■目的意識と人権意識の優先順位を定めるためには、もっと問題を深掘りしないと難しいかもしれません


■オススメ度

 

映画業界で起きた事件に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編(海外版は非公式)

鑑賞日2023.6.29(京都シネマ)


■映画情報

 

原題:The Assistant

情報2019年、アメリカ、87分、G

ジャンル:映画会社のジュニアアシスタントの1日を切り取った社会派ドラマ

 

監督脚本キティ・グリーン

 

キャスト:

ジュリア・ガーナー/Julia Garner(ジェーン:大学卒業後に映画制作会社のジュニアアシスタントに配属される女性)

 

ジョン・オルシーニ/Jon Orsini(口髭を蓄えたジェーンの同僚のアシスタント)

ノア・ロビンズ/Noah Robbins(メガネをかけたジェーンの同僚のアシスタント)

 

マシュー・マクファディン/Matthew Macfadyen(ウィルコック:ジェーンの会社の人事部長)

Liz Wisan(エディワナ:人事部長の秘書)

 

マッケンジー・リー/Makenzie Leigh(ルビー:女優志望の態度の悪い女性)

クリスティン・フロセス/Kristine Froseth(シエナ:新しく配属されるジュニアアシスタント)

 

Alexander Chaplin(マックス:オフィスの社員)

Juliana Canfield(サーシャ:トイレで涙ぐむ社員)

Dagmara Domińczyk(エレン:給湯室で噂話する社員)

Bregje Heinen(タティアナ:売り込みたい女)

Clara Wong(テス:イヤリングを落とした女)

 

Purva Bedi(エグゼクティブアシスタント、ジェーンの上司)

Jay O. Sanders(ボスの声)

 

Patrick Wilson(エレベーターで乗り合わせる有名俳優)

 

Owen Holland(ジェーンを乗せるタクシードライバー)

 

Migs Govea(つまみ食いを見つける管理職)

Daoud Heidami(つまみ食いを見つける管理職)

 

James C.B.Gray(郵便局員)

Nemuna Ceesay(宅配便のおじさん)

 

Sophie Knapp(オフィスで唇鳴らす子ども)

Hunter Hojnowski(オフィスに来るおとなしい子ども)

 

Andrew Hsu(中国資本のビジネスマン)

Ray Sheen(中国資本のビジネスマン)

Chester Wai(通訳)

 

Kirit Kapadia(アミール:ジェーンの彼氏の声)

Stephanye Dussud(ボスの妻の声)

Mark Jacoby(ジェーンの父の声)

 


■映画の舞台

 

アメリカ:ニューヨーク

 

ロケ地:

アメリカ:ニューヨーク

 


■簡単なあらすじ

 

ニューヨークにある映画会社の取締役のアシスタントとして働くジェーンは、朝早くに出勤して用意しを最後に帰る勤勉な女性だった

だが、雑用ばかりの毎日に明け暮れて、やる気を感じられないまま、時間を消費し続けていた

 

ある日、ボスの部屋で女性用のイヤリングを拾ったジェーンは、あの部屋で何かしらが行われているのではないかと訝しるようになった

同僚の男性アシスタント二人は意にも介せず、面倒な仕事ばかりを押し付けてくる

下世話な話題で盛り上がり、テイクアウトの注文間違いにキレるなど子どもじみていた

 

たまりかねたジェーンは、個人的な悩みと称して、人事部長のウィルコックのもとを尋ねた

そこで何かが変わるかと思われたが、彼から帰ってきた言葉は残酷なものだった

 

テーマ:同調圧力

裏テーマ:声に出せない協調性

 


■ひとこと感想

 

映画業界のセクハラ問題を取り扱っていたことは知っていましたが、驚くぐらい淡々とした映画で、意味がわかると怖い話みたいなことになっていました

ジュニアアシスタントとして働くジェーンはほぼ雑用係で、嫌な仕事だけあてがわれています

時にはボスの妻に一方的にキレられるだけだったりと、散々な日常ばかりでしたね

 

同僚の二人もちょっと陰湿で、部屋で起こっていることを知りながら、見過ごしているようでしたね

最後までボスは登場することなく、声だけの登場になっていたのは面白い仕掛けだと思います

 

舞台はニューヨークですが、どこの町の会社でもありそうな感じになっていて、真面目だと生きづらいという感じに見えてしまいます

憧れの業界が腐っていたというのはよくあることですが、うまく隠せていなくても、声を上げることはできない構造になっているのは恐ろしいことだと思います

 

映画は、劇的なことが起きない非日常に見える日常系で、セクハラに気付いて人事に掛け合った一日を描いています

ほぼオフィスしか映らず、絵がほとんど動かないので、眠気に誘われてしまうかもしれません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画会社のアシスタントの1日を切り取っているのですが、「映画会社」と言われないとわからないくらいに、どこにでもあるオフィスの日常に見えます

たまに女優や俳優が社を訪れたり、女優に迫る管理職がいたりしますが、至っていつものことのように描かれています

 

映画の前半は雑用係としての生きづらさを描いていて、中盤にようやく人事部長が登場します

このシーンがほぼピークのような感じになっていて、その話もボスに筒抜けで怒りの電話が来たりします

でも、この時ばかりはジェーンを慰めるメールが返されたりするのですが、かなり都合が悪かったのではないでしょうか

 

映画のラストシーンは意味深ですが、ジェーンの目から見たボスのオフィスはそういうところだという確信に変わっていましたね

後半では恋人に私用電話をするなど、かなり図太くなっている変化が伺えました

 


第三者による告発に意味はあるか

 

本作の元ネタはどこからどう見ても「ハーヴェイ・ワインスタイン事件」なのですが、本作内で言及されることはありません

それは「どの会社にもあるセクハラ」という位置付けがあって、主人公以外の主要な男性メンバーには固有名詞がなかったりします

同僚のアシスタントも名前がなく、ボス(会長)に至っては「声のみの出演」になっています

顔出し&名前ありが人事部長のウィルコックだけになっていて、セクハラの相談先だけは明確にしていると言えます

 

このウィルコックへの告発は相談レベルなのですが、やんわりと「それ、あなたの主観ですよね」という感じで交わされてしまいました

その後、ジェーンの上司(これも名前なし)から「彼女はうまく利用する」と言われてしまいます

この流れが「会社の風土」となっていて、セクハラを男女どちらの管理職も容認していることを示していました

実際にこのようなことが行われているかはわかりませんが、「女の武器を使って成り上がる女性」がいるのも事実で、本来ならば「圧力によって」ということの方が多いかもしれません

 

そもそも「女の武器」を使うという時点でおかしな社会構造になっていて、本来ならば「能力」を評価すべきでしょう

仕事以外の能力で評価されることがまかり通る間は、「犠牲者を生みながらも踏みつける同性」という存在は否定できないのかもしれません

 

映画では、第三者による告発を描いていますが、これは「セクハラが親告罪か否か」という状況認識の違いを取り込んでいると言えます

日本の場合では、「かつてセクハラは親告罪だった」という歴史があり、2017年の刑法改正によって「性犯罪は親告罪ではなくなりました」ので、告訴がなくても起訴&処罰になっています

アメリカの場合はEEOC(Equal Employment Opportunity Commossion)という組織があり、これは「職場における差別などを公民権法に基づいて管理・執行する組織」として設立された政府機関になっています

EEOCは「15人以上、または年齢差別の場合は20人以上の労働者を雇用する労働組合哉職業紹介所を含むほとんどの組織に対して訴訟を調査し、起訴する権限を有している組織」となります

こちらも告訴人なしで請求の発行は可能となっています

 

映画に登場する会社は明らからにEEOCの範疇に入りますが、映画内でそっち方面に話を持って行くことはしないのですね

時代背景は明言されていませんが、どう考えても現代の話なのと、舞台はニューヨークになっているので、EEOCの存在を完全スルーしているのは微妙に思えました

 


この手の問題解決への有効打とは何か

 

本作で取り上げられるのはセクハラ問題なのですが、当事者の描写が全くなく、「そうではないか」と疑う女性職員を描いています

彼女が疑問を持ったのも「ボスの部屋にイヤリングが落ちていた」ぐらいのもので、それを取りに来た女性の態度から察するという感じになっていました

なので、彼女の知り得た情報だけでは、EEOCも動けない可能性は高いと考えられます

彼女がEEOCの存在を認知しているかは別問題として、人事部長も容認というよりは証拠が不十分すぎてなんとも言えないのですね

でも、「あなたはタイプではないから大丈夫」というように、ジェーンの訴えの本質を理解していないように思えます

 

ジェーンは被害が自分に及ぶかもしれないという恐怖がありながらも、自分は完全にスルーされて相手にもされていないという憤りのようなものもあります

自分より能力が劣ると思っている同僚が抜擢させるなど、「社内の人事考課的なものの能力比較に性被害が入り込んでいるように見えている」のだと考えられます

彼女に被害があるか、彼女がその場面を見ていれば告発は可能でしょうが、今回の場合は「ラストシーンでも曖昧」というところがあって、単なる心理的負荷を描いているところで止まっていると感じました

でも、女性にとってはサイコスリラーの面があって、事件が顕在化されなければ動かない社会というものが無言の圧力になっているとも思えてしまいます

 

この手の問題は「詳細を明らかにする」以外の手立てがなく、「事件をセクハラだと認定する」というハードルがあります

ジェーンがどうしたいかというところもありますが、彼女の場合は、新しく入ってきたシエナが同じような被害に遭うのではないかという心配が先走っていましたね

それ故に人事部長に相談をするのですが、シエナ自身にはまだ何も起こっていないように見える(実際には会社が用意したスイートで済んでいるかも)ところが難しいのですね

シエナはそのまま同僚としてジェーンと働くことになるのですが、この二人の会社に対するマインドは真逆のベクトルのようになっていました

 

映画は、このあたりのジェーンがどうなりたいかをスルーしているので、夢に見た業界が腐っていたというところで止まってしまっています

ほぼ雑用係で嫌な仕事を押し付けられるだけのパラハラが起こっていても、そちらはあまり深掘りしませんし、描きたいものが「状況をそのまま切り取る」というスタンスになっていたので、物語性はあってないようなものになっていました

最終的に「ボスの部屋に女らしき人がいる」というところを目撃したジェーンを描いていますが、その後彼女がこの問題に深く立ち入っていかないことだけは描かれいましたね

なので、ジェーンは業界の慣習に飲み込まれた人物である、というふうに解釈しても良いのかもしれません

 

映画は、法律が整備されて、権利も保障され、相談先もあるのに何もしないという方向に動いていますが、現段階ではここまでと言った印象がありますね

今後、ジェーンの心がわりが起こるか、実際に被害を受けた人の行動がともなうかによって変わりますが、映画の印象だと「黙認が永続的」というふうにしか捉えようがないように感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、あるジュニア・アシスタントの1日を描いていて、その日は「セクハラを認知し、人事部長に相談をした1日」になっていました

朝早くに起きてから、業務をこなしているジェーンが描かれ、最終的には家路に着くまでを描いていました

朝は誰よりも早く出勤し、最後は残業している職員たちを見送って消灯するまでに至ります

食事も簡素なもので、仕事場が見えるところで済ましたり、インスタントな感じの軽食で済ましている様子が描かれています

 

個人的には面白みを全く感じなくて、この手の問題のある風土にいれば、あるあるネタがあったのかもしれません

でも、全く業態も違うし、基本的に職員と接しない仕事なので、いまいちピンと来ない部分は多かったと思います

映画としては、普遍的な問題を一般化しているのだと思いますが、どこまで波及効果があったのはなんとも言えないのですね

映画筋では絶賛されていますが、それはあの事件を念頭に置いた再現VTRのような感じで観ているからなのかもしれません

 

企業風土を生むのは上層部なのですが、会社のトップがこのような価値観だと、部下たちはそれを支える基盤になっていきます

このような「権力者の行動の担保と」いうものが一番恐ろしくて、それゆえに人事部長と上司の存在がクローズアップされていました

ジェーンが会社を辞めない限り、会長の行為に加担する側になってしまうのですが、今後どうなるかは分かりません

タイプではないまま傍観者になり得るのか、認知と行動に対する口封じ的なものがあるのか

感覚的には「映画プロデューサーになる」という目標のもと、あらゆるものを取り込んでいくのだと思いますが、いずれは感情を切り離して行くことになるのでしょう

その時がいつ訪れるのかは分かりませんが、近い将来のような気がしてならないのは、私だけなのでしょうか?

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/388733/review/54e5ec8c-b12b-4db6-852f-5fa75fbf174a/

 

公式HP:

https://senlisfilms.jp/assistant/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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