■ある意味、このブログには「たくさんの夜の乗客」が乗っているのかもしれません


■オススメ度

 

フランス映画の雰囲気が好きな人(★★★)

ほろ苦い恋の味が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.4.27(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題Les Passagers de la nuit(夜の乗客)、英題:The Passengers of the Night

情報:2022年、フランス、111分、R15+

ジャンル:夜のラジオ番組に関わることになった女性の第二の人生を描くヒューマンドラマ

 

監督:ミカエル・アース

脚本:ミカエル・アース&モード・アメリーヌ&マリエット・デゼール

 

キャスト:

シャルロット・ゲンズブール/Charlotte Gainsbourg(エリザベート:シングルマザーのラジオ局スタッフ、「Les chooses de la Nuit」のリスナー担当、図書館職員を兼務

キト・レイヨン=リシュテル/Quito Rayon-Richter(マチアス:エリザベートの息子、高校生)

メーガン・ノーサム/Megan Northam(ジュディット:エリザベートの娘)

ノエ・アビタ/Noée Abita(タルラ:エリザベートが保護する女の子)

 

エマニュエル・べアール/Emmanuelle Béart(ヴァンダ・ドルヴァル:「Les chooses de la Nuit」のパーソナリティ)

ロラン・ポワトルノー/Laurent Poitrenaux(マニュエル・アゴスティニ:ラジオ局のスタッフ)

エリック・フェルトマン/Éric Feldman(ドミ:ラジオ局のスタッフ)

ラファエル・ティオリ/Raphaël Thiéry(フランシス:エリザベートの前任のラジオ局スタッフ)

 

ディディエ・サンドル/Didier Sandre(ジャン:エリザベートの父)

 

リリット・グラミュグ/Lilith Grasmug(レイラ:マチアスと恋仲のクラスメート)

Mohanmmed Sadi(レイラの祖父)

 

Calixte Broisin-Doutaz(カルロス:マチアスの親友)

ゾエ・ブリュノ/Zoé Bruneau(マチアスの高校の歴史の教師)

 

オフェリア・コレブ/Ophélia Kolb(マリ=ポール:図書館の同僚)

ディボー・バンソン/Thibault Vinçon(ヒューゴ:エリザベートに気がある図書館の利用客)

 

Adien Colliard(ゴンゾ:タルラを知る男)

 


■映画の舞台

 

1980年代

フランス:パリ

 

ロケ地:

フランス:パリ

ラジオ・フランス

https://maps.app.goo.gl/G2K9XEDZaRMbVv2v7?g_st=ic

 

シネマ・レスキュアル/Cinema L‘Escurial

https://maps.app.goo.gl/8AfAt77WAUYPz7Rb9?g_st=ic

 

ボーグルネル/Quartier de Beaugrenelle

https://maps.app.goo.gl/fisVY5i79o1Wo8yp6?g_st=ic

 

フランス:カルバドス

ゼニス・ド・カーン/Zenith de Caen

https://maps.app.goo.gl/CPPT8naRiXL7X3Vs8?g_st=ic

 

ノジャン=シュル=マルヌ/Nogent-sur-Marne

https://maps.app.goo.gl/kfwMPkYLUyfQFdoMA?g_st=ic

 

フランス:オー=ド=セーヌ

サン・クルー/Saint-Cloud

https://maps.app.goo.gl/AkHjXAcZaiZm9FD9A?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

1981年、フランスではミッテラン大統領が誕生し、市民は改革に一歩進んだと歓声を上げていた

そんなパリの夜を彩るのは、ラジオ・フランスの深夜番組「夜の乗客」

パーソナリティのヴァンダがリスナーと話す番組で、エリザベートはその声に耳を傾けていた

 

それから3年後、エリザベートは夫に捨てられて取り乱してしまう

娘のジュディットと息子のマテアスが心配する中、父もやってきて、エリザベートを慰めた

生活のために働かざるを得なくなったエリザベートは、いくつかの職場で面接を受けるものの、自分に合う仕事が見つからない

 

ジュディットも職場を初日でクビになり、マチアスも授業中にサボっていたところを見つかり、教師から嫌味を言われてしまう

そんな中、エリザベートはかつて手紙を出したことのあるラジオ・フランスにで出向いた

 

「何でもやる」という彼女の言葉を受けて、リスナーからかかってきた電話をヴァンダに取り次ぐ受付業務で採用されることになった

ある日、タルラという少女がスタジオゲストとして尋ねてきた

両親についての質問には答えないタルラ

収録が終わると、彼女は路上にいて、カフェが開くまで待つという

そこでエリザベートは期間限定で彼女を自宅に招き入れることに決めた

 

テーマ:寂しさを紛らわせるもの

裏テーマ:孤独と体温

 


■ひとこと感想

 

深夜ラジオという一昔前と言ったら怒られそうなシチュエーションですが、夜だからこそ合う声というものがありますね

代役でエリザベートがパーソナリティを務める夜があるのですが、彼女の言葉選びは、受付をしている時から雰囲気があるものでした

 

映画はフランスの80年代を描いていて、画質も懐古的な色合いになっていました

深夜ラジオといえば受験勉強というイメージがある世代ですが、22時くらいになると選曲とかトークの雰囲気が変わる局が多かったように思います

 

物語は淡々とした人間模様が描かれるのですが、過去をどう捉え向き合うのか、というのがテーマのような気がします

エリザベートは過去をうまく他人にできて、タルラはできなかった

この違いがどこで生まれたのかは何とも言えませんが、心に残る言葉を書き留めておくという習慣がそうさせたように思えてなりません

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、いわゆる雰囲気映画で、昼間のシーンがやけに眩しく思える「夜の物語」だったと思います

時代背景は「EU前夜」と言えばわかりやすい感じでしょうか

フランソワ・ミッテラン大統領の就任から紡がれる物語は、その後のミッテラン・ショックなどを経て、欧州連合の創設へと向かいます

映画は1988年までなので、まだEUは生まれていませんが、過渡期のイメージがありますね

 

映画の主人公はエリザベートで、経済問題と健康問題の両方を抱えていて、自信を喪失している時期になります

彼女が「夜の乗客」と関わることになり、少しずつ変わっていくのですが、その過程が繊細に描かれていたと思います

 

個人的には自分の母親が乳癌で乳房切除をしているし、父は新しい女とどこかに行ったりと「まるで自分の過去を見ているような映画」に思えました

その頃は12歳前後だったので生きることに必死でしたが、母親がどう生きたかということは子どもたちにも影響があるというのは肌感覚でわかります

 

ラストで読み上げられる「ヴァンダの引用」ですが、この日付けにも大きな意味がありますね

この日はエリザベートが夫から別れを告げられた後、眠れない夜を過ごしていた時に聞いた言葉だと思います

この時点では「過去を他者にできなかった」のですが、「夜の乗客」と関わる中で、多くの人々との交流を深めていくことで、それを為すことができたのかなと感じました

 


引用書籍『Les petites terres』について

 

この書籍は2008年に出版されているミシェル・デボルデ(Michele Desbordes)の小説になので、映画の世界では出版されていないものですね

タイトルの意味は「小さな土地」で、著者は大学の図書館のキュレーターをしているフランス人の作家さんです

彼女は「La Demande」という作品で、1999年に「ジャン・ジオノ審査員賞」「RTBFの審査員賞」を獲り、2001年のフライアーノ文学賞を受賞しています

「La Demande」は「レオナルド・ダ・ヴィンチの終焉を描いた作品」ですが、作中では「ダ・ヴィンチの名前は登場しない」のですね

そこに登場する画家は人生を見つめ直すというものになっていて、名言しないまでも雰囲気が感じ取られるという作品になっています

 

残念ながらフランス語版しかないようですね

ちなみに、映画で引用されている『Les Petites Terres』は日本のAmazonでは検索で出てきませんでした

もしかしたら、フランスのアカウント?があれば買えるのかもしれません(参考までにURLを貼っておきます)

↓Amazon Link

https://www.amazon.fr/Petites-Terres-Mich%C3%A8le-Desbordes/dp/2864325241

 

内容は、著者の死から2年後に発表されたもので、自身のエッセイである「Dans le temps quil marcheait」と「Sur le chemistry des glaces」について言及されています

この二つは旅行記になっていて、夫の死であるとか、愛や死、後悔、記憶などが綴られている作品になっています

引用されているのはおそらく下記の部分だと思われます

「Il y aura ce que nous avons été pour les autres. Simplement nous étions là. Il y avait quelque chose de chaud, d’éternel. Et nous n’étions jamais les mêmes, ces inconnus magnifiques, des fragments de nous, ces passagers de la nuit」

グーグル翻訳さんをアレンジすると、「私たちが人のためにしてきたことがあるでしょう。私たちはちょうどそこにいました。暖かい、永遠の何かがありました。そして、私たちは決して同じではありませんでした。これらの壮大な見知らぬ人、私たちの断片、これらは夜の乗客でした」という意味になりますね

ヴァンダの日記の内容とは違い、日記の中では「過去の私たちは他者で、彼らが垣間見るのは私たちの破片や断片。彼らは私たちの夢を見るけど、でもやはり他人同士だ。私たちはいつも、素晴らしい他人だった。彼らが生んだ夜の乗客は部屋の奥の鏡に映る影のよう」みたいな感じだったと思います

色々とググってみましたが、間違ってたら申し訳ないので、参考程度の読み物だと思ってくださいまし

 


引用映画について

 

『北の橋(Le Pont du Nord)』

1981年、ジャック・リヴェット監督の作品

劇中で言及されるパスカル・オジェが、母ビュル・オジェと共演した唯一の作品となっています

刑務所から出たばかりの銀行強盗のマリーが、道ゆくバティスタとすれ違い、それを運命だと感じるという物語です

二人はパリの街で、様々なミステリーに挑み、モチーフはフランスの子供向けのボードゲーム「Jeu de l‘oie」とされています

 

『満月の夜(Les unit de la plainer lune)』

1984年、エリック・ロメール監督の作品

「喜劇と格言劇」シリーズの4作目で、パスカル・オジェが主演しています

この映画の公開2ヶ月後に彼女は急逝しています

デザイナーのルイーズと建築家のレミのカップルが主人公

ルイーズはレミがウザくなって一人暮らしを始め、そこで親友のオクターブが絡んできて、それぞれの心が揺れていくという内容になっています

 

『ジャック・リヴェット、夜警(Jacques Rivette, le veilleur)』

1990年、クレール・ドゥニ監督の作品

ジャック・リヴェットのドキュメンタリーで、彼のアシスタントだったクレール・ドゥニが監督をしている作品です

著作権をクリアしているかわからないものがYouTubeに上がっていますので、各自の判断でコピペしてくださいね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、乳癌、夫との離婚でどん底にいるエリザベートが再起する物語になっていて、そのきっかけとなったのがヴァンダがラジオで引用した言葉になっています

この「夜の乗客」というのはラジオ番組の名前でもあり、番組の趣旨が「自分の過去を話せるようになるお手伝いをする」というものになっていました

リスナーからの電話であるとか、番組にゲスト出演をして話すという構成になっていて、エリザベートは「番組のファンとして手紙を出した」ことが描かれています

その手紙がきっかけでラジオ局の手伝いをすることになり、その縁でタルラと出会うことになりました

 

タルラも同じ番組のファンとして登場し、彼女はゲストとして登場することになります

タルラはヴァンダからの「家族の質問」に対して、「答えないといけませんか?」と言い、ヴァンダは「話したくなったら」という感じで自主性を促していました

ラストのエリザベートの日記にもあるように、「過去を他人として捉えること」が立ち直るためのきっかけになっていて、それは他人に言語化できるというレベルであると言えます

タルラは「話したくない」状況の中にあって、彼女はまだ「過去を夜の乗客にはしたくない」と考えているのでしょう

そんな彼女を見て、エリザベート自身が「自分の過去とは何か」ということを考えていくのが骨子となっていました

 

タルラは子どもたちと仲が良く「映画が好きだ」と言います

それは「忘れられるから」という理由で、辛い現実の逃避行のようなものでしたね

彼女自身好きな女優さんがいて、パスカル・オジェが亡くなったことを悲しんでいました

彼女が亡くなったのが1986年で、映画はちょうどその時代を描いています

 

冒頭でミッテラン大統領が誕生したのが1981年で、物語はその3年後の1984年を描いたのが前半になります

そして、後半では1988年になって、図書館と兼務している時期が描かれ、そこでパスカル・オジェが亡くなったことについての言及がありました

 

この後、タルラとマチアスがパスカル・オジェが出演している『北の橋』を鑑賞するのですが、この作品はパスカル・オジェとその母ビュル・オジェが共演した唯一の作品なのですね

タルラがこの作品を選んだのは、彼女の母との関係に何かがあって、それはまだ「夜の乗客」になっていないことを意味しています

そして、タルラはその思い出を過去にすることなく、マチアスの元を去ることになりました

おそらく彼女は何らかのことで母を亡くしていて、その思い出をエリザベートで上書きしてしまうことを恐れたのだと思います

 

ラストでは、新しい恋人ユーゴとの新しい生活を始めたエリザベートが、ジュディットに安産のお守りを渡し、マチアスに日記を渡すことになりました

エリザベートにとって、元夫との生活は完全に過去になって他人になったのですね

なので、その思い出を自分から切り離すことができたのだと思います

そして、それをマチアスに渡したのは、同じ道を選ばなかったタルラに対して、彼が未練を残していることを知っているからなのですね

 

この日記によって、マチアスには二つの選択肢ができました

一つは「タルラとの過去を夜の乗客にすること」で、もう一つは「タルラの過去を夜の乗客にする手伝いをすること」なのですね

最終的にマチアスがどの道を選ぶのかは描かれませんが、彼の性格だと後者を選びそうな気がします

 

マチアスは「上書き保存」はできない男の子だと思うので、母の変化を知った彼が、タルラを導く役割を担うのかもしれません

タルラにとって、エリザベートは母を重ねるものですが、マチアスはそうではありません

なので、もしかしたらタルラを救うことができるのかもしれないのですね

本作はエリザベートの物語なので余談は不要ですが、彼が作品を作ることよりも日記を読むことを選んだのは、そういう意味があるのかな、と感じました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385615/review/826073d9-bb1e-40b3-91a2-1d6a04827058/

 

公式HP:

https://bitters.co.jp/am4paris/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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