■ルイスを孤独から救ったエミリーは、彼の絵の中で生き続けるが、それが最後まで続かなかったのは残念でなりません
Contents
■オススメ度
猫が好きな人(★★★)
ルイス・ウェインに興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.12.1(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
原題:The Electrical Life of Louis Wain(ルイス・ウェインの刺激的な人生)
情報:2021年、イギリス、111分、G
ジャンル:猫のイラストで一世風靡したルイス・ウェインの半生を描いた自伝的映画
監督:ウィル・シャープ
脚本:サイモン・スティーヴンソン&ウィル・シャープ
キャスト:
ベネディクト・カンバーバッチ/Benedict Cumberbatch(ルイス・ウェイン/Louis Wain:猫のイラストで有名になったイラストレーター)
(少年期:Jimmy Winch)
クレア・フォイ/Claire Foy(エミリー・リチャードソン=ウェイン/Emily Richardson-Wain:ルイスの妻、ルイスの妹たちの家庭教師)
アンドレア・ライズボロー/Andrea Riseborough(キャロライン・ウェイン/Caroline Wain:ルイスの妹、長女)
シャロン・ルーニー/Sharon Rooney(ジョセフィーヌ・ウェイン/Josephine Wain:ルイスの妹、次女)
ヘイリー・スクイワーズ/Hayley Squires(マリー・ウェイン/Marie Wain:ルイスの妹、三女)
(幼少期:Anya McKenna-Bruce)
エイミー・ルー・ウッド/Aimee Lou Wood(クレア・ウェイン/Claire Wain:ルイスの妹、四女)
(幼少期:Cassia McCarthy)
スティシー・マーティン/Stacy Martin(フェリシー・ウェイン/Felicie Wain:ルイスの妹、五女)
(幼少期:Indica Watson)
フィービー・ニコルズ/Phoebe Nicholls(ルイスの母)
トビー・ジョーンズ/Toby Jones(ウィリアム・イングラム卿/Sir William Ingram:ロンドンニュースの編集者)
アディール・アクタル/Adeel Akhtar(ダン・ライダー/Dan Rider:スプリングフィールド病院の後援者)
Siobhán McSweeney(クック医師:ルイスの主治医、精神病院の院長)
StewartScudamore(クァントック医師:エミリーの主治医)
Julian Barratt(エルフィリック医師:マリーの主治医)
Dorothy Atkinson(デュフレイン夫人:向いに住む噂好きの夫人)
Sophia Di Martino(ジュディス:ナショナルキャットクラブの主宰)
Simon Munnery(ジェム・メイス:ボクシングジムの会長)
Daniel Rigby(ベンディゴ:ルイスのお気に入りのボクサー)
Olivier Richters(ベンディゴと戦うボクサー)
Taika Waititi(マックス・ケイス/Max Kase:アメリカ「ハースト誌」の編集者)
Cystal Clarke(アリシア・シモンズ:マックスの秘書)
Nick Cave(H・G・ウェルズ/H. G. Wells:ルイスの基金を訴える小説家)
Richard Ayoade(ヘンリー・ウッド/Henry Wood:ルイスのオペラにダメ出しする音楽家)
Asim Chaudhry(ハーバート・ライルトン/Herbert Railton:イギリスのイラストレーター、ルイスの友人)
Jamie Demetriou(リチャード・ケイトン・ウッドヴィル/Richard Caton Woodville Jr.:イギリスのイラストレイター、ルイスの友人)
Jamie Demetriou(ウッドヴィルの息子)
Fehinti Balogun(アルフレッド・プラガ:ルイスのアーティスト仲間)
オリヴィア・コールマン/Olivia Colman(ナレーション)
■映画の舞台
1880年〜
イギリス:ロンドン
ハムステッド(新居)
https://maps.app.goo.gl/DyFEKTB7HSwATh369?g_st=ic
スプリングフィールド病院
https://maps.app.goo.gl/SmPvQm7aDvMEn7b9A?g_st=ic
ロケ地:
イギリス:ケント
https://maps.app.goo.gl/YHEnEaUpWuDsEEL36?g_st=ic
The Coast House B&B
https://maps.app.goo.gl/VGSXW741JX2xuwAX6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
ロンドンで多彩な才能を発揮しているルイスは、名家の出身であるものの、父の死去によって家計を支える柱となっていた
妹5人と母を抱える中、収入源はルイスしかおらず、上の姉二人も下の妹3人が幼いため結婚できる気配がなかった
ルイスはロンドンニュースの編集者ウィリアム・イングラム卿の元でイラストを描いて生計を立てていたが、いろんなものに手を出しては芽が出ずにいた
ある日、下3人の妹のために長女キャロラインは家庭教師を雇うことにした
名はエミリー・リチャードソンと言い、ルイスよりも10歳も年上で、下級の出自だった
ルイスは彼女を見た途端に体に電気が走ったが、それを表現できる文才も経験もなく、ただ本能のまま、エミリーとの時間を共有していく
その後、映画を観に行くことになったルイスたちだったが、嵐のシーンで気分を悪くしたルイスは席を立ってしまう
心配したエミリーは彼の元へ行き、それが世間の噂になってしまう
だが、二人は世間体を気にすることもなく結婚を果たし、郊外のハムステッドに新居を構えることになったのである
テーマ:献身と理知
裏テーマ:猫が繋げた奇跡
■ひとこと感想
一風変わった猫の絵を描くことで有名なルイス・ウェインでしたが、あまり背景を知らなかったので興味本位で参戦
変わり者の天才と言えばベネディクト・カンバーバッチというくらいにハマっていて、妻のエミリーもイメージに沿っているような印象を受けました
映画はルイスの後半生をまるまる描くという内容で、さすがに「描く期間が長すぎて」ダレてしまいます
妹のマリーの精神疾患騒動はまるまるカットでも良かったし、もう少しなんとかならなかったのかなと思いました
映画は猫が繋いだ愛というよりは、猫が癒した悲しみという感じでしたね
イラストレーターとして活躍する伝記ものというよりは、エミリーとの出会いと別れがメインになっていたのですが、エミリーの死後の描写が長すぎるように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ルイス・ウェインの人生を切り取っていて、エミリーとの出会いから別れまではよかったのですが、全体的に観ると「尺長で退屈」なイメージになってしまいます
電気のくだりも狙っている割には意味がわからず、彼が電気に固執していた理由などはわかりませんでした
ナレーションが妹の誰かなのかと思っていたら、まさかの別人(オリヴィア・コールマンさん)で、本人のモノローグがあるので、余計ややこしい感じになっています
テーマはあって無いような感じになっていて、フォーカスされていないので、とっ散らかっている印象がありますね
それぞれのシーンは良いのですが、編集が微妙なのと、引き算ができていないのと、描きたいものが明確では無いまま撮影が進んだのかなと思ってしまいますね
■ルイス・ウェインについて
ルイス・ウェイン(Louis Wain)は1860年生まれのイギリスの画家で、主に猫を対象にしたことで知られています
映画のラストで精神病院に入院していますが、実際に統合失調症を患っていて、その影響が作品に表れているとされています
劇中で描かれるのは1881年からで、ルイスが21歳の時になります
この映画の年の前年に父は亡くなっており、生活費を稼がなければならない状況に追い込まれていました
それまでに教職に就いていましたが、その職を辞し、フリーの画家に転身します
様々な媒体で挿絵を描き、当初は雑誌の挿絵として、動物画や風景画を描いて賃金を得ていました
彼が23歳の時、妹の家庭教師であるエミリー・リチャードソンと結婚しましたが、彼女はルイスの10歳年上でした
映画でも描かれるように、当時のイギリスでは問題視されていて、二人はやむなくハムステッドへの移住を決意します
この時点で妹たちと疎遠になりますが、得た賃金の一部を母宛に送っていました
この地で慎ましく生活していましたが、結婚3年目にエミリーは末期の乳癌によって死亡しています
この療養生活の中で、ルイスは妻のために飼い猫のピーターに眼鏡をかけさせて、読書をしているようなポーズをさせていたそうですね
その様子を作品にしたものが、この時期に量産され、その後の画家としての方針を決めることになりました
1886年頃から、2本足で立つ猫の絵を描き始め、猫を擬人化していきます
服を着たりする絵を描いて、それがロンドンニュースに掲載されることになりました
『猫達のクリスマス』と題された作品には、150匹もの猫が描かれていると言われています
その後、猫達は豊かな表情、当時の流行の服の着用などがあって、楽器を演奏したり、紅茶を飲んだりと、人が行なっていることのほとんどが描かれていきました
■勝手にスクリプトドクター
映画の構成としては、「ルイスの日常」「エミリーとの出会い」「エミリーとの生活」「エミリーの死」「喪失との向き合い」「ルイスの病気」「ルイスの功績」「ルイスの死」という流れを汲んでいきます
「ルイスの日常」では、「物語の始まりの時点でのルイスの人柄と人間関係」を描いていて、「イラストレーター(画家)」「父が死んで母と妹5人の面倒を見る立場」「ルイスと家族の関係」「ルイスの社会的立ち位置」が描かれていきます
この時点でほとんどのキャラクターが出ているので、「承」にあたる部分は「エミリーとの出会い」になります
いわゆる1stプロットポイントがこの位置にあって、ミドルポイント(最大の危機)は「エミリーの病気の発覚と予後不良である告知」になります
そこから「転」にあたる部分は「愛猫の絵を描く」となり、これまでにルイスが一人で描いてきたものの中に、エミリーの存在が描かれるようになるのですね
この物語は「孤独で理解されないルイス」が、「エミリーとの出会いによってさらに社会的な孤独を味わう」ことになり、それを「二人の愛の力で跳ね除ける(克服ではなく無視)」という流れを汲みます
なので、エミリーの死がもたらすものは「社会的な孤独の再燃」であると言えます
それを跳ね除ける(克服あるいは受容)のは、エミリーの存在が内包された猫達の絵であり、エミリーは亡くなったけど「ルイスの作品の中に生き続ける」という状況になります
そして、これらの作品が世の中に出て、彼らの知らぬ間に様々な人々を笑顔にして、最終的に「自分の遺したものが自分を救う」という流れを汲みます
映画はこの流れを踏襲してるのですが、ここに至るまでにマリーの病気などのエミリーとあまり関わりのない姉妹のパートが挿入されています
これがあまり効果的ではなくて、むしろ「エミリーの存在を疎ましく思っている」という「対エミリーの姉妹の感情」を描いていく必要があります
映画では「疎遠になった」のナレーションで終わっていて、それまで家庭教師だった女性が兄の妻になった時の下三人の感情などは完全に無視されていました
また、エミリーの死後のルイスの描写が細分化されていますが、ここは「ルイスの描いた絵を次々に見せて畳み掛けていきながら、少しずつ違和感のある後期の絵へとシフトする」ことで、ルイスに何かが起こった予感が伝わると思います
ルイスの絵を好意的に見てきた人たちの心理的な距離感、イングラム卿の表情などから、周囲の反応も少しずつ変わり、劇伴も異様な雰囲気を醸し出す
これを5分くらいでまとめて、シーンを展開し、同時にルイスが絵を描いているシーンの描写を挟み込みながら、エミリーの死後の荒廃を描き、そこからいつの間にか入院になっていく
この際にナレーションなどは一切不要で、とにかく絵と音楽、会話のない人物描写で変化を描いていくことができればよかったのではないかなと思いました
結局のところ、ルイスは社会から受け入れられたけれど、彼自身が抱えていた孤独というものは癒やされずに終わっています
ラストシーンで劇的な方向に持っていくなら、精神病院で絵を描いているところに、1匹の猫が迷い込んできて、ルイスの顔をじっと見つめる、というものではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
当時のイギリスの猫に対する扱いであるとか、年上女性との結婚などに対する偏見は要素ではありますが、あまりクローズアップされていません
調べようかと思いましたが、猫が悪魔の使いみたいなありきたりな理由がズラッと出てきそうであまり意味を感じませんでした
でも、イングラム卿を筆頭に猫に対して愛着を持っていた人は多くて、それは王政とか貴族制度などによる人権弾圧の歴史が背景にあると推測できます
猫は自由に外を出歩き、気が向いたら帰ってくるという性質を持っていて、そこに自分自身の願望が重なって見えていたのかもしれません
イングラム卿はこの映画で頻出しますが、あまり背景が描かれない人物でした
でも、彼がルイスの猫の絵に魅力を感じ、また新しい文化へのインスピレーションを予測していた先見の明がありました
彼の父ハーバート・イングラムは「The Illustrated London News」の創始者で、当時のイングラム卿はマネージメント・ディレクターとして活躍していました
その後、父ハーバートがミシガン湖の船舶事故を受けて、その経営を引き継いだのが1860年となっています
映画で描かれているのが1881年からになるので、イングラム卿は社長という立ち位置になっていて、1885年あたりではボストンの国会議員を兼任していました
彼がルイスに入れ込んできた理由までは調べがつきませんでしたが、映画の描かれ方では「ルイスの絵に対して何らかの理解があった」ことは分かります
しかも、ルイスの不義理を許すし、住まいを提供するなど、個人的な親しみがあったのだろうと推測できます
あくまでもルイスとエミリーの物語なのでモブ扱いされていますが、本来なら「ルイスの作品の功労者」として、妹のマリーよりも描写する必要があったのではないかと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384780/review/76e4a0eb-3535-4762-8638-9a8b7f5adf96/
公式HP: