■解けない結び方を教えているパパは、家族すらもややこしく結んでしまったのかもしれません
Contents
■オススメ度
家族の内紛劇が好きな人(★★★)
子ども目線の親の離婚について知りたい人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.9.22(京都シネマ)
■映画情報
原題:Lacci(「ひも」「絆」という意味)、英題:The Ties
情報:2020年、イタリア&フランス、100分、G
ジャンル:父親の不倫がきっかけて崩壊する家庭を、両親目線と子ども目線で綴ったヒューマンドラマ
監督:ダニエレ・ルケッティ
脚本:ダニエレ・ルケッティ&フランチェスコ・ピッコロ
原作:ドメニコ・スタルノーネ(『靴ひも』)
キャスト:
アルバ・ロルヴァケル/Alba Rohrwacher(ヴァンダ・プリマ:アルドの妻、二児の母)
(老齢期:ラウラ・モランテ/Laura Morante)
ルイジ・ロ・カーショ/Luigi Lo Cascio(アルド・プリマ:浮気をする夫、ラジオのパーソナリティ)
(老齢期:シルヴィオ・オルランド/Silvio Orlando)
ジョヴァンナ・メッツォジョルノ/Giovanna Mezzogiorno(アンナ:ヴァンダとアルドの娘、長女、成人期)
(8歳時:Giulia De Luca)
(9歳時:Giovannino Esposito)
(11歳時:Sveva Esposito)
アドリアーノ・ジャンニーニ/Adriano Giannini(サンドロ:ヴァンダとアルドの息子、アンナの弟、成人期)
(6歳時:Joshua Francesco Louis Cerciello)
リンダ・カリーディ/Linda Caridi(リディア:アルドの浮気相手、声優)
フランチェスカ・デ・サピオ/Francesca De Sapio(イザベラ:ジュリオの妻)
Vito Vinci(ジュリオ:アルドの仕事仲間)
Simona Tabasco(老齢期のアルドとヴァンダの元に来る配達人)
Antonella Monetti(離婚調停の判事)
Adele Gallo(ヴァンダの弁護士)
Ignazio Senatore(アルドの弁護士)
■映画の舞台
1980年初頭、イタリア:ナポリ&ローマ
ロケ地:
イタリア・ローマ
■簡単なあらすじ
ナポリに住むヴァンダの一家は、夫アルドがローマのラジオ局でパーソナリティを勤めていて、長女アンナとその弟サンドロと仲良く暮らしていた
アルドは名著の読み聞かせをしていて、その仕事が認められて色んな仕事が舞い込もうとしていた
ある日、良心の呵責からか、アルドはヴァンダに「他の女性と関係を持った」と告げてしまう
動揺するヴァンダは取り乱し、アルドを追い出してしまった
二人は協議離婚を行い、親権はヴァンダが持つことに決まる
週末にアルドは子どもたちに会うことを許されていたが、アンナは離婚のその理由から父を遠ざけるようになっていた
アルドはローマにて仕事仲間のリディアと関係を持っていて、そこにその身一つで転がり込む
だが、その関係に少しづつ綻びが生じてきたのである
テーマ:夫婦喧嘩の子どもへの影響
裏テーマ:抑圧が生んだ水面化の諍い
■ひとこと感想
ポスターなどからは「ほのぼの家族映画」に見えるのですが、まさかの「不倫起点のドロドロ内紛劇」とは思わずに呆然としました
気の休まる瞬間がないような感じで、終始ヴァンダの強烈な視線が突き刺さってきます
ヴァンダとリディアが相対するシーンの緊張感がえげつなく、この女性二人の熾烈な争いを間近で見てきた子どもたちが何を思ったのか、と言うのが後半に登場します
映画は「時系列が混在する系」で、夫婦の若年期と老齢期、子どもたちの幼少期と成人期が入り混じってきます
初見では「え? 誰?」みたいな感じになること必至で、少しばかり混乱するかもしれません
似せているといえば似せているのですが、アンナの成長過程がなかなかショッキングな感じになっていて、幼少期の可愛らしさ、少女期の憎しみに満ちた表情、成人期は「どこのおばちゃん?」みたいな感じになっていましたね
リアルっちゃあリアルなんですけど、容赦ないなあと思ってしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
靴ひもどこに出てくるんだろうと思っていたら、中盤でようやく登場してズコーとなりました
陽気なリズムで踊るシーンから始まって、そのシーンも既に夫婦間の不穏さと言うものが漂っています
隠しきれないと思った夫が告白をしますが、不倫しておいて逆ギレするあたりは結構ヤバめの雰囲気が漂っていました
ヴァンダが意を決してラジオ局に乗り込んでリディアと対峙するシーンもえげつないのですが、後半では子どもの目線が少しずつ混じってきて、同じシーンの見え方が少しずつ違っているように思えました
大人になった姉弟が「靴ひも」の店で再会し、親の離婚の影響をモロに受けているアンナの豹変っぷりがなかなか凄まじかったですね
ヘイトが表情を育てると言いましょうか
また、老齢期の両親が相変わらず喧嘩ばかりしているし、部屋を荒らされた後のアルドの狼狽っぷりが笑ってはいけないけど笑ってしまうと言う感じになっていました
■登場書籍について
【Malacqua(By Nicola Pugliese)】
イタリア人作家のニコラ・プリエーゼのデビュー作で、1977年に出版されたものでした
ショーン・ホワイトサイドによって英訳もされています
内容は「1970年代のナポリを舞台にして、4日間の雨によって、洪水が起きた町」という状況を描いています
そして、街に大きな陥没した穴が空いてしまい、その穴から人の声がして、という展開を迎えます
ジャーナリストの視点で、洪水に晒された人々を描写する内容になっています
本作はニコラによる最初で最後の小説になっていて、初版である程度売り上げた後に自身によって回収されています
再販されず、彼の死後(初版から40年後)にようやく英訳本が出版されたと言われています
ちなみに「Malaqua」はナポリの言葉で「悪いことが起きる予兆」というような意味があるそうです
また、ギリシャ語のスラングでは「愚かで適切な行動ができない人」を指す場合にも使われます
【Tender is the Night(By Scott Fizgeralds)、日本語タイトル「夜はやさし」】
1934年に出版された小説で、スコット・フィッツジェラルドの4番目の作品となっています
主人公は若い精神科医ディックで、患者のニコールと恋仲になります
その後、ディックの元にローズマリーという名前の患者が現れ、彼女はディックに夢中になります
一方のニコールもトミーと言う名の兵士と不倫関係になり、夫婦関係に軋轢が生じると言う内容になっています
ちなみにニコールのモデルは作者の妻ゼルダさんで、ローズマリーのモデルはロイス・モランと言う名前の女優さんだそうです
自伝的な側面の強いフィクションと言うことになるのかなと思います
■両親の関係性が子どもに与える影響
上の本はともにアルドのラジオ番組で朗読されるもので、子どもたちに読み聞かせているような印象を持ちます
『Malaqua』は「ナポリ(彼らの住む街でもある)で起きた愚かな行動をした人たち」を描いていて、情操教育のような役割を果たしています
逆に『Tender is the Night』はアルドの不倫の言い訳っぽい感じがしますね
これは妻への当てつけみたいに思えて、この朗読を聞いて不機嫌になっていたような記憶がありました
映画は「両親の不和に晒された子どもたち」を描いていて、アンナのやぐされっぷりが象徴的でしたね
結婚も出産も否定的で、父親を目の敵にしているように思えます
また、母に対しても尊敬とかの念はなく、サンドロの「母も何かあったんじゃね?」と言う言葉にブチ切れて「証拠を探そう」なんて行動に出たりもします
とにかく「うんざりな両親にさいなまれていた」感が強く出ていて、ラストシークエンスは「自分の人生に影響を与えた父の浮気」に対する怒りがぶちまけられていました
その様子は「母の怒り」よりも情熱的で攻撃的だったように思います
当の両親は結局は別れていないようで、晩年には一緒に旅行に行ったりしています
アルドは人気のないところで妻にキスをしようとしますが、「ばっかじゃねえの」的な感じで拒絶されていましたね
彼女特有の怒りと言うものは数十年経っても消えることのない強烈な夫への枷のように見えてきます
アルドはヴァンダよりも若くて綺麗な女性と関係を持ち、それによって「アンナの憧れ」と言うものが生まれていました
アンナからすればリディアの方が魅力的で、目指したい存在になっていて、日に日に母に似てくる自分に嫌悪というものを感じています
ヴァンダも魅力的な女性ではありますが、怒りスイッチで別人になりますし、夫を罵倒する姿は悪魔的のように思えます
浮気の告白での瞬間沸騰さとか、街かどでアルドとリディアを見つけては「人前で暴力行為」に及んで、それらを子どもたちははっきりと見ていました
おそらく「あんな大人になりたくない感」は強くなっていて、親とは違う道を行ったように見えるサンドロと、いつまで経っても呪縛が消えないアンナが描かれていました
子どもの頃に両親の不和を見続けると、結婚などに対する幻影は消えてなくなります
昨今の結婚しない若者というのは「実の両親以外の不和を目にする機会が増えている」ので、結婚に対する幻想というものは持ち合わせていません
結婚しない理由ランキング1位が「自分の時間がなくなるから」になっていて、これは裏を返せば「恋愛とか結婚とか面倒だよね」と言っているのと同意で、「異性の存在がうざい」というところに行き着くのかもしれません
その影響が「個人の欲求の変化」なのか、そこそも異性に求めるものが変わったのかはわかりませんが、結婚の功罪も広く浸透している時代なので、不和が不和を生んで、それが拡散されて幻滅しているという時代の流れがあるのかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
アルドの告白から始まる物語ですが、彼がなぜそれを告白したのかという理由についてはふれられていません
もうすぐバレそうだったのか、良心の呵責があったのかはわかりませんが、冒頭のダンスシーンで既にアルドの表情は浮かないのですね
そこから、アルドはヴァンダに「別の女性と関係を持った」と告白するに至ります
アルドの日常は良きパパのように描かれていますが、告白を受けたヴァンダはそれどころではなくなってしまっています
アルドには「告白したあとのヴァンダ」が想像できたと思うので、感覚的には「予測される未来」をあえて踏みに行ったのかなと思いました
彼の中で「既に愛は消えていて」というもので、それがどの時点で起きたかはわかりません
単純に魅力的な女性が現れたのか、ことある毎にヒステリックな反応を示すヴァンダに嫌気がさしたのか、など色々と想像の余地があるように思えました
それでも結局夫婦の関係を続けているおかしさがあって、それはリディアから突き放されていく場所がなくなったからでしたね
おそらくは離婚まではしていないようで、離れたことで「父親であること」を意識するようになっていました
それがリディアの逆鱗にふれて、「週末パパ」をしたいなら元サヤに戻れみたいな展開になっていました
リディアはヴァンダたちに対して、女性的にマウントを取れたつもりでも、実際には取れなかったので、その歯痒さが爆発したのかなと思いました
アルドが家庭向きかどうかはわかりませんが、少なくともリディア目線ではそのように見えたのでしょう
この良きパパ感覚が実際には「大人の間だけで流れていた思い込み」というところがネックになっていて、最後の全部をひっくり返すという展開は爽快感すらありました
あの後、写真はどうなってのでしょうか
結構、みつかりやすそうなところにありましたが、あれがヴァンダに見つかったら殺されてしまうのではないかとハラハラしてしまいます
結局のところ、アルドがヴァンダとリディアの間に感じてきたことを「シークレットファイルに保存」していたわけで、それが破られて晒されそうになっている姿を見ていると「他人事」なので微笑ましく思えますね
写真がなかった時のアルド役のルイジ・ロ・カーショさんの演技は最高でした
物語も面白いですが、キャスト陣の演技がこれまた絶妙なので、そういった観点でもとても楽しめる映画だったのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/376875/review/4263a299-f686-4fb6-ba53-14f6da44c49b/
公式HP: