■アルファのフォロワー数はブリアナを超えたのだろうか
Contents
■オススメ度
C級ホラーコメディに足を踏み入れたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.4.30(T・JOY京都)
■映画情報
原題:Slotherhouse(屠殺場)
情報:2023年、アメリカ、93分、G
ジャンル:凶暴なモンスターをマスコットにしてしまった女子寮に起きる惨劇を描いたホラーコメディ
監督:マシュー・グッドヒュー
脚本:ブラッドリー・フォウラー
キャスト:
リサ・アンバラバナール/Lisa Ambalavanar(エミリー・ヤング:女子社交クラブ「シグマ・ラムダ・シータ」所属の学生)
(アルファ:エミリーが飼うナマケモノ)
シドニー・クレイブン/Sydney Craven(ブリアナ:「シグマ・ラムダ・シータ」の現会長)
グレイス・パターソン/Grace Patterson(クロエ:服をたくさん持っているブリアナの参謀)
サッター・ノーラン/Sutter Nolan(サラ:アルファ排除を任命されるブリアナの子分)
ミリツァ・ヴルジッチ/Milica Vrzic(ガビー:ブリアナの子分、選対本部長)
アナマリア・セルダ/Annamaria Serda(ダコタ:使えないブリアナの手下)
ティアナ・ウプチェヴァ/Tiana Upcheva(アリッサ:無口なビジュアル担当のブリアナの手下)
キャディ・ラニガン/Cady Lanigan(モーガン:絶望的なファッションセンスのブリアナの友人)
アンドリュー・ホーソン/Andrew Horton(タイラー:サプライズ好きのエミリーの彼氏)
オリビア・ルーリエ/Olivia Rouyre(マディソン:アルファ飼育反対のエミリーの親友)
ビアンカ・ベックルズ=ローズ/Bianca Beckles-Rose(ゼニー:柔術の達人のエミリーの親友)
ティフ・スティーブンソン/Tiff Stevenson(ミセス・メイフラワー:寮母)
Stefan Kapicic(オリバー:エミリーにナマケモノ飼育を薦めるペット業者)
Kelly Lynn Reiter(アヴァ:富裕層の新入生)
Jelena Košara(アシュレイ:アヴァの友人)
Fernando Duran(ヒューゴ:何かを轢くピザ屋の店員)
Đorđe Mišina(ブレット:浮気性の男)
Jomely Butsayamant(キラ:?)
Milosh Klipic(密猟者)
Milan Todorovic(密猟者)
Juliana Sada(エスカレータの女の子)
Patricia Starlight(犬に逃げられるペットショップの店員)
Bradley Fowler(救急医)
Jelena Rakocevic(警官)
Una Kozic(新入生の女の子)
Maclean Yatel Arthur(新入生の男の子)
Anita Yoo(ローラ:Tシャツ着ている新入生)
Isabella Johnson(寮生)
Audrey Deubig(寮生)
Leah Ballard(寮生)
Hannah Martinez-Crow(寮生)
Sierra Goria(寮生)
■映画の舞台
中央アメリカ:パナマの密林「ダリエン地狭」
https://maps.app.goo.gl/SQJqH8nHEyDAZgpCA?g_st=ic
アメリカのどこか
ロケ地:
セルビア:
ベオグラード/Belgrade
https://maps.app.goo.gl/npTqsf2mJARN8Ubh6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
パナマのあるジャングル地帯にて、ワニを瞬殺したナマケモノが密輸業者に捉えられた
その後、ナマケモノは海を渡り、あるペット業者の元へと届けられる
一方その頃、とある大学の学生寮では、女子社交クラブの「シグマ・ラムダ・シータ」の新しい会長の選挙戦が展開されていた
3年連続でブリアナが会長を務めてきたが、かつて母が会長だったエミリーは、なんとかうだつの上がらない学生生活を変えようと考えていた
ある日、ショッピングモールでペットショップの犬を捕まえたエミリーは、そこでペット業者のオリバーと出会う
オリバーは人気者になれるナマケモノがいると言い、名刺を渡して去っていった
その後、エミリーは一方的な会長選の嫌気が差し、また自身が注目されたいと考え、オリバーからナマケモノを買うことに決めた
指定された場所に向かったエミリーだったが、そこにはオリバーの姿はなく、かわいいナマケモノだけがいた
奥から奇妙な声が聞こえ、怖くなったエミリーは、ナマケモノを勝手に持ち帰ってしまう
そして、ナマケモノは寮のマスコット的な存在になってしまうのである
テーマ:目立ちたがりの代償
裏テーマ:茶番と憐れみ
■ひとこと感想
アメリカのソサエティというのはよくわかりませんが、学生に見えない方々が何かを競っているのはわかりました
会長になったら面倒なだけだと思いますが、会長室は憧れの世界なのでしょう
物語は、パナマで捕獲されたナマケモノが裏ルートでアメリカに渡り、女子寮のマスコットになっていく様子を描いていきます
特徴的なキャラがたくさんいるのですが、あまりにも多くて瞬間的に覚えられません
密輸業者とペット業者は同じ人に見えたけど配役は違うようですし、名前を呼ばれないキャラもたくさんいましたね
ググっても顔写真すら出てこない俳優さんもいて、誰なのかを特定するのも難しくなっていました
映画は、思いっきり「人形劇」なので、そのアホらしさを楽しめればOKでしょうか
一応ホラー映画らしいのですが、どう見てもC級コメディにしか見えないので、それで良いのかと思ってしまいますね
楽しんで作ったことはよくわかりますが、ナマケモノがほぼ人間のような行動をするので、あまり怖さを感じませんでした
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
悪ノリのアニマルパニック・ホラーなのですが、どう見てもパペットマペットレベルの人形なので、リアルを無視して操作性を重視したのかなとおもました
ナマケモノのリアルさは皆無で、かと言って愛らしいぬいぐるみでもないところは絶妙な匙加減になっています
映画は、アメリカの女子寮のよくわからない制度による殴り合いを知っていると楽しめる感じになっています
たぶん、大学生たちが集まっているのだと思いますが、勉強しているシーンとか皆無でしたね
選挙戦とマウント合戦、それにパーティーをしているだけのように見え、アメリカの女子文化わからねええという感じで眺めることになりました
ホラー映画らしいのですが、どう見てもコメディ映画で、グロいシーンもほとんどなく、殺され方も生ぬるいものが多かったですね
主人公をピンチにするための仕掛けも陳腐で、結局のところ、何を見せられたんだろうかという脱力感が強くて座席を立てなくなりました
■アニマル・パニックの真髄
本作は、アニマルパニック系ホラーの系譜になりますが、このタイプの映画は大きく二つのパターンに大別されます
ひとつめは「元々危ない動物の領域に入る」パターンで、獰猛な動物がいるのにも関わらず、主人公たちが知らずに(もしくはわざと)彼らの領域侵犯をして襲われるというものです
知らずにというパターンだと、自然災害などによって世に放たれてしまい、いつの間にか生息地になっているところに迷い込んでしまうパターンもあります
わざとのパターンだと、肝試し的な内容で領域侵犯をして、それによって逆鱗にふれることになります
もうひとつのパターンは、普段はまったく危険を感じない動物なのに「凶暴性のスイッチが入るパターン」で、人為的な場合と、そうでない場合があります
人為的なものだと、健気な動物を実験にして、何らかの薬剤なのによって、意図的もしくは偶発的に凶暴になるものです
非人為的なものだと、襲われる側には非がなくて、別の場所で起きた出来事によって、凶暴化した動物に襲われるパターンになります
動物からすれば「攻撃の対象が人類」というパターンで、自分の逆鱗にふれた種に対する攻撃に出ることになります
本作はこのパターンに近く、密猟者によって生息地から切り離され、ペット業者によってぞんざいに扱われて怒りが増幅しているという前提があります
エミリーたちが直接何かをしたわけではなく、自分に酷いことをしたオリバーに怒りを抱いていて、彼と関係性があるように思えたことで、エミリー自身も復讐の対象となっているのですね
なので、寮に住む人からすれば、オリバーと関係するエミリーのその仲間も全て攻撃対象ということになっていて、元々持ち合わせていた凶暴性も「薬の喪失」によって解放されている流れになっています
ナマケモノにあのような薬が必要かは置いておいて、設定として「薬を飲まないと凶暴化する」というものがあって、その禁忌を犯した罰を受ける流れになっています
本作の場合は、無知ゆえに騒動に巻き込まれるパターンになっていますが、自身のイメージアップに動物を利用していることになっていて、その報いを受けていることになります
これをエミリー自身の業のように捉えていますが、実際には殺されるまでのことをしていないのですね
なので、単にアルファの野生としての凶暴性が露出し、そのターゲットになっているだけという内容になっています
問題は、ナマケモノがそこまで凶暴なのか、という認識が通用していないところで、それゆえに襲われるリアルというものが伝わらないと言えるのではないでしょうか
■勝手にスクリプトドクター
本作は、いわゆる悪ノリ系のパニックコメディで、ナマケモノは愛らしいはずという前提で接しているエミリーたちが、アルファの本性にふれるという流れになっています
アルファは人間並の知性を持っていて、その全ては「エミリーたちの想像を覆すもの」となっていますが、想定される以上に知能が高く描かれていました
PCをさわったのは偶然でしたが、その後「スマホで#をつけて投稿」あたりから偶然性を無視し、最終的には「車を運転」というところまで行き着きます
当初は「偶然そうなった」というテイストだったと思いますが、それだけでは恐怖が派生しないので、色々と「盛る」ことになっていて、この悪ふざけを楽しめるかどうかになっていたように思えました
この悪ノリ自体は良いのですが、本作の欠点は「登場人物の多さ」になると思います
人が多い分説明が必要になってくるのですが、本作の場合は、「寮内の会長選」が舞台になっていて、それがヒエラルキーと対立構造を生んでいます
寮の女王はブリアナで、人気取りのためなら何でもするというタイプですが、彼女の人気の背景というものはイマイチ分かりません
あのタイプだと「親が金持ちで逆らえない」という感じですが、映画では「インスタのフォロワー数が多い」というのが指標になっていました
ブリアナは32864のフォロワーがいて、他のメンバーに比べればダントツの存在で、それゆえに手を出しづらい空気を醸し出しています
彼女の機嫌を損ねてSNSに書き込まれたら、3万人の敵が自分を攻撃するかもしれないというもので、この恐怖感というものはあまり一般的ではないのですね
SNSで粘着されたり、バッシングを受けた経験があれば理解できますが、そもそもが「自分の発信が影響を与える」ことの方が多いので、イキって発信した挙句、揚げ足取りで炎上するということがないと、なかなかその機会を得られないと思います
それでも、インスタなどのフォロワーが絶対的な価値観を持っている世界もあって、それがブリアナたちの生きている世界であると言えるのでしょう
映画は、このフォロワー数の多さの比較のために、多くの人物が登場し、エミリーには824フォロワーしかいないために、ダントツで人気がないという感じになっています
でも、彼女は母親が会長だったということもあって、何とかしてブリアナの牙城を崩したいと考え始めます
ブリアナの独占状態への対抗としては意義があるように思えますが、実際には虚栄心が主体になっているので、このエミリーの発起に対してもあまり共感度は高くありません
この場合、もっとブリアナを悪として描かないと対比構造にならないのですね
なので、ブリアナの機嫌を損ねて、SNSで炎上して退学(退寮)に追い込まれた人物を描く必要があります
寮母のミス・メイフラワーは、これまでの寮のパワーバランスと支配構造について知っていますが、ブリアナの支配に対する苦言はしていません
彼女がこの独裁的状況に対して何のレスポンスもなく、ただエミリーの迷いを断ち切るだけの起点にしかなっていないのは微妙なのですね
なので、メイフラワーがこの状況をよくないと思い、寮内の治安がブリアナによって支配されている状況を訴える側にならないとダメだと言えます
これだけ多くの人物が登場しても、ブリアナが悪者であると意識づけるキャラが皆無で、状況を変える必要性があるのかがわからないのですね
なので、会長というものがどのような影響を及ぼすのかというところを映画内できちんと描く必要があったように思いますが、それ以前に「ソロリティ」というものが一般的である社会に属していないゆえにわからないというのが正直なところなのだと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、アメリカの女子寮の風物詩「ソロリティ(Sorority=姉妹)」を扱っていて、この文化がわからないとついていけない部分がありました
ソロリティとは、アメリカの大学にある女子大生の社交場のことで、同じ大学にいくつものソロリティが存在します
それぞれのソロリティが独自の文化や歴史を持っていて、秘密の儀式やルールなどもあったりします
そこで培われた絆は、卒業後も継続すると言われています
同じような男性のグループをフラタニティ(Fraternity)と言い、意味は兄弟という感じになっています
ソロリティのメンバーのことをシスターと呼び、メンバーに入るためにはソロリティの招待が必要で、数週間に及ぶ「修行」のようなものがあります
これらのソロリティの名前にはギリシア文字が使われ、「Σ、Λ、Θ」が映画に登場する「シグマ・ラムダ・シータ」となり、女子寮の前には「RUSH ΣΛΘ」と書かれた文字がありました
この「RUSH」は、新入生のリクルート活動期間のことを言い、新入生は興味のあるソロリティのハウスを訪れ、自分自身をアピールする場になります
ソロリティとしても、有力なシスターの獲得に躍起になっていて、映画では富豪の娘エヴァが勧誘を受けているシーンがありました
これらの文化がベースになっていて、エミリーたちの女子寮にもルールがありました
それが「多数決でマスコットを決められる」というものでした
エミリーはそれを利用してアルファを引き入れますが、それが悲劇の引き金になっていました
アルファは密猟によってペット業者に引き渡されたナマケモノで、保護局などに連絡をして保護してもらう必要がありました
例えペット業者から購入しても、違法は違法なので罪に問われかねません
今回は多くの死人が出たことで問題も表面化したと思いますが、1年後には何事もなかったかのようになっていたのは笑ってしまいました
エミリーは無事に会長になり、母親と同じような道を歩むことになりますが、悲劇の原因でもあるので無罪放免には違和感がありますね
エミリーとブリアナの和解が起こっていますが、ブリアナが会長を諦めた理由も雰囲気になっているし、キャラも激変していたように思いました
せめてこの戦いがSNSでライブ配信されていて、トドメを刺したのがエミリーだとわかって英雄視されている方がテイストには合っていましたね
せっかくインスタのフォロワー数がステータスになっていたので、インスタライブで生配信されていても良かったのではないかと思います
彼女たちにそんな余裕はないと思うのですが、ここまで無茶苦茶な内容なら、アルファが生配信して、彼のアカウントがブリアナをも抜いてしまうぐらいの小ネタがあっても良かったのではないかと感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101155/review/03769204/
公式HP: