■現実世界には屈指の名探偵は存在しないが、捜査を俯瞰して観る存在がいれば、道に迷うこともないのかもしれません


■オススメ度

 

未解決事件に挑む警察目線の物語に興味がある人(★★★)

一般的なミステリー映画が好きな人(★)

 


■公式予告編

 

鑑賞日:2024.3.21(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:La Nuit du 12(12日の夜)、英題:The Night of the 12th(12日の夜)

情報:2022年、フランス、114分、G

ジャンル:生きたまま焼かれた殺人事件を追う警察の苦悩を描いたクライム映画

 

監督:ドミニク・モル

脚本:ジル・マルシャン&ドミニク・モル

原作:ポーリーヌ・ゲナ『18.3: Une annee a la PJ(刑事訴訟法18.3条:司法警察での1年』

Amazon Link(原作:日本での購入は不可)→ https://www.amazon.fr/18-3-Une-ann%C3%A9e-%C3%A0-PJ/dp/2072936748

 

キャスト:

バスティアン・ブイヨン/Bastien Bouillon(ヨアン・ヴィヴェス:グラノーブル署の殺人捜査班の信任班長)

 

ブーリ・ランネール/Bouli Lanners(マルソー:ヨアンの相棒)

ムーナ・スアレム/Mouna Soualem(ナディア:ヨアンの部下、新規配属の女性刑事)

 

テオ・チョルビ/Théo Cholbi(ウィリー:ヨアンの部下)

ヨハン・ディオネ/Johann Dionnet(フレッド:ヨアンの部下)

ティビー・エベラー/Thibaut Evrard(ロイック:ヨアンの部下)

ジュリアン・フリゾン/Julien Frison(ボリス:ヨアンの部下、新人)

ポール・ジャンソン/Paul Jeanson(ジェローム:ヨアンの部下)

 

ポーリーヌ・セリエ/Pauline Serieys(ナニー/ステファニー・ベアン:クララの親友)

ルーラ・コットン=フラビエ/Lula Cotton-Frapier(クララ・ロワイエ:被害者の女性)

Charline Paul(クララの母)

Matthieu Rozé(クララの父)

 

Baptiste Perais(ウェズリー:クララのアルバイト時代の同僚、ボウリング場)

Jules Porier(ジュール・ルロワ:クララの友人、ボルダリングジムの仲間)

Martine Lacomblez(ジュール・ルロワの祖母)

Nathanaël Beausivoir(ギャビ・ラカゼット:元カレ、ラッパー)

Alexandre Ionescu(ドゥーエ:ギャビの弁護士)

 

Benjamin Blanchy(ドゥニ・ドゥエ:落ちていたライターを届ける男、菜園)

 

Pierre Lottin(ヴァンサン・カロン:血染めのTシャツの持ち主)

Camille Rutherford(ナタリー・バルドー:ヴァンサンの居候先の女性)

 

David Murgia(サッド・マッツ:墓の前に来る謎の男)

 

Anouk Grinberg(ベルトマン:捜査裁判官、判事)

Romane Kasprzak(捜査に協力する聴覚障害者の女性)

Jessica Garreau Cotenceau(聴覚障害者の通訳)

 

Nicolas Jouhet(トゥランショー:引退する班長)

 

Marc Bodnar(署長)

Valérie Enquin(署員)

Nabila Attmane(署員)

 

Marie Bonifassy(ナニーの友達)

Albane Brun(ナニーの友達)

Emma Mattina(ナニーの友達)

 


■映画の舞台

 

フランス:

グルノーブル

https://maps.app.goo.gl/nEx6JpAqFycf9ZBx6?g_st=ic

 

ロケ地:

フランス:ソヴォイエ

グランドン峠/Col du Glandon

https://maps.app.goo.gl/jQ6YXLj91v5N5cnW6?g_st=ic

 

サン=ジャン=ド=モリエンヌ/Saint-jean-de-Maurienne

https://maps.app.goo.gl/41mm4nw3gTG94V929?g_st=ic

 

Bar-bowling Le Cairn

https://maps.app.goo.gl/2BKXkWg3D1mqFasK9?g_st=ic

 

フランス:イゼーレ

グルノーブル/Grenoble

https://maps.app.goo.gl/nEx6JpAqFycf9ZBx6?g_st=ic

 

スタッド・ヴェロノーム/Vélodrome

https://maps.app.goo.gl/qQkPfraDoSgV1R3b6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

2016年10月12日、フランスのグルノーブル署では、殺人捜査課の班長の交代が行われていた

前任の退職によって、ヨアンが抜擢され、仲間の前でスピーチを強要されている

ごまかしながらも、穏やかな夜が過ぎていくものと思われた

 

一方その頃、サン=ジャン=ド=モーリエンヌでは、友人ナニーの家から帰ろうとするクララがいた

その日クララは、ナニーの家に泊まる予定だったが、急遽変更し、家路へと向かう

だが、夜道で何者かに液体をかけられ、フードを被った男は、ライターでクララに火をつけて逃げてしまう

 

クララは生きたまま焼かれ、翌日のグルノーブル署は慌ただしい雰囲気に包まれていた

憲兵隊の管轄だと思われたが、ヨアンは率先して現場に行き、そして被害者宅を訪れることになった

母親に娘が亡くなったことを告げ、そこに前夜まで一緒にいたナニーがやってくる

 

ヨアンは犯人を探すべく、ナニーや家族から交友関係を洗い出し、地道な捜査を始めるのであった

 

テーマ:未解決に向かう理由

裏テーマ:思い込みと反転

 


■ひとこと感想

 

ある月の12日に起きた殺人事件を追う捜査班が描かれ、このケースも20%に相当する未解決事件の一部であることが冒頭で示されます

この時点で「この事件は解決しません」と言っているようなもので、この時点で視点を切り替えないと、後々の展開に不満が出ると言えます

 

調べていくうちに被害者像が浮かび上がり、その本質は家族や友人が知っていて言わなかったことにつながっていくのですが、その乖離が捜査を難航させてきたことが後々にわかってきます

 

後半では、女性刑事と女性判事が登場し、事件が1から見直されて再捜査されていきます

これによって進展があるように見せかけていますが、初動で失ったものは取り戻すことができないという流れになっているように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、未解決事件がどのような過程を経て起こるかを描いていて、それを「初動の視野狭窄によるもの」と示していたように思います

被害者が女性で、その女性目線になることと、加害者が男性で、その男性目線になっていることの違い

奇しくも後半に新加入するナディアの言葉として「男が罪を犯して、男が捕まえる社会」というのは言い得て妙のように思えます

 

被害者の男関係がクローズアップされ、それによって被害者への見方が変わっていくところが恐ろしくもあります

途中で退場することになったマルソーが後半に意味深な写真を送ってくるのですが、彼には直感的に犯人がこの男だとわかっていると思うのですね

でも、それを裏付けることができぬまま、それならばという感じで鉄拳制裁に踏み切ってしまいました

 

この一連の流れが全てを台無しにする男脳のようなもので、それによって時間が失われていったようにも思えてきます

マルソーの写真は「どっちが上かわからない写真」で、それは「事件を多角的に見直せ」というもので、もしかしたらナディアがナタリーと話すとか、ナニーと話していたら事態は変わっていたのかな、と感じました

 


モデルの事件について

 

本作は、ポーリーヌ・ゲナがベルサイユ司法警察に対して取材した『18.3: Une annee a la PJ(刑事訴訟法18.3条:司法警察での1年)』を原作としていて、2013年5月にフランスのセーヌエマルヌ県ラニー・シュル・マルヌで起きた事件をモチーフにしています

被害者のモード・マレシャルという当時21歳の女性の焼死体が発見された事件で、彼女は自宅近くのパーティーに出席した後、夜中の2時30分頃に会場を後にし、その1時間後に巡回警察によって発見されました

検死結果にて、ガソリンを撒かれて火をつけられたとされていて、生きたまま焼かれたということがわかっています

その後、広範囲の捜査にも関わらず、容疑者を特定することができず、現在でも未解決のままとなっています

 

この事件の捜査にあたったジャン=バティスト・ブラディエ検事が公表している情報では、1000件以上の報告書を作成し、240件の公聴会(事情聴取)を開き、5人の容疑者を逮捕するに至っているとのこと

それでも、犯人逮捕には至らなかったとされています

また、被害者は以前に嫌がらせを受けていたとして、1年くらい前に告訴状を提出していました

また、現場からはDNAが見つかったものの、特定には至っていません

 

フランスでは、これらの未解決事件はナンテールにある専門の国立司法センター(PCSNE)が設置されてい、そこに情報が送られるようになっています

法務省によれば、フランスの未解決事件が280件あると見積もっているが、実際にはもっと多くの未解決事件があるとされています

こちらについての詳細は、下記のHPを翻訳した方が説明が早そうなので、掲載しておきますね

↓「VILLAGE DE LA JUSTICE」「COLD CASES”, UN PÔLE JUDICIAIRE NATIONAL LEUR EST DÉDIÉ À NANTERRE : PRÉSENTATION ET ENJEUX.」のURL

https://www.village-justice.com/articles/presentation-enjeux-pole-judiciaire-des-crimes-seriels-non-elucides-nanterre,47893.html

 


この事件を紐解く鍵

 

映画から導かれる「本件が未解決に至った経緯」は、実際の事件でも同じだったのかはわかりません

それでも、あえて「警察の手法」についての苦言を呈している部分があって、それが「男社会ゆえの盲目」ということになっていたと思います

映画は、後半になって女性刑事ナディアと女性判事ベルトランが登場します

これによって、「もし、捜査に女性の視点が入っていれば」という仮説のようなものを描いていくことになります

 

とは言え、ベルトランは再捜査のための資金融通を示唆したり、捜査員を鼓舞するだけで、ナディアも一緒に張り込みをしますが、彼女の視点だから見えたものがある、とまでは描かれていません

これは、時間が経ちすぎたことによって機能しなくなっているとも言え、事件の初動に対して「加害者(同性)の視点で見るか、被害者(異性)の視点で見るか」の違いを「事件が起こった時から並行して入れておくべきである」という主張なんだと思います

実際には「もしも」の世界なのでどうなったのかはわかりませんが、クララの男性関係が明確になるたびに「男性捜査員の中に完成してしまう被害者像」というものがあって、そこに「自業自得なのでは?」という見方が生まれてしまう危惧を描いているのですね

あくまでも、被害を受けた側の視点を忘れないようにという戒めにもなっていて、映画では「中庸」であるはずの第三者視点が脆くなっていく様子が描かれていたと思います

 

この事件を解決できるかはわかりませんが、映画の中に登場する容疑者としては、ヴァンサン・カロンが一番の有力候補であることは否めません

彼が再捜査でも容疑者として再捜査されないのは、ナタリーというアリバイを証言する女性がいることと、マルソーが相手を殴ったためにその余波を恐れて強く出られないからであると推測できます

ヴァンサン・カロンがナタリーと一緒にいたというのを覆せば有力な容疑者になりますが、それには強硬的な流れになっていました

もしかしたら、あの場面に女性の刑事がいれば変わっていたのかもしれません

 

そもそも、あの血まみれのTシャツを誰があの場所に置いたのか、という論議がなく、そこを追求しないのも変な感じはしました

おそらくはナタリーがあれをあの場所に置いていて、警察を自宅に招き入れたのでしょう

彼女には彼女なりの理由があり、それをあの場所で話せる相手を探していたのだと思います

警察はそれが置かれた理由を考えずに、犯人逮捕のヒントだとばかりに焦点を萎めてしまいました

それによって、「誰が」「何のために」というところを通り越して、ヴァンサンのみを調べることになっていたように描かれていました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、一見すると「殺人事件を解き明かすミステリー」に見えるのですが、実際には冒頭の字幕にて「この事件も未解決事件の一つである」とはっきりと言っているのですね

そこから事件が起きる経緯が時系列で描かれていき、おそらくはモデルになった事件と同じような捜査過程などを経て、未解決になった状況を描いていたのだと思います

映画としてのオリジナルの視点は、後半に登場するナディアとベルトマンの存在で、これは実際の事件にはなかったエピソードのように思えます

それ故に、後半には制作者の意図というものが込められていると言えるのでしょう

 

それでも、事件は解決の方向に向かわないのですが、ベルトマンの登場によって、捜査の方針が変わり、ナディアの登場によって視野が広くなっています

これによって、「捜査に対する資金と上層部の理解」が欠けていたこと、「捜査初動による捜査員たちの失敗から学ぶべき教訓」というものが描かれているのですね

映画で事件を解決しなかったのは、フィクションに寄りすぎることを避けるためと、捜査関係者の精神を逆撫でする気はなかったからだと思います

そう言った意味において、結末を現実に寄せたのは英断だったのではないでしょうか

 

「未解決事件がどうして起こったか」を描いている作品に対して、「なんで犯人捕まらないんだ」と怒るのはお門違いなのですが、これは宣伝や予告編の作り方に問題があるのですね

やはり、実際に起きた未解決事件を捜査資料や報道などをもとに再現しているという側面は否めないので、スクリーンの中の有能な捜査当局を観たかったという層はいると思います

その層にはウケない内容になっていますが、犯人側が勝ってしまう映画というものが面白いかといえば微妙なのですね

なので、映画では実際には解決しないけど、解決へのヒントが見つかったという希望を描いても良かったのかな、と感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/100754/review/03631207/

 

公式HP:

https://12th-movie.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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