■煎茶コースで十分な男女にも、玉露コースを勧めてしまうのだろうか
Contents
■オススメ度
高齢者風俗に興味のある人(★★★)
孤独について考えてみたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.3.7(アップリンク京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、135分、PG12
ジャンル:高齢者専門風俗を巡る孤独と葛藤を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本:外山文治
キャスト:
岡本玲(佐々木マナ:高齢者専門の買春クラブ「茶飲友達」の代表)
【茶飲友達のティーガールズ】
磯西真喜(国枝松子/若葉:夫に先立たれた孤独な未亡人)
瀧マキ(道子:ティーガールズのNo1)
長島悠子(鞠子:ティーガールズのNo2)
岬ミレホ(カヨ:パチンコジャンキー)
百元夏繪(千鶴子:ベテランの白髪老女)
クイン加藤(梨々花:赤いドレスの派手なガールズ)
海江田眞弓(多恵:白髪の中堅ガールズ)
楠部知子(花子:やさしさで包む系のガールズ)
谷川美枝(岡林寿賀子:ティーガールズ)
石川佳代(京子:ティーガールズ)
【茶飲友達のスタッフ】
海沼未羽(浅倉千佳:母親とは何かを自問する若者)
中山求一郎(鷹木匠:キレやすい送迎スタッフ)
アサヌマ理紗(鶴田智美:落ち着き払うスタッフ)
鈴木武(内藤良樹:父に差し入れをする送迎スタッフ)
佐野弘樹(葛西淳:天パの送迎スタッフ)
光永聖(中町慧:先生と呼ばれる法律の専門家)
中村莉久(橘みのり:スタッフ)
牧亮佑(谷口雄一:スタッフ)
【茶飲友達の利用者】
渡辺哲(時岡茂雄:妻に先立たれた利用客)
池浪玄八(杉浦健一:松子の利用客)
五頭岳夫(田村清彦:老人ホームの利用客)
山下ケイジ(石毛広道:利用客)
吉田秀樹(藤田徹:説教する利用客)
【その他】
名越志保(佐々木千草:マナの母)
重岡サトル(佐々木孝太郎:マナの弟)
萩野祐輔(森嶋拓哉:千佳と関係を持つ妻帯者)
大河内健太郎(秋山尚弥:市役所の職員)
横山美智代(服部絵美:産婦人科医)
山形美智子(田中咲希子:産婦人科の妊婦さん)
大根田良樹(咲希子の夫)
吉澤憲(内藤芳雄:良樹の父、元パン屋)
福田温子(菊池弥生:女刑事)
伊藤慶徳(桜庭和雄:刑事)
■映画の舞台
都内某所
ロケ地:
東京都:江戸川区
ヴィラ ドゥ のぞみ(老人ホーム)
https://maps.app.goo.gl/VNoqLkKCxxNtpeu28?g_st=ic
東京都:墨田区
サンタウン 立花(スーパー)
https://maps.app.goo.gl/TXtwk92szTr5Godn7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
都内某所で「茶飲友達」という高齢者向けの買春クラブを経営しているマナは、町で見かけた悩める高齢者をターゲットにして、クラブへの勧誘を勧めていた
彼女らは新聞の三行広告で相手を募り、会員数の目標は1000人と、その規模は徐々に拡大しつつあった
ある日、スーパーで万引きをした主婦・松子を助けたマナは、彼女に「茶飲友達」への勧誘を促す
孤独を癒したいと考えていた松子はその話に乗り、初出勤を迎えることになった
マナは社会のセーフティネットを公言して、ファミリーの住処を作っている
だが、彼女の母・千草は末期癌で闘病中にも関わらず、その関係性の悪さから疎遠になっていた
弟・孝太郎から動画が送られてくるものの、一向に自宅に帰ろうとはしないのである
テーマ:家族とは何か
裏テーマ:高齢者の孤独
■ひとこと感想
実際にあった事件をベースに作られている作品で、これまでにタブー視されていた高齢者の風俗に対して真っ向から切り込んでいます
性的描写もそこそこあって、さすがに隠してはいますが、演技をした人たちの俳優魂はすごいものがあります
社会的なテーマを扱いつつ、それを老人だけにシフトせずに、そこに集う若者にもフォーカスを当てていましたね
家族問題を扱っていますが、根本は「女性とは何か」みたいなところに行き着いているように思います
ポスタービジュアルで高齢者の胸をさわっているものでしたが、まさかの高齢者風俗を取り扱っていて、ガッツリとその描写があったのは驚きました
高齢者の性はタブー視されている面がありますが、映画などのメディアではエンタメ度が低く需要が低いと思われがちなのですね
でも、この高齢化社会の中で、健康寿命が伸びているので、需要というのは変化していくのかなと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
事前の想像では、高齢者買春がどのように摘発されるのかという社会派ドキュメンタリーかと思っていましたが、ガッツリと親子のヒューマンドラマに仕上がっていました
高齢者の孤独に関しては細かく描写されていましたし、年齢も近いので共感度は高めでしたね
でも、若者の孤独というのは、ある程度の年齢層から見ると甘えにしか見えないところがありました
映画では、高齢者の性的な処理についてのタブーを描いているものの、心身が健康ならあってもおかしくないでしょう
夫婦間で高齢までいたすというのは無理でも、それを風俗に求めるのは、個人的にはアリだと思います
ラストで刑事と対峙するマナですが、そこで刑事が正す言葉は空虚に思えましたね
正論が人を救わない世の中で、あの刑事ですら、高齢者になったらどうなるかわかりません
経済的が解決する問題ではないので、高齢者のみならず、孤独を癒すということはどういうことなのかを改めて考える必要があるのではないでしょうか
■モデルになった事件について
モデルになったとされる事件は、2013年に摘発された売春斡旋クラブ「三愛」のもので、「三愛」の経営者(東京都在住の70歳の男性)は、仲介料として約3000万の売り上げを得て、男性会員数は1000人を超えていました
女性会員は約350人、平均年齢は60歳、最高齢は82歳だったとされています
手口は映画と同じく、「新聞に茶飲み友達を紹介すると掲載し、広告を見て電話してきた男性(67歳)に対して、新宿区内の喫茶店で65歳の女性の売春を斡旋した」というものでした
経営者は「40歳以下はトラブルが多いので高齢者を対象にした」と供述しています
一般紙に「茶飲み友達紹介 40歳から熟年」という新聞広告を出し、応募してきた男女を5000円の登録料で会員にしていました
この事件では「茶飲みコース(映画の煎茶コース)」と「割り切りコース(映画の玉露コース)」があり、面談の上で「割り切りコース」を希望した男性から1回につき、2万〜2万5千円の料金を取っていました
そのうちの1万円を経営者が取り、残りを女性に渡していたそうです
売り上げは10年間で総額で3000万円
一般誌に広告として載っていたものの、中日新聞本社では「茶飲み友達の紹介」と捉えて掲載していたようです
男性の場合は癒やしで、女性の場合は金銭が目的だったとされていますが、実際のところは分かりません
性欲が衰えない限り、男女関係は結べるものでしょう
若者を相手にしなかったことで発覚が遅くなったようですが、むしろどうやって発覚したのかの方が気になりますね
色々とググってみましたが、どのような経緯で摘発に至ったのかは分かりませんでした
■孤独を癒す方法
映画の中では、孤独を癒す方法としての売春というものが描かれていました
中には「煎茶コース」で良かった男性もいたと思いますが、「玉露コース」がチラつくと、その誘惑に負けてしまったのかなと思います
女性としても、1回で1万円程度入るなら、ということなのかもも知れませんが、この金額が絶妙な感じに仕上がっていますね
これが1回3万とかになると、サービスの質などが求められるでしょうし、映画でも登場した「もっと、若い娘を」と考える大人は多いと思います
個人的には風俗の利用は一度もなく、怖いイメージしかありません
後に怖いお兄さんがいるのが常で、1回の利用で財布丸ごと無くなる印象があります
セックスは承認欲求の最たるものだとしても、それで孤独を癒せるかは結構微妙な感じがします
性行為で満たされる充足というものの間に「金銭」が入ることで純粋さは無くなりますし、逆に義務感のようなものは生まれそうに思います
作業として行う中で癒される孤独というのは、おそらくは別のことで満たされるものだと思います
そういったものは「煎茶コース」でも満たされるものがあって、このクラブでも「煎茶コース」だけを用意していたら摘発はされなかったでしょう
ある意味、女性側の貧困に漬け込んで行為に及ばせているのですが、利用されていると知りながら続けることで、これまでに抱えていた現実から逃れられるというものがあるのでしょう
映画では、様々な過去を抱える女性たちが登場しますが、トップに行くほどに行為を楽しんでいるように描かれているので、金銭はともかくとして、女性として見られて行為を受容される関係というものが一番の褒美になっているのかも知れません
これらは孤独を癒すというよりは、自分自身が終わっていないことの確認行為になっていて、それがやりがいに繋がっているように思えます
映画のラストでは、女刑事が「老人の寂しさに付け込んで、自分の寂しさを紛らわすな」と言いますが、これは半分は正解で半分は誤解なのでしょう
正確には「老人の生きる目的を与えて、それを利用して孤独を埋める」というものに近いので、この観点だとこの手のビジネスには存在意義があるように思えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画を観て思ったのは、どうして「売春は違法なのか」ということなのですね
売春が罪になるのは、「売春防止法」によるもので、「人に売春させることを内容とする契約をした者は、三年以下懲役又は十万円以下の罰金に処する」というものがあるからです
これは昭和31年にできた法律で、「斡旋した者」が罪に問われるのですね
「売春もしくは買春をした本人」には罰則がなく、「斡旋かつ場所の提供をしたもの」というのが逮捕されます
なので、映画の場合だと「会員はセーフ、管理者はアウト」という図式になっています
また、売春が違法となる場合は「不特定多数」を相手にした場合で、固定された関係で金銭の授受+性行為があってもセーフ(18歳未満はダメですが)となっています
かつての日本では、政府公認の公娼制度がありましたが、戦後にGHQの指令で廃止されていました
その後も、黙認という形を取り続けますが、国連加盟の際に「国際基準に併せる形」で動いていきます
法律が制定されていた頃の日本は、貧困を理由に売春をする人が続出し、その劣悪な環境は国が保護すべきという考え方がありました
やむを得ずに売春をしているとか、暴力団の情婦になっているとか、虐待、薬物などの問題が付随していました
でも、現在では「小遣い稼ぎ」みたいな軽い感じでの売春が横行し、出会い系サイト、SNSなどで普通の収入ある女性が手を出すというケースも増えています
法律があるにも関わらず、逮捕され刑が確定して者が婦人補導院に入るケースもほとんどなく、数年に一度くらいしか入らないとされています
個人的な考えだと、登録免許制にして事業者にきちんと納税義務と健康管理義務を遵守させるという方が良いと思います
風紀の乱れが問題となるとしても、水面下では自由の方が厄介なわけで、そもそも「性的行為を含まない出会いの斡旋は合法」というよくわからない線引きがあります
結婚相談所などでは婚前交渉は禁止で、結婚しないと性の不一致はわからないのですね
話し合いだけで永遠の伴侶を決める制度の方が無理があるように思えるので、行為の先の責任というものを明確にして、登録者も独身男女のみなどのように規定して管理する方がよほど健全のように思います
実際に合法化とするのはハードルが高いとは思いますが、男女交際と性行為はセットのようでいて、別物であるという実態もあります
ある程度の年齢になると、誰かと関わっていることで繋がりを感じますし、そこに性行為が必要ではない場合もあります
それらの男女の日常に対して線引きをする方が難しくて、「男女の出会いの斡旋」のあとは「個人の自由にして、でも責任は生ずる」という方が時代に合っているように思います
本当のところは、日本における「性的行為=秘匿なもの」という固定観念の打破でしょう
諸外国では「体の相性」というものを重視する文化もありますので、「隠すべき」という風潮の方が足枷になっているのかも知れません
「隠す」ことによって、それらは水面下の欲望となって増幅し、さらにその背徳感が行為をさらに秘匿なものへと導いています
この考えは無くならないと思いますが、隠すべき理由がプライバシーの尊重ではなく、性行為が卑しき行為と見做されるという風潮の方が問題なのでしょう
このような摘発のニュースのたびに「穢らわしい」だの、「恥ずかしい」だの文句をいう人が噴出するのですが、自分に生を授けた行為に対する「穢らわしさとか恥という概念」の方が意味がわからないと思うのは私だけなのでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385397/review/abc09d9c-73a0-4894-b29e-255d8d151569/
公式HP:
http://teafriend.jp/