■思い通りの人生を歩むことで、周囲の人間も思い通りの人生を歩むことができるのかも知れません
Contents
■オススメ度
ケイト・ブランシェットのファンの人(★★★)
芸術から離れた芸術家に共感できる人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.9.28(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Where’d You Go, Bernadette(バーナデットはどこに行った?)
情報:2019年、アメリカ、108分、G
ジャンル:隣人トラブルなどで精神を疲弊している母親を描くヒューマンドラマ
監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター&ホリー・ジェント&ビンス・パルモ
原作:マリア・センプル/Maria Senple『Where’d You Go, Bernadette(2012年)』
キャスト:
ケイト・ブランシェット/Cate Blanchett(バーナデット・フォックス:広場恐怖症を患う元建築家)
ビリー・クラダップ/Billy Crudup(エルジー・ブランチ:バーナデットの夫、マイクロソフト社の社員)
エマ・ネルソン/Emma Nelson(ビー/バラクリシュナ・ブランチ:バーナデットの娘、15歳)
クリスティン・ウィグ/Kristen Wiig(オードリー・グリフィン:バーナデットの隣人)
Owen Buckenmaier(カイル:オードリーの息子)
Patrick Sebes(トム:ブラックベリー伐採に立ち会う業者)
ゾーイ・チャオ/Zoë Chao(スーリン・リー・シーガル:オードリーの友人、エルジーの新しい部下)
Thalia Torio(ケネディ:スーリンの息子)
Shaun Cameron Hall(パブロ:エルジーの友人)
ローレンス・フィッシュバーン/Laurence Fishburne(ポール・ジェリネック:建築学者、スーパーバイザー、バーナデットの友人)
David Paymer(ジェイ・ロス:インタビューを受ける建築家)
Megan Mullally(ジュディ・トール:インタビューを受ける専門家)
Bruce Curtis(ナイジェル・ミルズ・マレー:過去のテレビ番組の出演者、20マイルズハウスの所有者)
Steve Zahn(デビッド・ウォーカー:「Walker Construction」の出演者)
Kathryn Feeney(タマラ:薬局の従業員)
Richard Robichaux(フロイド:薬剤師)
ジュディ・グリア/Judy Greer(ジャネル・カーツ:精神科医)
ジェームズ・アーバニアク/James Urbaniak(マーカス・ストラング:FBI捜査官)
Jóhannes Haukur Jóhannesson(J.ルーベロール:船長)
トローヤン・ベリサリオ/Troian Bellisario(ベッキー:南極大陸の研究員)
Claudia Doumit(アイリス:南極大陸ツアーの若者)
Katelyn Statton(ヴィヴィアン:南極大陸ツアーの若者)
Kate Burton(エレン・アイデルソン:南極大陸の調査隊の責任者)
■映画の舞台
アメリカ:ワシントン州
シアトル
南極大陸
ロケ地:
アメリカ:ペンシルヴァニア州
ピッツバーグ/Pittsburgh
https://maps.app.goo.gl/WLJGGrxHJWNZBp738?g_st=ic
アメリカ:ワシントン州
シアトル
シアトル中央図書館/Seattle Public Library
https://maps.app.goo.gl/BSe3J6WDAYV4gduC8?g_st=ic
カナダ:ビリティッシュコロンビア
バンクーバー/Vancouver
https://maps.app.goo.gl/QmtWs1gPkzVTAkcu5?g_st=ic
■簡単なあらすじ
かつて建築家として活躍したバーナデットは、娘ビーを溺愛し、夫エルジーとは距離感を感じていた
そんなビーが成績トップを取り、そのご褒美に「南極大陸旅行に行きたい」と言い出す
人間嫌いのバーナデットは隣人などとトラブル続きで、人と会わざるを得ない旅行は災難のようなものだった
ある日、隣人オードリーの申し出でブラックベリーの伐採を許可したバーナデットだったが、大雨の夜、地盤が緩んだ場所が雪崩を起こしてしまう
その補償についても言い合いになり、バーナデットはさらに精神的におかしくなってくる
劇薬を溜め込んだりしている彼女を心配するエルジーだったが、夫婦の会話もうまくいかず、バーナデットは過去に賞を受賞した時の映像などに入り浸っていた
彼女を心配するエルジーは、部下スーリンから精神科医のカーツ医師を紹介してもらう
そこにFBIの捜査官までやってきて、バーナデットは精神病棟に入れられるのではないかと危惧して、逃げ出してしまうのであった
テーマ:人生のやりがい
裏テーマ:バーナデットは何する人ぞ
■ひとこと感想
何の縁で公開に至ったのかは謎の映画で、パンフレットとかないパターンかと思ったら、きちんと作られていましたね
バーナデットが家庭を捨ててどっかに行く系かと思っていたら、全く逃げる気配がなかったのでどうなってるのかと心配になってきました
映画は、かつての天才芸術家がある理由で一線から離れている様子が描かれ、精神的におかしくなっている感じになっていました
過去のニュース映像(特集番組っぽかった)などを見ながら、過去の転換期を想起しているのですが、夫が妻の鬱積に気づく瞬間というものが見どころなのかなと思います
娘ビーの存在感も抜群で、ママにしか呼ばせない愛称などもあって、家庭内の微妙なパワーバランスとか、親は子どもをわかっていない感じがリアルに描かれていました
結構な会話劇なので、前半は疲れますが、後半のサプライズは胸熱の展開になっていたと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
どこまでがネタバレになるかわかりませんが、過去の出来事をどのように伝えるかというところが少々もどかしかったかなと思います
それでも、きちんとドラマを積み上げていくので、思った以上に繊細な作品になっていましたね
ケイト・ブランシェット目的で鑑賞しましたが、ビー役のエマ・ネルソンのキュートさにやられてしまいました
エンドロールでは実際に作ったのかわからないスタイリッシュなドーム基地が出来上がっていましたが、可動式で合体させるのは大変そうだなあと思いました
実際にあんな基地があるのかはわかりませんが、セットだとしても、エンドロールだけで登場するのは勿体なかったように思えます
映画は、子育てをして職場を離れたり、やりたいことや夢を諦めてしまった母親なら響くのかなと思います
また、夫として、家事や育児を任せることになって、そういった機会を無意識に奪っていることに胸が痛むかもしれません
登場人物がやたら多いので大変ですが、主要人物は5、6人なので、それを把握できたらOKかなと思いました
■クリシュナの18の奇跡
クリシュナ(कृष्ण、Krsna)はヒンドゥー教の神様の1人で、ヴィシュヌ神の8番目の化身とされています
保護、思いやり、優しさ、そして愛の神様として知られていて、ヴィシュヌ神の最高位に位置しているとされています
クリシュナが登場する物語を「クリシュナ・リーラー」と言い、有名なところでは『マハーバーラタ』『バーガヴァラプラーナ』『ブラフマ・ヴァイヴァル・プラーナ』などがあります
神の子であるとか、イタズラ好き、理想の恋人、神様の英雄、宇宙の至高の存在など、様々な視点で描かれています
映画に登場するビーの本名は「バラクリシュナ」となっていて、これはクリシュナの少年時代の姿のことを意味します
デヴァキとヴァスデーヴァの8番目の子どもとして生まれたバラクリシュナは、暴君の叔父マトゥラ王のカムサを殺す予言を成就するために生まれたとされています
幼少期のクリシュナは牛飼いの家で育てられますが、バターを盗んだりイタズラ好きな面が多くありました
彼にも多くの伝説があって、「姿を変える悪魔プタナを撃退した」「バカスラという悪魔を倒した」「アガスラを倒した時は巨大化した」などがあります
映画では、クリシュナが行った18の奇跡のうち、残り16個がビーの人生に託されたというふうに描かれていて、ビーが「私1人じゃあと16個は無理」という感じになっていました
残りの16個は家族一緒に起こそうという意味になっていて、微笑ましい家族のエピソードになっていましたね
クリシュナは18個では済まない奇跡を起こしていますが、その中でも印象的だとバーナデットが感じたものをカウントしているのだと思います
ググってみると多くの奇跡談があるのですが、どの神話のどのエピソードを示すのかというのを調べるには、前述のいくつかの神話を読み込む必要があるのでは無いでしょうか
■自分を見失うということ
本作のバーナデットは、元々芸術家として活躍していて、建築物がプリツカー賞を受賞したという過去がありました
その受賞作である建物は購入者によって壊され、駐車場になってしまったのですが、この一連の経緯にバーナデットは関わることができなかったのですね
それによって、彼女は芸術の儚さというものを思い知り、その世界から足を洗うことになりました
彼女の創造に対する情熱は、今度は子育てへと移行します
ビーが生まれるまでに4回の流産を経験してきたバーナデットは、その末に起きた奇跡というものに執着していきます
でも、ビーは作品では無いので、バーナデットの思うようには動いてくれません
それによってバーナデットの中に、さらなる芸術的葛藤というものが生まれてしまいます
かつては自分の思い通りにデザインできたものが、人間が相手となるとそうも行きません
彼女にとっての芸術は思考の到達点ではあったのですが、ストレスに晒される中でその行き場を失い、それによって内側に籠ることになります
芸術自体が感性や感情の発露の具現化でもあるので、その機会が失われることで心のバランスが崩れ始めるのですね
ビーとの関わりの中で人間関係に臆病になったバーナデットは、人間を得体の知れないものと感じていて、そして対人恐怖症のような感じになっていきました
この状況が続くことによって、バーナデットは次第に自分というものを見失っていきます
対人恐怖症よりもビーとの時間を優先するために旅行を決意しますが、その決意を覆すのが夫エルジーの思い込みでした
でも、一度火がついた感情は止められないので、バーナデットは単独で南極大陸へと向かってしまいます
この行動に結びつく感情こそが、バーナデットをバーナデットたらしめている要素であることが、後半で描かれていくことになっています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の公開は2019年で、この時期に日本で公開される理由は分かりません
おそらくは『TAR』で認知度が上がっと思っている配給会社がトライしたのだと思いますが、彼女の認知度が上がったのが『TAR』だとするのはズレているにも程があると思います
古くは『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズであるとか、『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』『ベンジャミン・バトンの人生』『キャロル』などで知名度は抜群だったように思います
このあたりの公開作品のチョイスは難しいと思うのですが、本作の前後作にあたる『オーシャンズ8』『ナイトメア・アリー』あたりは公開されているので、本作だけスルーされてきたのは不思議な現象のように思えます
映画は、芸術家から芸術を具現化する場所を奪うとどうなるとかということを描いていて、そのエネルギー放出の難しさというものを描いています
その対比となるのが、自分の想いでは制御できない人間関係になっているところがおかしくもありますね
芸術家は自分の中にある感情を様々な表現方法によって見える化ができるのですが、対人関係の先にある融合(共同制作)を好意的に捉えられるかは別問題のように思えます
映画の後半になって、ビーもエルジーもバーナデットの本質に気づき、それによって彼女の行き先が判明することになりました
エルジーは自分の人生を優先し、子育てをバーナデットに丸投げしたことを思い出し、それが思わぬ波及効果を生み出していることに気づきます
これらの問題はバーナデット特有のものではなくて、何かを犠牲にした母親に共通して起こっている現象であると思います
子育ての中で自分の人生をうまく重ねることができる人もいれば、そうで無い人もいて、どちらが良いという問題ではありません
心の中から「これが自分の生きる道」と感じている場合には重なるかも知れませんが、そうではないとか、そう思い込もうとしていると無理が生じてくるのですね
なので、配偶者は子育てが母親の幸福の全てだと勘違いすることなく、彼女の人生を奪っていないかに配慮する必要はあるのかなと感じました
母親は子育てに無償の愛を提供できる存在であると思いますが、その反面で自分を押し殺しても平気なフリができてしまうものだと思います
そう言ったサイン、本作では過去の映像を観るなど、を見逃さないことで、その予兆がわかるのでは無いでしょうか
今回のエルジーは、それを分かった上で見て見ぬふりをしていたのですが、それが及ぼす影響は、結局のところエルジー自身の人生にも影響を与えているのですね
なので、他人事に思えることも、実は自分ごとになるのだと肝に銘じて、人生を添い遂げる意味に立ち返る必要があるのだな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://longride.jp/bernadette/