■隠蔽が犯罪を加速して、責任転嫁の末に因果が自分に巡ってくる
Contents
■オススメ度
実話系犯罪を扱った作品に興味がある人(★★★)
エディ・レッドメインさんのファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.10.27(アップリンク京都)
■映画情報
原題:The Good Nurse
情報:2022年、アメリカ、121分、G
ジャンル:アメリカで実際に起きた看護師による殺人事件を扱ったクライム・スリラー映画
監督:トビアス・リンホルム
脚本:クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
原作:チャールズ・クレバー『The Good Nurse:A True Story of Medicine, Madness, and Murder』
キャスト:
ジェシカ・チャスティン/Jessica Chastain(エイミー・ロークレン/Amy Loughren:2児の母のシングルマザーのICU看護師)
エディ・レッドメイン/Eddie Redmayne(チャーリー/チャールズ・カレン/Charles Cullen:エイミーの病院に新しく赴任する看護師)
Nnamdi Asomugha(ダニー・ボールドウィン:事件を捜査する刑事)
ノア・エメリッヒ/Noah Emmerich(ティム・ブラウン:事件を捜査する刑事)
マリク・ヨバ/Malik Yoba(サム・ジョンソン:ダニーとティムの上司)
キム・ディケンズ/Kim Dickens(リンダ・ガレン:パークフィールド病院の危機管理局の局長)
David Lavine(ダンカン・ビーティ:病院の顧問弁護士)
Myra Lucretia Taylor(ヴィヴィアン・ニール:エイミーの上司、ICU看護師長)
ShaunO‘hagan(エリス検事)
Maurice J.Irvin(マーク・ロッシ:顧問弁護士)
Alex Barhter(病院の資料を届ける郵便配達員)
Denise Pillott(ペンシルバニアの病院の看護師)
Dartel McRae(ペンシルバニアの病院の看護師)
Joseph Fugelo(コリンズ:ペンシルバニアの病院の医師)
Judith Delgado(アナ・マルティネス:エイミーが担当する患者)
Jesus–Papoleto Melendez(サム・マルティネス:アナの夫)
Anjelica Bosboom(ケリー・アンダーソン:エイミーが担当する患者)
Gabe Fazio(トム・アンダーソン:ケリーの夫)
Marcia Jean Kurtz(ジャッキー:エイミーのシッター)
Devyn McDowell(マヤ・ロークレン:エイミーの娘、次女)
Alix West Lefler(アレックス・ロークレン:エイミーの娘、長女)
Ajay Naidu(ロバート・ハインド:エイミーの主治医)
Navya La Shay(病院受付)
Maria Dizzia(ロリ・ルーカス:エイミーの友人、チャーリーの前の勤め先の同僚看護師)
■映画の舞台
アメリカ:ニュージャージー州
パーク・フィールド
https://maps.app.goo.gl/cA6QsqebQiZ4aZxG9?g_st=ic
ロケ地:
アメリカ:コネチカット州
スタンダード
https://maps.app.goo.gl/gLjFgrNMMx7HnGLq7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1996年、ペンシルベニアの病院にて、ある患者の急変事例が起こる
懸命な蘇生処置を施すものの、患者は息を引き取り、そうした事件が何度か続いていく
それから7年後の2003年のニュージャージー州のパークフィールド病院に、ペンシルベニアで働いていた男性看護師・チャーリーが赴任する
彼の所属はICUで、そこにはシングルマザーとして2人の女児を育てながら激務をこなすエイミーがいた
エイミーはチャーリーの優しさに惹かれながら、一緒に激務をこなしていく
そんな折、エイミーが担当していた老女アナが急死してしまう
その事件は7週間の内部調査を経て警察に通報され、事件担当にダニーとティムがつくことになる
病院の危機管理局のリンダは警察に非協力的だが、彼女らの調査ではわからないことを警察の力を借りようと考えていた
そんな中、チャーリーの過去が次第に暴かれていくのである
テーマ:献身
裏テーマ:隠蔽体質
■ひとこと感想
実際の事件がベースになっている本作は、事実の通りに犯人の動機については語られていません
ミステリー映画のような構成になっていて、心優しき同僚の裏の顔を暴いていくという展開になっていました
冒頭で犯人であることを示唆しつつも、被害者にも見えるように描かれていて、事実を知らなければ、彼は実は冤罪なのでは?と「途中までは」思わせていきます
それでも、重なっていく状況証拠によって、チャーリーを疑わざるを得なくなっていて、エイミー目線では「家族に取り入ってくる」ホラーのようにも思えます
この重厚かつサイコパスにも見えるチャーリーが恐ろしく、またいつもなら「強そうなキャラ」を演じるジェシカ・チャスティンがギリギリのところで勇気を振り絞る正義として描かれていました
この2人の演技を堪能する内容になっていて、実話ベースのスリラーとしてはエンタメ要素がふんだんに入っている感じに仕上がっています
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
最近では日本でも増えつつある医療事故を装った殺人事件ですが、その発端にも思える有名な事件がベースになっています
その手法が恐ろしく、またそれを隠蔽しようとする病院側が事勿れ主義を貫いていく様子も描かれていきます
本作で一番驚いたのは「リンダは元看護師よ。彼女は知っているはず」というエイミーの一言でしたね
これまでは「事務方っぽさ」を前面に出していて、あたかも「薬剤に関する知識はありません」というふうに見せていて、実は全てを知っているという闇を見せていきます
病院側が本気で死因を調べれば、事故なのか殺人なのかは容易にわかると思います
この事件の怖いところは無差別というところで、それによって犯人像が最後まで見えないところでしょう
老女アナの死はある種の思想があっても、ケリーの死にはその思想が当てはまりません
なので、アナの段階でわからなくても、ケリーの段階で病院は把握していると思います
それを放置していることが最大の原因で、また犯人に悟られないように「現場から遠退かせる」ということに全力になるのが「組織」というものなのかもしれません
■チャールズ・カレンについて
事件を起こしたのはチャールズ・エドマンド・カレンという人物で、彼は1960年生まれのアメリカ人でした
生まれはニュージャージーのウエストオレンジで、最後の事件現場になったパークフィールドの隣町の出身でした(車で10分の距離)
8人兄弟の末っ子で、結婚して子どもを二人授かっています(1993年に離婚している模様)
事件に関しては29件が確認されていて、余罪は100件を超えると言われています
1988年から犯行に及び、それは2003年の映画の事件(2件目のケリーの不審死)まで続いています
最初に認知された殺人は、1988年のセント・バルバナスで起き、静脈内に致死量相当の薬剤を投与されたとされています
この病院では事件の4年後の1992年に「病院が薬剤混入の点滴バックを発見」して、その発覚と同時にカレンは離職しています(クビではなく自発的に逃亡?の模様)
でも、彼が離れた後も、十数人の患者が亡くなったと言われています
セント・バルバナスを離れたカレンは、今度はフィリップスバーグのウォーレン病院に就職し、そこでジゴキシンによって3名の年配の患者を殺害しています
その後、妻と離婚し、養育費が必要になった彼は看護師を続けることを余儀なくされてしまいます
妻へのストーカー行為などで逮捕されますが、1996年頃からフレミントンのハンタードンの病院でICUでの勤務を開始します
そこでも半年で5人の患者が犠牲になってしまいました
カレンはその後もいくつかの病院を転々とし、ペンシルバニア州アレンタインの病院では「薬剤投与の間違い」で告発されたり、素行が悪くてすぐに解雇になった病院もあります
2002年になり、ニュージャージー州のサマセット・メディカル・センターに勤務をします
そこでは少なくとも13人、未遂が一人で、使われた薬剤はジゴキシンの他にインスリン、エピネフリンなども使われました
このサマセット・メディカル・センターが映画の舞台になっている病院ですね
映画のように、薬剤管理機器の不具合を利用して、多数の薬剤を入手してはキャンセルをするというのを繰り返しています
また、彼が受け持っていない患者への電子アクセスなども見つかっていて、ニュージャージーの危機管理局は病院に対して「疑わしき過剰摂取」に関して病院に警告しています
でも、病院は意図的に報告を3ヶ月遅らせていて、その間にカレンは5人もの患者を殺害していました
ちなみに逮捕に貢献したエイミー・ロークレンさんは実在の人物で、残念ながらウィキなどはないようですね
映画に関連する記事の中では、「レストランでカレンと会って事件のことを話した」「カレンの薬物の関連書類を警察に提供した」「アレックスに事件のことを話した」ことは事実で、映画の制作のアドバイザーとして監督と複数回会って話したそうです
現在は看護師を辞めて、娘たちとともにフロリダで過ごしているとのこと
世界中を巡って、セラピストやインストラクターなどをされているようですよ
↓「エイミーの今を追った記事(COSMOPLOTAN)」
https://www.cosmopolitan.com/uk/entertainment/a41799102/netflix-good-nurse-real-amy-loughren-now/
■病院の隠蔽体質
病院に限らず、組織の顔に泥を塗る行為は隠蔽される傾向にあります
それが組織的に行われる場合もあれば、当事者の間で行われるものまで多岐にわたります
以前に私が勤めていた会社でも、いくつかの事件の隠蔽を図った社員がいて、その犯罪を調べる業務に従事していたことがあります
些細なアルバイトの盗難から、店長クラスの帳簿の改竄などもありましたが、それらは探そうと思えば意外なほどに見つかりやすいものだったりします
でも、犯罪の規模が大きくて組織的になると、途端に難しくなります
映画では看護師が自身のIDとパスワードだけで劇薬を入手できたりしましたが、これが部署ぐるみとか薬剤部にも同じ思想の人間がいるとしたら明るみになるまでに相当時間がかかるでしょう
犯罪が組織的になるということは、様々な部署で犯罪による利益がもたらされるからですが、それは能動的な利益ばかりではありません
薬物管理の杜撰さを突かれた犯罪だとしたら、システムの不備についての追及を逃れるためにその部署が改竄することもあるし、告発よりも再発防止を考えるという方策に出ます
複数の医療機関で勤務しているので薬剤の取り扱いに関しては少しばかり知っていますが、マジかという病院から、そりゃ無理でしょという病院まで多数あります
基本的には医師のオーダーがないと薬剤は取り出せず、劇薬・麻薬関連にはいくつかのステップが必要になります
重複オーダーについても、カルテ上で警告が出ますし、在庫管理も徹底されています
映画では人手不足によるダブルチェックの緩さなどもありますが、裏技的な「キャンセル(実際にその仕様だった模様)」を放置していたことも問題だったでしょう(これはメーカーの責任になりそうですが)
それでも、当局への報告が「映画では7週間、事実では3ヶ月遅れていた」というものがあり、病院側が事態を把握した時に「これは隠さないとヤバいやつだ」と判断したのかもしれません
映画では、徹底的な隠蔽を図る一方で、かなり杜撰な隠蔽になっていて、「印字されたリストが複数ページだとわかる」などと、危機管理局なのに危機管理できない人物が事に当たっていたことがわかります
実際に、どの職責でこの事実が明るみになるのかを止めていたのかはわかりません
でも、顧問弁護士と相談している段階で局長一人の判断とは思えませんが、病院の院長とか理事長は「意外なほどに現場には疎い」という死角が存在します
組織的な隠蔽というのはトップとその側近だけが抱えているものだと可能そうに思えますが、今回のような現場発だとほぼ無理かなと思います
なので、エイミーの友人の病院では「カレンを追い出す方向」というものをやっていましたし(実際にはカレンを首にしなければ全員が辞めるというボイコットする病院もあったそうです)、他の病院に手回しをして、カレンを雇わないようにという動きもありました
これらの判断がほとんど現場の最前線の最下層のネットワークになっていて、それによって問題が表面化するというのがリアルでした
組織内で隠そうとしても、初発でなければ難しく、今回のように犯行を重ねていくと、人伝えの噂話は意外なほどに広まるものなのだと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では明確になっていないカレンの犯行動機ですが、事件後のインタビューか何かで「人を救っていると思っていた」という趣旨の理由らしきものを話していたとされています
実際にはそれがどこまで本当なのかわからないのですが、「逮捕されなければ、自分を止めることはできなかった」と語っていて、映画のラストで語られる「誰も僕を止めなかった」はその供述からきていると思われます
犯行の変遷を見ていると、重度のリハビリ病院などの勤務であるとか、彼の両親の死と9歳から始まった自殺未遂などの内面が「思想」を形成したのは想像に難くないでしょう
でも、実際には本人でもわからない(途中で変化して、当初の動機とは違うこともある)のは本当なのかなと思います
映画で本人が語っていないことを無理矢理捏造するわけにもいかず、ニュアンスは供述に沿ったものになっているのでしょう
カレンの母親の死に関しても少しだけふれられていましたが、彼が親の死に関して何らかの不審なものを感じていたことは確かなようですね(許可なく火葬されたらしいが、8人の末っ子なので決定権があったかは微妙)
人は自分に起こったことに運命的な何かを想像して植え付けることがあります
それが他人に迷惑をかけずに、自分の内面を肯定するようなものだと良いのですが、そういったものばかりとは限りません
犯罪の動機などは、後から本人が自分の内面を向き合って(あるいは向き合わずに)語られるもので、明確な思想犯でなければ言語化されないものの方が多いでしょう
映画などでは「その精度に関わらず、観客が求めそうな動機」を提示しがちですが、それは人が考えた虚構なので説得力はありません
人の行動は「感情と瞬間的な反応によって決まる」ので、論理的であることは後発的なこじつけに近いと思います
この事件でも、「幼少期のトラウマが!」みたいなもので括ることができるだろうし、「絶望的な命の現場で勘違いした」みたいなもので括ることもできます
でも、そこに嘘が混じった瞬間に「事実に基づく」という言葉は消さないとダメなのですね
なので、本作では「本人の言葉」以外の脚色はほぼカットされていて、本当に「何でこんなことをしたのかわからない」というひとつの結論を描くことになったのだと思います
本作のオチが弱いなあと思う人は、ある意味虚構に毒されていると言えるのかもしれませんね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384922/review/b0ac530f-d4f2-49fc-9122-a1ecf0fcfbc8/
公式HP: