■「オクス駅お化け」というタイトルを決めた人に「四桁の数字を言わせたい」と思うのは私ではないかも知れません
Contents
■オススメ度
Jホラーが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.10.12(MOVIX京都)
■映画情報
原題:옥수역 귀신(オクス駅の幽霊)、英題:The Ghost Station(幽霊の駅)
情報:2022年、韓国、80分、PG12
ジャンル:廃駅で起きる不可解な事件を追う記者を描いたホラー映画
監督:チョン・ヨンギ
脚本:高橋洋&イ・ソヨン
原作:ホラン/호랑『옥수역 귀신(オクス駅の幽霊、2011年)』
キャスト:
キム・ボラ/김보라(キム・ナヨン:死亡事故を調べるウェブニュースの記者)
キム・ジェヒョン/김재현(ウウォン:ナヨンの友人、地下鉄「オクス駅」の保安係)
シン・ソユル/신소율(ヨン・テヒ:不可解な死を遂げた兄をもつ女性)
(幼少期:イム・ハユン/임하윤)
パク・ジェハン/박재한(テホ:テヒの兄、調理師)
(幼少期:チョ・ヨンホ/조연호)
ジン・デヨン/진대연(テホの父、テヒの義父)
オ・ジンソク/김강일(スンジュン:ウウォンの友人、同僚の保安係)
キム・グァンヒョン/김광현(地下鉄の機関士)
キム・ギョンハ/김균하(チェ・ガンサ:副管理官)
キム・カンイル/김수진(湯灌士)
キム・スジン/김수진(モ社長)
ナム・ナユン/김나윤(仲裁委員会の委員)
キム・ウンミン/김은민(酔っ払い女)
イ・ジョンソン/이종성(駅員)
タイガー/호랑(地下鉄の乗客)
チョン・ハリン/전하린(テホを襲う幽霊)
オム・チェユン/엄채윤(スンジュンを襲う幽霊)
パク・ノア/박노아(機関士を襲う幽霊)
イ・スア/이수아(ウウォンを襲う幽霊)
ピョ・ドンジュン/표동준(酔っ払い女を襲う幽霊)
パク・セジョン/박세정(湯灌士を襲う幽霊)
■映画の舞台
韓国:オクス駅
https://maps.app.goo.gl/NKsAgKbfDeJPXD598?g_st=ic
ロケ地:
不明
■簡単なあらすじ
WEB専門のニュースサイトの記者ナヨンは、友人の駅員ウウォンから得た情報を元に記事を書いたものの、事実誤認が発覚して追い詰められてしまう
モ社長は独断で書いた記事だから賠償金を自分で払えと言い出し、それが嫌なら金になる記事を3つ書けと条件をつけた
そのことをウウォンに愚痴っていると、駅で起きているある噂話を持ち出してきた
同僚のスンジュンは「思い出したくない」というものの、ナヨンはその噂を追うことにした
駅の地下には廃駅となっている場所があり、そこで1人の男性が首を吊って死んでいた
ナヨンはその男の妹であるテヒにコンタクトを取り取材をするうちに、ある「井戸」と「施設」へと行き着き、それはオクス駅の建設へと繋がっていく
ナヨンはそれらをまとめるものの、モ社長は地下鉄工事の件は記事にしないと言いボツにしてしまう
だが、その情報を知り得た直後、事実誤認だった酔っ払いとスンジュンの死体が駅構内から発見させる
そして、ウウォンの体にも、何かの爪痕のような傷が出現するのである
テーマ:呪いの連鎖
裏テーマ:伝染と報復
■ひとこと感想
韓国ホラーの製作陣にJホラーのスタッフが入っているということで、少しビジュアルが韓国寄りの中身Jホラーという感じに仕上がっていました
なので、韓国ホラーを期待するとポカーンとなるし、Jホラーが好きな人ならOKという感じになっています
でも、ぶっちゃけ「怖くない」ので、ホラー映画だったのかも微妙に思えます
映画は、韓国版都市伝説に首を突っ込む記者という構図で、キーシークエンスには井戸が登場します
これだけでも既視感満載で、新しいものを感じされたかは何とも言えない感じですね
一応、ラストのオチは少し斬新ですが、あの状況で「あれを口にするのか?」というシナリオの組み立ては「やっつけ」以外の何者でもないように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
オクス駅という実際にある駅をモデルにしていて、その地下にある廃駅が舞台となっていました
オクス駅は高架駅なので、地下というのはよくわからない設定ですが、そこにはかつて「ある施設があった」という設定になっていました
井戸が登場した瞬間に「この井戸で死んだ霊がいるんだろうなあ」というのは想像できますし、その怨念が連鎖して続いていく怖さを描いています
とは言うものの、それが怖いかというと、それほどでもないと言う印象がありますね
突然目の前に特殊メイクの子どもがたくさん出てきますが、怖がらせ方がワンパターンで、心理的な怖さもありません
幽霊より被害者の妹の方が怖いし、なんなら社長が一番ヤバい存在になっていましたね
一応は、呪いを移すことでドヤ顔で去っていきますが、それで良いのかと思わざるを得ませんでした
■Jホラーと韓国ホラーの融合
本作は、韓国ホラー製作陣に日本のホラー製作陣が加入している作品で、脚本に髙橋洋が参加し、白石晃士も脚本協力をしています
『リング』の影響が色濃く反映されていて、また日本でかつてあった事件「寿産院事件」がモチーフになっているとされています
韓国の都市伝説に日本の実在の事件を織り交ぜ、日本のホラーによく登場する「井戸」が出てくるので、90年代くらいに流行したホラー映画の系譜のように思えます
韓国ホラーの特徴としては、ビジュアル面のリアルさもありますが、バイオレンス要素が強いように思えます
容赦のない暴力性があって、主演がアイドルだろうがモデルだろうが関係ない感じですね
この直接的な、タガが外れたような人間の行動が特徴的で、怨念に囚われた人間がザックザックと人を刺し殺していくようなイメージがあります
日本のホラーは心霊系が多く、目に見えない力で殺されるなどの特徴があり、決定的な場面を見せずに想像させるという特徴があります
怨念などがあっても、直接的に滅多刺しというよりは、得体の知れない力によって念動力で殺されるようなイメージで、その怨念が近づいてくる過程に恐怖演出があるという印象があります
本作の場合は、その両方を兼ね備えているような感じになっていますが、直接描写よりは間接描写の方が多い感じがします
冒頭の列車のドアに首が挟まって殺されるシーンなどは、どちらかと言えば日本ホラーの要素が強いような感じがします
また、被害者の妹テヒのビジュアルなどは韓国ホラーの気持ち悪さが前面に出ている感じがして、湯灌士の行動は日本ホラーのパターンに似ている感じがします
このあたりの境目は微妙な感じで、どちらに似ているかどうかよりも、単純に怖いかどうかというのが評価軸になると思います
■勝手にスクリプトドクター
本作は、ウェブライターがネタ探しをする中で都市伝説にふれるというものですが、呪いそのものよりも「色んな意味でモ社長が一番怖い」という斜め上の特徴がありました
単なる権力主義の偉そうな人物なのですが、すでに何かに取り憑かれているような怖さというものがありました
最終的に、手柄横取りの強欲に天誅を下すのですが、モ社長が数字を読み上げるシーンの無理矢理感はほぼコメディの領域になっていました
あの場面で、あの数字を読み上げるバカはいないと思うし、ナヨンが何かをしたことがわかるので、悠々とその場を立ち去れるところにリアリティを感じません
この映画における呪いは時間差があるのが特徴で、呪われたらすぐに死ぬというものではありません
また、呪いの発動条件も「事件を知っている人間が4桁の数字を読む」というざっくりしたもので、いかにして相手にそれを言わせるかというのが後半の命題になっていました
ナヨンはウウォンから呪いを伝染させられるのですが、この2人の関係性が恋人なのか友人なのか曖昧だったこともあり、その残酷性がわからない感じになっています
見た感じでは幼馴染で恋愛感情がない関係性に見えますが、呪いの伝染を残酷に描くのならば、あえて恋人関係もしくは片想いの関係であった方が良かったように思います
湯灌士が相手に数字を言わせる方法とか、ウウォンの策略などはまた理解できるものの、退職届と引き換えに言わせるというのは無茶でしたね
モ社長としては、退職届があろうがなかろうがクビにすることはできるし、意味のわからないことを言って、意味のわからない数字のメモを読ませることを強要する時点で警備員を呼んで排除することもできたと思います
それらの不自然さを考えると、退職届の代わりに数字を書いたメモが入っていて、ナヨンが去った後に封筒を開けて読んでしまうという流れの方がスッキリします
呪いの発動条件として、事件のことを知っているという前提があるので、ナヨンがすべきことはモ社長が自分の記事をちゃんと読んで、事件について知ってしまったかどうかを確認することでしょう
ナヨンが記事を暗誦し、そこに書かれていない背景を織り交ぜながらモ社長に聞かせることで、ナヨンと同じレベルで事件の情報を知ることになります
そして、その理解が深まったことを確認した上で、退職届と書かれた封筒を手渡す
ナヨンはそのまま退室し、モ社長が封筒を開けると、そこには退職届はなく、数字が書かれた紙だけが入っているのですね
それを読み上げたモ社長は呪いが発動し、それによって精神的におかしくなって自殺をするなどして、ナヨンは職場に復帰するというのがベターなのかなと思いました
あの場で退職する意思を言葉にしないこと(例えば「あなたが欲しいのはこれでしょう」と言って退職届と書かれた封筒を渡すなど)で、その効力は文書によってのみ為されるとするならば、解雇に関するやり取りは2人の間でしか知り得ない事実となります
モ社長は呪いで頭がおかしくなったと見なされれば、ナヨンの解雇を証明するものが何も無くなってしまいます
ナヨンにとっての爽快な勝利は、これまでに自分を苦しめてきたモ社長の退場なので、辞めるというエンディングよりは職場に継続して存在する方がインパクトがあるのではないかと感じました
次長のような社員がいましたが、彼だけは2人の間で起こったことを知っているというのも良いでしょう
世間的には「事件の記事を書いたモ社長が謎の死を遂げた」というふうに見えているので、ナヨンが会社に居続けることが誰かのとっての「恐怖」となり得るのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、タイトルで損をしている作品になっていて、もっと何とかならなかったのかと思ってしまいます
原題は「オクス駅の幽霊」という意味になり、英題も「幽霊のいる駅」という意味になります
お化けという言葉は幽霊と同義ではあるものの、あまり現代的ではないように思えます
昭和の時代の幽霊を示す意味がありますが、今ではコミカルなイメージがあり、それらならば「怨霊」などの方が怖さが増すと思います
あえて「お化け」を使用した意図はわかりませんが、作品の呪いの連鎖性を考えると、もっともしっくりくるのは「オクス駅の怨念」でしょうね
幽霊というのは、周囲に関係なく存在し続けるイメージがあり、本作のように恐怖が連鎖するというイメージとは異なります
ホラー映画は、幽霊に遭遇する「主人公の能動的行動」を主とするものと、怨念などに巻き込まれる「主人公の受動的行動」を主とするものがあります
今回は「ウェブ記事でバズるために取材をする」のですが、こと「呪い」に関しては巻き込まれ系なのですね
それを考えると、「怨霊」「怨念」のような超常現象の方に主体性がある名前の方が良かったと思います
幽霊(お化け)というのは地縛性があり、そのテリトリーに入ったものに影響を与えるものですが、呪いというものはそこから拡散されることを望んでいます
それを考えると、伝染の方が主体になっている本作は、呪いの拡散が主題となっていると言えます
呪いの発動条件は「事件のことを知る」「数字を読み上げる」ということなので、ウェブ記事によって「事件の周知」がなされた今となっていは、韓国中で「誰かが数字を言ってしまう」ということで予期せぬ呪いの発動の下地ができていることになります
日常で無作為な4桁の数字を口にする機会は少ないと思うのですが、そういった機会を明示することで、さらなる恐怖が社会に蔓延することになると思います
物語は、記事によって発動した呪いの影響まで描く必要があって、ナヨンがモ社長に呪いを移したというだけでは終わらないものでしょう
ラストカットはモ社長への伝染でOKですが、その後エンドロールが始まって、そしてポストクレジットの後あたりで「うっかり4桁の数字を言ってしまう記事の読者への伝染」を描くことで、映画はスッキリした(呪いの理屈として)ものになると思います
その役目を担うのがウウォンもしくは、ウウォンの家族である方が因果性は高まりますが、そこまでやると少しクドいかも知れません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP: