■ひょっとしたら、静かに始まって、静かに終わっていく映画なのかもしれません
Contents
■オススメ度
戦艦映画が好きな人(★★★)
原作のファンの人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.9.28(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、113分、G
ジャンル:原潜を手に入れた艦長が独立軍事国家を主張する様子を描いた戦争映画
監督:吉野耕平
脚本:高井光
原作:かわぐちかいじ『沈黙の艦隊(講談社)』
キャスト:
大沢たかお(海江田四郎;原子力潜水艦「シーバット」艦長、二等海佐、元「ゆうなみ」の艦長)
【米海軍 第7艦隊「シーバット」乗組員】
中村蒼(山中栄治:副長)
松岡広大(入江覚士:IC員)
前原滉(溝口拓男:ソナーマン)
【海上自衛隊 潜水艦「たつなみ」】
玉木宏(深町洋:艦長、二等海佐、元「ゆうなみ」副長)
水川あさみ(速水貴子:副長)
ユースケ・サンタマリア(南波栄一:ソナーマン)
市橋侃(小林結樹:IC員)
中沢元紀(平沼晃輝:操舵員)
中山翔真(橋谷:魚雷員)
【日本政府】
橋爪功(海原大悟:内閣官房参与、影の総理)
夏川結衣(曽根崎 仁美:防衛大臣)
江口洋介(海原 渉:内閣官房長官)
岡本多緒(舟尾亮子:海原の秘書)
手塚とおる(赤垣浩次:統合幕僚長)
酒向芳(影山誠司:外務大臣)
笹野高史(竹上 登志雄:内閣総理大臣)
【アメリカ合衆国】
アレクス・ポーノヴィッチ/AleksPaunavic(ローガン・スタイガー:太平洋艦隊の司令官)
リック・アムスバリー/Rick Ansbury(ニコラス・ベネット:大統領)
ジェフリー・ロウ/Jeffrey Rowe(デビット・ライアン:「シーバット」に乗り込む大佐)
【その他】
上戸彩(市谷裕美:JBN報道9のキャスター)
渡辺邦斗(鈴木大喜:TVのディレクター)
中村倫也(入江蒼士:海上自衛隊「ゆうなみ」潜水隊員、覚士の兄)
■映画の舞台
日本近海&フィリピン海
ロケ地:
広島県:呉市
てつのくじら館
https://maps.app.goo.gl/uiHo7UT9SbZoMQs28?g_st=ic
埼玉県:比企郡
遠山記念館
https://maps.app.goo.gl/vtS6gUgme8XgSFNAA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
海上自衛隊の二等海佐である海江田四郎は、潜水艦「ゆうなみ」にて機関室の破損が原因にて乗組員を1名死なせてしまっていた
その後、別のミッションで海に出ていた海江田は、事故により艦と共に海の底に沈んでしまう
「たつなみ」の艦長・深町は海江田の近くにいて、圧壊の音を聞いていたが、その状況に違和感を感じ、ソナーマン・南波に解析をさせると、艦は圧壊したどころか浮上していたことがわかる
海江田とその乗務員たちは、極秘任務にて、アメリカ海軍・第7艦隊所属の「シーバット」という原潜の運行に関わっていて、死を偽装することになっていた
日米政府の密約により、核搭載可能の原子力潜水艦の運行を考えていて、その艦長に海江田が選ばれていた
計画通りに潜航する「シーバット」だったが、突如動きを変え、同行してきた潜水艦に音響魚雷を放つという行動に出る
同乗していた海軍大佐デビッド・ライアンは警告を発するものの、海江田は行動を変えず、第7艦隊をフィリピン海上に集結させることになった
そこで彼は、各政府にチャンネルを開き、ある宣言を行うことになったのである
テーマ:平和への道程
裏テーマ:武力と思想信条
■ひとこと感想
かなり昔に流行った漫画の実写化で、リアルの読者は中年域に入っていると思います
私もその1人で、20年以上前にとんでもない漫画が生まれたなあと思っていました
原作は32巻もある長編で、どこまで映像化するのかなと思っていましたが、思った以上に手前で終わっていましたね
映画の流れはスローで、このペースだと「宣言」が限度かなと思っていたら、やはりそこで終わってしまいましたね
いわゆる序章のような感じになっていて、本編にあたる部分が映画化されるのは何とも言えません
もしかしたら、Amazon Primeでドラマでも始まるのかもしれません
物語は至ってシンプルで、海江田の理念が暴露されるまでを描き、独立軍事国家であることの証明としての軍事力を見せつける展開になります
とは言え、潜水艦同士の戦闘は結構地味なので、面白く見せられるかは難しいと思います
いかにして、閉鎖空間内のパニックと緊張感、絶望感を演出するかにかかっていますが、本作の場合はそこまでの逼迫感は感じられませんでした
その最大の理由は、登場人物がやたら説明台詞をしてしまうからに尽きると思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
予告編にて、本編のほとんどが説明され、原作を読んでいる人なら「あ、ここまではするのね?」とわかる感じになっています
いわゆる序章のようなもので、海江田が「やまと国を宣言する」ところまでになっていて、その可能性を見せる戦闘を行なっています
潜水艦のあれこれはかなり端折っていて、軍事マニア向けではない感じですね
あくまでも、主義主張を唱えるために軍事力は必要ということを提言していて、日米の隙をついて海江田が暗躍している様子を描いています
核弾頭に関しても「積み込める猶予がある」という疑念が抑止力になっていて、専守防衛の考え方や、非核三原則の意味を問うていく流れになっています
外資の投入によって制作できているというところも因果を感じさせる内容になっていましたね
■国家の概念
「国家」とは、「一定の領土と国民、排他的な統治組織を持つ政治団体」あるいは「一定の領土を基礎にして、固有の統治権によって統治される、継続的な公組織的共同社会」のことを意味します
政治共同体が統治する状態であり、支配機構としての国家組織が存在し、統治権を有する状態が概念化しているので、その統治をどのように委譲、許諾するかによって、国家の在り方が変わってくると言えます
王族が統治してきた王国、軍部が主導となる軍国、民主主義によって選ばれた政治家が主導する民主国家などがありますが、政治的に支持を得たと言う体を作る共産国家というものもありますね
海江田が主張する「やまと国」がどの国家に属するのかは何とも言えない部分がありますが、ある種の思想集団の団結になっているので、一応は民主国家ということになるのではないでしょうか
国家の概念は古代のメソポタミア文明のあたりから存在していて、集団的な農耕民族の団結によって、ある地域が都市として栄えてきました
このような都市国家は同時多発的に色んな地域で生まれ、また分裂を繰り返すなどして、抗争を繰り広げるようになってきました
この抗争勃発も紀元前2900年頃にはあったとされていて、まさに人類の歴史は戦争の歴史と言っても過言ではありません
現代のような主権国家体制が成立したのは、近世ヨーロッパからであり、1648年のウェストファリア条約という三十年戦争の講和条約と言うのが世界秩序の始まりだとされています
一部の民族が国民化をして、主権国家と結合することによって、18世紀頃には国民国家というものが誕生します
これらは当初、ヨーロッパのみの国際秩序とされてきましたが、アメリカ、日本なども他地域もこの秩序に参入し、その一方で大国が帝国主義となり、植民地支配が始まってしまいます
法学上の国家の定義は、「領域」「人民」「権力」の三要素を有していることが承認要件となっています
やまとの場合は、シーバット艦内が領域、乗組員が人民となり、権力とされる「物理的な実力」は「核武装」ということになります
これらはモンテビデオ条約に明記されているものであり、ヤマトはこの条約に合致することになります
実際にこの条件に合致しない国家もいくつか存在し、モナコはフランスの保護下にあったりします
また、広く承認されている国家を承認しない場合もあり、これに該当するのが北朝鮮ということになります
やまとを承認しない国にとっては、北朝鮮の存在と同じというふうに捉えても良いのではないでしょうか
■抑止力と軍拡
本作におけるやまとは核武装を抑止力とし、ライフラインを日本に求めていきます
映画では、これから日本と条約を結びに行くというところで終わっていて、普通に考えて「食料尽きたら終わりじゃね」という疑問は湧いて当然だと思います
シーバットは日米が秘密裏に開発した、日本が核を持てる唯一の方法の実現化のようなもので、やまとの非容認は暴露される問題の大きさと比例していきます
日本に対しては、核の抑止力などは不要で、この不都合な事実を突きつけるだけで、譲歩を取れる状況にあります
抑止力は武力だけのように思えますが、実際には「国を動かす権力」の制限をかけるだけで良いので、対中関係などで噂されるハニトラのようなものまで存在します
また、安い土地を合法的に購入して、その国のライフラインを握るとか、エネルギー政策の根幹を握るというドイツとロシアの関係などもそれに近いものがあります
軍拡と核開発は一番手っ取り早いものになりますが、血を流さない抑止力というものの方が厄介なものになっていると思います
映画では、核ミサイルと持っているかどうかわからないけど、という「確認されていない抑止力」が武器になっています
これは現在の北朝鮮の状況とほぼ同じで、核開発をする技術がないように見えても、核保有国と密接な関係にあると確認されているとか、核弾頭を搭載できる長距離ミサイルをコントロールできる可能性を示唆するだけで効果を発揮しています
北朝鮮の核抑止力の無効化は、日本などの近隣諸国の迎撃力に委ねられていて、その実戦化に向かって動いていきます
国内世論は9条を盾にした言論誘導なども行われていて、これは見えない抑止力に近い状態を生み出しています
こういった複雑な関係のもと、国家というものは国家たるべき姿を維持しているというのが現状ではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、オリジナル版32巻だと3巻ぐらいまでの内容で、原作を知る人なら、「まだ、ここまで?」という感じになっています
いわゆるエピソード0のような感じになっていて、別の監督が取れば「冒頭の字幕で説明」で終わるような内容になっていました
これをじっくり観られたと取るか、映画化とは言えないと感じるのかは人それぞれではありますが、個人的にもいくら何でも序盤すぎやしないかと感じました
出資がアマゾンなので、今後の展開はプライムでの連続ドラマという路線が濃厚ですが、それだと120分のドラマの予告版を見せられただけ、ということになります
今後、映画化を進めていくとしても、このペースだと10作は必要なわけで、原作だと数年程度の内容になっているので、キャストの加齢は避けて通れないと思います
上戸彩のキャラがほとんど活躍せず、その割にはクレジットの上位に位置していたので、おそらく続編は制作されると思いますが、公開方法については劇場とは限らないというのが現状の認識になるのではないでしょうか
個人的にはどちらで公開でも鑑賞可能ですが、今後のやまとの戦闘をタブレットやモニターを通じて観ても面白いのかは微妙かなあと思います
なので、劇場公開を視野に入れては欲しいのですが、続編が作れるほどヒットする要因もないので、このまま「120分のドラマ予告編で終わる」可能性の方が高いと思います
日本の漫画原作は長編のものが多いので、全ての映画化を念頭に置いたプロジェクトを立ち上げることは困難でしょう
なので、外資に頼ってもこれぐらいが限度という感じになっているのが悲しい実情でもありますね
これまではドラマの後に映画というパターンはありましたが、今後は映画の後はドラマでという流れになっていくのかもしれません
そういった先に何があるのかは分かりませんが、視聴方法が限定される方向に向かうと、それだけで劇場鑑賞のハードルが上がってしまうので、このパターンの常態化は避けて欲しいというのが本音です
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP: