■愛されている人が素直になれないのは、与えられることへの抵抗があるから、なのかもしれません


■オススメ度

 

ボーイズラブ系が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.4.26(京都みなみ会館)


■映画情報

 

原題:金錢男孩(男娼)、英題:Moneyboys

情報:2021年、中国、120分、R15+

ジャンル:男娼として生活する青年がある事件をきっかけに恋人と疎遠になる様子を描いたラブロマンス映画

 

監督&脚本C.B. Yi

 

キャスト:

クー・チェンドン/柯震東(リャン・フェイ/梁飛:体を売って田舎に仕送りをする青年)

バイ・ウーファン/白宇帆(リャン・ロン/梁龍:上京してくるフェイの同郷の友人)

 

JC・リン/林哲熹(ハン・シャオレイ/韓曉來:大怪我をするフェイの元恋人)

クロエ・マーヤン/曾美慧孜(リー・ユー/李玉:シャオライの妻)

チョウ・クァンケ/仇千可(ガーハオ/高虎:シャオライの息子)

ソン・ジュンシ/孫君實(アーガン/阿剛:シャオライの娘)

 

ジャッキー・リウ/劉昌翰(フェイのおとなしいスパの客)

フランキー・ホアン/黃鐙輝(チョウ:フェイの客、先生)

ヤン・ギノ/(バオ:フェイの危ない客)

ジャン・ジァシャン/江家賢(高齢のフェイの客)

 

フー・レイ/傅雷(リャン・グイシャン/梁桂祥:リャン・フェイの父)

リン・イーシオン/林義雄(リャン・フェイの祖父)

クロエ・マーヤン/曾美慧孜(リャン・ホン/梁虹:フェイの姉)

ユ・ジョイ/乐诚(リー・カン/李康:リャン・ホンの夫)

シェン・シャオホイ/陳小卉(ドゥドゥ/豆豆:リャン・ホンとリー・カンの息子)

 

ツァイ・ミンショウ/蔡明修(リウ:リャン・フェイの叔父、顔に痣がある男性)

ダニエル・チェン/(グオ・ヨン/郭勇:フェイの叔父の息子)

シュ・ペイロン/朱珮蓉(アーカイ/阿彩:フェイの叔父の息子の妻)

ウェイ・ウェジン/魏文俊(アージエ:アーツェイの娘)

 

マウンテン・コウ/高山峰(リャン:フェイの三番目の叔父)

 

クロエ・マーヤン/曾美慧孜(ルー・ルー/露露:ウェイの友人、シャンドンと偽装結婚する女)

ザック・ルー/盧彥澤(シャン・ドン/項東:フェイとウェンの友人、ルー・ルーと偽装結婚する男)

 

スン・チーホン/孙启恒(チェン・ウェイ/陳偉:フェイの新しい恋人)

ネルソン・シェン/沈威年(チャン・フェン/張楓:ウェイの友人、同僚)

ダフネ・ロー/劉倩妏(アリアン/阿蓮:ルー・ルーの友人)

 

リン・ミンセン/林明森(警察隊長)

リ・インホン/李英宏(囮捜査の客)

 

ファン・ユーティン/方(路上のダンサー)

 


■映画の舞台

 

中国のどこか

 

ロケ地:

台湾:台北

https://goo.gl/maps/nfuPEJZQyfp5A42NA

 

基陵:中山陸橋

https://goo.gl/maps/9vv3ipwbTxZS9h556

 


■簡単なあらすじ

 

中国のどこか、都会部に出稼ぎに来ているリャン・フェイは、体を売って田舎の姉に仕送りをしていた

彼にはハン・シャオライと言う恋人がいたが、客を優先し、彼とのセックスは受け身で終わらせることが多かった

 

ある日、バオと言う客を取ったフェイだったが、シャオライは「彼はヤバすぎる」と言って、接客をやめるように忠告する

だが、文無しのフェイは相手を選ぶことができず、そのまま客と寝ることになった

 

翌朝フェイが帰宅すると、顔中にあざを作っていた

シャオライは激昂し、バオを見つけ出して報復をする

だが、彼の仲間が合流して反撃され、シャオライは足を骨折してしまう

その事件を受けて、彼の家に警察がやってきたが、フェイは逃げるように姿を消した

 

それから5年後、フェイは別の街で男娼として働き、新しい恋人チェン・ウェイと暮らしていた

ウェイも同じく男娼をしていて、あるグループに入っていた

その中にひとりシャンドンが女性と結婚することになる

それは偽装結婚だったが、周囲の目を気にして、せざるを得ないもののはずだった

だが、2人の間に子どもができ、彼らは「普通の幸せを得る」と言って、故郷に帰ってしまった

 

その後、警察の囮捜査にて逮捕されたフェイは、やむを得ず故郷に帰ることになる

望まぬ帰省だったが、家族は普通に接してくれている

だが、叔父たちはフェイが身を固めないことに憤慨し、変態であると突きつける

そんな中、再び都会に出たフェイだったが、同郷の友人ロンが彼についてきてしまったのである

 

テーマ:逃避の代償

裏テーマ:戻れない過去

 


■ひとこと感想

 

レビューサイトの評価が高めだったこともあって、普段はあまり行かないミニシアターに突撃

大雨もあって客足はまばらでしたが、観て損のない内容だったと思います

 

映画は中国が舞台ですが、撮影は台湾の台北になっていますね

フェイたちが住む街では常に中国の内陸部の天気予報が流れていたので、設定上はそのようになっています

 

映画は、恋人が怪我したのに逃げてしまったことで、それによって愛の歯車が狂っていく様子が描かれていきます

再会するまで忘れていた想いも、シャオライの声を聞いた瞬間に「あの頃」に戻ってしまうのですね

でも、シャオライには新しい家族ができていて、その胸中は複雑なものになっていたと思います

 

ちなみにキャストを調べていた際に気づいたのですが、フェイの姉と偽装結婚するルー・ルーと、シャオライの妻が同じ女優さんが演じていましたね

全く雰囲気が違うので驚きましたが、ひとり三役にどんな意味があるのかを後半で考察したいと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

どこまでがネタバレが微妙な内容になっていますが、フェイとシャオライの再会の間には随分といろんな物語が凝縮されています

プロローグは「シャオライが怪我をして、フェイが逃げるまで」で、その5年後には「新しい恋人チェン・ウェイ」がいましたね

彼らは男娼グループに所属していて、その中の偽装結婚の件が必要だったのかは微妙に思えました

 

その後、どうやって故郷に帰ることになるのかなと思っていましたが、これまた無理矢理な囮捜査が原因になっていました

ヤった後に偉そうにしているのはコミカルでしたが、何も見つからずに引き上げていったところはシュールでしたね

 

故郷には「兄貴!」と慕う弟のようなロンがいましたが、この帰省によって、彼の執着が実を結ぶことになります

でも、ロンが知らないフェイの過去があって、それを消し去ることができませんでした

ラストシーンにて、フェイの脳裏に浮かぶのがロンとの日々と言うところに、恋愛の難しさが凝縮していたように思います

 


ひとり三役の理由

 

本作では、クロエ・マーヤンさんが一人で三役を演じていて、「フェイの姉」「シャンドンの妻」「シャオレイの妻」と言うことになっていました

よく見たらわかるレベルで、「姉の時はノーメイクでボサボサの髪」だし、「シャンドンの妻の時はガッツリメイクで素顔分からない」し、「シャオレイの妻は妖艶でエロさ全開」になっていました

それぞれのキャラに相関関係はなく、同一人物ということもありません

本来なら別の女優さんが演じると思うのですが、その理由がわからないのですね

 

色々とググってみても、パンフもないし、中国映画で記事の検閲も制限あるしなので、ぶっちゃけ「公式見解はわからん」としか言いようがありません

でも、何らかの意図があると思うので、自分なりに考えたものをまとめてみようかと思います

まず、映画の立ち位置としては「フェイと直接、間接の関わりがある」のですが、共通点は「子どもを有している」ということでした

姉は2人の子どもがいて、シャンドンの妻となるルー・ルーは偽装結婚なのに子どもを身籠もっていました

ルー・ルーが同性愛なのか、シャンドンが同性愛なのか、それともどっちもがそうなのかはわかりませんが、結婚披露宴でチェン・ウェイの悪ノリに怒るのがルー・ルーだったので、彼女の方が不本意な結婚をさせられている感が強かったように思います

でも、やることはやっていたので、想像するには「シャンドンの偽装結婚に付き合うことになったけど」という感じで、彼女自身はノンケなのかなと思いました

 

シャオレイの妻リー・ユーには4人の子どもがいて、それがシャオレイとの間の子どもなのかまではわかりません

時系列的には事件から5年間は疎遠ということなので、上の子ども二人は連れ子という可能性はあります

そのあたりに大きな意味はなく、同性愛者だったはずのシャオレイが普通に結婚して子どもを育てているという事実がフェイの心をそば立たせることになっていました

 

同性愛者だったシャンドンとシャオレイが自分とは違う道に進んでいるという事実がある

この二人のそれぞれの相手をクロエ・マーヤンさんが演じていて、しかも姉も同じ女優さんということは、「フェイの生き方に否定的な思惑がある」ということになるのだと思います

このフェイを否定する要素は「逃亡」という行為なのか、同性愛という特質なのかはぼやかされていますが、わざわざ仲間がそうなるというところは、性癖を否定しているのだと考えられます

 

中国におけるLGBTQ+に対する権利は未発達な部分が多いですね

中国の同性間の歴史として、「1997年に性交渉が非犯罪化」「トランスジェンダーの法的な性別変更は可能」というものはありますが、1978年までは「精神疾患リスト」に組み入れられていました

現在では「非犯罪化」になっていますが、性的指向の差別を禁止する法律というものはありません

2010年の段階では「同性愛映画」の公式上映は容認されておらず、同性愛の買春は逮捕案件になっていました(現在はどうか不明)

フェイが捕まる理由は「売春をしていたから」であり、相手が同性というところは問題視されていませんでした

 

シャオレイもシャンドンも同性愛者ではあるものの、偽装かどうかを問わずに結婚をしていますが、それよりも「売春から足を洗っている」というところが大きいのだと思います

フェイの同性愛は家族にバレていますが、売春で得た金を入れていることはバレていないようなので、その犯罪行為に対する警告的な意味合いがあるのかなと感じました

シャオレイとの別れから、ウェイとの関係、シャオレイとの再会に至るまでの間、フェイはずっと売春で金銭を得ているので、その都度「姉とそっくりな人と会う」というのは、後ろめたさを感じさせるための意味合いがあるのかな、と思えてきます

正解はわかりませんが、最初に登場するのが「姉」というところに大きな意味があるのではないでしょうか

 


最後に彼を思い出したのはなぜか

 

映画のラストシーンにて、フェンは「叩かれるドア」を無視して、「ロンとクラブで踊った時のこと」を思い出していました

あのドアの叩き方だと、おそらくはシャオレイだと思うのですが、その直前のシーンは「ポスタービジュアルになっている歩道橋の上のシーン」なのですね

あのシーンでは、フェンの後を追うシャオレイが描かれていて、すごく接近するところでシーンが終わってしまいます

シャオレイの心の中にまだフェンがいるのかはわかりませんが、あのシーンの直後に「ロンを思い出す」というのは、完全にシャオレイとの関係が終わったことを指すのだと思います

 

誰が来たかは描かれていないので置いておくとして、ロンを思い出しているというのは「後悔がある」ということの表れであると言えます

シャオレイへの未練がロンとの関係を崩壊させ、その未練が消えた時にロンを思い出す

随分と身勝手に思えるのですが、元々フェンという人物は身勝手で、家族には体裁を整えてはぐらかす人物でもありました

なので、自分に都合の良いことばかり考えて、自分本位の価値観で動くあまり、シャオレイをキレさせたりもしています

 

あの回想シーンではタイの「プム・ヴィプリット」というバンドの「Hello, Anxiety」という曲が流れるのですが、「Hello, Anxiety」は「不安よ、こんにちは(字幕は違うけど)」という意味があります

内容は「孤独な魂を手放す術を学ぼうとしている主人公」がいて、「幸せになるためにどうしたらいいか」ということを考えていきます

そして、最終的には「私たちは大丈夫だ」と結び、それが「太陽が輝いているから大丈夫だ」と慰めているのですね

 

あの瞬間にこの歌を思い出すというのは、フェイにとっての「輝いている太陽は何か?」ということになり、それがロンだったということになるのだと思います

でも、あのシーンのダンスするフェイも「独りよがりに踊っている」ので、構図としては「楽しそうにしているフェイと一緒にいるだけでロンは幸せである」という感じになっています

本作は、孤独と幸福論に言及しているのですが、幸福というものは「掴みに行くものではなく、幸せそうにしている人のそばに行って、溢れ出るものを受け取ること」というふうに定義しているように思えます

なので、孤独を癒すということも、太陽の光を浴びるように、幸せを享受している人と共にいることで癒されるということにつながっているのではないか、と感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、身勝手な行動の結果、幸せを手放していくフェイが描かれますが、ラストシーンのドアノックを考えると「それでも幸福は訪れる」と解釈できるかもしれません

あの場面でノックをする相手は二人しかいなくて、それがシャオレイだとしたら、女性と結婚したけれど性的な欲求は満たされないから「買う」ということになるかもしれません

でも、シャオレイだとしたら、フェイの心はロンとの別れで満たされていて、それによってどちらの心も砕かれてしまうので「開けない方が良い扉」ということになります

 

もし、ワンチャンあってロンだとしたら、フェイにとっては都合の良い展開になるのですが、ロンは自分が傷ついてもフェイが幸せなら構わないと考えているところがあるので、傷の舐め合いをしながら、共依存の関係に堕ちていくのだと想像できます

この場合は、どっぷりと沼にハマっていくだけで、未来はないし、家族から爪弾きにされている状況は改善しないでしょう

でも、二人が良ければOKの世界に入っていくので、周りがとやかくいうことではないかもしれません

 

ドアの向こう側をあえて見せなかったり、歩道橋のシーンで寸止めに入っている演出を考えると、おそらくはシャオレイが「歩道橋の続きをしに来た」ということになると思います

シャオレイがフェイを好きでいることをリー・ユーは受け入れていて、それはルー・ルーと似たような感覚があるのかもしれません

いわゆる「子どもが欲しいけど夫はいらない」というもので、養育の妨げにさえならなければ、入れるお金の種類は問わないというドライなものかもしれません

フェイとシャオレイの別離期間が5年ほどで、シャオレイは勾留されていた期間がある

なので、連れ子のいるリー・ユーがうまいことシャオレイを取り込んだという感じに見えてきますね

 

中国では、2016年に「一人っ子政策」を廃止していて、1970年代から行われてきた「人工抑制策」というものは無くなっています

2022年のニュースで中国の人口が61年ぶりに前年割れをしたというニュースがありました

人口世界一もインドに抜かれ、一人っ子政策撤廃の効果はわずか1年で消えて、翌年から出生数は減少に転じています

2023年には「中国における団塊世代」が一気に大量退職の時期になると言われていて、高齢化と共に労働人口の減少が一気に起こる可能性があるのですね

 

その後、映画公開にあたる2021年位は「第3子容認」の方向に向かいましたが、それでも出生数は減少を続けています

この映画も中国の検閲が入っていると思われますが、映画の内容が「同性愛者は幸せにはなれない」と結んでいるのでOKが出たという印象がありますね(実際にはどうかわかりませんが)

映画も中国国内で撮影する予定がうまくいかず、やむを得ずに台湾で撮影することになっています

ビジュアルは台北なのに、そこで流れる天気予報は「深圳の天気予報」だったりするので、舞台設定は中国の内陸部ということでOKなのでしょう

そういった調べようのない背景も結構内包されている作品なのですが、映画は背景を抜きにしても質は高いものがあると思います

公開規模が狭く、パンフもなければフライヤーもなくて残念ですが、鑑賞可能地域にいるのなら突撃しても良いと思います

ちょっと過激なシーンが多いのが難点ですが、『エゴイスト』がOKな人なら大丈夫ではないかと思います

わずか10年前は公開すらダメだった映画が公開されるようになっているので、世界のいろんなところでLGBTQ+に対する考え方が変わってきているように思えますね

日本では相変わらずバカな発言をして職を失う御仁がいますが、そういったことがニュースになっているようでは、「一向に理解が進まない国」と言われてもやむを得ないと言わざるを得ません

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/387048/review/08c25e85-772f-4e83-acaa-38fb31f06a55/

 

公式HP:

https://hark3.com/archives/1872

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投稿者 Hiroshi_Takata

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