■渇きに水を与えても、息を吹き返すとは限らない


■オススメ度

 

重厚な推理ドラマを見たい人(★★★)

荒野を舞台にしたヒューマンドラマが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.9.23(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:The Dry

情報:2020年、オーストラリア、117分、G

ジャンル:幼馴染の突然の訃報に故郷に舞い戻った連邦警察官が、自身の青春期の事件と向き合うことになり推理ドラマ

 

監督:ロバート・コノリー

脚本:ハリー・クリップス&ロバート・コノリー

原作:ジェイン・ハーパー『渇きと偽り(ハヤカワ文庫)』

 

キャスト:

エリック・バナ/Eric Bana(アーロン・フォーク:親友の訃報で故郷に戻るメルボルンの連邦捜査官)

 (若年期:ジョー・クロチェック/Joe Klocek

ジェレミー・リンゼイ・テイラー/Jeremy Lindsay Taylor(エリック・フォーク:亡きアーロンの父)

 

マーティン・ディングル=ウォール/Martin Dingle-Wall(ルーク・ハドラー:自分の妻子を殺して自殺したとされるアーロンの幼馴染)

 (若年期:サム・コーレット/Sam Corlett

Rosanna Lockhart(カレン・ハドラー:死体で発見されるルークの妻)

Jarvis Mitchell(ビリー:死体で発見されるルークの息子)

Audrey Moore(シャーロット:唯一無事だったルークの娘、赤ん坊)

Bruce Spence(ジェリー・ハドラー:アーロンに再捜査を遺体するルークの父)

Julia Blake(バーブ・ハドラー:ルークの母)

 

ジュネヴィーブ・オーライリー/Genevieve O’Reilly(グレッチェン・シェーナー:カレンの同僚、ルークとアーロンの幼馴染)

 (若年期:クロード・スコット=ミッチェル/Claude Scott-Mitchell

Ryder Hudson(ラキー:グレッチェンの息子)

 

キーア・オドネル/Keir O’Donnell(グレッグ・レイコー:アーロンの捜査に協力する地元の警察官)

Miranda Tapsell(リタ・ラコ:グレッグの妻、移民)

 

ジョン・ポルソン/John Polson(スコット・ホイットラム:カレンの上司、校長)

Renee Lim(サンドラ・ホイットラム:スコットの妻)

Angela  Rosewarne(スコットの娘)

 

べべ・ベッテンコート/Bebe Bettencourt(エリー/エレノア・ディーコン:アーロンたちの若年期に川で死体で発見された幼馴染)

ウィリアム・ザッパ/William Zappa(マル・ディーコン:エリーの父)

マット・ネイブル/Matt Nable(グラント・ドウ:交戦的なエリーの従兄弟)

 

James Frecheville(ジェイミー・サリバン:ルークの死の直前に会い、彼とウサギ狩りをしていたと証言)

Daniel Frederiksen(リー医師)

Eddie Baroo(マクマード:アーロンが止まる宿屋のパブの店主)

 

Jane Harper(ルークの葬式の参列者)

 


■映画の舞台

 

オーストラリア:ヴィクトリア州

キエワラ(架空)

ウィムラ地区(メルボルンから北東方向の山岳地帯)

 

 

ロケ地:

オーストラリア:ヴィクトリア州

ビューラー

https://maps.app.goo.gl/osu2KaRFJGdRqhYq9?g_st=ic

 

ミニップ

https://maps.app.goo.gl/8t8n7kmqZv6FejYk8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

幼馴染のルークが家族を殺した後に自殺したと言うニュースを聞いた連邦捜査官のアーロンは、メルボルンから故郷へと舞い戻った

かつて、ルーク、エリー、グレッチェンと「4人組」で遊んでいた彼らだったが、20年前のエリーの死以来、ロクに顔を合わせることはなかった

 

葬式の後、アーロンはルークの父ジェリーから「帳簿を見てくれ」と懇願される

やむを得ずにそれを見ることになったアーロンだったが、ルークの家の納屋で探し物をしている地元警察官のレイコーから「あること」を聞いたことで、事件の真相解明に協力することになった

 

事件は入り口付近に妻カレンが倒れ、子ども部屋の奥で息子のビリーが殺されていた

生まれたばかりのシャーロットは無事で、ルーク自身は少し離れた間伐地帯で息絶えていた

 

その状況を知ったアーロンは事件に不可解なものを感じ、再捜査を始めていく

だが、町の住人からの妨害行為や嫌がらせなどがあり、なかなか真相を掴めずにいた

また、その町の至る所にはエリーとの思い出があり、ことあるごとに彼女との日々がアーロンの頭の中を駆け巡るのであった

 

テーマ:逃避

裏テーマ:風化

 


■ひとこと感想

 

干魃に悩む故郷に帰ったアローンは、そこで思い出の場所を巡りますが、エリーが溺れたとされる川は干涸びているし、その面影を残していません

過去と現在の二つの事件の真相を追う流れになっていて、人物相関を頭に入れておいた方が理解は進みます

特に、若年期の女性のどっちがどっちなの感は見慣れていないと大変なイメージでした

 

現在の事件の壮絶なヴィジョン、泣き止まない赤ん坊の声、そして町を覆う奇妙な影など、どことなくスリラー感がありましたね

20年経って温暖化の影響なのかわかりませんが、約250日くらい雨が降っていないと言うジリジリ感に、思わず喉がやられてしまいそうになりました

 

ミステリーとしては二つの事件が同時に進む分難解に思えますが、どちらも至極簡単な解答になっていましたね

そこに直線的に到達しているのですが、意外なほどに難しい感じになっています

 

沈黙を守ったことで蔓延る噂話が、現在の自分を痛めつけていると言う感じで、真相がわかったときの身震い感はなかなかのものではなかったでしょうか

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

17歳の時にエリーが死んで、それがルークが殺したみたいに思われている中で、エリーの従兄弟はブチ切れ、まるで今も事件が続いているような印象を与えます

グラントとの絡みであるとか、エリーの父マルなどから浴びせられる怒り、それがうまくミスリードになっていて、意外なところにわかりやすい犯人がいたとなっていました

 

映画のビジュアルが乾いた干魃地帯で、20年の歳月によって、全く別の場所に見えるようになっていました

回想パートで誰が誰かわからなくなる問題はありますが、それは現在のアーロンとグレッチェンの関係性が過去と交差しているからでしょう

 

タイトルの「THE DRY」はそのまま乾きと言う意味になっていますが、それはある意味で「老い」を表しているように思えます

自分が信じたいものだけを見ていった結果、渇望する真相から随分と離れて行ってしまうイメージがあって、そこに住む人たちは「真相に飢えている」ようにも映ります

 

ラストでは、真相を見つけると言うシークエンスで終わり、その事実を彼らがどう受け止めていくのかは気になるところですね

嘘が渇きを呼び、幻影の中で生きる人々は、待ち望んだ真相によって喉を潤すことができるのでしょうか

 


干魃(旱魃)によって起こること

 

ビクトリア州のキエワラ(架空の町)は映画内の説明だと雨が豊かな土地で、現在では243日?ほど雨が降っていないというニュースが流れていました

20年前の回想録で豊かだった川は乾涸びていて、ルークが自殺したとされる場所はもともと湖でした

温暖化のみならず、干魃は社会問題化していて、砂漠化も進んでいる地域などもあります

幸い自分が住んでいる地域はそう言ったことがないのですが、地球のどこかで起こっている現象は、巡って自分の元に返ってくるので無視しても良い問題ではありません

 

映画の干魃は様々なメタファーになっていて、その一つが「20年の歳月」を経たことによる「老い」「風化」というものだと思います

でも、アーロンが帰省したことで、風化されそうな20年前の事件も掘り起こされ、その時代を起因とした現在の事件というものが紐解かれていくことになりました

 

干魃は長期間の水不足によって起こり、気象学的、気候学的なものから、農業的なもの、水文的なものまであるます

映画の中では「農業に影響を与えている」ので、「農業的干魃」に分類されるといえるでしょう

干魃が起こると乾燥するために、山火事の発生リスクも高まり、農作物の収穫の減少、河川の干魃によって漁業への影響もあります

それらは社会にあたる影響は計りしれず、貧困、生活苦の自殺などから食糧危機による国際紛争、戦争にまで発展する可能性があります

 

現在、映画の舞台であるオーストラリアでは2001年から「干魃が進行中」となっていて、多くの地域で節水規制が設けられています

オーストラリアの気象局では、「3ヶ月の降雨量が過去のその地域の降雨量の10分の1」にまで減少すると「干魃」であると定義しているそうです

2017年から2019年にかけて、クイーンズランド州をはじめ、映画の舞台ともなったビクトリア州でも広範囲かつ深刻な干魃というものが起きています

オーストラリアでは「ラニーニャ現象」による干魃が2000年以降に多発していて、政府は「5億ドルの干魃刺激策」を行っています

劇中でも「それでも足りない」というような描写があり、現在進行形で干魃が広がっている状況がありました

 

オーストラリアの国立研究機関「CSIRO(連邦科学産業研究機構)」では、今度さらに降雨量の現象や気温の上昇すると述べていて、干魃の状態の時間も増えると予測しています

2019年以降、オーストラリアでは水の使用制限の基準が設けられている州もありますね

メルボルン自体は2012年の段階で断水段階から外されているようですが、映画の舞台のキエウラ(架空)のある地域「ウィムラ地方」についてははっきりとはわかりませんでした

 


真相は喉を潤すだろうか

 

アーロンの登場によって、事件は急展開を迎え、同時に20年前の事故についても少しづつ紐解かれていきました

20年前にアーロンとルークが口裏を合わせましたが、ルーク殺害事件に関しても、誰もが口裏を合わせるという報復が起こっています

アーロンの所有する土地と隣接するサリヴァンの土地、これに加えてエリーの従兄弟のグラントの土地などを巡って諍いが起こっていました

でも、実際にルークを殺したのはグラントたちではなく、裏で動こうとしてことを隠すための口裏合わせになっていましたね

 

アーロンが導き出したのは、ミスリードでもあった「レシートの裏のグラント」の文字で、それが名前ではないとわかったあたりから推理ものとしては格段に面白くなっていきます

でも、エリーのことがあって、それによって嫌疑をかけられたことが事件解決の妨げになっていたのは事実でしょう

20年前にエリーは虐待を受けていた過去があり、そこから逃げるための逃避を考えていました

でも、父マルに追いかけられたため、口封じのような感じで殺されてしまっています

 

もし、アーロンが「エリーと山で待ち合わせをした」ことを正直に話していたら、と思いますが、それを裏付けるものは死んだエリーの目撃だけだったりします

おそらくはマルがアーロンが近くにいることを知っているので、罪を彼になすりつけようとしたのでしょう

この事件が口裏合わせで黙殺されてしまい、今度はその町のパワーバランスから「20年前の嘘つきは信用ならない」という感じで、客観的に見ても自殺には見えない事件に蓋がされようとしていました

この幕引きに納得いかないルークの父ジェリーがアーロンを呼び寄せ、過去の嘘には言及しないが、ルークの真相を探れという重圧を受けることになりました

 

アーロンがグレッグ保安官と共に事件を紐解きながら、二つの事件の真相へと辿り着きます

誰もが知りたくもなかった真相に辿り着き、それは町の人たちの分断を起こしていきます

これまでに信用されてきたものが崩れ、信用されてこなかった者を信じざるを得ない状況

でも、その状況を生み出してしまったのは、過去のルークに他ならないところが切なくもありました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

かつて恋仲だった若者たちは、それぞれの背景を探ることもないまま、表面的な楽しさを満喫していたと思います

アーロンがエリーの家族からの暴力に気付けていても、それをどうにかできたかは微妙でしょう

家庭内で起きたことを他人が介入するのはとても難しく、見えているのはいつでも表層的な部分にとどまると言えます

それを外部に出せないのは、家族のことは家族で解決するというマインドと「恥」と感じる部分が強いからでしょう

 

SOSの出し方は家庭問題だと意外と難しく、特に子どもへの虐待が教育とスレスレのところにあるから厄介なのですね

家庭内の教育方針で暴力を使うところもあるし、客観的に見てもおかしく感じることが麻痺していることもあります

そんな中でエリーは明確にSOSを出そうとしましたが、アーロンを巻き込むことは避けたかったのだと思います

アーロンとしても、エリーの家族問題に迂闊には立ち入れないでしょうし、立ち入るには覚悟が試されます

 

エリーが生き残れたとしたら、アーロンとともに町を捨てて出ていくということぐらいしか思い浮かびません

エリーもそれを決行しようとしていましたが、父にそれは看過されていたのでしょう

逃げられることで父の人生も終わりますので、それを阻止する方策に出ることで悲劇というものが起きています

 

このエリーの殺害事件とは対極的なのがルーク一家殺害事件でした

ホイットラムが借金に追われていて、カレンが申請した補助金を着服して、それがバレそうになったから殺したという救いようのない事件でした

ルークの事件の真相を歪ませていたものは「ルークの過去」であり、その過去はエリーの事件からアーロンを守るための「嘘」でした

その些細にも思えることが町全体を包み込み、さらに干魃の影響によって荒んだ心を持った人たちが「団結する」という展開になっていました

 

主体性のない追従はやがて町全体に広がって、盲目的にストーリーを組み立ててしまいました

この綻びはいずれはグレッグ捜査官の尽力で解かれた可能性もありますが、町が彼の言葉を信用するかはわかりません

結局のところ、第二の犠牲者にグレッグがなってしまう可能性があり、町の圧力によって真相が歪められる可能性は高かったように思えました

どこのコミュニティでも遺物除去に余念がなく、防護壁を作ることに全力を注ぎます

 

この映画では町全体が精神的に干魃状態であることを示唆し、嘘によって団結していたものが真実によって崩壊する過程を描いています

映画のラストはエリーの真相を示すもので、それが町においてどのような効果を発揮するかわかりません

アーロンはマルにエリーの日記を突きつけるでしょうか?

そうなってもマルは嘘をつき続けることになるのでしょうか?

オーストラリアに時効があるのかはわかりませんが、たとえ法的な罪が確定しなくても、娘を殺めた事実が広く認知されるだけで社会には終わるといえるでしょう

 

この日記の公開によって、アーロンの嫌疑が拭えるかどうかはわかりません

あくまでも「エリーは父親に虐待されていた」という事実だけが提示されるだけなのですね

そう考えると、アーロンはエリーの形見を手にして、真相を告げることなく去ってしまうのかもしれないと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/383787/review/3bdf5127-6395-4751-be73-1fe2de6d2b6b/

 

公式HP:

http://kawakitoitsuwari.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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