯定し、それを単なる一時的な感動に終わらせない指針というものが大事なのではないでしょうか

日本でこのような映画が作られないのは「自己規制」もありますが、どこかで「優越感の消費」で経済活動をしようとしていることが透けて見えるからだではないでしょうか

そのようなマインドがない作品は、同じ題材を扱っていても、炎上案件にはならないことは歴史が証明していると思います

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384529/review/8bd3a7b1-7ea9-4508-810d-bd432bd5332b/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/naraku/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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