■受け継がれる血脈に潜む、狂気という名の正義の鉄槌
Contents
■オススメ度
ハードボイルド系クライムミステリーが好きな人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.11.1(T・JOY京都)
■映画情報
原題:경관의 피、英題:The Policeman‘s Lineage(警官の血)
情報:2022年、韓国、119分、PG12
ジャンル:ある刑事の死をきっかけにエース捜査員の内偵を任される若手刑事を描いたクライムミステリー
監督:イ・ギュマン
脚本:イ・ペンヨク
原作:佐々木譲『警官の血(2006年、新潮社)』
キャスト:
チョ・ジヌン/조진웅(パク・ガンユン:警視庁捜査一課長、広域捜査隊のエース)
チェ・ウシク/최우식(チェ・ミンジェ:ガンユンを内偵する若手の刑事)
(幼少期:박상훈/パク・サンホン)
パク・ヒスン/박희순(ファン・イノ:監察室の室長、ミンジェの上司)
イ・ミニョン/이민영(イ・ミョンジュ:殺されるガンユンの同僚刑事)
パク・ギドク/박기덕(イ・マンソク:イ・ミンジュ殺害の容疑者)
イ・ウォンソ/이왕수(キム・ジョンギュンの部下)
イ・オル/이얼(ソ・ジュンホ:上の人、上級警察幹部)
イ・ソンウ/이성우(ハン:麻薬取締局のチーム長)
ユン・ジニョン/윤진영(チャン部長、ガンユンの上司)
キム・グリム/김그림(ユン警部補、女性鑑識員)
ソン・インヨン/손인용(ムン刑事、広域捜査課パクチーム)
ヨン・ジェウク/연제욱(アン刑事、広域捜査課パクチーム)
チャヨプ/차엽(ギ刑事、広域捜査課パクチーム)
イ・ドグン /이도군(ホ刑事、広域捜査課パクチーム)
パク・ミョンフン/박명훈(チャ・ドンチョル:ガンユンと内通していると噂される暴力団の組長)
クォン・ユル/권율(ナ・ヨンビン:ガンユンが追う前科三犯の麻薬王)
ホン・ギジュン/홍기준(ヨン会長:ガンユンに協力する金貸し)
チョン・ソンモ/정성모(キム会長、テホグループの総帥)
イ・ヒョヌクイ/이현욱(キム会長の出来の悪い息子)
ペク・ヒョンジュン/백현진(クォン・ギアン:ガンユンの情報屋、高利貸し)
ウォン・ヒョンジュン/원현준(チョン・ヨンベ:ガンユンの情報屋、ホームレス)
キム・ハンナ/김한나(チョン・ヨンベの娘)
パク・ジョンボム/박정범(チェ・ドンス:ミンジェの父、殉職した警察官、ガンユンの先輩刑事)
チャン・ソギョン/서영화(若年期のミンジェの母)
チャン・ソギョン/장서경(病院に届け物をするミンジェの妹)
イム・チョルヒョン/임철형(ソン・ウボム:ソウル政府、光州大学の教授)
■映画の舞台
韓国:ソウル
ロケ地:
韓国:蔚山市
■簡単なあらすじ
広域捜査隊のエース、パク・ガンユンは暴力団との噂が絶えないが、実績だけは残す敏腕刑事だった
ある日、彼の同僚イ・ミョンジェが何者かに殺されてしまう
その事件を受けて、監察室のファン・イノ係長は、チェ・ミンジェと言う若手の景観を広域捜査隊の補填に推薦し、パク・ガンユンの内偵をさせることに決めた
ミンジェは父も祖父も警察官と言う血筋で、ファン・イノは「警察の血こそが必要だ」と彼を送り出した
ガンユンはミンジェを同行させ、あらゆる違法捜査を見せつけていく
ミンジェはその手法を疑問視しながらも、「より大きな悪を捕まえるためには必要だ」と言うガンユンの行動に圧倒されていく
ガンユンは麻薬王のナ・ヨンビンを追っていたが、彼の人脈と資金に圧倒され、何度逮捕しても簡単に保釈されてしまう
また、ガンユンは暴力団のチャ・ドンチョルと関係があると噂され、また無尽蔵に使う操作費用も問題視されていた
だが、いくらガンユンを調べても、一向にドンチョルと接触する気配すらなかったのである
テーマ:警官の資質
裏テーマ:大義と方法論
■ひとこと感想
日本の小説の映画化ということですが、原作もドラマも知らない状態で参戦
おそらく登場人物の多さにヤバいことになるんだろうなあと思っていたら、案の定何も知らずに突入したら途中で訳がわからなくなりそうなほどに複雑な人物相関になっていました
パンフレットでざっくりとした人物相関図があるので、混乱した人の頭の整理の手助けになると思います
一度見ただけでは意味がわからない、というふれこみだったのですが、どの部分がわからなかったのかがよくわかりませんでした
それほど難しい話でもなく、ガンユンの手法をミンジェが真似するくだりが分かりにくかったのかもしれません
映画は正義のために違法行為をするエース刑事と、その手法に巻き込まれる内偵捜査官という構図で、ミンジェの父の真相が「選ばれた理由」「ガンユンの背景」「延南(ヨンナム)会」へと続いて行きます
捜査と資金のせめぎ合いのなかで生まれたものが現在進行形でも生きていたというもので、それが正しいのかを問うという流れになっていましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
広域捜査隊(FBIみたいな組織?)が「延南会」の資金援助を受けて捜査網を拡大し、さらに暴力団への内部情報と引き換えに資金を得ていた様子が描かれます
ドンチョルがガンユンに言う「兄貴」がそのままの意味なのかは分かりませんが、古くからの関係があったと言うことなんだと思います
ガンユンに資金提供をしていたテホ・グループのキム会長の息子がやらかしていて、彼がイ・ミョンジュの殺害を計画していました
資金源の確保のために彼を高飛びさせて、偽の犯人をクラブで逮捕していました
ラストではガンユンが切られてしまい、その偽装工作が明るみになっています
そのガンユンを助けたのがミンジェで、彼は父の監察室ファイルから、その犯人の偽装工作をしていた延南会への脅しを取引材料にしていました
父の死は「延南会」の組織暴走を抑え込むためのもので、その死は偽装されたもの(殺人だったが麻薬中毒死か何か)になっていたのでしょう
ミンジェはそれを知って、真犯人であるホームレスの元を訪ねて裏を取り、その情報をもとに取引をした、と言う解釈で良いのだと思います
本作はミンジェが父が作り出した「延南会」のマインドを引き継ぐと言うもので、資金源である警察上層部と癒着のある企業、暴力団などを背景にして、それぞれの利益を天秤にかけながら、更なる巨悪を討つと言うエンドを迎えています
■受け継いだものは何か
広域捜査隊は捜査資金の捻出に頭を抱えていて、そこで「延南会」を発足させます
この会の設立に関わったのがミンジェの父チェ・ドンスで、その資金は警察上層部から捻出するのですが、その上層部に民間から多額の寄付というものが寄せられます
寄付が直接捜査隊にわたると問題が起こるので、一旦は警察の「秘密会計」をくぐるという形で迂回融資みたいなことを起こしていました
警察上層部は寄付先に便宜を図り、劇中では出資者テホグループの会長の息子キム・ジョンギュンの殺人の関与に関して隠蔽工作を図ります
ジョンギュンの手下(耳に傷のある男)が行ったイ・ミョンジュの犯行をイ・マンソク(クラブで逮捕した男)がやったことにして、それによってジョンギュンの関わりを断ちます
でも、ジョンギュンの手下にミョンジョを襲わせることもガンユンの目論見であったことが暴露されていました
ガンユンはテホグループからのさらなる支援を引き出すためにジョンギュンを嵌め込んで手下に殺させ、その罪を隠蔽するという形で恩義を売ったのだと考えられます
このあたりは原作未読で一回しか観ていないのでぼんやりとしていますが、広域捜査隊の活動資金を作るためにガンユンもしくは上層部が計画したものかなと考えられました
いわゆる「上の人」はこの一連の偽装工作を知っていたので、指示していたか、報告が入っていたか、あるいはチョン部長に内偵させていたかのいずれかの手段でガンユンの動きを知っていたことになります
こうして、ガンユンの暴走が行き過ぎたと判断した時に「切る」という判断を下します
これら一連の警察の飽くなき執着というものは、いち捜査員が義憤に駆られてもできないものです
ミンジェはガンユンのこういった捜査を学び取り、そして、ガンユンの上にある組織の存在に気づきます
そして、自分の父の死に関する隠蔽工作に気づき、「上の人」との交渉テーブルにつくことになりました
ミンジェが一連のガンユンとの行動で身につけたものは、「組織の論理」であり、特に警察組織が恐るものというものに敏感になれたということになると思います
父もガンユンもそれを感じながらも、上級の首根っこを抑えられずに利用される側でしたが、ミンジェはその関係性をより対等に近いものに変えていったと言えます
■コーヒーと粉末で麻薬になる?
劇中で「コーヒー豆の焙煎機械」に扮した麻薬の精製機みたいなものが登場し、ある特定の物質がコーヒーの成分と作用することによって麻薬の方な効能が得られるということになっていました
実際にできるのかはわからないのですが、理屈的には「カフェイン成分」が「粉と結合して副反応を起こす」という感じなので、可能なのかなと思います
カフェインは「プリン骨格にメチル基がついたキサンチン誘導体」で、中枢神経系への興奮作用が強いとされています
眠気防止、疲労感軽減、鎮痛作用などを目的として、100mlのコーヒーに60mg、350mlコーヒー缶で35mgぐらいが入っています
カフェインの「薬理作用」としては、興奮、強心、利尿、気管支拡張などがあり、摂取上限は健康な大人で1日に400mg程度とされています
コーヒーだと6杯まではセーフといったところでしょうか
これ以上の摂取になると、カフェイン中毒を引き起こすことになります
ちなみに飲酒時にカフェインを摂取すると危険で、急性アルコール中毒を誘発させる可能性が高いとされています
カフェインのCNS興奮作用がアルコールのCNS抑制作用とバッティングして、「酔っている感覚が麻痺する」ことによって、アルコールの過剰摂取を引き起こします
酔っていないと錯覚して飲み続け、いきなり昏睡を伴う急性アルコール中毒を引き起こしてしまうのですね
アメリカではカフェイン入りのアルコール飲料は販売禁止になっていたりもします
日本では「ウーロンハイ」「コークハイ」なんてものが普通にそのへんで飲めてしまうので注意が必要ですね
これらの作用を考えると「粉=アルコール+薬物」みたいなことになって、それを焙煎したコーヒーに混ぜると「とっても危険なもの」になりますね
薬物の種類はいろいろありますが、基本的にアルコールと一緒に飲んではダメなものが多いと言えます
微量の薬物をアルコール成分で増幅させて、カフェインと同時摂取によって「過剰摂取」を引き起こす
この中毒状態を作り出すことができれば可能なのかなと思います
ガンユンが出来上がったものを一口飲んで逮捕に向かったのは、アルコール成分を感知したからなのかなと勝手に考えています
あ、ググって真似したらダメですよ〜
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は多くの人物が登場し、事前の知識があった方が楽しめる作品になっています
この手の登場人物多すぎ映画を観ながら整理するのは至難の技なのですが、実はコツがあったりします
この映画で判別がビジュアル的に難しいのは貸金業者のクォン・ギアンとヨンビンの元に紛れ込むヨン会長と、麻薬王ヨンビンと会長の息子ジョンギュンだったと思います
この二組はわざとじゃないのかと思うくらいに似ていて、髪型も微妙に寄せていたりします
このような場合にビジュアルで判別しようとするととても難しくて、そこで中心人物がどのように動こうとしているかという行動理念から埋めていく方が早いと思います
映画の主人公はガンユンとミンジェで、この二人の関係は「内偵する者とされる者」という関係になります
この内偵によってガンユンというキャラを紹介するというのが前半の役目であり、ガンユンというキャラクターの何を観客に紹介するのかというところを追っていきます
ミンジェが調べているのは「ガンユンの違法捜査」なので、ガンユンの行動の違法性のグレードを徐々に上げていくというスタイルになります
劇中で行われる違法捜査は「麻薬使用を見逃して情報を得る(クォン・ギアン)」ところから「暴力団から資金を借りて、囮捜査をする(ヨン会長)」までグレードアップします
ガンユンは目的にために非合法な情報を得て、その一方で「非合法な資金調達」を行っていきます
ミンジェの映画的な役割(前半)は「ガンユンの素性開示」であり、前半で行われていることは「ガンユンの交友関係の深さ」ということになります
これらの背景をミンジェが調べた後に起こるのは、ミンジェの使命には裏があったというもので、ガンユンに執着するファン・イノが「ミンジェの構築した信頼関係を破壊する」という中間ポイントが出現します
この時点で、今度は「ミンジェとは何者か」というふうに映画はシフトしていき、同時にそれを描くために「ガンユンはスクリーンから退場する」という流れになります
これまでのミンジェが「ガンユンを監視するという一点凝視」から、自分に起こっていることを把握するために「周囲をくまなく見ていく」という流れになって、これまで「ガンユンと誰か」という線的な人間関係だったものが「誰かと誰かの関わり」をつなげていくことになります
こうして、劇中に登場する人物のガンユンを中心とした「蜘蛛の巣の横糸」というものが完成し、そして「ミンジェが蜘蛛の巣のどこにいるのか」を認知するという流れになっていきます
この映画が秀逸なのは、キーポイントで視線と見せるものをうまく切り替えているところで、下手なシナリオだと「視点交錯」が起こっていて、本当に人物関係がわからないなってしまいます
前半でガンユンと線になった人物を、今度はミンジェの目線でその人物の横のつながりを見せていく
そうすることによって全体像というものが後半になってわかる仕掛けになっていて、全体像がわかった瞬間はミンジェの覚醒の場面ということになります
これまでガンユン視点で見てきたものをミンジェ視点に切り替えて俯瞰させ、観客が先に気づく父の死の因果というものをミンジェが把握する
そこからは「ミンジェと誰か」の視点に集約され、その真骨頂が「上の人」との対峙という流れになっていました
映画の前半で「主人公の日常を描く」というのは基本のスタイルになっていて、そこで描かれるのは「プライベート(一人のときに何をしているか)」「職場(組織内の立ち位置、敵味方の存在)」「異性と金」「家庭環境」について描かれるのが基本と言えます
良質な映画はこれらの背景を開始20分で提示し、ほとんどのキャラクターがそこに出ているという状況を作ります
そう言った意味でも、この映画はとても観やすいのですが、やはり映画なのでビジュアルが寄りすぎると混乱するのはデフォのような感じになっていますね
私も注意深く観ていましたが、ヨン会長とクォンのキャラが被りすぎて混乱しましたし、ヨンビンと被る会長の息子がいつ出てきたかわからん感じになっていました
パンフレットの人物相関図を見てようやく把握できる部分もありましたが、それも「こいつ誰?」みたいなのはしょっちゅう遭遇します
ちなみにハングルだと大変ですが、映画のエンドロールに「In Order to( appearance)」と書かれてCASTが紹介される映画がありますが、これは「映画に登場した順番に表記」なのですね
また、日本のエンドロールの順番も見にくいですが定型化されていて、「主演」「準主演」「脇役(ほぼ出演順)」「エキストラ(セリフあり)」「エキストラ(セリフなし)」「大御所」みたいな順番になっています
脇役が誰だったかというのを考えるときにこの順番が結構役立つので覚えておいても良いのではないでしょうか
ちなみにIMDBや韓国映画なら「Hanchinema」のサイトのフルキャスト順を見ていけば、良いおさらいになるのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/383963/review/c9a5c041-9ce8-4849-b8a0-61444b0432a7/
公式HP:
https://klockworx-asia.com/policeman/