■邦題を『燃える冬』にして、再度プロモーションかけた方がバズりそう
Contents
■オススメ度
青春映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.10.18(MOVIX京都)
■映画情報
原題:燃冬(燃える冬)、英題:The Breaking Ice(氷を砕く)
情報:2023年、中国&シンガポール、100分、G
ジャンル:中国と朝鮮半島の国境地帯で出会う男女3人を描いた青春映画
監督&脚本:アンソニー・チェン
キャスト:
チョウ・ドンユイ/周冬雨(チョウ・ナナ/周娜娜:元フィギュアスケータの観光ガイド)
リウ・ハオラン/刘昊然(イ・ハオファン/李浩丰:友人の結婚式のためにその土地に出向く青年、金融機関勤務のエリート)
チュー・チューシャオ/屈楚萧(ハン・シャオ/韩萧:ナナの男友達、料理店手伝い)
チョウ・ウェンハイ/赵文海(チョウ:観光バスのドライバー)
ファン・メンシ/范梦照(バスの乗客の女の子)
ウェイ・ルクアン/醜如光(ハオファンの大学時代の同級生)
シュ・サイ/徐赛(ハオファンの大学時代の同級生)
パン・ボーウェン/庞博文(ハオファンの大学時代の同級生)
チャン・メンディ/张梦迪(ハオファンの大学時代の同級生)
リ・ミンボ/李明博(ハオファンの大学時代の同級生)
フー・ジン/胡静(ハオファンの大学時代の同級生)
タン・ジシュアン/唐梓轩(ハオファンの大学時代の同級生)
リ・ユンセン/李的声(新郎)
ダン・リメイ/方丽美(新婦)
シエ・ヤン/谢艳(新郎の母)
ユー・ホン/于宏(新郎の父)
ジン・ユダン/金玉丹(新婦の母)
ジン・イジ/金乙吉(新婦の父)
ユー・リンジ/庚麟植(結婚式の司会者)
クイ・シアン/崔仙(ブライドメイド)
ソン・ジアケ/宋佳珂(グルームズマン)
リン・ユゼ/林雨泽(レストランの三人家族)
リン・ジュンフェン/林俊峰(レストランの三人家族)
サン・ジャオ/孙乔(レストランの三人家族)
リー・シウシウ/李秀秀(ツアーガイド)
ユウ・シュンヤ/余淑雅(ツアーで写真を撮ってもらう参加者)
ワン・ジンフェン/王金凤(ツアーで写真を撮ってもらう参加者)
シュー・ハイペン/徐海鹏(ハン・シャオの叔母)
リ・グァンジン/李光银(ハン・シャオの叔母の夫)
キュウ・ジンチー/邱俊驰(ハン・シャオのいとこの少年)
ジャオ・ピン/焦平(土産店のレジ係)
スン・イン/孙莹(土産店のレジ係)
チェン・ジンフュイ/陈金慧(土産店のレジ係)
ヤン・シンシン/闫欣欣(土産店のレジ係)
グイ・シンロン/崔青龙(バーの歌手)
ジン・チュンホン/金春红(バーの歌手)
ヤン・シンルイ/杨欣蕊(バーの歌手)
リ・シャンニン/李香凝(フィギュアを滑る少女)
ザン・ウェイシー/藏??(書店のレジ係)
ワン・ユエジュ/王月菊(コンビニの店員)
リウ・バイシャ/刘白沙(ナナの元ルームメイト)
ジン・ハイラン/金海兰(ナナの隣人のおばさん)
シア・シン/夏青(高速道路の料金所)
シア・ワン/夏旺(高速の警察)
ヤン・ユジン/杨宇晶(高速の警察)
リウ・ボウイ/刘博威(高速の警察)
ヤン・ホウヤオ/杨厚垚(長白山のレンジャー)
リ・ユンシェン/李的声(熊)
イン・シンシン/尹行星(アリランシンガー)
リー・チュンポン/李春朋(逃亡犯)
ワン・ドンドン/王东东(事故りそうになるトラック運転手)
■映画の舞台
中国と朝鮮半島の国境にある「延吉」
https://maps.app.goo.gl/ieVecLc2Q7uaSj3S6?g_st=ic
長白山天池
https://maps.app.goo.gl/KYBwQtsUCVCpRrPT8?g_st=ic
ロケ地:
上に同じ
■簡単なあらすじ
上海の金融機関に勤めているハオファンは、友人の結婚式のために延吉市へとやってきていた
式の最中も心理カウンセラーからの予約の催促の電話が入りうんざりしていて、彼はとうとう結婚式を抜け出して、ツアーバスに紛れ込んでしまった
ツアーは、ガイドのナナが観光客を楽しめせていて、ハオファンが無断で紛れていることも黙認してくれていた
その後、ハオファンは携帯を盗まれたことに気づき、ナナを頼ることになった
ナナには腐れ縁の友人シャオがいたが、シャオはずっとナナのことを想っていた
だが、ナナにはその気がなく、いつもはぐらされてしまっていた
その日、飲み明かしたハオファンは寝坊してしまい、1日1便しかない飛行機に乗り遅れてしまう
シャオは「数日休んで遊んだら?」と言い、ハオファンは流れに任せることになった
テーマ:置き去りにしたいもの
裏テーマ:持って帰ったもの
■ひとこと感想
中国と朝鮮半島の国境付近を舞台にして、男女の中になれない二人と、その間に入ってしまう青年を描いていました
ナナとシャオは気心の知れた仲で、ナナはシャオが自分に気があることは知っています
でも、それ以上の関係になることを拒み、シャオをけしかけているように見えて、やんわりと断っていました
この微妙な距離感になったのがナナのスケーター時代のケガで、それ以来空虚なナナをシャオでは埋めることができなかったのだと思います
そんな二人の間に入ることになったハオファンは、精神的にかなり参っていて、その脆さをナナが放っておけないという感じになっていましたね
自分に何かできないかと思っているのですが、ナナ自身も違う土地から来たハオファンならば、何かしらの刺激を得られるのではと考えていました
ナナとハオファンがそう言った関係になるのは自然で、シャオはそれに対して怒りを感じるとかはなかったのですね
あくまでも、自分ができないことをしてくれているというもので、この関係が取りすがりだから遺恨を残さずに済むのかな、と感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作は、意味のわからないダサい邦題に辟易する映画で、どこにもナイトクルージングの要素はありませんでした
一応、夜の街にバイク三人乗りというシーンがありますが、タイトルにするほどのものではなかったと思います
原題は「燃える冬」で、これを英題で「砕ける氷」と訳しているのですが、この流れで邦題をつけるなら「春に消える」みたいなイメージになりますね
ハオファンは氷を齧るのが好きで、その冷たさで心を起こしているんだろうなあと思わされるシーンがありました
その温度差がないと生を実感できず、温かいジャケットでは満たされないものがあったのだと思います
金融関係の仕事をしているので、おそらく人間関係は最悪で、人間の嫌な部分ばかりを見てきて疲弊しているように思えました
ハオファンは国が推し進める幸福への道を駆け上がった青年ではありますが、そこには何もなかったのですね
後半には長白山の上にある天池を目指すのですが、そこにすら辿り着けなくなってしまいます
おそらくは、その池に身を投じる覚悟があったのだと思いますが、その覚悟を封じたのが自然というところに意味があったのかな、と感じました
■長白山の言い伝え
映画に登場する長白山は「白頭山」とも呼ばれている山のことで、満州民族にとっては民族の発祥に深く関わる「聖なる山」とされています
古くからシャーマニズムの祭祀が行われていた場所で、長白山にある天池には「女真祭台」と呼ばれるものがありました
「女真祭台」とは、天池の北側にある直径2.5m、高さ70cmの人工玄武岩でできている祭壇で、1908年に発見されたものでした
晋王朝を建国した女真族は長白山を「栄枯盛衰の地」とみなしていて、1172年に「興国の霊英王」の列聖し、「翰林学堂に当淮英が編纂した「長白山を霊英王に授ける書」を編纂するよう命じた」とされています
その後、1999年に祭台の傍から高さ98cm、幅45cm、厚さ10cmほどの女真文字碑が発見されます
そこには「太白神」もしくは「太平碑」と読めることから、皇室発祥の地とされるようになりました
建州女真族の名前として「愛新覚羅氏」というものがあるのですが、これは1616年頃から使われていたものとされています
神話によれば、長白山の東北に位置する「布庫哩・山」のふもとにブルフリという池があって、天から三人の仙女が降臨したというものがあります
長女はエングレン、次女はジェングレン、三女はフェクレンと呼ばれていて、その池で沐浴した後に、一羽のカチカラスが飛来して、フェクレンの衣の上に鮮やかな赤い木の実を落としていきました
フェクレンはそれを食べてしまい、その後お腹が大きくなって、男児を出産することになります
男の子はすくすくと育ち、母親の命に従って、人々が暮らす集落へと降りていきます
その頃、長白山の東南に城があって、三つの氏族が覇権争いをしていました
その戦いの最中で、ある兵士が男を見つけ、争いどころではないと人々が集まるようになります
男は「天女フェクレンの子、姓はアイシン・ギョロ、名はブクリ・ヨンション」と名乗り、「汝らの争いを鎮めるために訪れた」と言います
三つの氏族は戦いをやめて、ブクリ・ヨンションを城主の元に連れていきます
そして、ベリ・ゲゲという娘を娶らせて、新たな国を「マンジュ(満州)」と呼びました
これが清朝宗室のアイシン・ギョロ・ハラの起こりであるとされています
■冬の終わりに降ろせた荷物の正体
本作は、ナナ、ハオフォン、シアオの三人が長白山に登る様子が描かれ、それによって、それぞれの人生を歩むという流れになっていました
それぞれには抱えていた想いがあって、それがずっと燻っていたのですが、三人が出会うことによって、向かう方向へと向かう流れになっています
シアオとナナは幼馴染ですが、恋愛関係には踏み出さない関係で、ずっとナナの方が先手を打って拒んできました
そんなナナがハオフォンと関係を持つことになり、シアオは複雑ながらも、自分がしてあげられないことをしてくれた恩を感じていると言えます
彼らは長白山を目指しますが、そこに何かがあるとは考えていません
あくまでも、何かしらの区切りをつけようと考えていて、無謀な季節に登山を始めることになります
自分自身を縛っているものからの解放とまでは考えておらず、衝動的に「できないことをしたら何かが変わるのでは」という感性の部分のように思います
全ての行動に論理的なものがあるわけではなく、長白山に関することも後付けのようなものなのですね
物語の構成としてはそう言った意図があっても、キャラクラーはそう言ったことを考えないというのが本当のところだと思います
彼らが長白山に登って得ることと言えば、自分を縛っていると思われるものを置く、もしくは捨てることでしょう
それは元の自分に戻るという意味合いもあり、それが長白山という国の起源とふれるという構図になっているのは製作陣の意図となります
彼らは、なぜか動けないと感じていて、長白山に登れば何かが変わると思っている
それは、山に登るためには必要なものがあると同時に、不要なものは置いていかなければなりません
それが自身の人生の再スタートに必要なものを表していました
ナナにとって必要なのは外界にいく意味であり、ハオフォンにとっては外の世界を知ることであり、シアオにとっては外の世界を自分に取り込むことだったと言えます
そうした自分に見えなかったものがハオフォンが来たことによって再確認することになるのですね
おそらくは、三人はバラバラに人生を歩むと思いますが、いつかそれぞれの人生が転機を迎えた時、再びどこかで再会するのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の邦題は『国境ナイトクルージング』というもので、物語の何を示しているのかはわかりません
一応、国境の町で、夜にクルージングをするというシーンはありますが、それは映画のかなり一部のものとなっています
これに対する原題は『燃冬』というもので、英題も『The Breaking Ice』となっています
日本語で一番意味が近いのが「雪解け」であり、それぞれがこの冬を転機として、春に向かって歩き出す様子が描かれていました
邦題が意味不明なのはセンスの問題で、おそらくは現地版の予告編を見て象徴的なシーンを切り取ったみたいなもののように思います
ちなみに「クルージング」には色んな意味があって、「レジャー目的の船舶による巡航」「ゆっくり進むこと」「乳幼児のつたい歩き」「セックスの相手を漁る」「切り出し可能な森林を調べること」などがあります
一番近いのは「ゆっくり進む」というものですが、彼らがゆっくり進んでいたように見えないのも難点だったりします
一応は、この地に訪れたハオフォンは多忙な日常から離脱しているので、なんとなく意味は通じてしまいます
原題の良さというのは、冬が燃える=雪が溶けるという構図になっていて、それが彼ら三人の心を覆っていたものを溶かすという意味合いに通じているところだと思います
なので、そのまま『燃える冬』でも良かったと思うし、長白山に登っていく様子を切り取っても印象的なビジュアルを作れたと思います
夏目漱石の有名な言葉に「雪が溶けたら春になる」というのがありますが、本作の原題って、このような言い回しに近いところがあると思うのですね
それを考えると、全く連想できないタイトルにして、内容を微塵も反映させることができていないタイトルというのはナンセンス以外の何物でもないように思いました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/102125/review/04384726/
公式HP:
https://www.kokkyou-night.com/