■自分のために生きることが、誰かのために生きることにつながっていく
Contents
■オススメ度
懸命に生きる若者を描いた映画が好きな人(★★★)
難病を患う若者を描いた映画に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.4.30(アップリンク京都)
■映画情報
原題:我們一起搖太陽(一緒に太陽を揺らしましょう)Viva La Vida(生きる)
情報:2024年、中国、129分、G
ジャンル:脳腫瘍の青年と腎不全の女性の邂逅を描く人生讃歌
監督:ハン・イエン
脚本:ハン・イェン&ワン・シャオアイ&リー・ヤンウェン
原作:朱金平『最功利的婚姻交易,最动情的永恒约定(2015年、雑誌「婚姻与家庭」収録)』
参考記事(中国語)→ https://www.taicike.com/juqing/16847664.html
キャスト:
ペン・ユーチャン/彭昱畅(リュト/吕途:悪性脳腫瘍を患う青年)
リー・ゲンシー/李庚希(リン・ミン/凌敏:腎臓病を患う女性)
シュウ・ファン/徐帆(タオ・イー/陶怡:リュトの母)
ガオ・ヤリン/高亚麟(リン・ミンの父/凌父)
リウ・ダン/刘丹(リン・ミンの母/凌母)
ワン・シュン/王迅(チョウ・ダーホー/赵大虎:不動産業者)
イレーヌ・ソン/宋伊人(ジア・フィ/嘉慧:結婚するリン・ミンの友人)
ワン・シュウヤン/王守阳(ジア・フィの夫/嘉慧老公)
リウ・シュン/刘迅(チエン・リャン/钱亮:リン・ミンの元カレ)
リー・ジャンイー/李建义(ジャン・ファイシャン/江怀山:リュトの主治医、脳外科医)
チェン・シシュウ/陈玺旭(リン・ミンの主治医)
レ・ヤン/杨玏(移植科の医師)
リー・チェン/李晨(勤務中の警察官/执勤警察)
リー・シャオチュアン/李晓川(移植を待つ患者の父)
■映画の舞台
中国:湖南省
長沙市
https://maps.app.goo.gl/QGQppnqWgTPk8fz59?g_st=ic
橘子洲
https://maps.app.goo.gl/BQfWu28EE36cY95GA?g_st=ic
太平老街
https://maps.app.goo.gl/ZY2ffQJuMzcBbA6b8?g_st=ic
ロケ地:
上に同じ
■簡単なあらすじ
中国の長沙市に住むリン・ミンは腎臓病を患い、700回目の透析を迎えることになった
仮面を被って動画を撮り、「臓器提供をしてくれるなら結婚しても良い」というメッセージを、難病コミュニティにアップロードしてしまう
我に帰って、すぐに動画を消したものの、そのわずかな時間で動画を見た人がいて、ミンにダイレクトメッセージが返ってくる
その人物から指定された料理店で、合言葉で確かめ合うことになったミン
どこに来たのは、明らかに挙動不審な男・リュトだった
ミンは動画を上げたのはいっときに過ちで、気が変わったと言うものの、それ以来、リュトはミンにつきまとってくる
やがて警察を巻き込む騒動に発展するものの、リュトは脳腫瘍を患っていて、手術をしなければ命の危険が迫っていることがわかる
そんなある日、誤ってミンの腕を掴んでしまったリュトは、彼女の腕に埋め込まれたシャントを壊してしまう
再びシャントを作り直すことになったミンは、引っ越しも重なっていて、そこでリュトが代わりに引っ越しの立ち会いにいくことになる
そして、奇妙な共同生活が始まってしまうのである
テーマ:命を繋ぐ意味
裏テーマ:人生は繋がるもの
■ひとこと感想
事前の情報がほとんどなく、中国映画なので「閲覧できないサイト」がしばしばあり、情報取得にかなりの時間を要してしまいました
パンフレットも作られておらず、鑑賞特典の映画のチケットだけが手元に残っています
難病を患う男女が出会うと言う物語で、もっとロマンティックなものかと思っていましたが、あまりにも地を這うストレートのような内容にびっくりしてしまいました
若くして腎臓病を患い、透析で命を長らえているミンと、脳腫瘍の手術による影響が残っているリュトが出会う物語で、恋愛映画に発展しそうでしない展開になっていました
ミンの両親は骨折した祖母の世話に田舎に行っていて、その間にミンは引っ越しをすることになるのですが、どうやら病院との距離を考えて、都会で一人暮らしをしているようでしたね
途中の観光ガイドのところで見覚えのある場所が出てきたので、長沙市あたりを舞台にしているようでした
あの状態でもライターとして働いていて、週に3回の透析をしながら、かなり節制を要する生活をしていました
透析患者のリアルなシーンも心苦しいのですが、腎不全と言う病気は様々な要因があったりします
他人事ではないところがあり、しかも不摂生だけが原因ではないので、軽度の慢性腎不全の私としては、身をつまされる思いがしましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画はいわゆる人生讃歌になっていて、苦しくても辛くても、前を向いて歩いていけば、幸せにはなれるんだと言う、ストレートなメッセージが込められていました
ミンの腎臓病の起点はわかりませんが、個人的にも「風邪をひいてIga腎症から慢性腎不全になっている」ので、発見が遅かったら、あのような生活を送っていたのかもしれません
病院勤めなので人工透析のことは一般人よりも詳しく、義父も難病から腹膜透析をしている状態になっています
なので、とても身近な病気になっていて、腎臓病の合併症の怖さと言うものは油断ひとつで訪れてしまうものだったりします
映画では、ミンの方も大変だけど、悪性脳腫瘍のリュトはさらに大変な思いを抱えていましたね
それが女手ひとつで育ててくれた母を残して逝ってしまうリスクに怯える毎日であり、脳を摘出したことによる後遺症も残っている状態でした
そんな中で、奇跡的にミンの動画を見ることになっていて、繋がった奇妙な縁が徐々に色濃くなっていく過程は良かったと思います
■腎臓病について
映画の主人公ミンは腎臓病を患っていて、週に数回の透析をしている病状となっています
腎臓は左右二つあって、約100万個のネフロンによって構成されています
このネフロンが尿を生成し、細胞外液の中の水や電解質などの濃度を調節する働きを持っています
この機能が30%以下まで低下した状態を「腎不全」と呼び、10%未満まで進行すると「透析が必要な末期腎不全」の状態になります
ミンはこの末期腎不全の状態で、体液量を調節するために水分の摂取が制限されています
対処療法として透析があるのですが、これは血液を体外に吸引して、透析装置で濾過して体内に戻す治療法のことを言います
また、腹膜内に透析液を注入して、体内で血液の濾過を行う腹膜透析というものもあります
腹膜透析は拘束時間が少ないのですが、患者自身や家族が腹膜内の透析液の交換を行わないといけないので、雑菌の混入などの腹膜炎を起こしやすくなると言われています
これらの根本治療は「腎移植のみ」というのが現状なのですね
腎臓疾患にはいくつかの種類があり、急性腎障害は数時間から数日の間で急激に悪くなる場合を言います
症状として、尿量の減少、むくみ、食欲低下、全身倦怠感などがあります
血液検査にて、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(Cr)、カリウム(K)が高くなる傾向があります
原因としては、脱水、出血などで腎臓への血流が低下するものと、腎臓の炎症や尿細管細胞の障害などがあります
これに対する慢性的なものとしては、蛋白尿、腎形態異常、腎機能低下状態になっているものが3ヶ月以上続いている状態を言います
この慢性に関しては、糖尿病、高血圧、喫煙、高尿酸血症などの生活習慣と関連しているとされています
生活習慣病による血管障害が腎臓に悪影響を及ぼすので、これらを食い止めるために、生活習慣を早期に改善する必要があります
腎臓の状態を表す数値として、「eGFR」というものがあり、これは「推算糸球体濾過量」のことを言います
腎臓の老廃物排泄機能を表す数値のことで、血清クレアチニン値と年齢、性別などから計算できます
この数字が「60を下回ると軽度〜中程度の低下」(45〜30で中等度=高度低下」「30〜155で高度低下」「15以下は末期腎不全」と推定されます
この数値は悪くなると元に戻らないので、下がった状態をどれだけ維持できるかという治療になっています
ちなみに、個人的なお話ですが、2017年頃に風邪を引いて、その1年後の健康診断で「尿蛋白異常」が見つかりました
そして、「腎生検」にて「Iga腎症」という診断が下ったのですね
その後も継続的な治療を受けていますが、このeGFRの値は、当初「50.5」だったものが、「50.2」という推移で踏みとどまっている感じになっています
45を下回るとヤバいので奮闘していますが、生活習慣というものはなかなか変えられるものではないことを痛感しています
■二人を繋いだものの正体
本作は、難病を患う二人が出会い、お互いの大切なものを支え合おうと奮闘する様子が描かれていました
リュトは自分が死んだ後の母親のことだけを考えていて、今以上に苦しい思いをさせたくないと考えています
ミンは生に執着していて、体調の維持のために、恐ろしいくらいに細かな生活をしています
彼女は腎移植を希望していて、働きながら資金を貯めつつ、徹底した管理をしながら、普通の生活をしようと試みていました
リュトは悪性脳腫瘍の後遺症があって、それゆえに生活に支障が出ていて、さらに「再発」が見つかっていました
母親に心配させたくないと、主治医の写真をホームページなどから拝借して、偽のアカウントを使ってまで騙していました
母親としては、その犠牲を厭わないものの、リュトは「手術に抵抗がある」ので、それを避けて、このまま死にたいと考えていたように思います
この二人は「腎臓移植」によって利害が一致している状態で、それを前提に結婚するに至っています
当初はその利害だけで動いていましたが、一緒に生活をする上で感情移入が生まれ、お互いの背景を知ることによって、相手の人間力に惹かれていくようになりました
恋愛とはほど遠い存在のように見えましたが、お互いの背景と現状を知りながら、それでも生活を共にできるというのは意外とハードルが高いものだと思います
相手を受け入れるというのは、その困難が理解できるとも言えるので、病人同士の妙な絆というものが生まれているのでしょう
また、飾るようなこともできず、本来なら人に見せないところも見せていくことになるので、それゆえに強固な結びつきが生まれるようになっていたのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、現代の医療にて生き延びる選択肢がある二人を描いていて、ドナーが見つかれば普通の生活に戻れる可能性のあるミンと、悪性ながらも手術によって延命できるリュトがいました
リュトは手術の経験から「もう2度としたくない」と考えていて、それは同時に苦しみからの解放と、いつまで続くかわからない絶望があったのですが、「誰のために生きれば良いのか」という人生プランがなかったからだと思います
彼に大切な人がいて、そのために生きるんだという強い意志があれば、手術の怖さや辛さに耐えられたかもしれません
それに対して、ミンは日常が地獄で、それから逃れるために移植を考えていて、でもそれを受けられる可能性はかなり低くなっていました
彼女は誰かのために生きるとかは考えておらず、ただ自分が生き延びたいという欲求に従順な存在であると言えます
リュトの存在によって、その希望が見えたとは言え、彼はすぐに死ぬようには見えないし、それを望むこともできません
そもそも、死んだらドナーになるというのを信じられるのかというところがあって、でも実際に献身的に自分を助けてくれているリュトを見ていると、本当なのかもしれないと思ってきていました
でも、そう思うと同時に、リュトとの時間をもっと過ごしたいと思うようになり、彼の死ではなく、正式にドナーを得られるチャンスを望むことになりました
劇中でドナーが現れ、本人は同意しているけど家族がダメだというケースがありました
それによって落胆することになるのですが、この落胆はこれまでの落胆とは意味が違うのですね
この時のミンは「両方を手に入れたい」と望み、それが打ち砕かれることになっていました
最終的に彼らは、いつ死ぬかはわからないけど、生きられる限りを笑顔で生きようと考えるようになります
その時は神様が決めるもので、自分のことよりもリュトに生きていて欲しいと願うミンがいました
また、リュトもミンのために生きていくことを決意し、苦しい手術を選択することになります
誰かのために生きる理由の変化があり、それによって「状況を傍に置いた人生」というものが生まれています
映画の副題は『Viva La Vida』で意味は「生きろ!」というものなのですが、まさに生きていることを幸せに思えれば、人生に怖いものなどないのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101454/review/03769205/
公式HP:
https://www.chuka-eiga.com/VivaLaVida